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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅶ章【魔王篇・建国期】
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魔族のお供をするにあたって・2

 俺とスノーディアが今居るこの場所は、新しく用意された魔王城、玉座の間。

 一体どこから見つけてきたか知らないが、俺の新しい住み処探しをスノーディアに命じられた双子パンシーナンシーが、打ち捨てられていたこの城を発見したらしい。

 俺は妖精の聖域(フェアルチェアリ)に居たので見ていないが、見つけたそれを、規格外の巨人ティータンに頼み込み、この地まで運ばせたのだそうだ。

 何度聞いても、城を運ぶというイメージが湧かず、ちょっと意味が判らないです。


「今度はどんな仕事押し付けられるんだろうな」

 玉座の間に置かれた大きな椅子に深く座り込んだまま、ポツリとそう吐き出す。


『さぁね……。けど、メフィスト曰く、僕の引き継ぎだと言うんだ。何となく予想はつくけどね』

 俺の座る玉座の前に設置された横長のソファー。その上に身体を預けたスノーディアが言う。完全におくつろぎスタイル。

 曲りなりにも魔の王という俺の威厳など、この場においては皆無に等しい。

 もっとも、俺とスノーディアを除けばこの城にはメフィストとブラウニーしかいないので、威厳とか、格式とか、そんなものは例え城をひっくり返しても出てこないだろう。


「お前、前の魔王んとこでこんな面倒くさい事やってたの?」

『そういうわけじゃないけど……、思想的な話さ』

「思想的ねぇ」

 したり顔で分かった風に呟いてみたけど良く分からん。良く分からんものを考えても良く分からんので、ふと目についた分かり易そうな事を聞いておく事にする。


「前々から思ってたんだが、冷たくないのか、それ」

 顎でやんわりと示しながらスノーディアへと質問を投げ掛けた。

 俺の言う、それ、とは、スノーディアが魔法で作り上げたソファーの事。横になった彼女が一人占めするそのソファーは、素材が氷で出来ており、見ているこっちの尻が冷たい。


『これ? 特に冷たいと感じた事は無いけど……。座ってみる?』

「……やめとく」

 ただでさえ寒い北の大陸で氷の上に座ろうなどという気持ちは一欠片だって持ち合せていなかったので、キチンとお断りしておいた。



『随分、不機嫌そうですね』

 しばらくスノーディアとくっちゃべっていると、俺を不機嫌にした元凶ことメフィストが、悪びれもしない呑気な笑顔を振り撒いて部屋へとやってきた。

 むかつくから皆でブーイングしておこうぜ?

 ブゥゥゥ―――!


「また仕事を頼みに来たのか? 嫌だ! 断る! 帰れ!」

『帰れと言われましても、今はここが私のねぐらなのですが……。それに魔王であるあなたにはまだまだやって頂きたい事がありますから、今日はそれを――――』

「左遷だ! 貴様なぞ寂れた地方に飛ばしてやる!」

『良いのですか? ここのところ何かと忙しくて、研究もお預けでしたから、田舎でのんびりと羽を休めながら――――』

「駄目だ! 左遷は中止だ! むしろ左遷してくれ!」

 ギャーギャーと一人で騒ぐ俺の様子がおかしかったのか、メフィストが小さく笑う。


『流石にこの国の王であるあなたを左遷する訳には行きませんが、お疲れの様ですし休息は必要ですね』

「ふむ! 久しぶりに良い事言ったなメフィスト! その通りだ! 我、休息を所望する!」

『では、どうでしょう? もうすぐ冬の訪れ。ここらは雪に覆われ厳しい時期に入ります。何もないこの城の中でじっとしているのも退屈でしょうから南の島のパカンスに行かれるというのは?』

「乗った!」

『結構です。スノーディアさんはどうします?』

『……遠慮するよ。雪国生まれの僕は、ここにいる方が落ち着く』

『そうですか。では魔王様、一人旅というのもつまらないでしょうし、ブラウニーも同行させましょう。旅の雑務をブラウニーに任せれば、より快適な旅になりましょう』

「素晴らしい妙案だ」

 深く頷く。


『とは言え、彼女も忙がしい身。旅先でもいくつかやって貰いたい事がありますので、すみませんが、あなたも手伝ってあげてください。その他の時間は自由にして頂いて結構ですので』

