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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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聖剣のお供をするにあたって・18

「なぁ、ズルくないか?」

 竜をやめ、人型となったザ・ワンに向けて不満を口にする。

 こちらも、不完全なアキマサの体に俺が入るという形を取っているのでズルいと言えばズルいのだが、

 自分の事は棚上げにしていくのが俺のスタイル。

 大体もって聞いてないぞ人型になれるなん―――


「クッ!」

 一瞬目を離した隙に、俺の懐にて身を屈め、魔力球を手にしたザ・ワンの姿を視界に捉え、慌てて顔を避ける。

 速い。

 さっきとは段違いだ。

 ザ・ワンから放たれた魔力球は、俺の耳をかすめ、残響を残して夜の空へと吸い込まれていった。

 尚もザ・ワンは動きを止めず、左手に魔力球を作り出すと俺にぶつけようと構える。

「調子に」その腕を左脚で蹴り捌き、「乗んな!」体勢の崩れたザ・ワンの顔に回し蹴りをお見舞いする。

 激しい打撃音を伴い、ザ・ワンの体が捻りを交えながら宙を舞う。

 こめかみをぶち抜いたつもりであったが、右手でガードした様だ。

 少しの距離を飛んだザ・ワンは、くるりと宙反りするとすぐに地面へと着地した。

 この野郎。意外と人型に慣れてるな。

 という事は、禍の影響などではなく、ザ・ワンは元々人型になれたという事か。

 あの爺さん、俺にはそんな事一言だって言わなかったぞ。

 ――――いや、でも、そうか。

 考えてみれば、竜の血を引く人間の孫がいるんだったな。

 孫がいるなら、その親となる子もいるだろう。

 人と竜のハーフ。

 となれば当然、人型で無くては出来ないアレコレがある訳で……。

 ふ~ん。

 ほ~ん。

 へー。

 そう。

 澄ました顔してちゃっかりした爺さんだ。

 爺さんとは言っても、今、俺の前にいるザ・ワンはとても若い男性に見える。

 白髪、至って銀ではない。断じてない。は、短くまとまり、背の高い美丈夫と云った姿。

 眼は紅く、瞳と呼べるものは無いが、それは禍の影響だろう。きっと本来ならば金色の瞳が美しく輝いていたに違いない。

 まさに色男。そんな感じであった。

 さぞかしモテた事だろう。

 許せん。


 アキマサとザ・ワン。どちらが勇者かと問われれば間違いなくザ・ワンの圧勝だろう。

『そこから僕を貶す方向にもっていくの止めませんか?』

 居たのか負け犬。


『ひどい』


 そうだな、ひどい話だよな。

 だがまぁ、安心しろ。

 このグッドルッキングガイは、モテない男を代表して、勇者たるこのアキマサ様が顔をボコボコにした後、この世から消しさってくれるわ。


『大変だ。勝手に代表にかつぎ上げられ、望んでもいない願いを聞き入れられた挙げ句、俺が悪者ポジションに』

 頭の中に直接届くアキマサの文句を笑ってやり過ごし、ザ・ワンに集中する。


 刹那。

 瞬きする間よりも短かった。

 一足飛びで間合いを詰めて拳を繰り出すザ・ワンの拳打を捌く。

 捌く。

 捌く。

 しつこい。

 人型となって随分速くなったが、それでもまだアキマサの方が速い。

 なにより意思というものを持たず、戦略と云ったものを伴わないザ・ワンの動きひとつひとつは単調で読みやすい。

 攻撃しやすい様に顔のガードを下げれば――――

 ほらな。打ってきた。

