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聖夜のお供をするにあたって・前編

番外です。

かなり好き勝手書いてます。世界観などを気にする方は前編、中編、後編と三話読み飛ばしちゃってください。

「クリスマスだな」

 唐突にそう告げてみた。


『そうですね。あ、こっちの世界にもクリスマスってあるんですね』

 宿屋の窓にかかるカーテンを開きながら、軽い口調でアキマサが返してくる。


「いや、無いが?」


『え? でも……』


「番外編だからな」


『あっ、そう言うものなんですね』


「そう言うものなんだよ」

 わははと笑う。

 今日は12月25日。

 アキマサのいた世界ではクリスマスという催しものが開催されている筈である。


『くりすますって何です?』

 少し頭を下げてやや上目遣いのアンが、ぼんやりと窓の外を眺めるアキマサに尋ねた。

 天然なのか、はたまた計算なのか。どちらにせよ何とも言えずに可愛いアンの一挙一動に、今日も一日頑張ろうという気になりましたまる

 

『あー……そうですね。え~と』

 急に隣で可愛らしい仕草をするアンに、アキマサが若干顔を赤らめて、どう説明したものかと頬を掻きつつ逡巡する。

(クリ)を称え敬う日だ」返答につまったアキマサに代わり、答える。


『……テキトーにも程がある』

 俺の言葉にアキマサが呆れた顔を覗かせた。

 次いで、

『クリスマスというのはですね、この1年、良い子にしていた子供達にプレゼントを贈る日です』

 と、アキマサ。


「いや、間違っちゃいないが――――折角の番外編、それで良いのかアキマサよ」


『クリさんに任せると、ラブコメチックになりかねませんからね』


「不服か?」


『不服では無いですが、佐々木弁当(さくしゃ)に恋愛要素を期待してもロクな話になりませんよ?』


「せやな。嫁の誕生日に現金を渡す奴だからな。それなら子供の絡む話でも書かせた方がまだマシだな」


『何の話をしているんですか?』

 意味が分からないといった表情でアンが口を挟む。


「いや、いい。忘れてくれ。それで、話を戻すが、ではどうする?」


 顎に手をあて、むーむーとアキマサ君。ややあって、

『やはりここは、サンタクロースの格好でプレゼント配りが妥当ではないかと』


「ありきたりでつまらんな」

 大きな溜め息と共に、そう口にした俺の背後から『乗った』と口を挟む者がいた。

 背後に顔を向けると、無表情のキリノがベッドに腰かけてこちらを見ていた。

 無表情ではあるのだが、何となくキリノの空気が楽しそうに思えた。

 思いの外、アキマサの提案への食い付きが良い。

 最近、キリノのこういう「顔には出さないが、表には出してる空気」みたいなものがちょっと読める様になってきた。

 何だかんだでずっと旅しているせいだろう。

 キリノとの旅で培ったその動物的直感が言っている。キリノが楽しそうだ、と。


「何だ? 珍しいな」

 普段、あまりこういう浮かれたイベントごとに首を挟みたがらないキリノのしては珍しい事だと思い、素直に尋ねてみた。

 悪い事じゃないし、むしろ多少羽目を外す位がキリノには丁度良いのだ。


『子供回』キリノが簡潔に答える。


「え? ああ、そうだな子供回だな。正確にはクリスマス回だが」


『今年一年、とても良い子にしていたラナにプレゼントを持っていく』


『あ! 良いですねソレ!』

 淡々としたキリノの提案にアンが手を叩いて賛同する。

 要するに、番外編を利用してラナに会いたいという事か……。

 いや、でも、どうなんだ?

 涙のお別れが辛いから、わざわざ朝早くに出発したりと配慮したのに、意味ないんじゃないか?

