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流浪のお供をするにあたって


「以上! 333名! 全て配置につきました!」

 人里離れた山の中。

 目の前の人物にそう告げて、ビシッと敬礼してみせる。


『ご苦労様です、将軍』

 彼はニコニコと微笑みながら、私にそう労いの言葉をかけた。

 将軍、というのは勿論名前などではなくただの役職だが、1番目が王様だし、それなら2番目の私は将軍かな? という安易な理由で付けたもの。

 あくまで自称に過ぎなかった。

 自己紹介時、将軍だと告げた私に、やはり彼はニコニコと微笑んで『これはこれはご丁寧に。私はメフィストといいます。よろしくお願いしますね将軍』と言葉を寄越した。

 冗談で言ったつもりだったが、真に受けてしまい、まぁいいかと私も将軍という役職を肯定した。

 そうして、彼ことメフィストが、私を将軍、将軍と呼ぶ内に、他の妖精達もいつの間にやら私を将軍と呼ぶ様になった。


 まぁ、それはいい。


 先程も少し触れたが、現在、我々は妖精の聖域(フェアルチェアリ)から離れたとある島の山の中にいる。

 やって来た総勢333名の妖精達は、三人、もとい三匹一組となって、ここでメフィストの指示の元、山の至るところに配置されている形だ。

 王からは、彼、メフィストの言うことを良く聞くように、と厳命されているのだが、何故(なにゆえ)に我々中立の立場にある妖精が咎人たる人間の指示に従い、あまつさえ悪魔と対峙しなければならないのか、些か疑問ではある。

 代理戦争など君らで勝手にやってくれ、というのが本音だ。

 加えて、王が人間と友人というのも少なからず引っ掛かりを覚える。

 とはいえ、

 王の(めい)ゆえ、軍人たる私はただそれに従うのみ。余計な詮索は不用なのだ。粛々と職務を全うするのみ。

 元々、王は型破りな御方ゆえ、人間の友人が居ても然程不思議な事でも無いのかもしれない。そういう方と納得してしまおう。


 さて、そうして駆り出された代理戦争の代理であるが、聞くところによると、今日、我々が相手取るのは灰王の生み出した三柱の一角であるらしい。

 三柱と言えば、空の殺戮者ティアマット、大地の暴君ニーズヘッグ、海の破滅リヴァイアサン。

 今あげたこの内のどれかがここにやって来る訳だ。名実ともに、相手としては不足無し。将軍冥利に尽きるというものだ。

 

 無論、我々が束になったところで勝てはしない。我が王を除けば、所詮、我々などは非力な妖精に過ぎないのだ。

 力押しで勝てぬゆえ、今回はソレを罠に嵌めるつもりなのだという。

 罠といっても極単純なもの。我々はただそれのちょっとした手伝い。

 単純ゆえミスもないだろうが、灰王の生み出した三柱に果たしてそれが効果を発揮出来るのか……。

 いや、してもらわねば困る。出来なければ、メフィスト含め、この山の妖精は皆殺しの憂き目にあう事だろう。

 我々だけではない。

 妖精の聖域(フェアルチェアリ)に残った者。そして、妖精の王。

 妖精666匹が総出で今回の作戦に参加している。

 いずれかがしくじれば、それは全体に影響を与えかねない。

 ともすれば、やはり我々が一番しくじりそうな気がする。

 王は単独で動いている様だが、あの型破りな方は、型破りゆえの強味を遺憾無く発揮される事だろう。心配するだけ損である。

 では、妖精の聖域(フェアルチェアリ)の者達は、というと、こちらは多少の心配はある。

 なにせ、まとめる者が居ないのだ。

 王然り、私然り、だ。

 3番目のルーンがいる筈だが、アレはあまりあてに出来ない。

 別にルーンが悪い訳ではなく、妖精というのはいつだって楽しく自由に生きたい種族なのだ。私や王がちょっと真面目過ぎるだけの話。

 ノリだ。その場のノリで生きる種族ゆえ、型に嵌まりさえすれば十分にポテンシャルを発揮出来るだろう。そう、今の私のように。将軍なんてのも実際ノリである。

 普段はこんな喋り方じゃないし……。役職も喋り方も全部ノリだ。

 あとは、彼女、スノーディアがそれを如何に引き出せるかにかかっている。



 そういえば、今回は魔王を守る戦いだ、と王は言っていた。

 魔王、つまりは灰王だが……、

 何故(なにゆえ)、三柱を生み出した親たる魔王を三柱から守る必要があるのだろう? 反抗期だろうか? 手に負えないドラ息子的な……。

 反抗期で殺されたのでは堪ったものではないな。その事自体には少なからず同情を覚える。が、どう考えても育て方が悪いのではないだろうか。

 ふむ……。

 そう考えると、何だか現状が一気に茶番に見えてきたな。

 ―――別に良いけど……。



『来ましたよ』

 若干、私の気分が落ちた頃、メフィストが静かにそう告げた。

 緊張感はしていない様で、彼は相も変わらずニコニコと微笑んでいる。

 

「総い―――」

 来たと言うなら来たのだろう、と各所に配置している妖精達に合図を送ろうとした矢先、ドンと大きな衝突音が山にこだまし、私の声をかき消した。

 大地が揺れ、木々が揺れ、葉が舞い散り、鳥達が騒がしく舞う中、


『よぉ、……来てやったぜ?』

 突然の襲来に、……いや、来る事は知っていたが、それでもあまりにあまりな登場に驚いていると、人懐っこそうに破顔した大柄な男が、そんな台詞を愉快そうな声色を乗せて吐き出しながら、木々の隙間から現れた。

