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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅰ章【お供になるまで】
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仮面のお供をするにあたって・8

『あ、あれ~?』

 そんな素っ頓狂な声を出したのは、開戦一番先手必勝と炎霊の槍(ファイアランス)を放ったシャルロであった。


『ハッハッハッ! やるじゃねぇかシャルロ』

『随分キツい一発だなシャルロ。しかし、見事だ』

 ゴーレムへと斬り込んでいった脚を止めシャルロへと語りかけるエルヴィスとイーサン。


『威力はさっきと変わらないはずなんだけど……』

 事を成した本人が一番戸惑っている様で、しかし、それも眼前の光景を見れば仕方の無い事かも知れない。

 シャルロの放った一撃は牽制の意味を追い越して、大きなゴーレムの上半身を吹き飛ばす結果をもたらしたのだ。


『どうする? 御自慢の切り札はこのザマだ。それとも、まだ何か奥の手でも隠しているのか?』

 仲間の活躍で余裕が生まれたのか、エルヴィスが仮面に向けて少し愉快そうに言った。


『……ひとつ。アドバイスをすると――――』

 仮面が紡ぐ。ひどく落ち着いて。


『そのゴーレムは、とある魔導師が生み出した最高傑作。名を、灰式魔装兵という』

 ゆっくりと、淡々と言葉を紡いでいく仮面。それに合わせるかの如く、ゴーレムの体が再生されていく。


『読んで字の如く。魔をその身に宿した兵器』

 仮面の言葉が静かに満ちていく。

 そんな中にあって、完全に元の姿へと再生を終えたゴーレムの眼が赤色に怪しく光る。


『人の持つ魔とは異なる灰の魔』


『……なんだこりゃぁ』

『来るぞイーサン!』

 ゴーレムは、その太い腕を振り上げ、足元にいたエルヴィスとイーサン目掛けて暴圧となって振り下ろされた。

 地響きと共に大地が揺れる。

 エルヴィスとイーサンには当たらず怪我はない。むしろ、腕を大地へと叩きつけたゴーレム自身の腕が、その衝撃に耐えきれず爆散した。

 だが、それすらも瞬く間に再生され、元の腕へと戻る。


『灰の魔とは、魔獣を生み出す種であり』


『エルヴィス様! イーサン! ――――きゃあッ!?』

『シャルロ!』

 イーサンの慌てた声。

 何処からともなく現れた魔法陣が、突風を生み出しシャルロを後方へと大きく吹き飛ばしたのだ。


『こいつ、人形の分際で魔法まで操るのか!?』

 エルヴィスが驚きの表情でゴーレムを一瞥した。

 直後、『エルヴィス! シャルロを!』とイーサンが叫び斧を振りかざすと、ゴーレムへと向かって駆けた。


『かの大罪なる混沌の主の力である』


 ゴーレムへ放ったイーサンの一撃はゴーレムの体を斜めに大きく切り裂いた。人型のゴーレムの様な金属音とは違う。まるで砂でも斬った時の様な音。

 切り裂かれたゴーレムの体がザラザラと崩れ落ち――――すぐに元の姿へと戻る。

 そうして、斬りつけた体勢で咄嗟の動きが取れずにいたイーサンの体に、丸太にも似たゴーレムの太い腕の一撃が突き刺さった。


『イーサン!』

 地面に倒れるシャルロの上半身を腕に抱えたままその光景を見ていたエルヴィスが叫んだ。

 そんな金切声を仮面の静かな声が包み、飲み込む。


『ゆえに壊す事、これ叶わず』


『おのれ……よくも』

 気を失ってしまっているシャルロを地面に寝かせ直すと、剣を握ってエルヴィスが立ち上がった。


『私は関わるなと言った。そもそも、あなたに興味はない。目的でもない』

『何度も言わせるな! お前の興味など知った事ではない!』

 エルヴィスの言葉に仮面が溜め息をついた様に見えた。


『……聞き分けの悪い』

 そう言うと、仮面は杖の先をエルヴィスに向け、小さく『排除』と呟いた。

