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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅰ章【お供になるまで】
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仮面のお供をするにあたって・6

 マル秘灰色異空間の中に現れたのは、白い仮面で素顔を隠し、足先まである真っ白なローブを頭の天辺まですっぽりと身に纏った人物であった。その手には1メートル足らずの木製の杖が握られている。

 見た目からして、おそらくこの人物が先程の話に出た――――


『お前が術者だな?』

 エルヴィスが少しキツい口調で問い掛ける。


『……誰?』

 仮面が質問に質問で返す形でエルヴィスへと顔を向ける。


『勇者エルヴィスだ』

 言いながらエルヴィスが、なんともキザったらしく前髪をかきあげた。


『勇者……? 知らない』

『いずれ、嫌でも耳にする名だ』

『……そう』

 興味が無いのか、冷えた口調で仮面が言う。そして、声から察するに仮面は女性の様だ。

 素顔の隠れた女性には最近、ちょっとだけ嫌な思い出もあった為、先日の女性兵が頭に浮かんだが、仮面とあの兵と比べても声の質が異なる。上空に佇み正確な背丈は図りかねるが、仮面は背も低いみたいだ。


『それより、さっきの質問に答えたらどうだ? お前が術者で間違いないんだな?』

『そう』

『子供を誘拐し、怪しげな魔法まで。一体目的は何だ?』

 怒った様な険しい表情をしたエルヴィスの更なる問い掛け。




『――――呼んでいない』

 それに、たっぷりと間を空けて仮面が答える。

『なに?』

『そもそも、あなたは呼んでない。イレギュラー。出口を作ってあげるからさっさと帰って』

『ふざけるな!』

 仮面は、事も無げに言う。しかし、それがエルヴィスの勘に触ったのか叫ぶ様に食い下がる。

 そんな今にも術者へと飛び掛からんとするエルヴィスをシャルロが制止し、尋ねる。


『子供を、……いえ、孤児院に住んでいた人達がいたはずです。その人達をどこにやったのです?』

『……答える義務はない』

『貴様ぁ……』

 仮面の態度で更にボルテージを上げたエルヴィス。

 このまま成り行きを見ていたいとも思ったのだが、それでは何だか良く分からない方向へと三段跳びで進んでしまいそうだったので、そろそろ口を挟んでおく事にした。


「なぁ、ちょっと良いかな?」

『犬コロ! お前は黙っていろ!』

 犬はどっちだ。

 あっちにもこっちにも噛みつく狂犬エルヴィスを無視して続ける。


「さっき、エルヴィス達はイレギュラーだと言ったな? って事はやっぱり呼ばれたのは俺達か?」

『……そう』

「……何の為に?」

『……興味が湧いた――――では答えにならない?』

「興味なぁ……」

『そう、興味』

 言って、視線こそ仮面で曖昧ではあるが、それでもハッキリと仮面がアキマサを見たと判断出来た。

 魔獣使い、などというふざけた特技が仇になったか? 広い世界と言えど俺も魔獣を従える奴など魔族以外では聞いた事がない。それが人間とあらば色々と勘繰る事もあろう……。世に知られていない新種の魔法、或いは、アキマサが魔族である可能性などである。ゆえの興味、――――だろうか?


『絶対の王者たる牙から作られし(つるぎ)は、闇を引き裂く矛であり、弱きを守る盾である。強き者よ、共に剣を取れ。弱き者よ、かの者を称えよ。諸人よ、奮え立て。その希望は汝らと共にある』

 思考する俺の意図でも掴む様に仮面が紡ぐ。それはまるで、本の一節でも読んでいる様な淡々として淀みない言葉。

 聞いた事はない。ないが、これは――――。


『勇者の伝記にある聖剣のくだり、ですか?』

 シャルロがそう口にして、次いでエルヴィスを横目で見る。

 そのシャルロの視線に促される様にエルヴィスが口を開く。


『聖剣か……。この世界の何処かで眠っているそうだが……この数百年、いまだ誰も見付けられてはいない。持ち主を選ぶらしいが、剣が人を選ぶなど眉唾ものだし、本当にあるのかさえ疑わしい』

『案外、勇者の使ってる剣を全部聖剣って呼んでるだけなんじゃないです?』

『なるほど。イーサンの言う通り、案外そうなのかもしれないね』

 エルヴィスとイーサンと呼ばれた大柄な男がそんなやり取りをして笑う。

 そんな二人を少々不安そうな表情で伺うシャルロ。


 この三人は今はどうでもいい。勝手に勇者勇者しててくれ。

 しかし、興味が湧いたという仮面の言葉の意味が少しだけ判った気がする。

 コイツは最初から――――まぁ、最初が一体何処からかは分からないが、―――――とにかくコイツは、魔獣使いなどというそれこそ眉唾な特技など元からどうでも良かったのかも知れない。知っていた。気付いていた。それがどういう経緯で知れたかは不明だが、アキマサをわざわざこんな場所に呼び出したのはその為か。

 だが――――

 何故こんなに回りくどい?

