魔族のお供をするにあたって・10
やぁ、みんな! こんにちは!
今日はみんなに俺の住む町を紹介しちゃうぜ!
住む町、と言っても俺は最近この町に越して来たばかりなんだ。町っていう程大きくもないんだけどね!
町の名はパカンス! バカンスに似てるだろ? けど、ざーんねん。バカンスをするにはちょ~っと自然が足りないかな。
で~もん、あくまで自然と言えば自然なんだぜ? なんてったって、ここは砂漠の下に広がる洞窟の中だからね。
洞窟の中なんて言い方をするとつまらなさそうなイメージがあるだろ? でも決してそんな事はないんだぜ!
ひとつひとつ、ここパカンスの良い所を3つ、紹介しちゃうよ!
ま~ず、ひとつめだ!
ひとつめに紹介するのは、ここパカンスのシンボル! その名も【オヒカリ様】さ! オヒトリ様じゃないよ?
いつもピカピカ太陽みたいなオヒカリ様!
オヒカリ様のお陰で、ほら! スゥ~~。空気がとっても澄んでるよ!
植物だって元気元気ー! これもみ~んな、オヒカリ様のお陰なのさ!
さて、ふたつめ!
ふたつめに紹介するのは、パカンスの住民達!
手先が器用なドワーフ達がパカンスに住む者達さ!
彼らの事で目を惹くのは、なんと言っても―――――そう! あの立派なヒゲだよね!
男性は勿論! 女性だってヒゲモジャさ! パカンスに住むドワーフは100人足らずとそんなに多くは無いけれど、彼らのヒゲだけで立派でフッカフカなベッドが出来そうだよ! Haha
さぁ、そしてみっつめだ!
みっつめの良い所。実は俺は見るのは今が初めてなんだ!
何故かって? ついさっき何処からともなく湧いたからさ! crazy!
ここから見える限り……、あ~……、30はいるかな?
え? どんな物か?
分かりやすい例えだと、大きなミミズかな?
想像してみてくれ! 地上十メートルくらいのミミズが地面からにょきにょきって生えてる姿を! それが30だ!
どうだい? 圧巻だろ? 俺もそう思うよ!
おっとっと! こんな事をしている間に、ドワーフ達の何人かが大きなミミズに囲まれてしまっているね!
天井裏からクルリと半回転で飛び出すと、天井を踏み込み、そのまま地上のサンドワーム目掛けて突撃を敢行した。
地面を抉る激しい衝突音と粉塵。
周囲には細切れに弾けた肉片がべたべたと散らばった。
「シドル! 生きてるか!?」
『あ、ああ……。 ―――――クリか……? まさかアレを一撃とは、お前さんの怪力にはつくづく呆れる。だが、すまん。助かった』
周囲に転がる何かの肉を軽く一瞥したのち、パカンスの長シドルがやや皮肉の混じった様な表情と口調で礼を述べてきた。
「どういう状況なんだ!?」
『儂にもわからん。地震かと思ったら突然コイツらが現れおった。 ――――さっきブラウニーとラピスが地震の原因はサンドワームだと言っておったが……、こんなにデカイサンドワームとは思っておらなんだ』
憎々しいとばかりに遠くをみやるシドルの視線の先には、木々を、畑を、建物を、壊し尽くさんとする大きなサンドワーム達の姿がある。
「様子見は終わりって事なのかもな」
『……ブラウニーが言っておったが……、本当にサンドワームの狙いはオヒカリ様なのか?』
「だと思う。何に使うのかは知らないけどな」
あれだけの力の塊を、ただの魔獣が何故欲しているのか……。
というか、そもそも禍にその身を染める魔獣がアレを奪えるもんなのか?
