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悪魔のお供をするにあたって・5

 再開されたスノーディアの授業をぼんやり聞きながら、時間が流れていく。

 途中、座りっぱなしでちょっとお尻が痛くなって来たので、もじもじと体勢を何度か変えていると、それに気付いたスノーディアが歩み寄って来て僕を抱き上げた。

 スノーディアはそのまま僕の座っていた椅子に座ると、僕を膝の上に乗せて、何事も無かった様にまた話を再開させた。

 昨日も少し思ったのだけど、誰かに何かを説明している時のスノーディアは少し楽しそうに見えた。




『で、復活したモンブラン様は現在、こうやって僕の膝の上で大人しく授業を受けている訳だけれど、禍が足りなくて体が子供になってしまった。5歳位かな? それに加えて、記憶も無くしてしまったね。あと少し甘えん坊だ。可愛いけどね』

 言って、スノーディアがおもいっきり抱き締めてきた。

 おもいっきりだけど、全然痛くない。

 体はすぐに離れてしまったけど、スノーディアからは花の様な良い匂いがした。


『さて、ここまでで何か質問はあるかな?』

 質問があるかという質問に、首を横に振って返した。


『そうかい? それじゃあ……そうだな。城の案内がてら、みんなに挨拶しに行こうか。多分、ほとんど出払って城にはいないだろうけど、みんなの名前も分からないだろう?』

 そう言うと、スノーディアは僕を膝から降ろして立ち上がった。

 そのまま部屋を出て行こうとするスノーディアを慌てて追い掛け、スノーディアの足首まである長い裾を掴んで、置いてけぼりを阻止した。


 スノーディアは何か言いたげな顔を見せたが、特に何も言わなかった。

 しばらく僕の顔を見つめた後、置いていかれては堪らないと堅く裾を掴んでいる僕の手をスノーディアが取った。

 そうしてスノーディアは、『複雑な気分だなぁ』と笑い、僕と手を繋いだまま部屋を後にした。





『ここはご飯を食べるところだよ。さっき来てるよね?』

 スノーディアが先程の拷問部屋を見渡しながら説明してくる。


「来た。……拷問するの?」

 拷問部屋に連れて来られたという事は、これから拷問されるのかと不安になった。

 スノーディアがそんな事をするとは思えなかったけど、でもやっぱりちょっと不安だったのだ。


『拷問? いや、ここはご飯を食べるところだよ』

 そう言ってスノーディアは僕の手を握ったまま、拷問部屋を通り過ぎた。

 良かった。やっぱりスノーディアは僕の味方であるらしい。



 次に訪れた部屋にも見覚えがあった。

 僕が寝ていた部屋だ。

 ニーグは居なかったので、やっぱりあれは夢であるらしかった。


『ここが君の部屋だよ』

 スノーディアが言う。僕の部屋という事は僕の物と云う事だろうか?

