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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅶ章【魔王篇・建国期】
226/237

魔族のお供をするにあたって・16

台風でまだWi-Fiが繋がらない

『いってらっしゃい~』

『気をつけてです~』

 そんな妖精達の声を背中に受けて、後ろを向いたままヒラヒラと軽く手を振った。

 そのまま、目の前に広がる妖精の抜け道(フェアリーロード)の中へと歩を進める。



 旅に出る、と宣言したのは昨日の事。

 それから一晩明けた今日は、朝から妖精達をこき使って魔王城からエルフの住まう森へと旅立った。

 まぁ、旅、旅、と大袈裟に言ってはいるが、俺はちょっと話を聞きに行く程度の認識なので大した事でもない。もっとも、移動距離に焦点を当てれば大した事ではあるのだが……。



 妖精の抜け道(フェアリーロード)を抜けると、ただ広いだけで殺風景な城とは雰囲気をガラリと変えた風景が視界に収まった。

 エルフの森。

 冬という事もあり、冷たそうな空気をまとっているし、足下に落ち葉も多く見える。されど、常緑樹の割合が多いらしく、視界に映る景色には木々の緑の割合が半数を占めていた。

 妖精の聖域(フェアルチェアリ)のある森とも少し違った森の中。スノーディアと共に、落ち葉や小枝を踏み締める音に耳を傾けながら歩く。


「来なくても良かったのに……」

 隣を歩く妹にそう声を掛けつつも、歩みは止めない。


『ついでだよ。それに、こんなに可愛い妹と一緒に森を散策出来るんだから、もっと喜んでも良いんだぜ? なんなら腕でも組もうか?』

「いや、いらな……。 ―――――しょうがないなぁ。甘えん坊だからなスノーディアは」

 ニヤニヤしながら、隣を歩くスノーディアに顔を向けて、腕を伸ばした。


 スノーディアは一瞬だけキョトンとした後、

『わーい! 嬉しいよ、お兄ちゃん!』

 と、俺の腕にしがみついて体を寄せてきた。

 それで、二人で顔を見合せ頬笑む。ニコッではなくニヤリと。


 動じない奴め。


 密着したまま、少しだけ落ち葉を蹴る音を強くして歩き、そうしながらスノーディアに問い掛ける。小声で。

「(で? あれはエルフって事で良いのか?)」

 言うと、スノーディアはコテンと擬音が聞こえて来そうな仕草で、微笑みを湛えたまま俺の肩へと頭を預けてきた。


『(だろうね。随分まぁ、早いお出迎えだね)』


 周囲から僅かに溢れる幾つもの視線を気にしていません。という体で、尚も森を進んでいく。

 こちらの動きに合わせて、周囲の視線もじわりと動いた。


『(ま、警戒心が強いエルフらしいといえばらしいけどね)』


「(警戒心が強いとは聞いてたが……。これはあんまり気持ち良いもんじゃないな)」

『(それはエルフの視線の事かい? それとも妹に密着されている状態の事かい?)』

 悪戯そうな声色のスノーディア。表情だけは変わらず、微笑みを維持している。

 

「(……両方だよ)」

『(萌えても良いよ? お兄ちゃん)』

「(やなこった)」

 言うと何故か少し腕をつねられた。俺にどうしろと……。


 幾つものエルフに見守られながら、仲の良い兄妹は更に歩き続ける。そんなに期待の眼差しを向けられても妹展開はないよ?


『(少し話は変わるけど)』

「(ん?)」

『(兄さんの……、お兄ちゃんの言ってた会いたい奴ってのがこの森に居るのかい?)』

「(ああ。アイツは動けないからな。ここにいるだろ)」

『(動けない?)』

「(会えば分かるよ)」

『(そう……。ま、どんな人物かは会うまでのお楽しみにしておくとして……、エルフの関係者って事なのかな?)』

「(う~ん。それは俺にも分からん。どうなんだろうな? 少なくともエルフではないんだが……。そうだな、存在を知らないって事は無いんだろし、それなら)」


『止まれ!』

 歩を進める俺達の前方から大きな声が響く。

 言われた通りにその場で立ち止まると、離れた前方の木の陰から一人のエルフが武器を手にしたまま、視界の中に現れた。


『ざ~んねん』

 そんな台詞を吐き出して、スノーディアが組んでいた腕を離し、両手を上に小さく掲げた。


『ここから先はエルフの領域! 用が無いなら早々に立ち去れ!』

 尖った耳に負けない位に目を吊り上げたエルフの男がこちらに警告する。

 未だに姿がその人物一人だけ。しかし、突き刺さる視線に変化はない。


「この先に居る知り合いに会いに来たんだ。君らに危害を加える気もないし、そもそも君らに用はない」

『いや、僕はエルフに用があるんだけど』

 ちょっとだけ困った表情をしてスノーディアが訂正を入れてくる。


 そう言えばそうだった。


『許可出来ない! 早々に立ち去れ!』

「そこをなんとか」

『くどい!』

「……顔が?」

 何の話か咄嗟に判断出来かったのだろう。そのエルフは一瞬だけ怪訝な顔を見せた。


『兄さんって、相手の緊張とか、不安とか、そういう気持ちまるっと無視するよね』

「和み系なんで」

『デリカシーが無いだけじゃないかな?』


 失礼な。デリカシーくらい持ってるわ。使わないだけで。


『そんな事はどうでもいい!』

 馬鹿にされたとでも思ったのか、眼前のエルフが更に怒気を強めて言い放つ。

 

