魔族のお供をするにあたって・20
前回の勇者供!(みんなで唱和)
緊張と熱気に包まれたシーアリーナ。そして、魚をイメージした新しい衣装で挑んだ俺の初の単独ライブ。もー緊張!
「かちどき挙げて~♪」
『はい! はい!』
「そう海の覇者~♪」
『はい! はい!』
ちょー大盛り上がりで終わった一曲目。会場のボルテージもいきなりフルスロットル!
そんな盛り上がりを見せたステージに、突然、謎の乱入者が!
「あ、あなたは!?」
『久しぶりね、混沌』
なんと! ステージに乱入して来たのは不敵に笑うテティスだった。どうして彼女がここに!?
そして、テティスからのまさかの求婚!? 「えぇー!?」
突然の出来事にステージは大混乱!
俺のステージ、一体どうなっちゃうのー!?
「―――みたいな?」
『全然違うわ』
今の状況を俺なりにまとめてみたのだが、テティスに即で否定された。
大体あってると思うけど?
『ワシの配下がいつそんなノリノリの合いの手を入れとった?』
「みんなの熱い想い。俺のハートにはビシビシ伝わったよ……」
『俺達がいつお前のファンになったんだよ!?』
『女王! アイツ頭おかしいです!』
『混沌っていうか、頭の中が混沌ですよアイツ!』
驚愕と怒気を含んだ周囲の嘆きが方々から上がる。
ちょっとからかい過ぎたらしい。
『ふ、ふむ。ワシの知る混沌とは随分差があり過ぎてワシもちょっと自信無くなってきた』
「自信持って」
『やかましい!』
励ましたのに怒られた。一体どうしろと言うのか……。
『貴様が復活して数ヶ月。力が完全に戻る前に始末をつけるかと打って出たが……。よもや頭がイカれておったとは』
『女王! ポジティブです! ポジティブにいきましょう!』
『……そうじゃのぅ。力も弱い上に頭も弱いとなれば我らの勝利は揺ぎなきものであろうな』
「……酷くない?」
『酷くは無いぞ? ―――酷いのはこれからじゃ』
テティスがカラっと笑う。
と思ったのも束の間、右手を正面に突き出して魔法陣を構築。テティスの座る珊瑚の台座周囲の海水が激しく波打ち始めた。
『力の戻らぬ内に、ワシと海の上でおうたのが運の尽きじゃ。 ―――逃がさぬぞ、混沌』
人丈程もあるテティスの魔法陣が紺色の光を強く放ち始めると、それに呼応する様に、無数の魔法陣が空中に姿を現す。
『我が矛。避けるものなら避けてみよ』
そうして、無数の魔法陣から槍が放たれた。
槍の向かう先には当然の様に俺。その"当然"が恨めしい。
ここから、俺と無数の槍による全然楽しくもない追い掛けっこが始まった。
空中をひたすら逃げ回る俺を、意思を持ったかの様に追い回す槍。当たったら絶対痛いやつ。
ファンに追い掛けられるならばともかく、まさか殺意の籠った魔法の槍に追い掛け回されるとは思ってなかった。ちょっと話をしに来ただけなのに……。
最初に俺に噛みついてきた魚や配下の者達の槍など、その程度の有象無象なら頑丈な体ゆえ痛くもない。
が、仮にも現・海の種族の頂点である女王テティスのアレは痛そうだと思った。本当に痛いのかは当たってみないと分からないけど、当たりたくない。そんな、俺以上に何の役にも立ちそうにない好奇心の検証なぞいらん。
一旦出直そうかと、この場からの離脱も試みたのだが、逃がさないというテティスの言葉は本気であったらしく、離れようとするとそれを見越した槍が俺の行く手を阻む様に放たれる。
魔王になってから、地上だろうが空中だろうが随分早く動ける様になったと調子に乗っていたが、テティスの槍はそんな俺よりもずっと早い。早い分、小回りが効きづらい様で、一度避けると戻って来るまで大きく旋回するのだが、如何せん数が多い。
これはその内当たる。
避けても避けても次々と飛来する魔法の槍に鬱陶しい目を向けつつ、そんな事を思う。
そもそも、長く生きてきたわりに戦闘経験など殆ど無いゆえ、俺は現在、ただ動体視力に頼ってテティスの怒涛の攻撃を避けているに過ぎない。
加えて、思考の脱線が多いせいか集中力も散漫なので、その動体視力頼りの回避も長くは続かない自信がある。無の境地とか言って悟りを開いてる人の頭の中は一体どうなっているのだろう? マジで。
だからといってテティスを攻撃する訳にもいかない。性格がキツイ事で知られるテティスに反撃しようものなら、話を聞くも何もあったものではないだろう。
まぁ、もっとも、今も話を聞ける状況ではないのだが、これ以上拗れさせるのも不味いだろうし……。
大体、テティスは何でこんなに―――いってぇ!
