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悪魔のお供をするにあたって・10

『おはようございますモンブラン様』

 朝。毎日欠かさず部屋へとやってくるカナリアの声で目を覚ます。

 モソモソと布団から這い出し、一度大きく伸びをする。

 それから直立不動でベッドの脇に立つカナリアに向けて、おはようを返す。

 二週間前、初めてカナリアを見た時は、ひきつったぎこちない笑顔だったが、今では笑顔も板について、以前の不自然さはすっかり消えてしまっている。

 笑顔の上手くなったカナリアと一緒に、次に向かうのは風呂場。

 これも毎朝の日課である。

 当初こそ、自分で服を脱ぐにも悪戦苦闘し、カナリアの手を借りていたが、最近は自分で上手に脱げる様になった。


 二週間程前。

 いつの間にか性別の変化してしまった僕の体を見て、カナリアは驚きの二度見、だけでは留めず、僕を持ち上げ、まじまじと観察して何やら青くなっていた。

 落とした!? 萎んだ!? なんて事を喚きながら、カナリアが大層あわてふためいていたのがちょっと面白かった。

 丁度そこに図ったようにやって来たのがスノーディア。

 カナリアはスノーディアに、自らの見た物の説明を始めたのだが、スノーディアはそれを『モンブラン様には良くある事』と一蹴した。

 カナリアが『そんな馬鹿な』と反論し食い下がっていたが、結局、笑って誤魔化すスノーディアに根負けする様な形で事態を受け入れた。

 かなり不服そうに。

 そうして、スノーディアが去った後、僕の体を洗いながら、カナリアが溜め息混じりに『私の計画が』と口走っていたが、聞かなかった事にした。

 意味は分からなかったけど、その時のカナリアからは悲壮感みたいな物が滲み出ていたので、正直関わりたくなかった。


 そんなこんなで、愚痴を溢していたカナリアではあるが、風呂に限らず、その後も色々と僕の世話を焼いてくれた。

 カナリアは何でもやってあげたそうにしていたが、スノーディアが、自分で出来る様にさせる事、と言い含めていた為、今は何でも自分で出来る様にすべく、アレコレと僕に教えながら面倒を見てくれている。


 朝風呂の後は朝ご飯である。

 カナリアと共に大食堂に赴き、ブラウニーが運んでくる料理を食べる。

 フォークやスプーンの使い方もカナリアに教えて貰って、今では上手に使える。

 カナリアが僕にそれらの使い方を、手取り足取り、何か不必要に密着している気がしないでもなかったが、それを教えているのを見たブラウニーが、半ば半狂乱になりながら、自分が教えると主張したが、カナリアがそれを断固として拒否した。

