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悪魔のお供をするにあたって・3

『それはどういう意味だ?』

 リヴァイと呼ばれた男がスノーディアに尋ねる。


『そのままだよ。記憶がない。つまり覚えていないのさ。僕らの事も、これまでの行動も、全部ね』

『おいおい! モンブラン様、そりゃあ本当ですかい!?』

 スノーディアの話を聞いたニーグが、こちらにズンズンと近付いてくる。

 体が大きいせいか、その威圧感は僕を脅えされるには十分過ぎる程に迫力があった。

 小さい子どもの体を更に小さくし、涙を浮かべてスノーディアにすがり付く。


『ニーグさん、少し離れて貰えると助かるんだけど? ただでさえ怖い顔なんだから』

 スノーディアがおどけてみせる。


『ん、んん』

 ニーグは納得がいかないとでも言いたげに唸ったが、結局、何も言わずに頭を掻いて後方へと移っていった。


『ニーグさんは怖い顔』

『ニーグさんは子供の敵』

 双子が愉快そうにクスクス笑う。


『うるせぇ』


『だが、成る程。それが本当なら得心した。先日のお目覚めの際、何やら驚いておれられたのはその為か』

『キョロキョロしてた』

『クルクルしてた』

 小柄だが筋肉の引き締まった体をした男性が言って、間髪入れずに双子がまたクスクスと笑った。

 後から聞いた話だと、髪が長いのが姉のパンシーで、短いのがナンシーだそうだ。


『笑い事ではない』

 目つきの鋭い男性がそう言い、後ろの双子を睨みつける。

 それだけで、うるさかった双子は同時に両手を口に当てて静かになる。

 髪の長さは違うけど、鏡を見ているみたいで少し面白いと思った。


『ティアマットさんの言う通り、笑い事ではないよ。今後の僕らの憂いになりかねない。いや、確実になるだろうね』

『原因は何だ?』

『さぁ……。ただ、タイミング的に、やっぱり肉体の復活が関係してるのかもね』

 僕の背中を撫でながらスノーディアがそう話す。


『取り合えず、みんなを待ってる間、モンブラン様から話も聞いて、僕なりに整理して考えて見たんだけど……。旧代はともかく、アビスやバーバリア、それにパンシーにナンシー新代四人は消失時は良く知らないだろうから、その辺も少し交えて話をするよ』

『馬鹿にされてる?』

『無知にされてる』

 クスクスと笑うパンシーとナンシー。


『そういう事じゃないけど』

 スノーディアが苦笑気味に否定する。


『いいから話せ』

 リヴァイの言葉にスノーディアが頷く。


『モンブラン様が竜王達に負けたのが今から千年位前。モンブラン様が消失してからは、モンブラン様の言い付け通り、僕らはこの城に篭って御身の復活を待った。そうして、知っての通り、そのモンブラン様が先日復活を果たされた。 ――――ここにね』

 言ってスノーディアが微笑み、僕の頭を撫でた。


『ここまでは予定通りだった。モンブラン様復活までの間、姿を隠しながらも僕らは着実に力を蓄えて、旧新含めて(つるぎ)も揃えたし、配下も増やした。しかし、いざ復活という時に、モンブラン様にも予想出来なかった問題が起きた』

 俺の頭を撫でていた手を離し、スノーディアが『ひとつめ』と指を立てる。

 急に無くなってしまった手の温もりに、ちょっと残念な気分になった。


『復活されたモンブラン様の肉体が完全じゃなかった事。これはみんなで話し合った結果、禍の集りが思った以上に芳しくなかった。という一応の落とし処でみんな納得したと思う。禍はモンブラン様の肉体であると同時に、僕らの力の源でもあるから、僕らが力を蓄え過ぎた事で、禍の集りが悪くなってしまった。つまりは、モンブラン様の体が子供なのは僕らの責任だ』


