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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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少女のお供をするにあたって・2

 大きなレンガを積み重ねた様な城壁に囲まれた国。

 それがカーラン・スー。

 入国前に門番に止められたのだが、同盟国であるバルド王国から既に連絡でも来ていたのだろう、門番はアンの顔を見て挨拶するとサンドホース預り所まで誘導してくれた。

 

 俺達は事前の打ち合わせ通り、先にラナを送り届ける為に動く事にした。

 ラナを大型犬程度になったプチの背に乗せ、まずは国の警備所を目指す。

 ラナにも、知っている人や場所を見掛けたら知らせる様に言ってあるが、今のところその気配はない。


『しかし、広いですねぇ』

 アキマサがカーラン・スーの感想を述べる。

 確かに広い。アンの話ではバルド王国の3倍はあるのだそうだ。

 キョロキョロ街並みを眺める余所者丸出しの俺とアキマサに人々の視線が集まる。


 そうなのだ。ハッキリいって俺達一行は目立つのだ。

 余所者丸出しの俺達に加え、美女二人、そしてちょっと禍禍しい黒犬に乗った少女。これで目立たない訳がなかった。

 もっともこの場合、ラナの知り合いを探す目的があるので目立つというのは有効ではあったのかも知れない。

 まぁ結局、誰からも声を掛けられなかったので、目立ち損ではあったが。


 警備所に着くと、事情を説明し捜索の協力をお願いした。

 テキパキと事務的に応対する警備のおっさん。

 俺を見てちょっとびっくりした以外は、本当に事務的だった。

 尚、警備所には迷子捜索等の報告は来ていないとの事。

 

『困りました』

 アンがそう告げる。


『子供が一人行方不明ならばてっきり捜索等の話が出ていると踏んでいたのですが、少し甘かった様です』

 そりゃあもっともな話しだ。誘拐にせよ迷子にせよ、我が子が居なくなって探さない親は居ないだろう。

 しかし、そんな様子が無いのである。と、言う事は……。


「捨て子って事はないよな?」

 俺はラナに聞こえない様にコソッと皆に聞いてみる。

 砂漠のど真ん中を歩いていたらしいのだ、有り得ない話ではない。

 捨子。或いは、売られて、そこから逃げ出したなどである。

 全員、可能性としては頭を過っていたのだろう。俺の問いに答える者は居なかった。



 昼食がてら作戦会議。


「さて、どうしたものかね」

 カーラン・スーに到着すれば直ぐに解決出来るだろうと楽観的に考えていたが、案外長丁場になりそうだ。

 そんな俺達の不安はどこ吹く風。ラナはキリノのおもちゃになっており、キリノの魔法で逆さまにされたり、氷を背中に入れられたりしてキャッキャと騒いでいた。


『そう、ですね。ただでさえ広いこの国を片っ端からまわるにしても何日掛かるか分かりませんしねぇ』

 アキマサがう~ん、と首を捻る。


『……』


 警備所を出てからアンはずっと暗い顔をしていた。俺の捨て子発言は余計だったかも知れない。と、今更反省する。

 反省ついでに出来るだけ、明るい感じの空気で話を切り出す。

「まぁアレだ。別に全員で探す必要もないだろ? アキマサとアンは最初の予定通り、城に行って宝玉の事終わらせちゃえよ。ラナの事は俺とキリノで動くからさ」

『それで良い、と、思う。アン、ラナは心配いらない、私が探す。任せて』

 ラナを杖で操り人形の様にして遊んでいたキリノが俺の提案に賛同する。 


『……うん、わかった。キリノ、クリさん宜しくお願いします』

「おっし! そうと決まったら善は急げだ! 先に終わった方が合流って事で良いよな?」

 三人の了承を得て、俺達はそれぞれの役目へと動き出した。





「広い」

 キリノ、ラナと共に街を歩き回る事、3時間。

 特に進展もなく時間だけが過ぎて行った。

 道行く人に尋ねたりするも、手掛かり0。

 ならば、とプチの鼻に頼ってみるがこちらも進展なし。


「なぁ、人を探す魔法とかないのか?」

『ある。でも使えない。出来たらとっくに使ってる』

「ですよねー」

 流石の魔導士様もそんなに都合良くは無いらしい。

 記憶を辿るという魔法も試したらしいのだが、ラナが寝ていた為か、両親の顔以外に手掛かりになりそうな記憶は読み取れなかったそうだ。

 どうしたもんか。


「あっ。なぁ、この国の観光名所に行ってみない?」

『遊んでる暇はない』

 水鉄砲の要領でラナを狙い打ちにして遊んでいるキリノがそう返す。説得力ねぇよ。


「違う違う。そういうとこならラナも見た事あるかも知れないだろ? そしたら何かしら手掛かりがあるかも知れないし」

『……成る程』

 という訳で早速、その辺にいる人を捕まえて観光名所を聞いて見た。

 突然、見た事もない小さな虫に呼び止められたその人は、ギョッと目を見開いていたが、世の中驚く事はいっぱいあるんだよ? と、心の中で脅かせてしまった事への言い訳を述べつつ、観光名所を聞き出した。





