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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅶ章【魔王篇・建国期】
225/237

魔族のお供をするにあたって・15

 俺の古傷の痛みが治まり始めた頃。人数分のカップとティーポットをプレートに乗せたブラウニーがやって来た。

 それらを一度テーブルへと置いたブラウニーは、慣れた手付きで準備を始める。

 ポットから注がれる色のついた液体と、立ち上る湯気をぼんやり眺めていると、中座していた話の蓋を再び開けて、スノーディアが説明を再開した。


 話の内容は、パカンスの守り神ことオヒカリ様について。

 とは言え、スノーディアの話に特筆すべき点もない。と言うのも、あの聖霊力、そして母の樹の根を調べたスノーディアの感想も俺の感想と然程に差違のないものであった。

 強いて違いをでっち上げるなら、スノーディアは鉱石の名を知らなかったって事くらい。

 フェアル石。名付け親は俺なので知らないのは当たり前だったりするので、知ってたから自慢出来るというモノでもないのが残念である。


 オヒカリ様の私的見解を語った後、パカンス同様スノーディアは、あれは動かさない方が良い、という意見を述べた。力が大き過ぎるゆえ何が起こるか分からない、と。

 それについては前以てスノーディアに告げられていたので、既に対策済みである。

 対策と言っても、俺が何をした訳でもない。俺はふてくされていただけなので。

 いやいや、これだと俺が問題児みたいじゃないか?

 う~ん……、つまりあれである。部下の自主性を重んじる、みたいな?


 動かさないからと言って放置も出来ないゆえ、ドワーフと時同じくしてパカンスで俺の配下へと新たに加わったクリスタルサンドワームことミミズのみっくんがその守護の任にあたっている。

 守護の任なんて言い方をすると、なんだかちょっと立派な感じだが、体の良い厄介払いに近い。俺の役に立ちたいというみっくんの心意気は有り難いが、あんなデカイミミズに四六時中付きまとわれては敵わない。

 オヒカリ様も守れるし、ミミズからも解放された、みっくんも俺の役に立てて御満悦。一石三鳥。素晴らしい。



 一通りの説明を終えたスノーディアが、時間が経ってやや温くなったお茶にようやく口をつけた。


『話は分かりました。それで、移住の準備はどれ位掛かりそうですか?』

 メフィストの問い掛け。


『準備が出来次第、とは言ってたけど、ハッキリとは。 ――――まぁ、パカンスはミミズ君が暴れてくれたお陰で生活出来る状況に今はないからね。明日か明後日には連絡があると思うよ』


『思っていたより随分早いですが、まぁ、早い分には大きな問題も無いでしょう』

 そこでメフィストは一度区切るかの様に、カップを一気に傾けて、それから続きを口にする。


『この勢いを殺す手はありませんね。どうでしょう? このまま』

「俺はしばらく旅に出る」

 メフィストの言葉を遮るように言い、座っていた椅子からスックと立ち上がる。

 ポカンとしている三人の顔が視界の中にあった。


「冬明けまでには戻ってくるよ」

『ちょ、ちょっと!』

 吐き捨てる様に言い、部屋を出て行こうとする俺を、スノーディアが慌てて止まる。


『ちょっと待ってくれる。急にどうしたの? 旅に出るって、何処に行くのさ?』

『メフィスト様が仕事を押し付け様とするからですわ』

「いや、別にそう言う訳じゃ……。え? 押し付けるつもりだったの?」

 俺が疑問を抱えて、え?と首を傾げると、同じように首を傾げて、え?と疑問を浮かべた三人と目が合った。


 こいつら……。

 複雑な表情の三人を見て、また俺になにかさせるつもりだったのかと悟る。


 直ぐに、まぁいいかと気を取り直す。

 旅に出ようとは思ったが、別に押し付けられる仕事から逃げようと思った訳ではない。

 というより、押し付けられるとは思っていなかっただけ。

 しかしながら、これは僥倖。棚ぼたの先手必勝。

 俺の気紛れで露呈したメフィストの策略から逃亡を図るべく、旅に出る理由に正統性を付与する事にしよう。


「悪いけど、その仕事はお前ら頼むわ。ちょっと会いたい奴がいてな。そいつらに会いに行く」

 半分本当。

 目下の難題を、先の命題で有耶無耶にしておく。隠すという行為に着手すると、正直者の俺ちゃんは表情でバレてしまうかも知れなかったりしなかったりするので、というか嘘はいけないので、瞬きパチパチと目だけで本音を語って、読み取れと促した。

