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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅰ章【お供になるまで】
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美女のお供をするにあたって・2

『以上が、各部隊長からの報告をまとめたモノとなります』

 アンが手元の資料を読み終え告げた。


 俺も話をぼんやり聞いてはいたのだが、棲んでいた森からあまり出た事ないので、魔獣の増加~とか、被害が~とか聞かされても「へぇー、そうなんだ」程度の感想しか出てこなかった。


 ほぼ聞き流したその話を簡単にまとめると、このところ、各地で魔獣の被害が増加傾向にあるのだが、その数が往来の比ではないのだそうだ。

 それに伴いバルド王国は現在、王国内にて一時的に村からの避難民の受け入れを行っており、城下は人で溢れかえっていた。


『これだけの数の魔獣の襲来など聞いた事がありませんな』

 そう発言したのは、キリノの隣にいたフォートレンと云う名の高齢の魔導士だった。


『まして、この短期間での出来事。これは何らかの意志が背景に有るのは間違いありますまい。……やはり、疑わなくてはなりませんかな』

 もう一人の老師ナルゼムが続け、再びフォートレンが口を開く。


『アキマサ殿が異界の地より召喚された事と云い、かの宝玉が光を取り戻した事、加えてのこの事態。書物に残された伝承をなぞるかの様ですな』


『左様。居ないと楽観視するよりも、かの者の復活を前提として動くべきかと存じます』

 何やら訳知り顔でそう語る老師二人の言葉に皆の表情が厳しくなる。


 暫しの沈黙の後、バルド国王が重い口を開いた。

『余り信じたくは無いが、フォートレン達の言う様に魔王が誕生したと視て動かぜるを得まい』


 おお? 魔王ですと? 何かキナ臭くなってきたな。


 早々と会議に興味を無くし、話しを右から左へと聞き流しつつぼんやりアンを眺めて目の保養に務めていた俺だったが、魔王、という単語で会議に引き戻される。

 

『かの者の力は強大。バルド王国一国で事を構えても勝てる込みは薄いかと存じます』

『各国と力を合わせ、この未曾有の危機を乗り越えねば人に未来は在りますまい。しかしながら、希望も残されております』

『左様、誕生したのは何も魔王だけでは御座いません。コチラ側には勇者が誕生致しました。加えて、我が国の宝玉が輝きを取り戻したならば各地に散らばる宝玉も輝きを取り戻した筈。ならば、伝承に従い宝玉を獲得すべきと進言致します』

 どちらが話しているのか混濁する様に老師達が言葉を重ねる。 


 ここでアンが尋ねた。

『私も宝玉の存在は存じておりますが、恥ずかしながら無学ゆえ詳しくは知りません。あれは何なのです? 輝きを取り戻した今、宝玉にはどの様な力が?』


『書物によれば』

 キリノがアンの問いに答える。


『宝玉とは、400年前の勇者と魔王の決戦において、各地に散らばった妖精王の力。勇者の力の源。元は1つの力であったソレは、魔王消滅の折、魔王の呪いによって5つに砕かれた。妖精王の魂と結びついていたソレが砕かれた事により、妖精王は命を落とし、彼の眷族たる全ての妖精達も世界から姿を消した。これが書物に残る宝玉の伝承』

 まるで絵本でも読み聞かせる様に語り、それにフォートレンがキリノに続けて補足する。


『察するに、消滅を前にした魔王が砕かねばならぬ程、魔王にとってその力は脅威であったと読み取れます』

 一度言葉を区切り、周囲を見渡したフォートレンが続きを口にする。


『現在、所在が分かっている宝玉は2つ、1つは此処バルド王国に。もう1つは砂漠の大国カーラン・スーによって守護されております。他の3つの宝玉も早急に探し出し、かの宝玉が魔王の手に落ちるのを阻止せねば』

『ふむ。しかし、どう探す? 何か策はあるのか?』

 バルド国王がフォートレン達に問い質す。


『あ、あの、国王陛下』

 アキマサがおずおずと発した。


『ふむ、どうしたアキマサ』

『その……宝玉に関しては俺……私に心当たりがございます』


 アキマサ曰く。

 この地に降り立った時から、何か自分を呼ぶ様な、引き寄せられる感覚を感じていたそうな。

 王国に来てからはその感覚が強くなった。

 つい先程まではソレが何なのか自分にも分からなかったが、魔導士達が語った宝玉の話でソレが何なのか悟ったのだという。

 おそらく、宝玉が自分を引き寄せているのでは、と。


『成る程。宝玉は元々、妖精王より与えられた勇者の力。有り得ない話ではございますまい』

 フォートレンがそう頷く。


『ふむ……』

 バルド国王が呟く。

 少し思案した後、バルド国王がアキマサへ告げる。


『アキマサ、一度宝玉を見てみぬか?』

『是非!』

 アキマサが待ってましたとばかりに大きくコクコクと頷く。


『よかろう。――――フオウ、フォートレン、そなたら二人も同行せよ』

バルド国王の言葉に、フオウ隊長と魔導士フォートレンが腰を上げる。


『他の者は暫し待っておれ。戻るまで一旦会議は中断とする』

 そう声を掛け大会議室を後にしようと歩を進めていたバルド国王が扉の前で立ち止まる。

 バルド国王は顔だけ俺の方に向けると、

『クリ、やはりそなたも付いて参れ。その魔獣は置いてな』

 そう言って再び歩き始めた。


 え? 何故俺が?

