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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅶ章【魔王篇・建国期】
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魔族のお供をするにあたって・12

 クリスタルサンドワームと名付けられた魔獣と、双子パンシーナンシーの激しい攻防がパカンス内で続いている。


 意図こそ不明のままであるが、パカンスへと強襲をかけたサンドワームの群れは、その前に立ちはだかったパナンシーの鎮圧により、今やその勢力は群れのボスであろうクリスタルサンドワームを残すのみ。

 サンドワームにしてみれば予想外の抵抗ではあっただろう。武力蜂起の直後に出鼻を挫かれた形となったサンドワーム側。これで全てが狂わされた。


 パカンスの被害が無傷という訳にはいかなかったが、そこに住むドワーフ達は怪我こそあれど死者は出ていない。まぁ、畑や住居は散々たる有様だが、いくらでも作り直せるだろう。生きてさえいれば。


 既に避難を終わらせたドワーフ達。

 集団の中にブラウニーやラピス、ミケの姿も見えてホッとする。不安そうな顔をしたラピスがブラウニーにベッタリで、そんなラピスをブラウニーが安心させる様に優しく撫でている姿が、こういう状況下であっても何だか微笑ましく感じた。


 避難、と言ってもパカンス内のひとところに集まっただけではあるが、パカンス内に散らばっているよりは遥かに守り易い。

 ただ、守り易いのはドワーフの事であって、畑や住居という訳でもない。

 クリスタルサンドワームの大きな巨体が暴れる度に、何かが壊れた。


 俺の背後。

 壊れゆく自分達のパカンスを、ドワーフ達は(みな)、言葉も発する事なく、何処か呆然とした様子で眺め、成り行きを見守っていた。

 シドルを含めた一部の者は、呆然としつつも、堅く武器を握りしめているのが見てとれる。

 自分達の大切な居場所が次々と壊れていくのだから、一矢報いたいところではあるのだろう。しかし、それすらも憚る程に、クリスタルサンドワームとパナンシーの戦闘は激しいものであった。

 俺も参戦しようかと思ったが、ブラウニーが視線だけで行くなと言っているので参加を見送った。とことん出番とは無縁らしい。

 まぁ、時々、当たったら痛いで済まなさそうな瓦礫なんかが飛んで来ていたので、それらから背後のドワーフを守る役目に甘んじておく。

 真打ちの出番はここぞという時なのだ。出待ちで終わる事が多々ある気がするけど……。

 


 に、しても強い、な。

 パナンシーもだが、あのクリスタルサンドワームがである。

 元灰王の配下の中でも特に力の強い一桁ナンバー。

 その二人と対等に渡り合う実力。

 並の魔獣では無いのだろう。


 その並の魔獣とは一線を画す桁違いの実力ゆえ、やや疑問に思う。

 アレはどうやってあれだけの力を得たのか……。


 以前に聞いたシドルの話によれば、地震が起き始めたのは俺達がパカンスに来る一月程前からなのだそうだ。

 つまりは、おそらくその頃にクリスタルサンドワームは力を得たのだと推測する。

 パカンスが今の今まで無事だった事を考えれば、昔からこの地に居たとは考えにくい。昔から居たなら、とうの昔にパカンスのドワーフ達は滅びている。

 それに、ラピスもサンドワームは大人程度の大きさだと言っていた。しかし、蓋を開ければ、パカンスに襲来したサンドワームのどれもが10メートル級の体躯を持っている。


 サンドワームに何かあったのだと考える方が自然だ。異質に身体が変化し、パカンスを破壊出来るだけの力を得る何か。


 その頃だと、俺はスノーディアと共にせっせと領地拡大に精を出していた時期だ。

 特に俺が何かをした訳ではないが、魔獣の力の源は禍。そして、今の俺は禍の塊。統べる者。魔王。

 関係無いという事は無いのだろう。原因は分からないけれど……。

 ただ、ひとつ言っておくと、――――俺に責任の所在を問われても困る。俺は悪くないのだ。弁償しろと言われても困るのだ。



『遺憾の意を表明します』

『アカンのアを表明します』

「俺は悪くないよ?」


 戦闘を見守っていたドワーフ達に気を取られていると、いつの間にか近くに身を置いていたパンシーとナンシーの声が耳に届き、その言葉に思わず反論した。何はなくとも主張しておきたい部分だったので。

 アカンのア?


 俺の主張にパンシーとナンシーが顔を見合わせ首を傾げた。それから、意味が分からない、と顔を見合わせたままクスクス笑う。


『魔王様悪い?』

『魔王様悪くない?』

「いや、だから俺は悪くないって。冤罪だ。 ――――って! お前らなんでここにいるんだよ!? アイツの相手しろよ!」

 何を呑気にクスクスと笑ってるんだ! お前らがここに居たらマズイだろ! クリスタルサンドワームが追って来たら、と言うか絶対来るだろうが!

