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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅰ章【お供になるまで】
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美女のお供をするにあたって・3

 突然の出来事に皆が硬直し静寂が流れる中、ワハハハとバルド国王の笑い声が響いた。

『希望が現実味を帯びてきたのう』

 そう言ってまた笑う国王。


『皆、上に戻るぞ。今の出来事を報告せねばなるまい。それに地下ゆえか妙な匂いも漂ってきおったしのう』

 バルド国王が告げ動き始める。


 その妙な匂いの正体はびっくりした俺が思わず放った屁なのだが、バレたら殺されそうなので黙っておく。一国の王に屁のニオイ嗅がせるなどギロチンものだろう。



 大会議室に戻った俺達は、待機していた者達に地下での出来事を伝えた。


『さて、突然の事ではあったがコレでやるべき事は決まったのう』

 バルド国王が皆に告げ、それに続く様にフォートレンが発する。

『左様ですな。このまま他の宝玉も手に入れて行けば、いずれアキマサ殿が嘗ての勇者の力を取り戻しましょう』


『ふむ。アキマサ、いや勇者よ』

 険しい顔を更に険しくさせたバルド国王がアキマサを見る。


『はい』

『第9代バルド国王として、そなたに各地に眠る宝玉の確保を尽力願いたい。引き受けてくれるか?』

『はい! お任せ下さい!』

 バルド国王の問い掛けに、アキマサが力強く答えた。


『王国としても全力での支援を約束しよう。旅の資金や馬車等はコチラで用意しよう。それとだ、一人旅と云う訳にはいかぬだろうから護衛を付けようと思うのだが、今だ魔獣の脅威は増え続けておるゆえ、兵が足りぬ。多くの護衛は付けられぬゆえ、腕の立つ者をそなたに付けよう』

 そう言い、一拍ののち、


『アン、それにキリノ』

 国王の呼び掛けに二人が膝を付き頭を垂れた。


『そなたら二人を勇者の護衛役に任命する。勇者の伴として王国の名に恥じぬ働きを期待する』

 頭を垂れたまま2つ返事で了承するアンとキリノ。

 アンはともかく、尊大不遜(俺限定)のキリノまでもが畏まる態度を見せるという辺りに王という者の存在の大きさが伺い知れる。いや、実際偉いのだろうけど……。


 だが、それに待ったを掛けたのはアキマサであった。

『こ、国王陛下! ちょ、ちょっとお待ち下さい!』

『む? 勇者よ。不満か? だが、先程申した通り今王国は人手が足りておらぬ』

『い、いえ国王陛下! そう云う事ではありません! その、御二人は女性ですし、ですから、その』

 余程慌てているのか、アキマサがしどろもどろに答える。


『勇者よ、その様な心配はいらぬぞ。女子ながらこの二人の実力は折り紙付きよ。決して其処らの魔獣になぞ引けは取らぬ』

『は、はい、二人の実力は承知しております! で、では無くてですね、私は男ですし、女性が一緒に旅というのはですね……』

 顔を真っ赤にしたアキマサが尚も食い下がる。


『ワハハハ、少々悪戯が過ぎた。すまぬ勇者よ。分かっておる。だが、それならそれで良いではないか。旅に張りが出るというモノだ。それにな、兵が足りぬというのは事実だ。ココは余の判断を信じ二人を旅の伴として連れて行ってはくれぬか?』