 ゴーレムの眼が赤く輝く。


『逃げろエルヴィス!』

 傷んだ体をヨロヨロと起こしたイーサンが、エルヴィスへと向かうゴーレムを目の当たりにしてそう声を絞り出した。

 何だかんだと思うところはあるのだが、中々に仲間思いの良いパーティーであると思う。


『逃げる? 冗談ではない。敵を前におめおめと、まして仲間を見捨てて逃げるなど』

 そう吐き出したエルヴィスが剣を両手に強く握り直す。


『オオォー!』

 一際高く咆哮すると、エルヴィスがゴーレムへと駆け出した。

 駆け抜け、勢いのままにゴーレムの右腕を斬り落とす。しかし、瞬時に再生される腕。

 再生を待たずして、斬りつけられるとほぼ同時にゴーレムがエルヴィスを殴りつけてくるが、エルヴィスは素早い身のこなしでそれをすり抜け、かわし、かわす動作と連続してゴーレムの左腕を斬り裂いた。

 そうやってエルヴィスは、避けては斬り、斬っては避けるを繰り返す。何度も。愚直に。


『無駄』

 と、仮面。


『無駄? 闘う事が無駄だとでも言いたいのだろうが、俺から言わせれば勝てないと悲観し、ただ嘆き、何もしないで見ているだけの方が余程無駄な事だ!』

 迫るゴーレムの腕に器用に飛び乗ったエルヴィスは、そのまま腕をかけ上る。


『ハァ!』

 肩までたどり着くと、そのままゴーレムの顔目掛けエルヴィスが横凪ぎに剣を振るう。

 ザシュッと湿った音がしてゴーレムの顔が砂となって零れ落ちる。

 しかし、すぐに再生が始まる。

 の、だが、

『やれ! シャルロ!』

 ゴーレムの体を蹴飛ばす様に飛び退いたエルヴィスが叫んだ。


氷沼の渦(アイス・ラテ)!』

 ゴーレムとエルヴィスの闘いに魅入っていた俺達の横から、いつの間にか気絶から復帰したシャルロの声が届く。

 そうして、シャルロの魔法がゴーレムへと襲いかかる。

 ゴーレムの周囲に白い渦が現れ、まとわりつき始め、それはあっという間にゴーレムを包み込みと、僅か数秒で大きなゴーレムを氷漬けにしてしまったのである。


『やったぁ!』

『上出来だ。倒せないならば一時的に封じてしまえばいい。あとはゆっくりと対策を――――』


『無駄』


 仮面の囁きと共に大きな爆発が起きた。


『エルヴィス様!』

 噴煙の中心に向かってシャルロの声が響き渡る。

 噴煙はすぐに収まり、中からは再生途中のゴーレムの姿が目に飛び込む。

 そこから少し離れた地面には、爆発に巻き込まれ地面に仰向けとなって倒れるエルヴィスの姿も見える。

 爆発したのは氷漬けとなったゴーレム。

 魔法をも行使するゴーレムが、自分自身に魔法を使ったのである。自爆だ。

 壊れない、という自らの特性ゆえの大胆な脱出劇。愚鈍そうな見た目に反して中々に頭の切れる奴である。


 再生を終えたゴーレムが地鳴りにも似た足音を立てながらエルヴィスへと近付いていく。

 必死に体を起こそうとするエルヴィスの背中がこちらから確認出来るが、ダメージが大きいのか中々立ち上がれずにいる。

 そんなエルヴィスも気にはなるのだが、俺はそんな絶体絶命のピンチに陥るエルヴィスよりも気になる人物に目が釘付けであった。


 先程までの怯えた様子は微塵も見せず、真っ直ぐにゴーレムへと歩みを進めるその後ろ姿は別人の様にも見えた。そう思うのは多分ヘタレた姿ばかり見せつけられたせいだろう。


『お前……ッ』

 エルヴィスが驚いた表情を向ける。

 そんなエルヴィスには一目もくれず、言う。


『ちょっとやり過ぎじゃないですか? 用事があるのは俺なんでしょ? なら、最初から俺を狙えば良かったんです。いつでも相手になりますよ』

 ゴーレムを、その背後に浮かぶ仮面を真っ直ぐに見つめ、アキマサがそう言ったのだ。


 握った剣の真白の刀身が、何故だかとても輝いて見えた。

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