 きっと誰にも伝わらないであろう、目は口ほどにモノを言うの間違った使い方。

 半分本当。残りの半分は本当と嘘を排除したそれ以外の何か。消去法で、選んでね?


『本当に行くつもりかい?』

「止めるなスノーディア。男には、いや、漢には! 行かねばならない時がある」

 死地に赴く心境で、眉をキリリと持ち上げてスノーディアを流し見る。

 馬鹿を見る目が、流し目にしてちょっとだけ狭くなった視界の中にズガンと収まった。


『いや、まぁ、止めはしないけどさぁ』

 止めないんだ。

 心に疎外感が聳え立った。

 ふて寝しちゃうぞ? でもふて寝しちゃうと計画に支障が出ちゃうので、ふて寝は取り止め。計画変更の計画変更なのだ。


『せめて、何処に行くのかだけでも教えて頂けると有り難いのですが?』

 何故かちょっと愉快そうな――――と思ってから、そう言えばこいつは笑顔がデフォだったと思い直す。


「……取り敢えず、は で す ね 感嘆符」

 一音一音を大事にする。無駄な区切り。!だって正式名称だ。

 結果、出来上がったのは、役に立ちそうもない時間稼ぎの末の頭の悪そうな台詞。


「エルフの森に行こうかと思ってる」

 意外と役に立った時間稼ぎの成果は、理由も根拠も目的も内包しないその場しのぎの出産。おめでとうございます、エルフの子ですよ。


『エルフの森? なら丁度良かった。そこなら僕もついていくよ』

 アンビリーバボー。

 スノーディアから届けられた出産祝いに、顔には出さずとも心の中で激しく狼狽える。強制で祝いの品を受けとって、今更、その赤子は人形でしたなどとは口が避けても言えない。


「いや、一人で良いんだが……」

 精一杯の反抗と決意表明。この子は私が一人で育てます。


『旅には付いていかないさ。実は、ドワーフの次はエルフに移住してもらう予定だったのでね。だろ?』

 そう言って、スノーディアがメフィストを見る。

 メフィストは『ええ』と何故か嬉しそうに――――と思ってから、そう言えばこいつは笑顔がデフォだったと思い直す。


 養育費なんかいりません。あなた方の手は借りません。私が一人で立派に育てます。それにこの子、とっても大人しいから手も掛からないんです。え? お人形さんみたいですって? あらやだお上手。嬉しいわ。


「あらやだお上手。嬉しいわ」

 テンパったせいか無意識に口から思考が零れだす。

 スノーディアは『お上手?』と僅かに怪訝な顔を見せて、それから、

『旅の邪魔をするつもりはないけど、移動にあんまり時間も掛けられないんでね。悪いけど、最初だけ妖精の抜け道(フェアリーロード)で近道するよ』

 おや? 何故か一緒に行く前提になってしまっていますが、何故でしょうか?

 嬉しいという言葉は肯定する意味合いを含んでおりませんよ?

 嬉しいというのはですね。ほら、嬉しいという意味なんですよ。

 ちょっと口で説明するのは難しいので、実演して見せますね?


「スノーディア」

『うん?』

「嬉しい」

 そう言って俺はニコリと微笑み、嬉しいを実演してみせた。


 スノーディアは少しだけキョトンとした顔を見せた後、

『それは良かった』と、嬉しいの意味が通じたであろうスノーディアもまた、こちらにニコリと微笑み返し、嬉しいを再演してみせてきた。


 良かった。分かってもらえて。

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