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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅶ章【魔王篇・建国期】
211/237

魔族のお供をするにあたって

新章です

 ある大陸の片隅を大量の板と杭を担いで歩く。広大な土地。されど痩せ、お世辞にも豊かとは言えない。

 穏やかながら、少し肌寒い風に吹かれて舞う落葉が目立つ。そうやって、目と肌で季節の変わり目を知る。

 秋が過ぎ、やがて冬が来るのだろう。ここの冬は厳しそうだ。


「なんで、俺はこんなとこでこんな事してるんだろうな」

 一人言にも似た愚痴を溢す。

 隣で同じ様に板と杭を抱えたスノーディアが小さな溜め息をついた後、うんざりした様に口を開く。


『兄さんが二人を止めないからだろ』

「俺のせいか」

『兄さんのせいだね』

 どうやら俺のせいらしい。

 おかしいな、何もしていない筈なのだが……。何もしていないからこその事態だとするならば、俺は何をすれば良かったのか……。


『この辺にも立てておこうか』

「もういっそここら十メートル四方に全部ぶっ刺しておこうか?」

『……余計な仕事が増えるだけだと思うよ』

「はぁ……楽じゃねぇよなぁ、開拓ってのは。と言うか、魔王の仕事かな、コレ」

『愚痴愚痴言ってないで手を動かしなよ』

「はいよ」

 力なく返事をして、手にした杭を素手で地面へと突き立てる。

 妖精時代では考えられないくらいの馬鹿力。


 それが終わると、スノーディアが俺の刺した杭に板を取り付けていく。

 もう幾つめになるか判らない手慣れた作業。

 スノーディアの取り付けた板には、板いっぱいに大きく書かれた【魔王の領地 難民歓迎】という文字。


 魔王の領地。すなわち俺の土地。と言っても勝手に自分の物だと主張しているだけの自称私有地だ。

 もしかしたら誰かの土地かも知れないが、その誰かを俺は知らない。

 だが残念な事に、その知らない誰かの苦情先は俺である。

 領地拡大を目論見、示唆したのは俺ではないが、そんな言い訳が通じない程デカデカと責任者の名前が立て板に刻まれているので、間違いなく俺に苦情が来る事だろう。腑に落ちない。

 そもそもだ。俺は人間の文化というものを詳しく知らないが、領地というのはこうやって好き勝手に主張して増やしていくものなんだろうか?

 だとしたら、なるほど。領地を巡る争いが起きる訳だ。


 俺の領地拡大を企んだのは、凶悪にタッグを組んだ巨悪、メフィストとブラウニーの両名。

 俺を奉り、俺の為と詭弁を労して、俺の名を好き勝手に利用する極悪人共だ。


 その極悪人共。

 今は、俺の国を作る事に躍起になっている。

 そう、俺の国。魔王の国。

 何がどうしてそうなったのか順を追って説明するのも億劫なので、いちいち説明する気にはなれないが、まぁ、そういう事になったと無理矢理に納得して欲しい。題材に困った吟遊詩人が唐突に第二章を語り出したとか、そんな感じで。


 で、そんな感じで建国された俺の国の人口は、俺を含めて現在三名。俺とメフィストとブラウニー。国というよりただの仲良しの集りである。

 スノーディアは国の住民ではない。彼女の所在地は、ここから遠く南の妖精の聖域(フェアルチェアリ)にある。今、俺の隣にいるのはただの手伝い。毎日の通勤には妖精の抜け道(フェアリーロード)を使用している。

 国を作り、維持するには我が国は圧倒的に人手が足りない。何故ならば、ただの仲良しの集りだからである。


 俺が魔王になって、国作りの話が出たのが今から数ヵ月前。

 今はこの広大なだけで豊かでもない土地に、立て板を立てつつ、作物を作るのに適した土壌にするため奮闘努力している真っ最中だ。他にもやる事は沢山あるらしいが、何を隠そう、我が国は深刻な人手不足の為、それらにまでは手が回らない。正直、立て板は別に立てなくて良い気がする。とてつもなく無駄な作業に思えるから……。

