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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅱ章【カーラン・スー~東方三国同盟篇】
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少女のお供をするにあたって

 山の様に立ちはだかる絶壁の岩が左右に伸びている。

 それを城壁と呼ぶならば、ココは門であろうか。

 草原と砂漠の境目に位置するこの場所には、いつしか人が集まり中継地として利用されていた。

 数件ある建物は宿や酒場であり、旅人の一時のオアシスになっていた。

 それが中継地シーマである。


 シーマに到着した頃には既に陽は落ち、夜になっていた。

 シーマ到着後、アンは宿で部屋を確保するとその足でサンドホースの貸し出し場へとキリノと二人向かっていった。

 宿で留守番となったのは俺とアキマサ。


「役に立たない勇者だなぁ」

『返す言葉もありません』

 俺の言葉にガックリと肩を落とすアキマサ。

 まぁ、異界から召喚されて一週間程しか経っていないアキマサにあれやこれやとモノを頼むのは酷だろう。

 夜は危ないからと護衛を志願していたが、それも断られていた。

 もっとも、仮にも王国の副隊長様と魔導士様であるあの二人がそこらの無法者程度にどうこう出来るとは思えないが。



 アキマサと二人で雑談して過ごしていると、半刻程して二人が戻ってくる。

 ん? 誰だ?

 アンと手を繋いだ黒髪の少女が目についた。5、6才くらいだろうか。


「え~と……、産んだの?」


 言った途端、キリノが杖を投げる様な構えをとったので、

「ジョークだから! マジやめて!」と、慌てて投擲を阻止する。


『この子どうしたんですか?』

 アキマサが問う。


『実は、貸し出し場で頼まれたんです。どうも親とはぐれてしまったらしくて、砂漠の真ん中で歩いているのを商人さんが見付けて保護したそうです。で、カーラン・スーに行くなら一緒に連れて行ってくれないかと』

 そう説明を終えてからアンがアキマサに向き直り、『すいません、アキマサさん。急ぐ旅だというのは重々承知しているのですが』

 申し訳なさそうに話すアンに、何を馬鹿な、とでも言いたげなアキマサが口を開く。

『いえ、俺は全然構いませんよ! 人助けも勇者の仕事? でしょうし』

『ありがとうございます!』

 満面の笑みで礼をいうアン。


 そんなアンに真っ赤な顔で照れるアキマサ。

 その様子を椅子に座って見ていた俺は、勝手にやってろ、と途端に二人に興味を無くした。


 次いで少女に顔を向け声を掛ける。

 少女は不安そう俯いていたが、しかし泣くでもなく、ギュッとアンの手を握り、表には出さない不安と戦っている様であった。


「やぁ、お嬢さん。名前は何て言うんだい? こっちに来て紅茶でもいかがかな? お菓子もあるよ?」

 まるで誘拐犯の様な台詞を吐きながら、笑顔でそんな事を言ってみた。

 俺の言葉に促される様に、ずっと俯いていた少女が顔をあげる。

 そして、驚いた様に目を見開き俺を凝視した。

 

「い、犬もいるよ?」

 少女の変化にビックリした俺が、おもわず訳の分からない台詞を吐いた。

 だって、目玉が飛び出すんじゃないかって位、目を見開くんだもん。


 俺と少女がお互いにびっくりした所で、アンに優しく手を引かれ、椅子に腰掛けた少女。

 キリノが少女に紅茶を運んでくる。俺のはない。別にいらないが。

 椅子に座るまでも、座った後も、少女はずっと俺を凝視し続けていた。

 最近思うのだが、案外俺はカッコいいのかもしれない。決して怪しい風体だから皆が見てくるって訳じゃないんじゃないだろうか。

 きっと少女には、俺が素敵なお兄さまに見えているに違いなかった。

 

『名前は何て言うのかな?』

『ラナ』

『ラナちゃんか~、可愛い名前だね。お姉ちゃんはアンって言うの。ラナちゃんのお家はカーラン・スーにあるのかな?』

『うん』

『そっか~、お姉ちゃん達も明日カーラン・スーに行くからお姉ちゃん達と一緒にお家に帰ろうね』

『うん』


 アンの質問に答えながらも、今だにずっと俺を凝視し続けるラナ。

 ふと、どこまで凝視し続けるのだろうかと思い辺り、試しに天井スレスレまで浮遊してみた。それを顔ごと動かし追うラナ。

 ゆっくりと体を傾けてみる。俺の傾きに合わせてラナの顔も傾く。面白い。

 やがて俺が空中で逆さまになると、ラナは椅子から転げ落ちた。


『ちょっとクリさん』

 アキマサが呆れた顔をして、腹を抱えて笑う俺に文句を言うが聞き流した。

 まさか転げ落ちるとは。

 空中でケタケタ笑い続ける俺を、キリノが杖を振り上げ床に叩き落とした。


『お前、いっぺん死んでみる?』

「和ませ様としただけだろ! いってぇなぁ。ほら見て! ココ! 俺の柔肌に傷が!」

『黙れ、害虫』

「んまぁ、なんて言い種なんでしょう! お下品! お下品だわ!」

『キャ、キャラが掴みにくい』


 ギャーギャーと騒ぐ俺とキリノのやり取りをしばらくポカーンと見ていたラナだったが、俺がキリノにす巻きにされアキマサに助けを求めたところで、安心したのかはたまた馴れたのか、可愛くアハハと笑った。