俺ですら先程は近付き過ぎて気分が悪くなった程だ。魔獣にどうこう出来る代物だとは思えないんだが……。
とは言え……。
狙われている事実は変わらない。
あれが大きな力である以上、万が一にも奪われては事だろう。
『この地の守り神だ。世話になった分、オヒカリ様も守らねばならんが……』
俺とは少し内情こそ違えど、シドルも同調する様な言葉をはく。
シドルは立ち上り、
『先に他の者達も助けてやらんと』
言って、地面へと投げ出されていた武器を拾い上げた。
パカンスを束ねる者としての責任感があるのだろう。
シドルの目には強い決意が見てとれる。
しかし、どれだけ強い決意や責任感があったとしても、それだけで10メートル級の魔獣に勝てる道理はない。ましてあの数。
シドル本人は不本意かもしれないが……、適材適所でいこうぜ?
トカゲ一匹彫れない俺には、これ位しか見せ場がないし。
「ああ、それなら―――――」
『『我らにお任せを』』
俺の言葉を遮って、背後から重なる様な声が届いた。
聞き知ったその声に振り返ると、やはり知った顔が二つ。こちらに体を真っ直ぐ向けて立っていた。
「……お前ら。……なんでここに?」
『ブラウニーから連絡を』
『人手が欲しいと』
どちらが喋っているのか分からなくなる様な混濁した声。されど聞き取れない訳ではなく、むしろ凛として耳の中に届く気さえする柔らかくも澄んだ声。
『なんだ? この娘らは。クリ、知り合いか?』
「ああ、まぁ」
シドルの問いに、何処か投げやり気味に返す。
これが適材適所というものらしい。
実質、俺への戦力外通告に等しい二人の登場。きっと出番は無いんだろう。無情。
残虐非道を売りにはしてないけれど、正真正銘の魔王様なので泣いたりはしない。泣いたりはしないけど、テキパキと進んでいく物語に何だかおいてけぼりを受けた気になる。
こういう時こそポジティブ思考だ。
野蛮で血生臭いバトル展開と鮮やかに縁を切る事が出来たという感動にうちひしがれて、颯爽とやって来た大きなお世話に身を任せる事で俺の怠け心が元気になるのだ。元気になっても怠け心は怠け心でしかないので、やっぱり怠けるんだけども、惰性に流される生活というのも存外悪くない筈だ。
自分らしさが無い?
とんでもない。怠けたいという強い自分らしさを持っているのさ。
そんな俺の嘆きや憂いや歓び達の悶々とした葛藤など知らず、同じ顔をした二人が悠然と俺とシドルの横を通り過ぎる。
そして告げる。
『魔王が矛、黒のパンシー』
『魔王が矛、白のナンシー』
『御身に仇なす痴れ者めらは』
『我らが相手致しましょう』
そう宣言した後、いつの間にか手にした短剣を両の手に持ったパンシーとナンシーが最も近くに居たサンドワームへと向けて同時に駆けた。
二人の殺気にでも気付いたのか、そのサンドワームが何処から首で何処から体なのかも曖昧な巨体を、開けた口から覗く牙を剥き出しにして、二人へと襲いかかった。
サンドワームが地面を抉りながらの突進。中々に早い。
あのサイズで、あの速度。間近で見たならビビると思う。
ただ、少なくともそれにビビったのは俺やシドル、周囲にいたドワーフ達だけであった様で、パンシーとナンシーは臆する事なく、むしろ駆ける速度を上げてサンドワームに突き進む。
サンドワームとの接触直前。パンシーナンシーは、まるで風に揺れる布切れの様にサンドワームの左右へと体を捻りながら回避。
そのまま数度回転した後、同時にピタリと動きを止めた。
二人の姿を見失ったサンドワームが体勢を変えようと僅かに動いた直後、その体は血渋きを上げつつ、幾つかの肉の欠片となって地面に散らばった。
パンシーナンシーは、一度だけ死んだサンドワームに顔を向けた。
二人はサンドワームの亡骸を挟む様な位置で、互いに小さく笑った後、大きく跳躍してその場を去った。
こうして、獲物を求めた双子の狩人が、パカンスに解き放たれたのである。
まぁ、獲物ってもミミズだけど……。
そんな事を思いつつ、やっぱり俺の出番は無さそうだと、死んだサンドワームに目を向けながら一人ごちた。