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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅰ章【お供になるまで】
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仮面のお供をするにあたって・9

「お、おいっ! アキマサ。アキマサ君。あまり無茶を――――」

『うりゃあ!』

 俺の声など聞こえていないのか、突拍子もなくゴーレムの前に立ちはだかったアキマサが剣を振るう。素人目にも判る程に素人剣術。型などまるでない、ただ振り回しているだけのチャンバラ。エルヴィスのものとは全く違う、砂に鈍器でもぶつける様な濁った音が周囲に広がる。

 当然ながら、そんなものではゴーレムの腕を切り裂くなど出来るわけもなくて、ゴーレムは僅かに顔をアキマサに向けると、その堅甲な腕を振り上げアキマサへと振り下ろした。


 腹に響く衝撃音は空きっ腹を大いに刺激する。

 ゴーレムが潰れた自らの腕を再生させながら大地を見る。

 そうして、そこに在る筈の何かが無い事にやや怪訝な表情を見せた。様な気がする。顔はあるけど表情がないので雰囲気の問題だ。


 ゴーレムの背後。少し離れたところ。

「無茶するな」

 服の首裾をプチに咥えられた間一髪の危機を脱したアキマサに向けてやや呆れを含んで言う。

 ゴーレムが鈍間ゆえプチならば助け出すのもわけないが、だからと言って無茶をして良いという訳ではない。


『んむぅ。ありがとうございます。―――――切れると思ったんですけどね』

「―――――レイスの様にはいかんよ」

『何故です?』

「……まず、物が違う」

『幽霊と岩の違い、ですか?』

「それもあるけどそうじゃなくて……、レイスを形作ってるのは魔力だ。魔力は量こそ個人差があれど誰でも持ってる」

『誰でも……。俺も?』

「勿論だ。で、だ。あのゴーレムは肉体的には砂なんだろうが、砂に混じってるものが魔力じゃないんだ。あれはな、(まが)っていう魔の力だ。同じ魔でも全くの別物だ」

『まが……ですか?』

「そうだ。あれはな、魔獣が持つ力の源みたいなものでな。消滅させる事が出来ない代物なんだ」

『そんなのがあるんですか』

「ああ」

『あれ? でも魔獣って倒せるんですよね? それとも消滅させられないんですか?』

「勿論倒せるよ。ただ、その"倒す"ってのは、あくまで肉体を倒してるだけで、魔獣の持つ禍自体を倒してる訳じゃないんだ」

『…………良く判りません』

「だろうな」

 苦い笑いを僅かに溢して続ける。

「良く判ってないんだよ、実際。――――誰にも」

『そうですか……。じゃああれは倒せないんですか? 聖剣でも?』

「……聖剣ってのはなぁ、ただそれだけで特別優れてるって訳でもないんだ、特性はあるが――――まぁ、それは良いか……。あー、つまりな、聖剣も使い手が正しく使ってやらないとただの魔法剣止まりなんだよ。レイス相手なら魔法剣でも十分だしな。ただ、あのゴーレムはかなり特殊だ。どこの誰が作ったか知らないが、最高傑作って言葉に偽りは無さそうだ」

 一度、言葉を区切り、仮面を見る。先程から静かに佇むだけで特に動きは見せていないが、表情が見えないというだけでこうも不気味なものかとやや不安を覚えた。

 アキマサに視線を戻し、話しを続ける。


「いま言ったように、禍を持つ魔獣は倒せるんだ。何故なら、禍の器になっている魔獣の肉体というのは元は動物だ。犬だったり熊だったりな。だから倒せる。頭を跳ねれば死ぬし、心臓を突き刺しても死ぬ。内に宿る禍は倒せないが外側は倒せる。だから魔獣は倒せるんだ。――――ところがだ。こいつは元が砂だ。禍は無機物有機物に関係なく侵食するものだが、普通は無機物に宿っても動いたりはしない。だって無機物だからな。しかし、こいつはゴーレムだ。どうやって作ったか知らないが、動く無機物だ。だから倒せない。殺せない。まぁ、高温で溶かす、なんて手もあるだろうが、相当な魔法の使い手でも無い限りそれも難しいだろう」

 そう説明すると、多少は理解出来たのか『むぅ』とアキマサが唸った。


『じゃあ、やっぱりコイツは?』

「倒せない、な。俺達じゃ」

 そう言い、俺はゴーレムを一瞥すると小さく溜め息をついた。

 

