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悪魔のお供をするにあたって・11

 パンシーナンシーが僕と遊ぶ様になって、城で退屈をもて余す事も少なくなった。

 それだけでなく、気軽に城を走り回る様になってからは、城のみんなとの会話も徐々に増えた。

 みんながみんな、毎日城にいる訳ではないが、カナリアやブラウニーは城に常駐している様だ。あとティアマットも。

 その他のみんなが城の外で何をしているのかは聞いていないけど、多分、聞いても僕には分からないと思う。

 僕にとって、みんなが外で何をしているのかは大して重要じゃなかった。毎日が楽しく過ぎていく、これが何より重要だったから。


 そんな風に思いながら過ごしていたある日の事。

 大食堂で切り分けられた果実を食べながら、カナリアやブラウニーとお喋りをしているとスノーディアがやって来た。

 ティアマットとここ大食堂で何か大事な話をして以降、スノーディアは毎日忙しそうにしていた。

 なので、たまにスノーディアと会うと僕は嬉しくて仕方無かった。カナリアやブラウニーも優しくしてくるけど、やっぱり僕にとってスノーディアは他のみんなより特別なのだ。


 そんな特別なスノーディアが大食堂にやって来たのだけど、スノーディアは両手に大量の布を抱えていた。

 それをテーブルに置くと、スノーディアが少し疲れた様に席についた。


『服ですか?』と、カナリア。

 どうやらスノーディアの持って来た物は、大量の服であるらしかった。


『ああ、取り合えず練習がてら片っ端から作ってみたよ』

『モンブラン様のですよね?』

『以外に誰の服を作るんだい?』

 ブラウニーの言葉に、スノーディアが少しおどけて返す。


『着せても良いですかー!?』

 目を輝かせ、若干興奮気味のブラウニーが尋ねた。


『勿論それは構わないけど、そんなはしゃぐ程大層なもんじゃないぜ?』

『スノーディアのセンスなんてそこまで期待してませんよ』

 ブラウニーが服を広げながら、カラカラと笑う。


『……別にいいけど』

 自分で大層なもんじゃないと言いつつも、ブラウニーに言われてちょっと不満気なスノーディア。


『わっ! これなんか良いじゃないですか! 似合いそうです!』

 服を眺めたブラウニーが嬉しそうに言って、それから僕を立たせると僕に服をあてがった。

 ブラウニーは少し眺めてから、『ちょっと着てみましょう』と口にする。楽しそうだ。

 そうして、その場で服を脱がされ、代わりにスノーディアの作ったという服を着せられる。されるがままに。



『か、可愛い』

 僕に服を着せたブラウニーが、僕を眺め、酷く衝撃でも受けた様にポツリと呟いた。


『確かに可愛い……。だが何か、何かが足りない』

『あんまり無茶を言わないでくれたまえ』

 ブラウニーに続いて、そう感想を述べたカナリアにスノーディアが面倒臭そうに言葉を投げた。

 今僕が着ているのは、首から膝までスッポリ隠れる様に作られた服。ローブにしては丈が凄く短い。太股の辺りなんかスースーして落ち着かない。


『これを手作りするなんて、スノーディア頑張ったね~』

 ブラウニーが僕を食い入る様に眺めながら、そうスノーディアを誉めた。

 僕にはコレに限らず、服の良さは分からないので、この服が良いのかは分からないけれど、スノーディアが誉められているのでそれだけで嬉しくなった。服はどうでも良かった。


『縫い目も目立たないし素晴らしい出来ですね』

 カナリアもそう誉める。益々嬉しくなる。


『そりゃまぁ、魔法だしね』

『え?』

『ん?』

『魔法なんですかコレ?』

『そりゃあ勿論……。手作りには違いないだろ?』

『はぁ、誉めて損しました』ガッカリした様にブラウニーが告げた。

『いやいや、君達さぁ。チマチマ手で縫うなんて手間も時間も掛かる事やるわけないだろ?』

『それはそうですが、愛情が感じられませんね』

『……それ必要かな?』

『あったり前じゃないですか!』

 プリプリと怒り出したブラウニーが、如何に愛が素晴らしいか、モンブラン様が如何に可愛いか、私がどれだけモンブラン様を愛し、どれだけ日頃我慢しているかをスノーディアに語って聞かせていた。途中から全然違う話になっていて、僕の目がまるくなったけども。