『不本意』

『不可抗力』

 パンシーとナンシーが笑う。


『ふたつめ。記憶の欠落。今、問題としている部分だね。これも先と同様の理由かと思ったんだけど……』

 スノーディアが僅かに視線を僕に向けてくる。


『違うのか?』

『ワシは同じかと思うたが』

 リヴァイとバーバリアが口を揃える。


『僕も最初はそう思ったんだけど、もしそうだとしたら記憶の欠落ではなく、意思自体が欠落すると思うんだ。

 灰獣アシュナを例に見て欲しい。獣が禍を取り込む際に、その量によって意思が宿るか否かが決まるだろ? どの位の禍で意思が宿るのか。その辺りの線引きは曖昧だけど、モンブラン様復活の禍が少なかった場合、記憶以前に意思自体が無い筈なんだ。

 もし、その仮定を立てるならば、禍の量と記憶は関係ない。あるのは意思が宿るかどうかだけ。

 勿論、これは僕の推測でしかないから、モンブラン様の禍が増えれば記憶が戻る可能性もある。ただ、そうだとしても、現状、増やすのが難しいんだよ』


『何故だ? 確かに時間は必要だろうが、モンブラン様の場合、禍は放っておいても勝手に寄り集まるだろ? 禍とはそういうものだ』

 リヴァイがそう言い、僕に目を向けてくる。

 スノーディア以外には相変わらず脅える情けない子供が一人。


『勿論それはそうなんだけど……。以前のモンブラン様の時に聞いたんだ。世界に満ちる禍には絶対量というものがあるらしい、と』

『絶対量?』

『うん。禍は灰だから循環の(ことわり)からは外れた存在でしょ? 理の中にある魔力なんかは、色んな条件で増えたり減ったりするんだよ。月の満ち欠けとかね。

 それはメリットではあるけど、理にある以上、いくら増えた所でいずれは循環の道を辿り形が変わるというデメリットが存在する。

 禍はそれがないんだ。だからこそ個として存在し、変化せずに寄り集まり、モンブラン様も復活出来る訳なんだけど。だからこそ増えない。100ある禍を僕らがみんなで仲良く分けあってるだけに過ぎないのさ』

『成る程。それならば確かにこれ以上の増加はあまり期待出来んな。実際、俺達も配下を集め出した辺りで急に伸びが悪くなった』

 スノーディアの話にリヴァイが納得した様な顔を見せ、後方のニーグが『分からん』とぼやき、それを聞いたパンシーナンシーが、

『ニーグさん、分からない』

『ニーグさん、分からない』と、笑う。

『んだよ、お前らも本当は分かってないんだろ?』

『パンシー分かった』

『ナンシー分かった』

『ほーほー、どうだかな』

 そこから軽口合戦を始まるニーグと双子。

 それを見た他の面々がうんざりとした顔を覗かせる。

 ごめん、僕も良く分からないんだ。少しだけニーグに親近感を覚えた。


『ようするにねニーグさん。10人で10個の果実を分けるとして、果実をひとつでも多くモンブラン様に差し上げるには、誰かが果実を我慢しなきゃいけないって事さ』

『じゃが、果実と違い、禍は一度手にし取り込むと手離せん』

『そう。バーバリアの言う通り。手離すにはその肉体を消滅させるしかない』

『ほーほー、つまりモンブラン様以外の戦力を削らなきゃ駄目って事か?』

『そういう事だね』

『成る程成る程』

 納得言ったとばかりにニーグが頷き、次いで、パンシーナンシーを見て不敵に笑う。


『お前ら、モンブラン様の糧になれ』

『ナンシーが危険』と、パンシー。

『パンシーが危険』と、ナンシー。


『でもニーグさん、これはあくまで仮定の話だよ。それでモンブラン様の記憶が戻るとは限らない。当然、力は増すだろうさ。ただ、全盛期には遠いとはいえ、モンブラン様は今でも僕らより強いからね。力が増すだけならあまり意味はない。確証もなく禍を増やす為に戦力を減らすなんて、本末転倒さ。咎人は多いし、世界も広い。モンブラン様の仕事を増やすつもりかい?』


『けどよぉ、じゃあどうすんだ?』

『力としては問題ないんだ。足りないのは記憶、知識だけ。雑務は当然僕らがやるとしても、僕らを纏めるなり、いざ戦わなければいけない状況になったりした時に、無知識では流石にね。なら、やる事はひとつさ』

『ってーと?』

 ニーグの言葉に、スノーディアがウンと小さく頷き、そして告げる。


『再教育さ』

 スノーディアがニッコリと微笑んだ。



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