 そう抗議しようと俺が口を開くより早く、『『大丈夫』』と、二人が声を揃えた。


 何が大丈夫なのかと、慌てて二人から顔を外し、クリスタルサンドワームへと目を向けた。


 ――――大丈夫だった。


 俺が顔を向けた先、クリスタルサンドワームが大口を開けてこちらに突撃してくるのが視界に入る。

 だが、それは一瞬で、次の瞬間にはクリスタルサンドワームの頭が轟音と共に大地へと突き刺さった。頭の上にニョッキリと聳え立っていたクリスタルが衝撃で砕け、キラキラと空中に弾け飛ぶ美しい光景。

 もっとも、その美しい光景も、砂塵が晴れて、血にまみれたクリスタルサンドワームの頭が覗き見える僅かな時間だけであったが……。


『だらしないなぁ。それでも僕の双槍かい?』

『不満。抗議。これからが本番だった』

『不服。異議。これから本気だすところだった』

 双子が抗議と異議の台詞を吐いて、自分達の主に文句をつける。


『本番も本気も被害が大きくなる前に見せたまえ』

 自らが踏みつけたクリスタルサンドワームの頭からヒラリと飛び降りて、双槍の主スノーディアが不敵に笑って告げた。



「お前も来たのか……」

『勿論だとも。人手が足らないとブラウニーから連絡を受けたのは僕だしね』

「にしては随分遅かったな」

『真打ちは最後に登場するものさ。ここぞという最高の場面でね』

 悪びれた様子もなく、むしろ、してやったりと云った表情でスノーディアが答える。その台詞と考え方に、俺とスノーディア。兄と妹の繋りを垣間見た気がした。


「様子見してたのかよ……」

『人聞きの悪い。上のアレを見てたのさ。ここに来てすぐにアレの存在に気付いたからね。調べない訳にはいかないだろう?』

「やっぱお前も気になったか……。何か分かったか?」

『多分、兄さんと大差ない意見しか出て来そうにないけど……。 ――――その話は終わってからにしよう』

 そう言ったスノーディアが後ろを振り返るのとほぼ同時に、地面に叩きつけられピクリとも動かなかったクリスタルサンドワームが地響きを伴い動き始めた。


「生きてたのかよ」

『出し惜しみしたつもりは無かったけど……。なるほど。パンシーとナンシーが手子摺る訳だね』

 横目で双子を一瞥したスノーディアが小さく微笑えむ。

 そのやや皮肉めいたスノーディアの表情に、双子がムッと表情を険しくさせる。

 力不足を指摘されたのが不満だった様だ。



『ツヨイチカラ、カンジル』

 唐突にクリスタルサンドワームが言葉を発した。

 その声に背後のドワーフ達がざわつく。俺もちょっとびっくりした。


『へぇ……、ミミズでもそれだけの禍を得ると言葉くらいは解るんだね。ちょっと意外だったよ』

 あんまり意外そうにない口調で、スノーディアが対峙するミミズに語り掛ける。


『ツヨキチカラ、ヤクニタツ。ドワーフノチカラ、ココニアル、トドケル。ツヨキチカラ、ヤクニタツ』

 片言のクリスタルサンドワームがそんな言葉を紡ぎ、そののち、ゆっくりとその巨体を動かして地面すれすれまで頭を寄せた。

 これはもしかして頭を下げているのか?


『ようするに、役に立ちたいって事かい?』

 スノーディアが尋ねると、クリスタルサンドワームは頭を下げてまま『ソウダ』と告げた。


『殊勝な心掛けだね。でも、そういう事は僕では無く魔王にでも言いたまえ。君達魔獣の主は、僕ではなく魔王だからね』

『マオウ。アルジ。ヤクニタツ』

『だってさ。家族が増えるよ。やったね兄さん』

 おい、やめろ。

 確信犯でないのかと疑わざるを得ない程に、愉快そうにしたスノーディアが俺に顔を向けた。


「覚えてろよスノーディア」

『なんのはなしかな? ――――ほら、ミミズ君。アレが君達の主にして魔王様。魔王クリだよ。挨拶しておきたまえ』

 他人事だとばかりに俺を指差して丸投げしてくる可愛くない妹。僅かにニヤけた口元が小馬鹿にされている様で腹立たしい。


『アルジ。マオウ。ヤクニタツ』

 スノーディアの言葉を受け、ゆっくりと俺へと頭をにじり寄せたクリスタルサンドワームがヤクニタツヤクニタツを連呼する。


 もうげんなりである。

 コイツにも、スノーディアにも……。


 そんな俺の背後では、ドワーフ達が驚愕の声をあげていた。


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