 しかし、キリノが乗り気だしな。何より番外編だし。


「……好きにしてくれ。――――ただ、東方三国だぞ? どうやって行くんだ?」


『そりゃあ、サンタなんですからソリに乗ってヒューンと』

 アキマサがえらく簡単にそう話す。


「アホか。ソリもトナカイも無いし、そもそもトナカイは空を飛ばん」


『陛下、ソリならここにご用意して御座います』

 いつの間にか、開けっぱなしになっていた部屋の扉の前に、エディンの生産大臣ことドワーフのシグルスが突っ立っていた。


「シグルス君、君何処から湧いてきたの?」


『今はそんな些細な事、どうでも良いではありませんか』

 ワハハと笑うシグルス。

 全然些細じゃないからな? 断じて。


「ソリは分かった……。トナカイは?」


『ワン!』

 俺の呟きにプチが尻尾を大きく振って元気良く返事を返してきた。


「良いけど……。お前の犬としてのプライドが許すならそれで……。衣装はどうする?」


『衣装ならばこちらに』

 シグルスの横からヒョコっと顔を出してそう告げたのは、タラスクの背に衣装を乗せてやって来たアクアであった。


「……何で?」


『こうでもしないと出番が無さそうですから』

 アクアがのほほんと頬笑み、合わせる様にタラスクがクァっと鳴いた。

 トントン拍子に進む話と、ワラワラと湧いてくる準レギュラー達を前に、一抹の不安を覚える。

 この調子ではロゼフリートやクゥちゃん、最悪マロンまで出てきそうだ。


『折角持って来てくれたんです。とにかく着替えましょう』


「そうだな」

 アキマサにそう言われ、諦めの境地にすら達する心境でアクアの持って来た服を手に取る。

 ご丁寧に妖精サイズなのが憎たらしい。

 やれやれ、でもまぁ、折角だから着替えてやるとするか。

 

『……』


『……』


『出てけ』

 僅かに怒気をはらんだ声をしたキリノが、部屋の扉を指差して吐き捨てた。

 チッ。

 軽く舌打ちをしてアキマサと共に部屋を出る。


『……』


『……』


『シグルスさん』


『ですよね』

 笑って誤魔化すシグルスをアンが一睨みして、男共は全員部屋の外へと追い出されたのである。

 脇役だからって空気って訳じゃないんだぜシグルス。



 しばらくして、

 アンのOKが出た所で、部屋へと入る。

 俺達が部屋へと入るなり『どうですか?』と、嬉しそうにアンが尋ねてきた。

 赤と白を基調としたサンタクロースの格好をしたアン。ミニスカートから覗く太股が目に眩しい。それだけで、ご都合主義で折れかけた気持ちが震え立ち、今日も一日頑張ろうと思えた。

 

『うぐぅ、可愛すぎる』

 アンを見るなりアキマサが胸を押さえて苦しんだ。


『ありがとうございます』アキマサの態度にアンが破顔一笑して魅せる。それでアキマサは更に苦しむ羽目となった。

 天使の笑顔か、はたまた悪魔の微笑か。


 続けて、心臓病で苦しむアキマサに向けてアンが、

『アキマサさんの衣装は木、ですか?』と、尋ねる。

 

『あ、はい。木ですね。クリスマスツリーというやつです。ツリーは普通ならモミの木を使うのですが、……何故マングローブなのか』

 言って、胴の長いマングローブらしく上半身が木、下半身がまんまアキマサという珍妙な格好の変態が、衣装を運んで来たアクアにチラリと視線を向けた。

 只でさえ変態なのに、目線が更にそれを加速させる。

 流石はアキマサであると、ひとり心でニヤケる。


『わたくしは、持って来ただけで用意には携わっておりませんので』と、アクア。

 じゃあ誰が用意したんだなどと、野暮な事は聞くまい。

 どうせ聞いても明確な答えなど返って来ないのは目にみえてる。

 妙な納得の後、プチに目をやる。

 トナカイの顔を頭に乗せたプチが満足そうにワンと吠えた。

 ちょこちょこと小刻みに尻尾を振る相棒の姿に、何かもうどうでも良いやという気分に陥る。

 それはそれとして、

「ところでキリノはどこだ?」

 部屋を見渡しながら問う。

 キリノの姿がどこにも見当たらないのだ。

 少し逡巡した後、訳知り顔で「ははぁ~ん、さてはミニスカが恥ずかしいんだな?」と口を開く。

 あれで意外と恥ずかしがり屋なのかも知れないな。

 普段から露出の少ない格好だし――――

『おい』


「うわっ!」

 プチの隣に佇んでいた雪ダルマが突然動き、声を上げた。


「おっ、お前……」

 部屋に入った時から、視界には映っていた。ただの演出的なオブジェかと思っていたら……。


「あはははははははははは!」

 露出どころか、着ぐるみでスッポリ隠れてしまったキリノを指さして盛大に笑う。

 笑い転げる。

 クールビューティーとしてのポジションの放棄である。これを笑わずして何を笑う。

 

