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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅰ章【お供になるまで】
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仮面のお供をするにあたって・10

『妖精ってやっぱり珍しいんですか?』

 引き金軽くアキマサが尋ねてくる。

 異世界からの不思議な巡り合わせでここにいるアキマサに、こちらの事情とか立場、その他諸々のなんやかんやが判る筈はなく、―――――まぁ判ったところで何がどう変わるものでもないのだけれど……。


「……そうだな」

 僅かに微笑んで答える。

 ――――特に今の時代はな。


「ま! 俺の事は置いといてさ。このちぃーとばかしおいたの過ぎる砂人形にお灸でも添えてやろうじゃないの!」

 のほほんと、笑って言って、


 罠に嵌めるのは別に良い。悪戯大好きな妖精という存在に、それを咎める資格は実は無かったりする。

 今のいままで隠し通してきた俺の姿を公共の場に開封御開帳したのも気にしない。疲労心労かずあれど、ちょっと人見知りが人前に出てしまった程度が何だと言うのか。

 けど――――

「相棒を傷付けるのはいただけねぇなぁ」

 仮面を睨みつけた。


『じゃあ……どうする?』

 小さな妖精の迫力などはまるで意に介していない様子で、何の表情も生み出さない仮面は、それでも何処か愉快そうに、こちらを挑発する様に言葉を返した。


 仮面の挑発にニヤリと笑みを浮かべる。

 どうする? お前は俺が何も出来ない羽虫とでも思ってるのか? 

 ――――まぁたしかに。

 体は広げた人の手の平程に小さくて、力は大型のカブトムシよりも貧弱だけど、だからと言って妖精は何も出来ない訳じゃないんだぜ?


「アキマサ、少しだけ……いや、少しだが力を貸してやる」

 仮面から視線を剥がし、もう一度アキマサを見ると恩着せがましくそう言って、アキマサの肩へとちょこんと掴まる。


「生憎と垂れ流しなんでなぁ。自分でどうにか出来る訳じゃないんだけどな」

 ケケケと悪戯に笑って、念を押すかの様に告げた。

 告げたとほぼ同時。


『……光った』

 アキマサが剣を正面に掲げて呟く。

 俺から僅かに流れ出る力。妖精だけが持つその力が、アキマサを通して聖剣へと伝わって、小さく、ぼんやりとだが聖剣が輝き出したのだ。

 勇者が持つに相応しい輝きとなって――――


 口元に笑みを浮かべたアキマサの影が、淡く輝く光の中で見えた気がした。



『うん。こっちだと俄然、聖剣だって気がしてきますね』

「え? お前この剣が聖剣って話、信じてなかったの?」

『そういう訳ではないですが、なんかこう他との差別化とでも言いますか……』

「必要かなそれ?」

『何事も形から』

「あ、そう……。まぁそれはいいや。アキマサ」

『判ってますとも』

 アキマサは大きく頷くとそのまま剣を構えた。

 見た目は何だかソレっぽい。けれどきっと、その筋の達人が見たならば鼻で笑われるだろうこと請け合いのカッコいいポーズ。形だけ。形から。

 そうして、やっぱり無駄の多そうな動きで剣を振り上げると、一喝し、灰色だけが埋め尽くす地面へと剣を切りつけた。

 カリカリと堅い物同士がぶつかる音が小さく響いた後、一陣の風が巻き上がる。

 下から突き出た風は砂粒も一緒くたに巻き上げて、辺りに僅かな砂塵を生み出すと共に、相棒を捕らえていた砂の拘束物を、文字どおりただの砂へと還した。


「今の、判ってて切ったのか?」

 さも当然とばかりに大地へとその刃を向けたアキマサに問う。


『勘です』

「だろうな」

 一見してアキマサが刃を向けた地面には何も無い。周囲の空間と同じただ灰色が広がるだけ。地面と天井の境界線すら曖昧気味だ。

 そんな灰色の世界にあってアキマサが切りつけたのは、相棒とゴーレムを直線で結んだその中腹。

 おそらく、アキマサは自分で言う様に、勘で、相棒を拘束する力とゴーレムとを分断したのであろう。相棒を捕らえていたのがゴーレムの手だとするならば、目に見えぬ程に薄く長く地面を這わせたゴーレムの腕を切り裂いたのだ。