 それを聞くスノーディアは、目はまるくなかったけど、かわりにウンザリそうな顔をしていた。



 ブラウニーが語り続ける中、大食堂にティアマットがやって来た。

 ティアマットは、用事が無い時は大体ここで、何かを考える様に腕を組んで座っている。この人はここが好きなのかもしれない。

 また、この城においてティアマットは1番怖がられているらしくて、カナリアはティアマットが大食堂に入って来た途端に、僕から少し離れ、直立不動の真剣な顔になった。

 この間のかくれんぼの時は普通にしていたけど、何故だろう? 何かあったのだろうか?


 スノーディアもティアマットには少し気を使っている感じがする。

 スノーディアがこの城の者の中で、「さん」を付けて呼ぶのは三人だけで、ティアマットとリヴァイ、あとニーグのみ。

 何故かは分からないけど。


 僕はティアマットにそこまで怖いイメージを持ってはいない。体が大きいなぁ、ってくらい。

 ブラウニーもティアマットはちょっと怖いみたいだけど、今は周りが見えていないから、ある意味いつも通りだ。

 うん。ティアマットよりこうなったブラウニーの方が余程怖い。怖いけれど笑っちゃう。楽しいから。僕はこういうのが好きみたいだ。



 そんな大食堂好きなティアマットは、僕を見るなり小さく微笑んでからいつもの定位置に座った。この人はこういう人。

 生真面目という程でもないけど、真面目な人。でも意外と良く笑う。


『頑張ってるじゃないか』

 腰を据えるなり、開口一番そんな言葉をスノーディアに向けるティアマット。


『まぁね。もっとも誰かがすんなり認めてくれれば、こんなに頑張らなくても済むんだけど』

 やれやれと言った様子でスノーディアが小さく溜め息をついた。少し笑っている様にも見えたので、さほど不満を抱いている訳でもないみたいだ。


『そう言うな。出来る様になっておいても、別に損はあるまい』

『まぁ、確かにね。 ――――そうそう、ティアマットさんにも作ってみたんだ』

『俺にもか?』

 スノーディアの言葉にティアマットだけでなく、僕をニヤニヤ眺めていたブラウニーや、直立不動のカナリアも興味津々と言った目をスノーディアに向けた。


『ティアマットさんはちょっと爺臭いからね』

 悪戯そうに笑ったスノーディアが、取り出したのは黒くて長い紐の様な物。紐には星の形をしたアクセサリーがくっついていた。


『これは?』それを受け取ったティアマットが尋ねる。

『チョーカーさ』トントンと首元を指差しながら、スノーディアが答える。

 次いで、『付けてあげるよ』と言ってティアマットの背後に回った。

 それから、『貸して』とティアマットから再度、ソレを受け取り直してティアマットの首へと回す。


 そうして、出来上がったのは首元に星型の黒いチョーカーを付けたちょっとメタルなティアマット。

 はたしてその実態は、『首輪か?』と感想を述べる、残念なティアマットである。


『似合うじゃないか』

 ティアマットを眺め、うんうんと満足そうに頷くスノーディア。


『こういうのは良く分からんが、服を作れと無理を言ってしまったしな。有り難く貰っておこう』

 そう言って愉快そうにティアマットが笑った。


『特別製だぜ? ()()()()()()壊れない一品だ』

『ほう。付けっぱなしで良い訳か?』

『そう言う事だね』早い返答。

 そんなやり取りをしてまた二人で笑う。


 それからしばらく、あれやこれやと僕の服について雑談した後、ティアマットはまた大食堂を出て行った。チョーカーを付けたまま。どうやら本当に付けっぱなしにするつもりらしい。

 服に頓着がないゆえ、見た目にはあまり拘らないのだろう。


 ティアマットが出て行った後、たっぷり時間を置いてから、『スノーディア』とニヤニヤ顔のブラウニーがスノーディアに話し掛けた。


『あれは、私の犬になれ、って宣言なの?』

『……何を言ってるんだ君は?』


 ブラウニーの言葉に、スノーディアが心底鬱陶しそうな顔でそう返した。

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