 その事を尋ねてみようかと、顔を上げ、スノーディアに目を向けると、口元に手をあてるスノーディアの顔があった。


『子供部屋にしてはちょっと殺風景だね』

 良く分からないけど、スノーディアがそう呟いたのが耳に届いた。

『まぁ、それは後で変えさせよう』

 スノーディアがニッコリと笑ったので、僕もニッコリと笑っておいた。


 それから少しだけ歩くと、また見覚えのある場所に着いた。

 広い空間で、壁には色々な形の石が飾られていて、立派な椅子がひとつだけ置かれている。

 何故か沢山の人達にお祝いされた場所だ。今は誰も居ないけど。


『ここは玉座だよ。そうだな………モンブラン様が偉そうにするところだよ』そうスノーディアが笑った。

 ここでは偉そうにしても良いらしい。

 という事は、つまりちょっとワガママを言っても良いと言う事だろうかと思い、繋いでいた手を離し、両手を広げて抱っこをせがんでみた。

 スノーディアは少しだけキョトンとした顔を見せた後、僕を脇から抱え上げた。

 そのまま抱っこかと思ったが、僕の脇を抱えたスノーディアはその状態で少し歩き、すぐに僕を降ろした。

 僕が降ろされ、腰を据えたのはひとつだけ置いてあった立派な椅子の上。この間と同じ風景が目についた。人はスノーディアだけだけど。

 僕を椅子に座らせた後、スノーディアが数歩下がって、口元に手をあてた。

 スノーディアは、しばらく僕を眺めて、

『やっぱり違和感凄いね』と一言。


 そう言って笑った後、スノーディアが戻ってきて、手を伸ばして来た。その手を取り、足の着かない椅子をちょっとだけ飛ぶように降りる。

 抱っこはしてくれなかった。


 抱っこのお預けにガッカリしていると、誰かが奥からやって来た。

 二人目の嫌な人だった。

 嫌な人なので、すぐにスノーディアの後ろに隠れた。


『何故私は怖がられているのでしょう?』

 嫌な人が悲しげにそう言った。


『さぁね。カナリアちゃんも怖がられていたみたいだけど……。小さいモンブラン様はちょっと人見知りなのかも知れないね』

『そうですか……。でも、これはこれで可愛くて……良い』

『同意見だけれど、そうやってにじり寄るのはやめたまえよ。まるで弱者を追い込む強者の様だぜ?』

 両手をあげて、鼻息荒く近付いて来る嫌な人にスノーディアが言った。

 嫌な人が不満そうに唇を尖らせて、『なんでスノーディアばっかり』と愚痴を溢すと、『僕が聞きたいくらいだね』と、少し困った顔をしてスノーディアが返した。


『さて、人見知りのモンブラン様』

 言いながらスノーディアが隠れる僕をぐいぐいと押し出してくる。嫌な人の前に。


『顔は知っているだろうけど、彼女はブラウニー。モンブラン様のご飯を作ったり服を洗ってくれるのは彼女だよ。ご挨拶して』

 僕の背中に手を当てて、促す様にスノーディアが言う。


『こんにちは、モンブラン様』

「こんにちは……」

 スノーディアに言われ渋々挨拶すると、途端にブラウニーの鼻息が荒くなり、目がすわり始めた『かわえぇなぁ』なんて声も聞こえてくる。


『喜べよブラウニーちゃん。君が怖がられている理由が分かったぜ。その事について一応言っておくけど、手を出すんじゃないぜ? ティアマットさんに殺されたく無いならね』

『わ、分かってるわよ。洗濯前の服のニオイで我慢するわ』

『……君のそれは病気だね』

 少しだけ冷たい目をしたスノーディアがそう吐き捨てる。

 次いで、冷たい目から柔らかい微笑みへと表情を変えると、こちらに顔を向け、

『純真無垢なモンブラン様。不必要にブラウニーちゃんに近付いてはいけないよ。食べられても知らないぜ?』

 スノーディアの言葉に絶句し、慌ててスノーディアの後ろに身を隠した。


『スノーディアがそんな事を言うから怖がるんだよ』

『君のは自業自得だと思うけどね』

 それからスノーディアは、ブラウニーと数度言葉を交わした後、自らの後ろで脅え、隠れる僕の手を取ってその場を後にした。



 次に案内されたのは、またも拷問部屋であった。

 綺麗で良いニオイがするけど、熱い水溜まりのある部屋だ。

 スノーディアが僕に拷問する心配は無いので、安心して眺めた。


『ここの風呂はモンブラン様専用だよ。基本、僕ら灰人アッシュは入らないからね。汗かかないし』

 スノーディアが僕専用と言った事でちょっと眩暈がした。

 つまりは僕専用の拷問部屋という事か。

 そんな僕の眩暈など知らず、スノーディアが説明を続ける。


『以前のモンブラン様も作っただけで結局一度も入らなかったけどね。ただ……今のモンブラン様は覚えた方が良いかもね。色々と汚れそうだし。 ――――ああ、安心してくれて良いよ。先日の入口での粗相は僕が一切の痕跡も残さずちゃんと処理をしておいたからね。最初に見付けたのが僕で良かっただろ?』

 スノーディアが笑ってそんな事を言ってくる。

 それで、少しだけスノーディアが怖くなった。

 スノーディアがする筈は無いと思いつつも、「拷問受けなきゃ駄目?」と、おそるおそる尋ねる。


『拷問? ――――ふむ。小さいモンブラン様は不思議な事を言うね。不思議モンブランだね』口元に手をあてたスノーディアがそんな事を言う。

 続けて、

『まぁ、拷問はともかく、汚れるのは元気な証拠だから構わないけどね』

 成る程。元気があるからここで弱らせる、という事であるらしい。

 大人しく、元気の無いフリをしていようと心で誓った。





 二つ目の拷問部屋を後にして、次に着いたのはどこかの部屋の扉の前。中には入らなかった。

『ここは僕の部屋、かな? 個人の物じゃないけど、僕以外はあまり利用しないからほとんど僕の部屋だね。大抵、僕はここにいるから用があるならここに来ると良い』

 そう説明して、スノーディアが扉をコンコンと叩いた。


『こんな風に合図して返事が返ってきたら、僕がいる。返って来なければ僕は居ない。居ない時は勝手に入ってはいけないよ。中は色々と危ない物が置いてあるからね。モンブラン様なら死ぬ事は無いだろうけど、怪我をさせるとうるさい人がいるんだ』

 頷いて分かったと示す。

 そこで、ふと思う。

 ここがスノーディアの部屋でないなら専用の部屋もあるのかな? と。

 僕のはあった。ならばスノーディアもあるかと思い、その事を口に出して尋ねてみた。


『無いよ。僕に限らず、モンブラン様以外はみんな持ってない。そもそも灰人アッシュは寝ないから必要ないのさ』

 そこでスノーディアは一旦区切り、少し笑いながら、『小さいモンブラン様は何で寝るんだろうね?』と口にした。

 何故寝るのかと聞かれたと思い、『樹の種族は』と口にした所で、口元を人差指でソッと押えられた。


『それは言わない約束だよ』

 スノーディアがそう言って笑ったが、目が笑っていなかったので、ちょっと怖くなって、強風に揺れる木の枝みたいにぶんぶん首を縦に振った。


『次に行こうか』

 そう言っていつもの顔に戻ったスノーディアと手を繋ぎ直して部屋から離れる。

 少し歩いた所で、『ああ、だから拷問なのか』と、何かを納得した風な表情でスノーディアが呟いた。



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