『うっ、しかし……』

『ふむ、ならばクリよ。そなたも勇者に同行せよ』

 尚も渋るアキマサに対して、バルド国王がそう発言した。


『え?』

 ふ、不意打ちだ。いや、だがしかし……。


 俺はチラリと視線だけを動かしアンを見る。


「喜んで!」

 俺はとっても良い笑顔で了承する。


『ワハハハ! そなたは素直じゃのう!』

 アンの横で嫌そうな顔をしているキリノが目につく。

 国王陛下の命令だ仕方ないのだ。諦めたまえキリノ君。


 こうして、不純な動機で参戦した1名を加え、世界を救う使命を帯びた勇者のパーティーが誕生したのである。


『出発は明日の朝。それまでに各自準備を整えるが良い』

 バルド国王のその宣言により会議は終わりを迎えた。





『お前、今からでも遅くない、断って来なさい』


 その晩。

 アキマサと共同で使っていた俺の部屋に青筋立てたキリノが乗り込んできて、開口一番そう言い放った。


「そうだぞアキマサ、お前早くいって断ってこい」

 俺はアキマサを指差し言った。


『お前、に言ってる』

 キリノが俺の頭を鷲掴みにして力を込める。眼が完全に座っている。


「痛い痛い痛い! 陛下の命令だろ! それに請けちまったもんを今更断れるか!」

『お前、の様な危険な奴を連れて、旅など出来ない』

 更に力が込もる。


「うぐあぁ、し、心配しなくてもお前には全く興味なアッチィィィ!」

 鷲掴みにしていたキリノの手の平から炎が吹き出た。

 仰け反る様にキリノの手から逃れ、熱さで床を転げまわる俺。


 おのれ悪魔め! だが、俺はこんな事では諦めんぞ! ネバーギブアップ!


『キリノさん、もうそのくらいで。俺としてはクリさんが居てくれる方が有り難いのは事実ですし』

 キリノの迫力にビビりながらもアキマサが止めに入る。

 キリノは視線をアキマサへと向けると、少し間を空け、諦めた様に溜め息をついた。


『アン、にちょっかい出したら……殺すから』

 キリノは殺意に満ちた眼で俺を一睨みすると、踵を返して部屋を去っていった。

 疾風の様に現れて、疾風の様に去って行くヤツである。


『クリさんって何であんなにキリノさんに嫌われてるんですか?』

 怖い魔導士が居なくなった所で、アキマサが口を開く。


「知るか!」

『怖かったですね~キリノさん』

「ありゃ悪魔だ化物だ」

『化物って……でも三大美女ですよ?』

「ただのペチャパイだろ」

『……そんな事言うから嫌われるんですよ』

「うるせぇ」


 アキマサが若干飽きれつつも、『でもまぁ、クリさんが付いて来てくれるのは本当に助かります』と俺に礼を述べた。


『あんな美女二人と三人旅とか……考えただけで死にそうです』

「ウブかお前は。役得過ぎるだろ」

『それはそうなんですが、やっぱり緊張するじゃないですか』

「勇者がそんな事くらいで緊張してどうする? なんならいっそ今からでもエルヴィスに勇者変わって貰ったらどうだ?」

 そう言って、無理だと分かっている事でからかう。

 エルヴィス達とは、キリノに連れられ城へと半ば強制送還された2日後に会う機会があった。と言うより、向こうから訪ねてきた。

 エルヴィスの第一声は謝罪であった。知らなかった事とはいえ、自分の様な自称とは違う本物の勇者に吐いた無礼の数々、それに対する謝罪。

 そのエルヴィスの謝罪を当のアキマサは呑気な程にあっさりと受け入れた、だけでなく、むしろわざわざ謝罪に来たエルヴィス達に対して恐縮してみせたのだ。

 本当にこの男はこと自分に関しては寛容であると思った。同時に、自分に向けられる悪意に対して無頓着とも。

 危機感が足りない。そんな無粋な言葉で現せるものでもない、そっちの方が無粋であろう。

 アキマサとて怒る事くらいはあるのだ。ただその切っ掛けが自分にはあまり向いておらず、他人に依存している値が大きいという話。

 現にアキマサはあのゴーレムとの遭遇に際し、エルヴィス達が傷ついた事に怒りを感じている様であった。ただ、アキマサのその基準、規定値が俺にはイマイチ図りかねる。

 見知らぬ誰かが傷つく事に怒りを覚えるのは分かる。そこまで俺も非情ではないので。

 しかしながら、アキマサの場合はその沸点が低いのか、少しそこが分からない。あれで怒るなら、自分に対する暴言にだって怒りそうなものだが……オマケに怒り方も稀有で、じわじわと怒りが沸いてくるタイプでは無く、唐突にキレるタイプである。いわゆるカッとなって、というヤツだ。その為、感情の高ぶりに理性が追い付かないのか予想に反する行動に出る。具体例を挙げるなら、突然、勝てもしないゴーレムの前に躍り出て、突撃を実行する。そんな危うさ。

