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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅶ章【魔王篇・建国期】
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魔族のお供をするにあたって・4

 数メートル先も見えない暗く、狭い洞穴の中をブラウニーと進んでいく。頼りになるのはブラウニーの持った小さな松明のみ。

 吹き抜ける風が松明の炎を時折強く揺らし、焦げ臭い空気を背後に流していく。

 風が吹いているのなら、どこか外と繋がっているのだろう。そんな事をぼんやり思いながら足を動かした。


 イライラがピークを越えてしまいそうな俺ではあったが、ブラウニーに当たっても仕方ないので、まず、髪を全て剃ります。次に服を全て剥ぎ取ります等々、メフィストにしたい復讐100選を頭に描きながらブラウニーの後に続いていた。


『この先にドワーフの居住地がございます』

 ふと、先を歩くブラウニーが風に乗せて言葉を届けてきた。

 それで、一旦100選の選出をやめて意識を戻す。ハゲて全裸で亀甲縛りで宙吊り三角木馬なメフィストが、頭の中からフッと消えた。


「さっきそんな事言ってたな……」

 ドワーフの住まう"パ"カンスとかなんとか――――クソッ、思い出したら腹が立ってきた。なんだよパカンスって……。頭の中の変態メフィストに蝋燭が追加された。


『わたくし共の目的は、ここに住まうドワーフ達の勧誘です』

「勧誘?」

『そうです。早い話が、我が国の住民確保です』

「……面倒くさそう」

 取り合えず愚痴っておく。

 しかし、なるほど。国なんてもんを作ると言い出した時は、三人しかいないじゃん、などと思ったが、こうやって確保していく腹積もりであったのか。


「それは良いけど、そういうのはブラウニーに任せるよ? 俺は交渉とかって出来ないし」

『お任せください。 ――――それで、居住地に着いて以降の話になりますが、自分が魔王だという事は伏せておいてください』

「……ああ、まぁ、ビビるだろうしな」

『そういう事です。つきましては、何とお呼びすれば良いでしょうか?』

「魔王様以外にって事だよな? クリで良いんじゃないか?」

『ではその様に。よろしくお願いします、クリ』

「お、おぉ……」

 何やら背中がむず痒い。

 あまり名前で呼び捨てにされた記憶が無いせいか、なんだか新鮮に感じる。

 妖精達は王様と呼ぶし、スノーディアは兄さんと呼ぶ。あとは妖精王だったり魔王だったりと基本的に名前では呼ばれない。ちゃんと素敵な名前があるのにね。


「ブラウニー」

『なんでしょう?』

「いや、呼んでみただけ。れんしゅー」

『……クリ』

「なんだいブラウニー」

『呼んでみただけです。れんしゅー』

 ブラウニーが悪戯そうにクスリと笑う。


 イヤッホーイ! なんだかウキウキするぜ!



 そこから、何度か名前を呼び合って、変な感じにテンションも上がり機嫌の良くなった俺が洞窟内を進んでいく。

 ふと、ブラウニーの足が止まった。


「なんだ? 行き止まり?」

 視線の先、洞窟の通路が岩で塞がれているのを視界がとらえる。


『いえ、空気はこの先から流れてきています』

 言ったブラウニーの持つ松明が音を立てて揺れた。

 ブラウニーは何かを思案する様な素振りを見せた後、おもむろに道を塞ぐ岩へと手を伸ばした。


 触れた筈のブラウニーの手が岩を突き抜けた。なんという貫通力。


『幻覚の類いの様です。進みましょう』

「あいあい」

 岩を貫いたなどとは微塵も思っていなかったので、その事には特段驚かなかったのだが、幻覚ですと言い切り、躊躇なく岩をすり抜けて先へ進むブラウニーの図太さにはやや驚いた。というか、ちょっと引いた。

 けどまぁ、よくよく考えてみれば、向こう側が見えないという点においては妖精の抜け道(フェアリーロード)も似た様なものかと妙なところで納得する。納得ついでに、いつか悪戯に応用してやろうと、心のメモ帳にソッと書き残した。


 ブラウニーが幻の岩の先へ進んだ為か、松明の明りが無くなり、辺りが真っ暗になる。ちょっぴり怖い。

 視界が皆無の真っ暗闇の中、ワサワサと正面に手を伸ばし、やや及び腰をしたちょっと間抜けな仕草と体勢で安全を確保しつつジリジリと先へ進む。

 暗闇の中、ワサワサと動かす手の平が、何やら柔らかい物に触れて、それでちょっとびっくり。

 なんだろうか?

