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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅶ章【魔王篇・建国期】
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魔族のお供をするにあたって・14

『おかえりなさい! そして、おめでとうございます! 流石は我が親友。見事ドワーフ達を配下に加わ――――』

「貴様ァァァァ!」

 城にて、俺を笑顔で出迎えたメフィストに、長い城の廊下でふんだんに助走をつけて放った魔王式フライングクロスチョップをお見舞いする。

 不死身なのをいいことに、一切の手加減抜きだ馬鹿野郎!


 メキッと鈍い音を響かせた後、玉座の間の扉をぶち破り、部屋の壁まで激しくぶっ飛んでいく悪の枢軸メフィストフェレス。

 ギャグパートなので細かな描写はしないけれど、なにかが折れたりへこんだり色に赤が混じったりと、ちょっと目を覆いたくなる感じだ。

 だが、同情してはいけない。

 奴は悪である。悪は滅びるのが宿命(さだめ)

 

 

 こうして、メフィストフェレスは死んだ。


 心晴れやか、清々しい気分で玉座へと腰を落とす。

 なんだか世界でも救った気分。救った事がないので、それがどんな気分かは知らないけど。


『ところでですね』

「うわぁ!」

 突然、真横から飛んできた甦りし悪の枢軸の声に驚く。


「おのれ悪魔めっ! 退散! 退散!」

 パカンスからの帰還前、暇つぶしにと手に入れた拳大程の彫刻練習用の石のひとつを手の平で砕き、それをチマチマとメフィストに投げつける。


『痛っ。死なない分、地味に痛い』

 小石の襲来に悪魔が怯む。効いてる効いてる。

 何故かそれが段々楽しくなってきて、結局、合計3つの石を砕いて投げた。



『掃除は自分でしたまえよ』

 玉座の間で行われた退魔の儀式は、遅れてやって来たスノーディアのやや呆れを含んだ茶々で終わりを迎えた。


「そうだぞ。自分で掃除しとけよメフィスト」

 とりあえず擦り付ける。

 しかし、俺のそんな嫌がらせなど何処吹く風。妙に楽しそうな顔をしたメフィストは『はいはい♪』と、何処からか取り出した箒を手にし、鼻唄混じりで床に散らばった小石と砂の掃除に取り掛かった。

 粉っぽい空気がメフィストを中心に俺まで巻添えにして広がって、それでむせそうになったけれど、原因は自分にあるので我慢した。



 業務を果して、箒が床を掃く音が無くなってから、『ところでですね』とメフィストが二度目となる台詞を吐いて話を切り出した。


『首尾の方をお聞きしても?』

「何回やっても足が折れるんだ」

 メフィストの問いに、聞かれてもいない彫刻技術の進歩状況を説明する。

 ツッコミ待ちだったが、メフィストは乗らず、むしろ真面目な顔をして『練習あるのみですねぇ』などと宣ったのち、いつものデフォルト的な微笑みを覗かせた。


「ち、が、う、だ、ろ! 違うだろー!」

 このハゲー! と言ってやろうかと思ったが、生憎とメフィストの頭髪はフサフサだったのでやめておいた。


『話戻しても良いかな?』

 我関せず、と涼しい顔をしたスノーディアが口を挟む。

 無言で、且つ両手の仕草でどうぞどうぞと話題の中心を献上する。

 献上したので、それはもう俺のモノじゃない。我関せず。首尾とやらの説明を妹の背中によいしょと背負わせた。しめしめ。


 そうやって、あたかも無関係を装った俺が、浅く座った椅子の上で塩と陽射しにやられたナメクジみたいに溶ける中。スノーディアが、ドワーフ達を含めたパカンスでのこれまでの事、これからの事をメフィストへと説明し始めた。



 まずは、ドワーフ達について。

 結論から言えば、パカンスのドワーフ全員が俺の国の住民として移住してくる運びとなった。

 これはひとえに、俺の2週間にのぼるコミュニケーションの賜物。と言うわけでも無いっぽくて、バーバリアのひ孫ミケとスノーディアの頑張りのお陰だろう。


 前魔王配下序列五位バーバリア。

 バーバリアは、ドワーフの中でも裏切り者と異端視されているらしいのだが、パカンスでは少し違う扱いなのだそうで、どちらかと言えばパカンスのドワーフからは英雄視されている。