 イヒヒヒヒと腹を抱えて笑う妖精を、雪ダルマがもぞもぞと動き、踏みつけた。

 綿でも詰まっているのだろう。着ぐるみを挟んだその一撃は、さほど痛くない。

 着ぐるみに埋めれながらも、雪ダルマの下からは曇った笑いがこだまし続けた。


 散々笑ってから、雪ダルマの下を這い出す。

 お腹が痛い。


 そんな俺を見て、『お前、衣装は?』と、雪ダルマが言葉を発する。

 その様子にまた笑う。

 イラッとしたのか雪ダルマが手で殴りつけてきた。

 しかし、着ぐるみなので痛くはない。


 押し寄せる笑いの波がおさまって来てから「俺もちゃんとクリスマス仕様になってるぞ」と問い掛けの答えを口にする。


『そうなんですか? いつもと変わらない様に見えますが……』

 アンのそんな疑問に指でチッチッチッと返す。


「まぁ、見てろ」言って、背中を向け、羽根を左右に広げる。

「スイッチオン!」

 俺のそんな合図と共に輝き出す羽根。

 チカチカと眩しい。

 どうよこれ? まさに夜の蝶と言った感じの――――


『場末のクラブの看板みたい』

 アキマサがぽつりとそんな感想を漏らした。


「チョ―――ップ!」

 失礼な変態の額にクロスチョップをお見舞いしておいた。

 マングローブの怪人に言われたくないわ。



 アキマサと俺で、一通り互いの格好を罵りあった後、本題に戻す。

「衣装もある。ソリもトナカイもある。しかし、だ。トナカイは――――まぁ雪ダルマの魔法で飛ばすとして、それでも東方三国まで三日はかかるぞ?」

 流石の雪ダルマも、ここから東方三国まで転移出来ないのは把握している。

 三日もかけてアソコまで行くなんて、絶対ごめんである。


『問題ない』

 雪ダルマが澄ました顔で、いや、服のボタンの目と人参鼻のトボけた顔でそう告げる。

 やめてくれ、その顔。ウケる。

 笑いを堪えながら半笑いで、「どうするんだ?」と雪ダルマに問う。


『全員、ソリに乗って』

 雪ダルマがそう言うので、素直にソリに乗る。説明する気はないらしい。別にいいけど……。

 俺に続いて、アンが。更に続いて、大きな袋を下げたマングローブがソリへと乗り込み、最後に雪ダルマがソリの端にちょこんと座った。

 そうして、全員が乗り込んだ後、プチに繋がれたソリがふわふわと浮き始める。

 雪ダルマのスノーマジック。

 そう心で命名して、ニヤニヤする。


『お気をつけて~』

 番外編の出番が終わったアクアとシグルスがニコヤカに手を振って見送り、ソリは一路、東方三国を目指して進み始めた。




 三日後


「きたねぇ! 三文字で片付けんな!」

 三日かかる、という俺の懸念の答えがコレである。

 過程の放棄。番外編ゆえか躊躇がない。

 なめんな!


 そんな俺の心の叫びを聞いたかの様に、『Oh ファンタスティック』と、流暢に話す雪ダルマ。


「やかましい!」

 

『まぁまぁ、着いたんだから良いじやないですか』

 落ち着ける様にマングローブが話し掛けてくる。

 長旅で退屈だったのか、道中、マングローブには星やベルといった様々な小物が飾られ、マングローブが動く度にゆらゆらと揺れていた。


 俺が釈然としないまま、しかめっ面をしていると、『これから直ぐにラナちゃんの所に行くんですかね?』と、ミニスカのサンタが尋ねてくる。


『いえ、基本的にサンタは夜にやって来ますから、夜に向かいましょう』

 アキマサの言葉に俺が大きな溜め息をつき、「夜まで待つのか?」と、問う。



 夜。


「クッ……殴りてぇ糞野郎(さくしゃ)


『いや~、昼間は大変でしたね』

 ラナのいる白百合城の上空、マングローブがさも何か起きたかの様に語る。

 何も無かっただろ。

 何をしれっとストーリー性出そうとしてんだ。

 俺がブツブツと文句を垂れていると、マングローブが何かに気付いたのか『あっ……』と声を出す。


『どうかしましたか? 何か忘れ物でも?』


『いえ、忘れ物というか……。すっかり忘れていたんですが、サンタクロースって煙突から中に入るんですよ』


『煙突、ですか?』


「アホか。白百合城にそんな物があるわけないだろ。窓から入れ窓から」

 

『ですが、やはりリアリティにこだわるならば煙突は必要ですよ?』

 アキマサがそう口にして、煙突の必要性を切々と語っていると、雪ダルマが『あそこを見て』と手をかざした。


『あっ! 煙突ですね』

 ソレを目にしたアンが嬉々として話し、『そうですね』とアキマサも笑顔で同調する。


「なんでやねん」

 取り合えず突っ込んでおく。

 何に?

 白百合城からはえた煙突に、だ。

 さっきまで無かっただろうが、疑問に思えよお前ら。


白百合(ホワイトリリー)(キャッスル)に煙突があったのは何よりです。あそこから入りましょうか』


 おい、アキマサ。ルビを振れば誤魔化せるとでも思ってるのか?


『はい。行きましょう。白百合(ホワイトリリー)(キャッスル)に』

 呆れた顔でアンを見る。



 ――――もういい。


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