 柔らかいソレを手で確めつつ、足を進めて岩を抜けると、身体は向こう正面、されど真顔でこちらに顔を向けて立ち尽くすブラウニーと目があった。


「――――ごめんなさい。でも、わざとじゃないよ?」

 取り合えず、尻を含めた身体中をお触りしていた事について謝っておく。表情の無いブラウニーの真顔がとても怖かった。

 ので、露骨に顔を背けて時間が解決してくれる事を切に願った。


『見てください』

「あ、いえ、大丈夫です」

『……洞窟の先の話です』

 あ、はい。

 言われて勘違いに気付いて、背けていた顔を正面に戻すと、視界の奥に僅かに揺れる小さな明りが見えた。


「松明……かな?」

『そのようです。 ―――――行きますよ、セクハラ大魔王』

「……はい」

 魔王から大魔王に出世したけれど、ちっとも嬉しくなかった。









『外からの客は久しぶりだな』

 松明を手にしたヒゲモジャな親父がそう声をかけてきた。

 左手には明りを、右手には大きめの斧を手にしている。


『見たところ人間では無いようだが、ここに何をしに来たのかね?』

 隣のドワーフも声をかけてくる。

 こちらも松明と斧を手にしている。そしてやっぱりヒゲモジャだ。

 両者共に背はやや低いがガッチリとした体格。どうやらこれがドワーフという種族であるらしい。見るのは初めてである。


『迫害を逃れ辿り着いた者です。どうか慈悲を』

 胸にソッと手をあてがって、二人のドワーフに向けてブラウニーが告げる。

 とっさになんの事かわからなかった。

 短い逡巡ののち、そういう設定らしいと判断して、余計な事は言わない様に努める。俺は空気が読める奴だから。


『……武器を預からせてもらおう』

 向かって右のドワーフがそう言ったところで、ブラウニーが懐から一本のナイフを取り出した。それを逆手に持ち変え、ドワーフへと差し出す。

 明りは3つの松明だけの暗がりで、チラリと反射して見えたナイフの刃はところどころが錆ついたいかにも使い古した様子の物であった。

 抜け目ないこったと、ブラウニーを背後から一瞥する。

 ドワーフはナイフを受け取ると、目を落としてナイフを観察し、すぐに懐へとしまいこんだ。

 懐にしまい終えると、ドワーフは今度はこちらに目を向けた。

 

「俺は持ってない」

 視線の意図を察し、俺は両手を上げて、武器を所持していない旨を告げる。


『……見りゃ分かる』

 ドワーフが言う。半裸の俺に向けて。

 なんだこの羞恥プレイは? いっそ殺せ。


『失礼だとは思うが調べさせてもらうよ』

 そんな言葉と共に、ブラウニーの表情を見るように視線を一度だけ向けたそのドワーフが、ブラウニーの身体に触れ、ボディチェックを始めた。

 その様子をぼんやり眺めつつ、取り合えず、一人では寂しかったので、ブラウニーの身体を調べるそのドワーフに、心の中でセクハラドワーフという称号を贈っておいた。


 セクハラ大魔王とセクハラドワーフ夢の共演。なんと世界の醜い事か。

 半裸な俺の身体をベタベタ触るドワーフ、という汚い絵面を客観的に眺めつつ、俺は世界の醜さを呪った。


 そうやって、俺とブラウニーは順にボディチェックを受けたのち、ドワーフの居住地パカンスへと招かれる事になった。


投稿前のチェックで、なんかガチホモ要素多くね?と悩む。悩んだだけでそのまま投稿ボタンを躊躇なくプッシュするチャレンジャー

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