 笑うと凄く可愛い少女であった。







『寝ちゃいましたね』

 皆で食事を済ませ、今後について話し合った。

 横で大人しく話を聞いていたラナだったが、気が付くと眠りに落ちていて、合法的に幼女を触るチャンスを得たアキマサがラナを抱き上げベッドに寝かせた。

 そこでアキマサは、ふと何かに気付いた様子でこちらを振り返った。


『そういえば部屋って2部屋借りたんですよね?』

『いいえ? この部屋だけですよ?』

『え?』

 アンの返答に固まるアキマサ。


『全員、この部屋で寝るんですか?』

『はい? ……あ、すいません、狭いのは我慢して下さい。王国から旅の資金が与えられているとはいえ、どの位掛かるのか分からない旅ですので、出来るだけ節約した方が良いかと思って。相談もせずにごめんなさい』


『い、いえ、そうでは無くてですね。狭いのも節約も全然構わないのですが……』

 えーと、と言葉を選んでいたアキマサが俺を見る。目が合う。

 交差する視線。な、に、か、が、起こる胸騒ぎ。嬉しくない。


『そうだ! クリさん! 酒場に行こうって話してたんですよね! 早速行ってみましょう!』

「え? 別に俺はそん―――」

『言ってましたよね!』

 ガシッと俺を掴むアキマサ。涙目だ。

 目が合った時点で、アキマサが何を思い、何を言わんとしているのかは薄々勘づいたのだが、面倒臭そうだったので、知らんぷりを決め込もうと思ったが、アキマサの鬼気迫る必死な様子に気圧され、結局、「そ、そうだな」と話を合わせた。


『じゃあ行きましょう! 帰りは遅くなると思うのでお二人は先に寝てて下さい! では行ってきます!』

 アキマサは一気に捲し立てると強引に俺を引き連れて部屋をあとにする。

 部屋には、あれー? と小首を傾げるアンと、そんな鈍感な友人を少し呆れた様に見るキリノが残されたのだった。



 アキマサに連れられてやって来たのは、宿のすぐ近くにある酒場。

「気付かない振りして過ごせば良かったじゃん」

『無理に決まってるじゃないですか』

「朝までココに居るつもりか?」

『それしか無いじゃないですか』

「はぁ……世界を救う勇者様がそんなんでどうするよ」

『それとこれとは話が別です』

 酒は飲み慣れていないらしくチビチビとグラスに口を付けるアキマサ。ちなみに俺は酒は呑めないのでミルクだ。


「勇者なんだろ。世界を救った日にゃ超人気者間違い無しじゃん。それこそモテモテ。女なんか選り取り見取りだ」

『別に俺はモテたくて勇者をしてる訳では』

「お前の意思は関係ないって。周りがほっとかないって話だ」

『それでも俺は女たらしになるつもりはないです』

「ふ~ん、でもまぁ、大活躍したらアンも惚れてくれるかもよ?」

『な、何故そこでアンさんが出てくるんですか!?』

「いや~、別に~」

 ニヤニヤしながら言う。俺を巻き込んだ事に対するちょっとした嫌がらせ。


『まぁ、アンさんは優しいですよ。しっかりしてるし、美人だし。今日だって迷子のラナちゃんを助ける為に連れて来てましたし。ラナちゃんを相手してる時のアンさん見ました? なんかこう母性に溢れるっていうか』

 

 コイツ、すっかりアンの虜じゃねぇか。

 まぁ、アンが魅力的な女性だってのは俺も同意だが。

 容姿は言わずもがな、スタイルも良いし、言葉使いも丁寧だ。話しに聞く限り強いらしいし、母性にも溢れ優しい。有料物件であろう。


『クリさん! 聞いてるんですか!?』

 なんて事を思っていたら、アキマサがテーブルを両手で叩き、俺を睨みつけてきた。


 コ、コイツもう出来上がってるのか?


 そこから延々と、アンのココが素晴らしいといった感じの爆裂トークが始まったのだった。





 翌朝。


『おはようございます』

 宿の前で待っていた俺とアキマサにアンがニコニコと挨拶をしてくる。

 挨拶を返し、では行きましょう、と告げ歩き出すアンの後を追う。

 一睡も出来ずに朝を迎えた酷い顔の俺の横には、二日酔いで死にそうな更に酷い顔をしているアキマサがいる。

 昨夜、アキマサは散々爆裂トークをかました後、突然、寝た。

 潔い程に突然。

 その様子に呆れ、ボンヤリと、コイツとは二度と酒は飲まん、なんて事を考えてる内に朝を迎えた。

 



 宿屋を離れ、貸し出し場へ到着するとそこには頬っぺたが異様に垂れ下がり平べったいブッサイクなトカゲが居た。

 この垂れ頬っぺがサンドホースらしい。体長は3メートル程となかなかデカイ。

 簡単に乗り方を説明された後、アンとキリノ、アキマサとラナの2組に別れてサンドホースの背に乗り、俺は体を大きくしたプチの背に乗った。


 こうして俺達はカーラン・スーを目指して中継地を後にした。


 カーラン砂漠。

 見上げた空は雲一つなく、どこまでも青かった。

 照り付ける太陽は強く、汗が滲み出る。

 時に平坦な、時に小高い丘の様な砂漠を、砂埃を巻き上げながらひた走る一行。


 最初こそぎこちなかったアキマサのサンドホース操作も、慣れて来たのか余裕が出てきた様子だ。

 ラナは途中、プチに乗りたそうにしていたので、プチに指示を出すと、走っているサンドホースから器用にラナの服を咥え背中に乗せた。

 たまにデカイ蠍が進路の先に居たりしたのだが、キリノの魔法やプチのお陰で止まる事なく、旅は順調であった。

 キリノの魔法を見たラナはペチペチと俺の頭を叩いて興奮し、プチの華麗な爪捌きを見てペチペチと俺の頭を叩いて興奮した。


 興奮する度に俺の頭を叩くのはやめろ。


 そうして一向は、三時間程走ったところで、目的地である砂漠の大国カーラン・スーに到着した。


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