「任せろ! お安いご用だ! っと、こうしてはおれん! ブラウニーに旅の準備をさせねば!」

 俺は勢いよく椅子から立ち上がると「バカンス♪バカンス♪」と小躍りしながら、ブラウニーの元へと向かった。









 我が兄が、軽やかな足取りで部屋を出ていったのを認め、小さく溜め息をついた。


「チョロ過ぎだろ、兄さん」

『元々、働く事に慣れていませんからねあの方は。それだけ嫌だったなのでしょう。良く我慢した方です』

「南、というと、ドワーフかい?」

『ええ。設備面を早めに整えておきたいですからね。手先の器用なドワーフはうってつけです』

「気難しいよ、彼らは」

 ドワーフは、バーバリアが以前の魔王モンブランの配下へと加わった際、その一族という事で僕が優先的に保護下に置いた事があった。

 ただ、のちに誤解が解けたとはいえ、その時のバーバリアは、魔に屈した一族の恥さらしという扱いであった為、あくまで僕の立場などは隠した上での遠回しな保護。

 個人差はあれど、種族の特徴自体が職人気質の頑固者といった感じで、中々に手を焼いた覚えがある。

 もっとも、この男の事なので、下調べぐらいはしているはず。或いは、既に何か手を回しているのかもしれない。言うだけ余計なお世話なのだろう。


『そうらしいですね。バーバリアさんがご存命なら、話は早かったのですけどね』

「……無い物ねだりをしてもしょうがないさ。ブラウニーが上手くやるだろうぜ? あとは、まぁ、兄さんのキャラクター性に賭けようか」

『カリスマ性と言って欲しいですね』

「似合わないよ、兄さんには」

 口は悪いし、動きたがらない、態度だけはデカイのに、何故か兄さんは人を惹き付ける。だが、それはカリスマと呼ぶには些か品位が足りない気がする。やはり人がらなのだろう。


「でも、怒るんじゃないか? 騙して働かせたら」

『でしょうね。ですが、それも踏まえてのドワーフです。ドワーフ達がこの国へ移住する事を承諾してくれたら、次はエルフの説得をお願いしようかと考えています。春までにはこの二種族を確保しておきたいですね。あまり遅いと食糧自給に影響もありますでしょうし』


「まぁ、それは分かるけど、何故、排他的で取り込みの難しいエルフなんだい? まぁ、農耕要員としては優秀かもしれないけど」

『勿論、そういう役割がメインではありますが、プライドが高く、警戒心の強いエルフがこちらに組み入れば、あとあと、その他の種族の承諾も得やすいだろうという考えからです』


「まぁ、ある意味信頼性が得られるというのは強みだけど、ドワーフで一度騙された後で、説得の面倒臭いエルフ獲得を兄さんが素直に頑張るかな?」


『あの方は意外と俗世に弱く、自分の欲望に正直ですからね。多分、自分から率先してエルフ獲得に動くと思いますよ』


「本気でハーレムを望んでるっての? あれは冗談じゃないのかい? 外側は魔王とはいえ、中身は妖精だ。そういうのには興味ないと思ってたけど……」


『色欲には興味ないでしょうね。単にあの方はチヤホヤされるのが好きなんです。若い女性を囲む方が周囲が羨ましがるからそうしているだけで、周囲の羨望の眼差しで優越感に浸るのが好きなんです。そういう方です』


「――――なるほど。それなら確かに兄さんらしい」

 兄さんの言うハーレムにそんな意図があるとは知らなかったが、威張りん坊の目立ちたがり屋な兄さんならば、それも違和感なく受け止められた。

 なんせ、めんどくさいめんどくさいと愚痴りながらも妖精王をやってる理由が、偉そうに出来るから、と自分で言ったくらいだし。きっとそうなんだろう。


『話しを戻しますが、承諾を得られた後の移動に関してなんですけど』

「ああ、うん。ぞろぞろと大人数で大陸間を移動するのも危ないし、時間もかかるからね、それは妖精達を使ってくれて構わないよ。兄さんの代理の妖精王だけど、それくらいのお願いは構わないだろうぜ」

『助かります―――――では、私も準備がありますので』

 そう言って踵を返したメフィストの背中を、見えなくなるまで静かに見送った。


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