「って事でやって参りました! はい! ドドーン!」

 俺は両手を斜め上に掲げ、とある石碑を紹介した。ラナが意味も分からず拍手する横で、キリノが馬鹿を見る目で俺を見ていた。


 俺達がやって来たのは国の中央にあるオアシス。そのオアシスのすぐ傍に建てられた3メートルくらいの石碑の前である。

 なんでもこの石碑は、400年前にこの国を救った勇者を称えて作られた物らしい。

 石碑に書かれた文によれば、400年前、突如この国のオアシスが変異してしまったそうだ。


 水は穢れ、知らずに口にした人々は死の病に犯されてしまった。

 人々は絶望し、国は荒れていった。

 そんな中、国に冒険者達がやってきた。

 冒険者達は荒れた国を救うべく、オアシスの浄化を試みようとした。

 その時、オアシスの中から巨大な双頭の魔獣が現れた。

 冒険者達は死闘の末に魔獣を退治し、オアシスは本来の姿を取り戻した。

 その冒険者達の中心にいた青年こそ、後の勇者なのであった。


「へー、世の中には立派な人達がいるもんだねぇ」

 他人事の様に、碑文を読んだ俺がそんな感想を漏らす。ぶっちゃけ他人事だし。

 一応、俺達も勇者ご一行なのだが何もしていない。せいぜい砂漠にいたデカイ蠍を数匹倒した位だ。主にキリノが。


「ラナ、ココに見覚えはない?」

 俺の問いに首を横に降って答えるラナ。


「ダメか」

 ガックリした俺の様子を見たラナが申し訳ない様な顔をしたので、なんでもないよという感じで頭を撫でてやる。


『もうすぐ陽が落ちる』

「そうだな。今日は取り合えず宿に戻って、続きはまた明日にしよう」

 キリノの言葉に俺が返し、あらかじめアキマサ達と打ち合わせておいた宿へと向かう事にした。砂漠の夜は冷えるのだ。


 そうして、宿へと向かう途中の事だった。

 俺達が入国した門とは別の門の横を通り過ぎる際に、門の片隅に人だかりが出来ているのに気付いた。

 どっかの馬鹿共が喧嘩でもしてんかと、特に気にせず横を通り過ぎる。

 が、突然プチが一言吠えた。

 プチの視線の先にはキリノがいた。


『見てくる』

 一瞬、何かを考える様にプチを見つめたキリノが人の群れの中へと入っていった。

 

 

 しばらくしてキリノが戻ってきた。

 陽が落ちているので表情が見え難かったが少し焦っている様な顔をしていた。


「おい、何だったんだ?」気になったので尋ねてみたが、『後で』と、キリノは一言告げると足早に宿へと歩いていった。


 なんだ? 正直、嫌な予感しかしない。

 そう思いつつキリノの後を追った。

 


 宿で部屋を借りると、俺はすぐに部屋へと飛び込みベッドに横になった。

 アキマサ達はまだ来ていなかった。

 腹も減ったがそれ以上に昨日寝損ねたせいでとにかく眠かった。

 俺の横でラナもベッドでバフバフしている。

 遊んでやりたかったのだが、昼間の疲れもあってすぐに眠りに落ちた。



 どれ位寝ただろうか。

 寝ていた俺を起こす声で目が覚めた。

 目を開けると真っ暗な部屋の中でキリノが俺を覗き込む様に立っていた。


「………夜這い?」

 杖で殴られた。


「なんだよ!?」

『静かに。ラナが起きる』

 横を見ると子犬を抱き締めて眠るラナの姿があった。

 俺もその輪に加わって癒されたいが子供というのは寝相が悪い。押し潰されては堪らない。軽く死ねる。重い物に潰されての圧死であるのに軽く死ねる不思議。


「アレか? 人だかりの件か?」

 俺の問いにキリノが無言で頷く。


「で?なんだ?何を見た?」

 キリノは俺の問いに直ぐには答えない。

 少しして、


『両親』


 と一言だけ呟いた。


「ラナのか?」

『そう』

 キリノはラナの記憶を探る際、記憶の中でラナの両親の顔を見た。ゆえに俺達の中でラナの両親の顔を知っているのはキリノだけである。

 そのキリノがラナの両親だと言うならそうなんだろう。

 そして、あの人だかり。

 俺は片手で頭を抱え、ちょっと……いや、だいぶ予想外の展開になって来たと感じた。


 ふと、暗闇の中でキリノが震えているのに気付いた。

 膝の上でグッと拳を握り締めたキリノの眼からはポロポロと涙が溢れていた。

 ハッキリ言えば、少々戸惑った。

 何故、キリノは突然泣き出したのか……。

 両親探しの為とラナの記憶を読み解いたゆえの感情なのか……?

 その辺りは、ちょっと俺には判らないのだが、ひとつ分かるとすれば、今も昔も俺が女の涙に弱いという事。

 正直、掛ける言葉は見付からなかった。

 父性だ。昔のあの感情を思い出すのだ。


 小さく息を整えた後、

 キリノの頭を数度軽く撫でて、椅子まで誘導してやる。

 それから、キリノが座った対面に俺も座る。


「どうしたもんかなぁ」

 俺は窓に向かってひとり言の様に呟き、今後について頭を悩ませる。

 どんなに悩ませたってちっとも何も浮かばない。状況だって曖昧だ。

 何故そんな事になったのか? どうしてキリノが泣き出したのか? どうして……。


 眠気はとっくに吹き飛んでいた。


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