 この仮面、おそらくバルド王国の手の者だろう。

 と、いう事はだ。

 そうであるなら、王国はアキマサの事に気付いている訳だ。勇者である、という事に。

 うん――――まぁ、それなら門がほぼ素通りだったり、魔獣が一緒だというのに騒がない住民達の態度も不思議じゃない、のか?

 しかし、何故こんな試す様な真似を?



 確信が持てない?


 ――――そうだな……その可能性は有りそうだ。何処かの誰かが定めた何ぞ根拠があるのかも判らない聖剣持ってるから勇者、という持論にも似たそれを、おいそれと信用するというのも危険であろう。第一、エルヴィスの話を真に受けるなら、その聖剣だって数百年もの間、人の目に触れる事はなかった様だし。勇者の証たる聖剣の事すらも王国側は良く判っていないのかも知れない。

 だとすれば、――――王国は確かめ様としてるのか? アキマサが勇者か否かを……。

 随分と回りくどい事をするものだ。

 雑な演技に、雑な罠。いやもう罠と呼べるのかすら怪しい。全てにおいてバレバレなのだ。こんなのもうバラしてくれと――――



 わざとか………?

 わざと罠だと分かる様に……。

 けども、だ。わざとだして、それに何の意味がある? 大体、あの大根演技がわざとは考え難い。

 ――――――わからんな。考え過ぎなのかも知れない。


 と、まぁ、俺が考え事をしている間にも既に始まってしまった物語というのは筒がなく進行しているらしく、――――もっとも姿を隠したままである為、俺が登場人物の数に入っているのかも怪しいが、―――――ふと思考の森から抜け出して目につく現実に視線を向けると、いつの間にか俺達やエルヴィス達を囲む様に不気味な人々が姿を現していた。

 おいてけぼりはやめてほしい。


 誰に苦情を言うべきかと眼を這わせる。

 と、不気味な人々の一人と眼が合った。生気のまるで無い陶器様なほの暗い瞳。

 これだけ言うと、かなり危ないいっちゃってる人の様に聞こえるが、正確には人では無い様で、その姿は……う~~~ん、――――岩で作った人間?


『これ程の数のゴーレムを一体どうやって?』

 形容に困った俺のお悩みでも見抜いた様にシャルロがゴーレムだと口にした。

 なるほど。これがゴーレムか。話しに聞いた感じだともう少しデカイものかと思っていたが、随分と人間に近い体格をしている。


『おうこ……私の持つゴーレムは一筋縄ではいかない』

 シャルロの問いには答えず、淡々と物語を進めていく仮面。苦情を入れるならコイツだろう。

 それはそれとして、いま王国って言い掛けなかった?

 俺の心の中のツッコミは届かず、仮面が話しを続ける。


『まずは腕試し』

 言い、仮面が手に持つ杖の先が仄かに輝いた。

 そうして輝いた途端、黒目がちだったゴーレムの(まなこ)が白く輝く。ゴリゴリと岩が擦れる様な鈍い音を響かせながら。


 これはほぼ間違いなく襲ってくるパターンであろう。違ったらアキマサの髪を丸刈りにしても良い。

 そんな、勝手に賭けの対象にされたアキマサはというと、とっても困った顔をしてプチの横にベッタリと張り付く様に身を寄せていた。

 俺の想像よりは全然小さいゴーレムではあるが、それでも大の大人程の身長がある。まして全身岩であるからして、殴られたらきっととっても痛いに違いない。あれに殺されでもしたら死因は拳で殴られた事による撲殺になるのか? それとも鈍器の様な物で殴られた事による撲殺になるのか?

 どっちも撲殺だが、過程が違う。気がする。至極どうでもいい。


 とりあえずアキマサに背中に乗れと言おうとした時、周囲に変化があった。

 エルヴィス達である。

 彼らは、襲いかかるゴーレムを目にしても、さほど慌てた様子もなく各々が持つ武器を構え、一歩前へと進み出た。

 

 そうして、勇者一行と数十体のゴーレムとの戦いが始まったのである。 

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