 その勘とやらはドンピシャで見事相棒の拘束を解いてみせた

。みせたのだが――――


「何も無かったら赤っ恥だったな」

『その時は、素振りで押し通すつもりでした』

 何処か誇らしげにアキマサが言う。

 一応、言い訳も用意していたらしい。


『このままカッコつけられるところまではカッコつけるつもりなんですが……プチをお借りしても?』

「ああ。せいぜいカッコつけてくれ。任せるぞ? 勇者様」

 そうして、そのまま相棒を呼び寄せると、相棒も相棒で空気が読めるらしく、俺が相棒を呼び寄せると同時に駆け出したアキマサを、走りながら、器用に、カッコ良く、背中へ乗せるとゴーレムへと向け一直線に疾走した。

 それを迎撃せしめんと迫り来る触手の様なゴーレムの幾多もの砂の鞭を相棒が巧みにかわし、ゴーレムとの距離をつめる。

 そうして、ゴーレムの数メートル手前まで駆け抜けると、相棒は更に加速。ここで落ちたら台無しだと相棒の加速に耐えるアキマサを伴い、相棒はゴーレムの股下を風のごとき速さで潜り抜けた。


 ゴーレムの背後。加速の余力を軽く流して立ち止まった相棒。その背中には聖剣を頭上に掲げ、カッコいいポーズで静止するアキマサ。

 一瞬のち、

 ドサドサと重たげな音を周囲に響かせながら、ゴーレムの巨体がその形を無くし、崩れ、地面に砂の小山を築き上げた。

 倒すこと叶わぬ魔の力を持ったゴーレムを聖剣が砂へと還した瞬間である。


『す、凄い……』

『たったの一撃で……』

 横からそんな声がこちらに届く。

 声を発したのは、その一部始終を静かに見守っていたエルヴィス達で、きっと彼等には、彼等の目には写っているに違いない。

 威力、戦略、その他諸々をおざなりにした、ただカッコいいだけを追求した勇者の勇姿が。絵画ならば天上辺りから光が射して、後光でも輝いている事だろう。

 もっとも、残念ながら天上は天井でしかなくて、光も射さずにやっぱり灰色の沈黙を守っていたけども。

 しかしながら、当の本人ことアキマサはやっぱり何処か誇らしげに剣を掲げ続けていたので、自分的には満足なのだろう。惜しむらくはやる気が見えない事。俺はただアキマサの肩に居ただけであり、アキマサは剣を掲げて居ただけである。実際に頑張ったのは相棒だけだ。お利口さんめ。


 アキマサの肩から離れ、相棒の頭へと四つん這いに降り立つと頭を撫で撫で誉めてやる。

 ひとしきり撫でて相棒が満足そうに鼻を鳴らしたのを確認した後、四つん這いから体を正して顔を仮面へと向ける。


 さて、どうでる?

 ここまでは仮面の思惑通りだろう。

 罠? と疑問符をくっ付けずにはいられない仮面の策謀にほいほいと乗ってここまで事を進めたのだから何かあるのだろうとは思う。

 その何かが終わりの何かなのか、はたまた続きの何かなのかは仮面にしか分からない。

 出来れば終わりが良いなぁ。もういい加減面倒臭くて仕方無い。

 ここまで、真面目に、献身的に、控えめに、問題行動も無ければ反安たる無粋な発言もせずに、一直線に思惑の中をいっちにっいっちにっと、腕を振って足を上げて行進したのだからそろそろ報われても良い頃では無かろうか? 自己の申告ゆえ多分に誇張と擁護が含まれていますがきっと適量だ。用法用量は適切に守っているのでそこまで逸脱してはいない筈である。

 逸脱しているのは刺激的な事象に事欠かない現状の方であって、それはつまり、俺は決して悪くないという事を示唆している訳ですよ。

 そうなんですよ?

 だからもって、気休めにしかならない不確実な希望を内包した魔法の言葉"明日は良い事あるよ"とは言わず、今、現在、ナウで良い事あるといいなぁ。


 と、欲張ったりしたいんだよね。

 分かる? こういう気持ち。

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