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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
155/237

賢者のお供をするにあたってなの・4

 キラキラ輝く満天の星達の中に、ギラギラの目玉が二つ。

 浮かんだ目玉はルビーのよーにキレイで、でも血のよーに赤くもあった。

 見ていると、ゾクリと背筋が震えたなの。


『あれが、幻蟲クイーンビー……』

 アクアが確認するよーに言う。

 ナノは物知りなので知っているなのだけれども、クイーンビーといえば七大魔獣の中でも最大勢力を誇る魔獣なの。

 過去、クイーンビーが最も活動していた時期の話では、寒い北の大陸を除く、ほぼ全ての大陸に勢力を伸ばしていたらしいなの。

 それを可能にしたのは、率いる魔獣の多さに由来した。とは先代談。

 よーするに子分が多いなの。

 先程、篝火に群がる小さな羽虫達を魔蟲へと変えてしまった能力を使えば、なるほど、確かに子分の数はきっと沢山沢山だったに違いないなの。


『大紅君様、下がってください。ここは僕が』

 マトが一歩前に出て、フレアおばあちゃんを庇うよーな位置取りにつく。

 それに続くよーに、リョーシカもマトの隣に並び立つ。

 お年寄りは労るものなので、マトとリョーシカは偉いと思うなの。

 ってマトとリョーシカを誉めてばかりもいられない。

 ナノも先代に、フレアおばあちゃんを守る様に言われているので守らなきゃいけないなの。


 でもでも――――

 すっごい怖いなの。

 でもでも、ナノは先代と約束したなの。


「アクア、離して欲しいなの」

 ナノを守るよーに握り締めるアクアにそー言う。

 アクアは少しだけナノを見た後、小さく首を横に振った。

 離して貰わなきゃ困るなの。フレアおばあちゃんを守れないなの。

 力いっぱいアクアの手を押してみたけど、全然どーにもなりそーにないなの。


『ね~ぇ、おぼっちゃん達。私、貴方達には興味ないのだけど』

 ナノがアクアの手と悪戦苦闘していると、ブブブンと羽音を鳴らしたクイーンビーがそー言葉を投げ掛けてきた。

 


 続けて、

『それに~』

 その言葉を合図にするよーに、クイーンビーの周囲に魔蟲が集まる。

『この子達の遊び相手はまだ終わってないのよ~ん』

 そーして、再びこちらに群れを成して襲い来る魔蟲。

 その間にも、アクアの手の中でナノは体に力を入れて、頬を膨らませたり、萎めたりと忙しい。忙しいけど効果の程は皆無に等しい。疲れるのはナノだけなの。


『クソッ! どれだけいるんだ!?』

『しつこいのよ!』

 マトとリョーシカが同時に叫び、魔蟲を相手取り始める。


『タラスク様!』

 二人に合わせるよーにアクアが言って、小屋程の大きさの亀ちゃんが対魔蟲戦に加わる。

 マトは剣で、リョーシカは魔法で、亀ちゃんは口からびしゅーと何か飛ばして、それぞれがブンブンと飛び回る魔蟲を仕留めていく。

 魔蟲は速いなのだけれど、脆くて弱い。

 でも倒しても倒しても、次から次へと湧いてくる。キリが無いよーに思う。

 アクアの手の中で、散々荒ぶり、荒ぶり疲れた体を意気消沈気味に休めつつ、無数の魔蟲を眺めていると、横からパリッと音がして、続けてピカッと光が弾けた。

 びっくりしたなのだけれども、ボーとしていた訳ではなくて、意気消沈していただけなの。恐らく。

 そうやってナノはびっくりした後、音と光がした方に顔を向ける。


 フレアおばあちゃんが、バリバリッと電気を纏いながら立っていて、その側では腕を伸ばし、長い爪をフレアおばあちゃんに向ける恰好で宙に留まるスピカの姿があったなの。


『ん~、ピリッとしたわぁ~』

 ちょっと嬉しそうな声でスピカが言った。変態かな?


『人型がお気に入りなのかしら?』


『それもあるけれど~、絵的に地味でしょうぅ?』


『構図を気にするなんて、随分余裕なのね』


『んふ。余裕と言えば余裕かしら? 正直、まだ立っていられるあなたには驚きだっけどぉ、―――――辛そうねぇ?』

 ゆっくり地上に降り立ったスピカが、頬に手をあて、少し首を傾げてフレアおばあちゃんに微笑みながら語りかける。


『そう、ね』

 フレアおばあちゃんがそー返して、ちょっと苦しそうに微笑み返した。

 その額にはうっすら汗が滲んでいる様にも見える。


『どうする? 抵抗しなければ私がトドメを刺して差し上げてよ? じわじわ毒で死ぬよりは幾分かマシでしょうぅ?』


『慈悲深いですこと』

 フレアおばあちゃんの言葉に合わせる様に、魔蟲を相手取っていたリョーシカが駆け寄って来た。

 何だか悲しそうに、心配そうに。


 さっきクイーン・ビー、改めスピカが毒だとか言った。

 フレアおばあちゃんは今、毒に侵されているとゆー事なの?