 良く分からない男である。

 

『それはそれで勿体無い気も』

 からかい十割の俺の言葉に、冗談めかしてアキマサが返してくる。


「はは~ん、お前さてはムッツリだな?」

『…………否定はしませんけどね』

 良く分からない男アキマサではあるがムッツリではあるらしい。だからなんだよ。

 その後二人で美女との旅で起こる、かもしれない薔薇色の未来を想像し、妄想談義に華を咲かせる。


 こうして夜が更けていくのであった。







 翌朝。

 窓からは温かい陽射しが差し込み、部屋で寝ている者達の頬を叩いた。

 窓を開け、空へと視線を向ける。

 そこには、旅立ちの朝として一片の不満も受け付けません、とばかりに澄んだ青空がひろがっていた。

 

 馬車の準備が整った様です、と部屋に呼びに来た女中さんに案内され、俺とアキマサは王宮門前広場へと場所を移す。

 広場には、馬が2頭繋がれた幌馬車が用意されていた。

 馬車の周りには兵士が規則正しく整列し、馬車の出発を待っている。

 王宮のバルコニーにはバルド国王やフオウ、老魔導士二人の姿も見える。


 馬車の御者台に目をやると、手綱を握ったアンの姿が見えた。

「おはよう」

『あ、おはようございます』

 挨拶を返すアンの笑顔が眩しい。


「アンが操縦するの?」

『ええ、馬は乗り馴れていますし。任せて下さい』

 グッと胸の前で握りこぶしを作り、笑顔でアンが答える。


「おい、アキマサ」

『……すいません。恥ずかしながら、馬を操った事がありません』

 しょんぼりと肩を落とすアキマサ。


『お気に為さらず』

 アンが可愛らしくクスッと笑う。


 やれやれ、初日から何と役立たずな勇者だろう。まぁ、俺も乗れないが。


 いそいそと馬車の後部に乗り込もうとする役立たず二人。

『あ、アキマサさんは前にお願いします』

『え?』

 アンにそう言われ疑問の声を上げつつも、素直にアンの隣へと座るアキマサ。

 耳が真っ赤だ。

 ウブか。


 そんなアキマサにニヤニヤしつつ、馬車の後方から乗り込もうとすると、中から蹴りが飛んできた。

 激しく錐揉みしながら後方に吹き飛ぶ俺。


『出して良いわ。早く!』

 馬車の中からキリノがアンに合図を送る声が聞こえてきた。

 アンは吹き飛んだ俺に気付いていない様で、俺を置いて馬車が動き始めた。

 慌てて飛び付き馬車の後方にしがみつく。


 馬車が門の外へ進むと、街の四方から耳が痛くなる程の歓声があがる。

 それはバルド王国に暮らす民衆達の声。期待の声。

 勇者たるアキマサを称える声であり、アンやキリノへ向けられた声援であった。

 成る程、アキマサを前に座らせたのはこの為か。


 民衆達の視線を浴び、アンの隣で赤くなっていたアキマサの顔が更に赤くなる。

 満面の笑みを浮かべたアンと羞恥に耐えるアキマサを乗せ馬車は進む。

 やがて馬車は王国の門をくぐり抜け外へ。


 民衆は、馬車の後部で振り落とされまいと必死にしがみつく俺と、そんな俺にゲシゲシと無慈悲な蹴りを繰り出すキリノを乗せた馬車をポカーンと眺めて見送ったのだった。


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