 俺達三人程度なら資源に乏しいこの土地でもどうとでもなるが、ここに大勢の難民を受け入れるとなると、ある程度自給自足出来る環境を用意しておく必要がある。

 だが、如何せん、ここ北の大陸の上半分は一年中雪に覆われているし、比較的暖かい南の地域もお世辞にも植物の栽培に適しているとは言えない。育つ植物も限られている。

 何故、こんな場所に国を作り、難民を受け入れるのかと言うと、単純に他に空いた土地が無かったからだそうだ。

 ここはだだっ広い北の大陸でいうと、右下の当たりに位置する。

 ここからずっと西に行くと、人が暮らす小さな王国もあるそうだが、かなり距離がある為、あまり関わる事はないだろう。だがもし万が一、領地に関して俺に苦情が来るとしたら、そこの人達からに違いない。

 国作りの説明に際し、開拓などというクソめんどくさそうな事はしたくなかったので、ここに領土を構える事に対して俺が文句を言うと、ブラウニーの奴が、『ならば豊かな土地を奪いに行きましょう』などと宣ったので、渋々ここに決定した。せざるを得なかった。

 魔王にはなったが、外道になるつもりは更々ない。

 けれど怠け者にはなりたい。


「だぁ! もうやめだこんちきしょう!」

 抱えていた荷物を全て放り投げて、そう宣言した。

 そんな俺をスノーディアがやや呆れた顔で見ていた。


「帰るぞ!?」

 そんなスノーディアなどお構い無しに捨て鉢ぎみに言って、踵を返した。

 背後でカラカラと渇いた音がした後、『言い出しっぺは兄さんということで』と、自らの所業も俺に擦り付ける気満々の愉快そうな妹の声が届いた。









「おらおら、魔王様のお帰りだ! 労わんかい!」

 乱暴に言い捨てて扉を開いた。


『おかえりなさいませ、魔王様』

 すぐさまそんな言葉が返ってきた。


 声の主を不満そうに一瞥して、特に返事も返さずに奥へと突き進み、開け放しにされた重々しい扉を抜けて、その先にある広い空間にポツンと置かれた椅子へと大袈裟に音を立てて腰を落とした。


『ご機嫌ナナメですか?』

 早足で突き進む俺に合わせて追従して来たブラウニーが問うてくる。

 大きく息を吐き出しながら、椅子深くへと体を沈め、たっぷりと間を空けてから「飽きた」とだけ告げた。


 ブラウニーが小さく苦笑ぎみに笑ったあと、『何かお飲物でも?』と聞いてきたので、適当に頼む、という意味を仕草に込めて軽く手を振って返した。

 ブラウニーは軽く頭を下げてから、すぐに踵を返して場を離れた。


 そんなブラウニーと扉の少し手前ですれ違う様に、スノーディアが部屋へと入ってくるのが視界の中に映り込む。

 やや距離があるのでハッキリと聞こえないが、ブラウニーと二、三言葉を交わした後、ゆっくりとした足取りでこちらへと歩み寄ってきた。


『メフィストがさぁ』

 俺の近くまでやって来るなり、スノーディアがそう言葉を紡ぎ始めた。


「いまアイツの話をするなよ……」

 俺のイライラの元凶の話など聞きたくもない。


『……もうしなくていいって』

「………………マジで?」

『ああ。そろそろだとは思ってました。とか言ってたぜ? 兄さんの性格をよく把握してる良い部下じゃないか』

 誉めるんだか羨ましがるんだか判別の難しい台詞をスノーディアが口にするが、目と口元が半笑い気味なのでからかってるんだろう。


「気に入ったなら持って帰ってもいいぞ?」

『いや~、それは兄さんに悪いから。それに、生憎と妖精の聖域(フェアルチェアリ)は他種族禁制だしね』

 悪いとは思ってなさそうな表情で、スノーディアが、悪いから、と宣う。引き取り拒否は最初から分かっていたので軽く流しておく。


 それよりも、もうしなくていいってのは朗報だ。

 何の意味があるのかも分からない看板立ての作業など苦痛でしかない。どうせやるにしても、もう少しやりがりとか生産性とかを考えて仕事を振って貰いたいものだ。


『さて、無事に雑務の魔の手から逃れた兄さんに朗報です。別の仕事を頼みたいってさ』

「やだ」

 仕事を振って貰いたい、とは思ったが今すぐにとは言ってない。


『僕じゃなくメフィストに言いなよ。むしろ、また僕も付き合わされる羽目になる事を考えると是非そうして欲しいね』

 やれやれと小さく肩を竦めたスノーディアの少し困った顔が印象的であった。




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