『中々の見識』

 沈黙を守っていた仮面がそんな言葉を投げ掛けてくる。仮面ゆえ、それが誉めているのか馬鹿にしているのか判断がつかない。


『禍の知識。誰もがそうそう知っている訳ではない。少なくとも、ここバルドでは口外を禁止している。――――何故か? 民の不安を煽るから。――――何が? 禍が滅びを知らぬ物という事実が。終わりの無い争いは弱い者の心を容易くへし折る。明瞭な絶望よりも、不明瞭で曖昧な明日を望む。そうやって人は生きてきた。耐え凌いできた』

 先程までとはうってかわって偉く饒舌多弁に喋る仮面。


『そして、口振りから察するに……禍の持つ特性に限らず、聖剣の知識もある様にみえる。理を知る者。知に富む者。――――だが、1つ嘘をついた』

 仮面の"嘘"という言葉にアキマサが横目で俺を見る気配がした。何か判らないが、僅かながら言い知れぬ不安が心の中に顔を出し始めた。

 なんだ? 何が言いたい?


『禍は倒せない。確かに。それは暗澹(あんたん)たる事実。――――しかしながら……、1つだけ例外がある』

『お前達、一体なんの話をしている?』

 痛んだ肩を押えながら割って入ったエルヴィスの言葉などまるで届いていないのか、仮面が静かに続ける。


『禍と対となる力の存在。滅びを知らぬ禍を滅ぼす唯一にして無二の存在。それこそが勇者。禍を滅ぼす世界の希望。穢れを知らぬ白き聖剣絶対王者(ザ・ワン)に選ばれし、妖精王の加護を受けし者』

 やや誇張染みた口調で語る仮面。

 一拍ののち、


『もう一度言う。私は興味がある。アキマサ、聖剣を持つ君と――――』

 仮面の上からでも判る程、それほどにハッキリと仮面がこちらを見た。

 俺を見た。


『あなたに』


 コイツ……。

 ――――この野郎。最初から俺の事に気付いてたのか。


『次は殺す気で行く。見せて、勇者の力。出し惜しみは――――死ぬ』

 仮面が杖に魔力を集中させると、ゴーレムの目が一段と赤く輝き出した。

 と、同時にズズッと砂が擦れる様な音がして、したと思った次の瞬間にはゴーレムの腕が鞭の様にしなり、こちらを討たんと伸びてきた。かなり早い。


『避けろプチ!』

 合図を出さずとも相棒ならば避けるだろうが、思わずそんな声が出た。

 プチが後方へと飛び退くと、目標物を失った腕は大地を打ち、まるで雷でも落ちたのかと錯覚しそうな高く乾いた音を反響させた。

 

『伸びましたね』

 あっけらかんとした口調でアキマサが見たままの感想を漏らす。


「伸びたな。まぁ、砂だし変幻自在なんだろう」

『それで、どうするんですか?』

「別にどうもしな――――」

 喋っている途中で突然体を投げ出された。

 咄嗟に何が起こったのか理解出来ず、そのまま空中を転がる様に大きく飛んでから、理解の追い付かぬ頭をほったらかしにして、半ば反射的に空中で制止した。天と地が逆さまだ。

 そうして、空中で逆さまのまま事態の把握に努めようと相棒の方に目をやると、相棒の体の半分以上を覆う様に砂がまとわりついていた。

 一体何処から沸いて出たのか知らないが、相棒が咄嗟に俺とアキマサを逃がしてくれたのだという事は理解出来た。

 プチが砂の中で苦しそうにもがく。


「この野郎……」

 逆さまだった体を正して、悪態と共に仮面を睨む。自慢じゃないが俺の眼力は小鳥も逃げ出すぜ? チビんなよ?


『素晴らしい……その姿、まさに書物に残る特徴そのまま』

 俺の眼力などには露程にも怯まず、嬉しそうな声色で仮面が呟く。眼力なのに目もくれない。摩訶不思議。


『な、なんだ!? あれは一体!?』

 エルヴィスが目を見開いて驚きの声をあげた。


『まさか―――――妖精?』

 シャルロが、誰に確かめるでも尋ねるでもなく一人言みたく言う。


 仮面やエルヴィス達の食い入る様な視線が俺に突き刺さって、何だかとっても居心地が悪いし、痛くないのに痛かった。

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