 

『ティアマットの言う、灰獣(アシュナ)狩りってのはお前の事だよな?』

 こちらは驚きで声も出ないと言うのに、何とも場違いなやたらと楽しそうな声が憎たらしい。


『違うと言えば違うのですが、あなたに用があったのは事実ですね、ニーグさん』

 メフィストの言葉に、ニーグと呼ばれた男の顔が僅かに怪訝な物になる。


『なんで俺の愛称知ってやがる?』

『さて、何故でしょう?』

 ニーグとは対照的に、メフィストの表情は変化せず、ずっとニコニコを顔に貼り付けていた。お面ではないのか、と少々疑いたくなる。


『はは~ん、スノーディアの知り合いってのはお前だな?』

 心当たりにでも行き当たったのか、若干勝ち誇った顔になったニーグがそう告げる。

 ころころと表情が良く変わる男だ。


『ははは、凄いですね。スノーディアさんの言った通り、成る程、勘の鋭い方です。素晴らしいです』

『まぁな!』

 ニーグが嬉しそうに胸をはる。

 お世辞に弱い、と。


 私が心にそう刻み込んでいると、『将軍さん』とメフィストが囁く様に声をかけてきた。

 それでようやく自分の職務を思い出し、ニーグのド派手な登場でお預けになっていた合図を、改めて、妖精達に伝えた。


『なんで妖精がここにいる?』

 私のかなり気合いの入った合図に、今気付いたとでも言いたげに、ニーグが尋ねてくる。

 いくら小さいとはいえ居ない訳ではないのだ。まるで相手にされて居なかった事に僅かな憤りを感じる。


『妖精達は、私のお手伝いにお呼びしました。私だけではちょっと無理そうでしたので』

 ニコニコ笑うメフィストが、私の代わりに質問の答えを口にする。

 何故、彼はこんなにも平然としているのだろうか?

 ニーグ。名前から予想するに、おそらく今目の前にいる男は三柱の一角、大地の暴君ニーズヘッグだと思う。

 強大な力を持ち、とても人間であるメフィストが勝てるとは思えない。しかし、対峙するメフィストはそんな不安などは微塵も見せずに、ニコニコと笑顔を絶やさない。

 それはこの状況が、余裕であると解釈してしまって本当に良いのだろうか? それともやっぱり良く出来たお面なのか?


『それはあれか? 俺と戦うつもりだと思って良いのか?』

 ニヤリと不敵に笑ったニーズヘッグが問う。


『やだなぁ、戦うだなんて。そんな物騒な事しませんよ』

 ニーズヘッグの問い掛けに、メフィストが肩をすくめてカラカラと笑って答える。

 違うのかよ! と、とても不満そうなニーズヘッグ。

 ああ、違うだろうな。力で勝つつもりなら戦力にならない我々妖精を呼ぶ必要などない。邪魔なだけだ。


『ええ、違いますよ。戦ったりはしません。ただ、ちょっと大人しくしていただこうかと』

 言うが早いか、メフィストが手に持った杖の先端を、トンと地面に打ち付けた。

 彼の持つ杖。

 王曰く、

 降魔の桂杖(けいじょう)と言う名らしいが、嘘か真か、月に生える桂木(かつらぎ)から作り出したのだそうだ。

 ――――うん、絶対嘘だと思う。

 まぁ、月云々は嘘にしても、そんな名が付くのならば優れた杖ではあるのだろう。


 メフィストの描いた魔法陣は、地面を這う様に瞬く間に広がり、淡く黄色の光りを放ち始める。

 この光り、私にはただ光っているだけで、ちょっと眩しい以外は特段変わった事もないのだが、どうやらニーズヘッグはそうでは無いらしい。

 陣が輝いた途端に、顔をしかめ、少し焦った様な表情を見せた。大胆不敵そうな先程までのニーズヘッグとの違いに少々驚く。


『クソがっ! ふざけやがって!』

 などという悪態すらもニーズヘッグから漏れる。


 そんなニーズヘッグに追い討ちを掛ける様に、黄色の光りに白色の光りが混ざり始める。

 これが、これこそが今回の我々の任務。

 各所に配置された妖精が、妖精だけが持つ特別な力をメフィストの魔法陣に加えたのである。

 我々妖精は、力ではどんな種族よりも無力だ。勝てるのはせいぜい昆虫くらいのモノだろう。私とヘラクレスカブトムシの激闘なんかは、妖精達にもまだ記憶に新しい。負けたが……。

 だが、そんな我々にもアドバンテージとも呼べるものがある。

 それは禍に対して有効打となる特別な力を有しているという事。そこに目を付けたのが今回の策。

 その辺の灰獣(アシュナ)程度ならば、メフィスト個人でどうにでも出来るそうだが、相手は三柱の一角。妖精の手を借りなければとても成功しないのだ、とメフィストは語った。


 おっと、私がそんな事を思っている間にも、光りはどんどん強くなっていく。それもニーズヘッグを中心にしてである。


『クソったれがぁぁぁぁぁ!』

 おや? 捨て台詞かな?


 そうして、大きく咆哮をあげたニーズヘッグの姿が黄色と白色の光りに呑み込まれていった。

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