 僕がモクモクと食事を取る横で、激しく言い合うカナリアとブラウニー。

 最終的には、モンブラン様に決めて貰う、という話になったらしく、答えを求める二人に詰め寄られた。

 僕はスノーディアに、ブラウニーに近付くと食われる、と脅されていたので、迷わずカナリアだと告げた。

 判決の瞬間、カナリアは両手に拳を作り『うっしゃあ!』と叫び、ブラウニーは悲痛な叫びと共に、頭を抱えて床に倒れ伏した。 

 途中から大食堂にやって来て、そんな二人の様子を眺めていたティアマットが愉快そうに笑っていた。


 性転換や判決などのイベントを除けば、起きてから、風呂、ご飯というのが、ここ二週間、毎日行われた一連の流れ。

 多分これからも毎日行われるのだろう。



 朝ご飯の後の予定は、就寝前後を除けば特にハッキリとは決まっていない。

 スノーディアが、授業と称してお話をする事もあれば、カナリアも交えてただお喋り、逆に僕のお話を聞くだけという事もあった。

 ただ、最近は忙しいらしく、あまりスノーディアは相手にしてくれなかったし、出掛けて二、三日帰って来ない事もあった。

 二週間前なら、不安でしょうがなかったかもしれないが、カナリアが嫌な人では無くなってからは、それ程に不安だとは感じなかった。

 カナリアは基本的に四六時中、僕の側にいる。それも不安が感じない1番の要因だと思う。

 スノーディアに席を外す様に言われる事もあったが、それも二、三度だけであった。



 こんな感じで過ごすお城生活。

 ハッキリ言うと退屈な時間が多い。

 カナリアが話し相手になってくれたりもするのだが、普段のカナリアは真面目な顔をして直立不動で立っている。

 僕が目を向けると笑顔を見せる事もあるのだが、用も無いのに人の顔をじろじろ見るのも変だと思ったので控えた。

 また、カナリアから話し掛けて来る事はない。

 何か教えたりする時は別だが、楽しくお喋り、とまではいかない。

 とにかくカナリアは直立不動なのだ。


 そんなカナリアと過ごしていたある日の事。

 その日もやっぱり退屈で、やる事もなく、部屋の窓から大して代り映えもしない雲を眺めていた。

 コンコンと部屋の扉をノックする音。

 スノーディアかと思い、返事を返す。

 そうして、扉を開けて入って来たのは二人。顔は同じだけど、髪の長さが全く違う双子。パンシーとナンシーであった。

 この二週間で城に住む者達の顔と名前くらいは把握している。

 ただ、カナリアやブラウニー以外とはあまり話さないので、唐突に部屋にやって来た二人に少しだけ警戒する。


『何かご用ですか?』

 僕に代わってカナリアが双子に尋ねた。


『退屈だから』

『遊ぼうかと思って』

 二人の言葉にピクリと反応した。

 反応したが、あまり良く知らないこの二人と遊ぶ事に若干の抵抗も覚えた。

 どうしようかと目を泳がせていると、『私もご一緒して宜しいですか?』とカナリアが双子に告げた。


『いいよ』

『いいとも』

 口の動きを見ないと、どっちがどっちの台詞を言ったのか分からない。大抵、パンシー、ナンシーの順だけど。


『ありがとうございます』

 カナリアが礼を言って、少しだけ微笑む。

 それから僕に顔を向けて、『という事です。モンブラン様』と話す。

「うん」

 と元気良くカナリアに返して、パンシーナンシーに小走り気味に近寄った。

 カナリアも一緒になった途端に、この双子からの警戒心は消えてしまったから不思議だ。

 消えたとはいえ、やはりまだ少々ぎこちない。自分からは中々話し掛けられないぎこちなさ。

 そんな僕を見て、双子が互いの顔を見合せる。見合せた後、二人揃って僕に顔を向けた。息がピッタリで面白い。


『かくれんぼ』

『おいかけっこ』

 そう交互に話した後、二人はそれぞれ左右片方の手を広げ、『どっち?』と声を揃えて僕に尋ねた。


「かくれんぼ」

 僕がそう答えると、『最初はパンシーが探す』『城の中だけ。5分したら探しに行く』と交互に告げた。

 次いで、

『それじゃあ』

『準備は良い?』と二人が言ったので、僕は慌ててカナリアの手を取った。


『スタート』

 パンシーナンシーが声を揃えて合図を出したので、カナリアを引き連れて、部屋を飛び出した。

 この二週間の中で、城の中の様子は覚えたが、城を自由に動き回るのはこれが初めてだったのでとてもワクワクした。自然と笑顔になった。


 ワクワクしたまま城を走り回る。

 実はスタート前から何処に隠れようかと考えていたので、今はそこを目指して一直線に駆けている。勿論、カナリアも一緒だ。

 着いた先は大食堂。

 ティアマットとバーバリアが居た。

 手を繋いで走り込んで来た僕達に、二人は怪訝そうな顔をして見せたけど、今は用事もないので、無視した。

 無視して、僕は大きな暖炉の中に隠れた。この暖炉、使っているのを一度も見た事がない。新品同様なので、使った事すら無いのかもしれない。

 カナリアも一緒に入るかと思ったけど、彼女は少しだけ辺りを見回した後、暖炉から離れ、シーッと口元に手を当てながら、座るティアマットの背後に隠れた。

 ティアマットは体が大きいので小柄なカナリアが隠れるには十分だった。足は丸見えだけど。

 ティアマットが何かカナリアに言っていたみたいだけど、ここからは声が聞こえない。ただ、ちょっと笑っていたので怒ってる訳ではないと思う。


 それから、ジーと息を殺す事数分。


 髪の長いパンシーが大食堂を通り過ぎたのを見て、暖炉の中の僕とティアマットの背後のカナリアが、互いに顔を見合わせ、二人揃って親指を立てた。

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