 それは、パカンスのドワーフ達に安心して暮らせる土地を与えたと言われているから。

 自らの誇りを捨てても、一族の繁栄を望んだ。そんな風に考えられているらしい。

 そして、その協力者にして立役者こそがスノーディア。

 今こそ恩を返すべき時と、ミケがドワーフ達を強く説得したお陰で、今回の移住へと繋がった。

 元々ミケがドワーフ達に慕われていたというのもあるのだろう。サンドワーム襲来の翌日には移住するという事で話がまとまったのだそうだ。


 この世界は平和とは遠い情勢下にある。

 構図としては、魔王対人間対その他の種族、の三つ巴である。

 ただ、三つ巴と言っても形ばかり。

 実際は、先の二つに他種族は苦汁を舐めさせられるだけなのが現状である。

 また、この三つ巴の勢力図であるが、人間側からは少し違った見方をされているようで、人間側は魔王と他種族は曖昧ながら協力関係であり、つまり三つ巴ではなく魔王対人間という図式で成り立っている。

 ハッキリいって首を捻らざるを得ない。

 何故そういう事になるのだろうか、と。


 人間は、他種族の容姿や種族毎の特性が自分達と違う、というただそれだけで歩み寄る事を放棄し、悪と断じている。

 加えて、世界で最も繁栄する種族である人族は、数の多さもさる事ながら、結束力が強い。その結束力の強さゆえ、自分達とは異なる種族をその輪へと加える事を良しとしない。それが、現状の悲惨さに拍車をかけている。


 母の樹の元、他種族共栄が当たり前だった頃に生まれた俺に、その排他的な感覚は良く分からない。


 陸の種族、空の種族、海の種族。

 母の樹の元で最初に繁栄したのがこの3つの種族。

 それから程なくして樹の種族が生まれ、それを境に爆発的に他種族が生まれたのだと母に聞いた。


 そして、この中に人族はいない。

 人族は、陸海空よりも早く生まれた種族であるらしい。

 彼等は元々、天の種族と呼ばれる種族に属していた。母が言うには、それは空の種族とはまた違うそうだ。

 先の3つの種族と異なり、母の樹の寵愛を受けず、独自に繁栄した種族。それが天の種族であり、人族である。

 その辺りにも、現状の反発的な態度の要因があるのかも知れない。


 まぁ、そんな数千年も前の事を引き摺っているかは定かではないが……、そんな前の事を引き合いに出されて理不尽な敵対心を見せられても困るだけである。

 もっとも、それは人間だけじゃなく、いつまでも咎だなんだと馬鹿のひとつ覚えみたいに喚き散らす灰王の眷族共にも言えた事である。

 なお、その筆頭たる灰王こと魔王は俺な模様。

 そう考えるとエライもんを擦り付けられたもんである。憤慨です。俺に非があるとばかりに身に覚えの無い事で理不尽に怒られたりしない事を願わずにはいられない。


 しかし、魔王が俺へと移った今だからこそ出来る事もある。与えられたモノの有効活用。

 今だからこそ出来る事。

 それこそが、灰人と他種族の共存共栄である。


 俺は灰人以外を咎人などと吠えて粛清に興じるつもりは全くない。そういうのは暇人がして、どーぞ?

 むしろ真逆。

 みんな仲良くお手々繋いでハッピーラッキーラッタッタッタターである。ラッタッタッタターに深い意味は無いので気にしないで欲しい。


 世界中、誰も笑顔で楽しければ、そんな最高な事は無いんじゃないだろうか?

 とは思うけど、思うだけで実現出来れば苦労は無いし、魔王なんてやってない。魔王になったのは流れで仕方無くほぼ強制に近かった気がしないでもないけれど……。


 まぁ、とにかく。

 俺が魔王になったからには咎人という考え方は廃止である。ざまぁ。

 ドワーフだろうがエルフだろうが人間だろうが、平等だ。仲良くだ。


 唐突に頭がズキリと痛んだ。

 昔の記憶を思い出したりすると毎回だ。記憶が古すぎるのだろう。頭に刻んだ記憶が古すぎるゆえ、もうそれは古傷みたいなもんなんだと思う。記憶が傷とか聞いた事も無いけれど……。

 でもまぁ、なんかカッコいいのでこのスタンスである。


 古傷が疼きやがるぜ。


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