 魔蟲がぶんぶん周囲を飛んで、それをマトと亀ちゃんが倒していく、フレアおばあちゃんがバリッとビリッと雷で、スピカが毒だと語る。

 頭に入ってくる情報が多すぎて、ナノの頭はしっちゃかめっちゃか滅茶苦茶で頭には疑問符しか浮かんで来なかった。

 ひとつひとつ整理整頓して、棚の奥にしまって、要らない物を片付けていく。

 そうして頭が広くなった所で、別の何かを棚から引っ張り出した。


 きっとあの時なの。

 スピカをフレアおばあちゃんがやっつけて、やっつけたと思ったら、蜂の姿で現れた。フレアおばあちゃんの腕に大きな傷をつけて。

 きっとあの時にフレアおばあちゃんは、既に毒を貰ってしまっていたなの。

 それは分かった。分かったけども同時に困ったなの。ナノは解毒は出来ないなの。


『無駄よん、お姫さまぁ。私の毒はそんじょそこらの魔法じゃ治せっこないわん』

 ナノが考え事をしている間に、どーやらリョーシカがフレアおばあちゃんに解毒の魔法を使ったみたい。

 だけど、どーやら上手くいって無いらしく、そんなリョーシカを小馬鹿にする様に薄く笑ったスピカが告げる。

 リョーシカはスピカをキツく睨む。しかし、フレアおばあちゃんへの治癒魔法を止める素振りは見せなかった。


『いいのよリョーシカ。離れていて頂戴』

 フレアおばあちゃんが優しく語りかけるが、リョーシカはぶんぶんと大きく首を横に降って拒否の意を示した。その眼に溢れる涙をいっぱいに湛えて。


『もう少し……もう少しだけ』

 涙声でリョーシカが、呪文みたいに呟く。


『リョーシカ』

 名を呼び、リョーシカを手で押し退けるよーにフレアおばあちゃんが動くが、その力は弱々しくって、頑として離れよーとしないリョーシカは一歩も動く事はなかった。


『頑固なお姫さまね』

 呆れたよーにスピカが言った後、


『そうだ! キリノ導士! キリノ導士ならきっと』と、リョーシカが表情を弾けさせた。


『あの厄介そうな魔導士がこちらに来る余裕があれば良いのだけどねん』

 小さく笑ったスピカが言って、僅かに顔を横に向ける。

 スピカの見たその方向は、先代達がいる大門の方角。


 そーなの! キリノは凄いまほーつかいなので、きっと毒位治せる筈なの!


 キリノ~、キリノ~、来るなの~、とナノが念じていると、『あらん?』と、スピカが呟くよーに言葉を発した。


『……あのトカゲやられちゃったの? 意外、ね。 ――――困ったわね。魔王様に何て言い訳しようかしら』

 こちらに目もくれず、明後日の方を向いたままのスピカがそーひとり言を呟く。

 トカゲが何かは分からないのなのだけれども、先代達が何かを倒したらしい、とゆー事をスピカの言葉から察したなの。

 流石は先代なの。


『言い訳なんて考える必要はありませんよ』

 フレアおばあちゃんは、ゆーが早いか突然魔力を開放してみせた。

 紅い、とってもとっても大きな魔力がフレアおばあちゃんの周囲を囲い、近くにいたリョーシカは尻もちを着くみたいにして後ろに飛ばされてしまったなの。


『やーねぇ。死に損ないは後先考えてなくて』

 顔をこちらに向け直したスピカが吐き捨てる。その表情は少しひきつっているよーにナノには見えた。

 ビビってる? ビビってるなの!? やーいやーい。ナノもビビったのだけれども、フレアおばあちゃんは味方なのでビビっても良ーと思うなの。


『どうせ死ぬなら道連れです』

 不敵に笑うフレアおばあちゃん。


『冗談じゃないわ。逝くなら一人で』

 そー返したスピカは、ハッと何か気付いたよーな表情をして言葉を途中で止めてしまった。

 そんなスピカの周囲には、紅く薄い膜のよーな物が浮かんでいて、いつの間にかスピカを閉じ込めていた。


『さぁ、耐えられますか?』

『クソばばあ……』

 フレアおばあちゃんが言って、スピカが悪態をついた。


 そこから、膜は一気に燃え上がると、スピカを包み込んだまま空高くへと昇っていく。

 どんどん、どんどん昇っていく。

 夜空に浮かんだ紅い星は一度大きく輝くと、紅い光でアイゼン王国中を照らしだし、ガラス玉のよーに弾けて消えていった。



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