「ほらみろ、怒らせたじゃないか」

『兄さんのせいだと思うけど』

『どうでもいいから早く帰れ!』

 相手に責任転嫁すべく軽口を叩きあった俺とスノーディアに、懇願混じり気味にエルフが叫ぶ。

 そんなエルフの様子に、大変なんだなぁ見張りって、と至極どうでもいい感想を抱いた。


『見張り役って大変そうだよね』

「だろ? 俺もいまそう思った」

 妹の言葉にうんうんと同調しておく。

 エルフはもう何も言わずに黙ってこちらを睨み続けるだけであった。


 そんな中。

 唐突にこちらに飛んできた矢が一本。俺の顔の1メートル程手前でピタリと静止した。俺が静止したと認識した時には、矢は既に氷付けで落ち葉の上に転がっていた。


『圧倒的格上相手に実力行使は悪手だぜ? それで相手を怒らせるなら尚更だ』


 俺のすぐ隣。静かに、されど狂気に満ちた笑顔を顔いっぱいに貼り付けたスノーディアが冷たく吐き捨てた。

 スノーディアから放たれる強大な殺気を孕んだ禍が、周囲に満ちていく。それが向けられている訳てもない俺も怖かった程に。怒った妹に勝てる兄って居ないと思うんだ。

 だから俺は悪くない。

 例えばそれが、可哀想な位にガタガタと震え、『ち、違う! 今のは私の指示では……』なんて事を言い始めたエルフの男の顔が貧血で倒れるんじゃないか、ってくらいに青かったとしても、俺の責任ではないのだ。

 そんな男と同じく、周囲から向けられていた視線にも激しい怯えが混じり伝わってくる。姿こそ見えないが周りのエルフも眼前の男と似た状況にあるのだろう。それも俺の責任ではない。俺は悪くないよね?


 とまぁ、俺は悪くないし責任もないけれど、ほんの少しのデリカシーと妹リテラシーを持つ俺としては、自分の妹が返り血にまみれるなどとう殺人鬼みたいな服装になる様な自体は避けねばいけないし、ついでに言うと、そうする事でちょっとだけ恩を売るという打算計算の合算的な意味合いを含めて、「まぁ、落ちつけ」と荒ぶる妹を制止した。ちょっとだけ及び腰で。


「さっきも言ったけど、危害を加えに来たんじゃないんだ。この森にいる知り合いとちょっと話をしたいだけなんだよ。会わせて貰えないかな?」

 出来る限り平淡に努めた。

 それで少し落ち着いたのか、エルフが言葉を返してくる。態度こそ冷静そうだが、彼の顔は未だに青い。


『……私、だけでは判断出来ない。その言葉が真実と決まった訳でも』

『殺して向かった方が早いんじゃないかな?』

 男の言葉を遮って、俺に顔を向けながら言ったスノーディアだが、その視線とは裏腹にその言葉はエルフ達に向けられているモノだと理解出来た。


『わ、分かった! 待て! 待ってくれ!』

 男が慌てて繕う。凄く可哀想な感じだ。

 男の言葉が続く。


『確認なのだが、おま……あなたの会いたいと言うのは、グランドエント様で間違いないか?』

「そうそう。エントの爺様だ」

『やはり………。分かった。では、グランドエント様に直接、会うか否かのお伺いを立てる。それまではここで待ってくれ』

 そう言って、男は仲間の名を呼んだ。

 直後に、周囲の視線のひとつが奥へと遠ざかってゆく気配。

 お伺いとやらを立てに行ったのであろう。


 しばらく、やる事も無かったのでぼんやり待つ事にした。

 待っている間、はたと礼を言うのは忘れていた事を思い出した。


「スノーディア」

『うん?』

「さっきはありがとう」

『……それは盾役になった事を言ってるのかい? それとも、悪役になった方かい?』

 愉快そうに微笑んでスノーディアが尋ねた。


「両方だよ」

『なに。部下として当然の事をしたまでさ。王を守るのは兵隊の役目だろうし、妹としても悪役になるのは当然の役目だぜ?』

 そう、スノーディアは笑った。


 兄貴的に、後半はちょっと良く分からなかった。 

 

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