 宝玉か~、俺も見てみてぇ。という心の声が届いたのだろうか?

 何か知らんがやったぜ!


 俺はプチに、待ってろよと声を掛け部屋から出て行ったバルド国王達を追い掛けた。



 バルド国王に続いて辿り着いたのは王宮の地下であった。

 余程大事なモノなのだろう。幾重もの頑強そうな鉄の扉と結界をフオウが鍵で、フォートレンが呪文で順に開いていく。


 うおー、超厳重じゃん! まさに国宝って奴か!?

 俺は期待に胸膨らませ、その様子を眺めていた。

 そうして、四枚目の扉を開けた先、豪華な台座の上に輝く水晶の様なモノが飾られているのを視界が捉える。


 で、出た―――! 輝く国宝のヤツ――! めっちゃ輝いてる! 素晴らしい! 素晴らしいよ宝玉!


 と、心の中で俺が感動の声を上げていると、

『これは偽物だ。本物はこの奥にある』

 国王が何でも無い事の様に告げ、目の前の水晶を素通りして奥へと進んでいった。


 偽物かよ! 素晴らしいとか褒めちゃったよ! 声に出さなくて良かった。恥かくところだった。


『この先だ』

 心の中で羞恥にのたうち回る俺を無視し、バルド国王は淡々とそう告げ、壁に向かって手をかざした。

 国王が手をかざすと壁が消え、人ひとりが通れる程度の穴が開く。

 そして穴を抜けた先。ソレはあった。


 先程の偽物とは違い、淡い光を放つ物体が台座に乗せられており、その手の平サイズの宝玉は丸ではなく、割れた水晶玉の一片、といった形状をしていた。


『アキマサ、ここへ』

 バルド国王が宝玉の傍に立ち、アキマサを呼ぶ。

 アキマサは宝玉の前に立ち止まると、何かを確認するよう僅かに国王へと顔を向けた。

 そうやって、アキマサはバルド国王が軽く頷くのを確認すると、宝玉をゆっくりと包み込む様に両手の中に収めた。


『間違いありません。コレです。……何だろう。凄く懐かしい感じがします』

 アキマサが大きく頷き感想を述べる。


『何か変化等は感じるか?』

『……いいえ。すみません』

 宝玉を元へ戻し、国王の問いに首を振って答えるアキマサ。


『そうか』

 少し残念そうにバルド国王が呟く。

 続けて、

『なに、謝る必要など無い。宝玉の存在を感じ取れるのは間違いないのであろう? ソレが分かっただけで十分だ』

 バルド国王はフォートレンを呼ぶと二人で何かを話し始めた。

 その傍ら、若干しょんぼりしながらコチラに戻ってくるアキマサへ俺は声を掛ける。


「会議中からちょいちょい耳に入って気にはなってたんだけど……お前ってやっぱり勇者に認定されちゃったんだな」


『え? ええ、まぁ』

 一応、と少し恥ずかしそうにアキマサが答える。


「そんな面白そ……大事な事はもっと早く教えて欲しかったよ」

 言うが、実際はアキマサが聖剣を腰に提げている時から、そうじゃないかとは思っていた。

 あれは持ち主を選ぶのだから……。キリノが運び手とか何とか言ってたが、アキマサに関しては運び手も何も無いだろうと俺は思っていた。だって森に落ちてたのを拾ったのだそうだし。そんな偶然を起こす運び手って必要? その偶然を起こせるなら運び手ではなく、勇者を直接呼び寄せると思う。少なくとも俺が剣の立場ならそうする。運び手なんてめんどくさそうなワンクッションを置いたりしない。

 

『いや、だってクリさんの事だから絶対からかうじゃないですか』

 少ししょんぼりした顔でアキマサがそう返してきた。


 当然だ。からかわない理由がない。

 キリノ然り、アキマサ然り。城にて退屈をもてあまし、森に帰れないストレスの捌け口として両者をこれでもかとからかった。

 その成果は、ジリジリと、そして確実に俺の評価、人となりとして如実に顕著されつつある。


 そんな俺が、これ見よがしにニコニコとしながらアキマサへ向けて言う。

『まぁ、くよくよすんな。成ったモノはしょうがない。頑張れよ、勇者様』

 俺が半笑いでアキマサの肩を叩きながらそう告げたのと同時だった。


 突然、今まで淡い光を放っていただけの宝玉が輝き出す。


『何事だ!?』

 輝き始めた宝玉に眩しそうな目を向けたバルド国王が叫ぶ。

 尚も徐々に強くなっていく宝玉の輝き。

 数秒輝いた後、宝玉の輝きが不意に消える。

 一瞬の静寂ののち。突然の事に硬直し、その様子を見ていた全員の前で宝玉が音と共にと弾け、無数の光の粒子となった。


 無数の粒子はアキマサを包む様に螺旋を描くと、吸い込まれる様にアキマサの中へと消えていった。


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