考え事をしながら逃げ回っていたら槍が頬を掠めていった。
痛い。ヒリヒリする。
くっそぅ、痛い思いしたら何か腹が立ってきたな……。
「おい! 若作り! お前いい加減にしろよ!」
テティスを睨んで文句をつける。テティスの眉がピクリと揺れた。
ただ、如何せん槍に追っかけ回されながらの悪態なのでイマイチ迫力というか、格好がついてない気がしたので、それで逃げ回るのを止めた。
素早く後ろを振り返り、告げる。
「《バトルモードに移行します》」
何か良い感じの台詞を口にして構える。
一応言うが、俺にバトルモードなんてモードはない。あえて説明文を付けるなら、《ちょっとだけやる気になった》だけである。逃げるのが面倒臭くなった訳では無い。
違うよ?
高速で自身に迫る魔法の槍を冷静に見据え、
―――一発必中で破壊し、迫る槍に抵抗してみせる。
どうやって?
拳で!
ようはただの乱打である。
逃げている時に何となくそうだろうとは思っていたが、殴った感触で、やはり水で出来た槍であったと知る。
鋭い割には脆い。
槍の弾けるさまを見るに、水を薄い膜で覆っている様な感じだと思う。その膜を拳で叩いて割っていく。
水を力いっぱい叩いた様な音が周囲に連続して巻き起こった。
正面から殴ると刺さりそうなので、ちょっと横から、槍の先端をフック気味に狙う。
一体いくつのそれを破壊したかは分からないが、しばらくそうやって叩いて、割って、ついでに弾けた水で濡れて、水も滴る良い男を演出していると、不意に槍が全て無くなった。俺が全て破壊した訳ではなく、まだまだ周囲に数多くあった槍が全て消えてしまったのだ。
効果が薄いと諦めた、とか? 単に疲れただけの可能性も。
そう思ってテティスを見ると、やっぱり不敵に微笑んでいた。
「はーはっはっはっ! 実年齢※※の若作りには堪えたようだな!」
とりあえず腕を組んで勝ち誇る。
相手が余裕だとついついからかいたくなる衝動が抑えられないのは俺の悪いところであるのだが、自分の気持ちに正直に生きていきたい。フリーダム。素直だと良い方に取って貰いたい。
『い、一度ならず二度までも』
『命知らずめっ』
周囲からそんなざわめきが起こる。
二度? 何がだ?
そう訝しげんでいると、
『ワシを―――若作りと言ったな……』
不敵に笑いながらも、青筋を額に浮かせたテティスが凄む。
「……若作り」
当然からかう。人の痛い所をからかわない理由がない。
『忌ま忌ましいチビめ……」
テティスがそう言った途端、大波が巨大な拳を形作ってテティスの背後に聳え立った。
「え?」
今なんて?
『死にさらせ! クソ妖精!』
テティスの叫びと共に巨大な拳が俺へと振り下ろされた。
「てめぇ気付いてたんじゃねぇか!」
叫ぶ。
散々テティスをからかったのは、テティスが魔王の肉体に変化してしまった俺に気付かず、混沌混沌と喚き立てる事への嫌がらせであったのだが―――
『当然じゃ。ワシを誰だと思うておる』
ニヤリとテティスが口元を歪ませた直後、でっかい拳に殴られた。
出来れば、サブタイトルも魔族供・21に合わせたかった
拳的に