 真っ直ぐに放たれたザ・ワンの右ストレートを紙一重で避け、そのまま懐を抜け背後に回る。

 そうして、振り向くより先にザ・ワンの後頭部に回転の乗った裏拳をぶちかます。

 おっと。流石に堅いな。

 吹き飛びこそしなかったが、こちらに背を向け、大きく体勢を崩したザ・ワン。

 隙を逃さず、その背に追撃をかける。

 その一撃で、前のめりに地面へと叩きつけられたザ・ワンに対して、更に追い打ち。

 ほぼ馬乗りに近い状態で、殴る。殴る。殴る。


 ドラゴンの時と変わらんなコイツ。

 一撃ごとに地面へと埋没していくザ・ワンにそんな感想を抱く。

 しこたま殴りつけた所で、両手を組んで叩きつけ、反動と共に跳躍し離れる。

 流石に息があがる。

 小さく乱れた呼吸を整えながら、地面深くにめり込んでいったザ・ワンのいるであろう空間を注視する。

 効いてはいるだろう、流石に。

 手応えは十二分にあった。

 あれでノーダメージだとちょっとヘコむ。

 何より体力的にキツイ。

 アキマサの体が俺に合わないせいか、やたらと疲れるのだ。


 やや間を空けた頃、ガラガラと岩の崩れる音を鳴らし、ザ・ワンが起き上がる。

 その額からは黒い血がドロリと流れて、白髪を汚していた。


 良かった。効いてるな。

 だが、やや決定打にかけるか……。

 ふむ、どうしたもんかな。


『キァァァァァ!』

 唐突にザ・ワンが甲高い咆哮をあげた。


『怒り心頭、って感じですね』

 ザ・ワンの様子にアキマサが言う。

 そうだな。まぁ、怒って強くなるなら誰も苦労はしない。

 しないのだが――――これは……


「あ、この野郎!」

 ザ・ワンの意図に気付き、気付くと同時に今度はこちらから仕掛ける。

 決定打云々と悶々してる場合ではない。

 聖霊力を拳に込めて、ザ・ワンの頬を打つ。

 続けざま、グラリと横に傾くザ・ワンの体に蹴りをお見舞いしておく。

 顔面に打ち下ろされた蹴りは、そのままザ・ワンの頭を地面へと突き刺す。

 オマケとばかりにもう一発、蹴りをサービスする前に、ザ・ワンが地面ごと抉る様に右手を振りかぶった。

 巻き上がった土に隠れる様にして放たれた魔力球をバックステップで回避。距離を取る。

 いや、取らされたというべきか。


 ザ・ワンはその僅かな距離を利用して、全身に力を込め、禍を瞬間的に爆発。

 場に大きな土煙があがった。

 視界の遮られる中、駄目元で土煙の中心付近にある禍に向けて聖霊力を放出してみる。

 放たれた聖霊力が風を生み出し、土煙に穴を開け、波紋の様に視界が開けるが、そこにザ・ワンの姿は無かった。

 禍の残像だけ残し、移動したのだろう。

 軽く舌打ちし、直ぐに禍の気配を探り直す。

 先程ザ・ワンが居た場所の後方、二つの禍の塊をすぐに捉える。

 捉えると同時、そちらへと駆ける。


「くそったれ!」

 駆けた先、俺の視線の先でドス黒い渦の中心に身を置くザ・ワンの姿を見つけ、悪態をつく。


 膨れ上がるザ・ワンの禍に、忌ま忌ましさを覚えつつも、足を止めず、駆け抜け、拳を振り抜く。

 それをザ・ワンが左手の平で受け止めてみせた。


 散々ボコボコにした事もあってか、受け止められた事に少々面食らいつつ、尚も攻勢に出る。

 ザ・ワンに握られたままの右手を引き寄せる様に力を込め、自らの体をザ・ワンに向けて跳躍させる。

 真横に生まれた引力をプラスさせ繰り出した飛び膝蹴りをザ・ワンの顎に叩き込んだ。

 直撃し、僅かに首を後方に反らしたものの、ザ・ワンには大して効いた様子もない。

 ザ・ワンはゆっくり顔を元の位置に下げると、拳を俺の顔に叩き込んできた。

 右手を掴まれ、飛び膝蹴りで無防備に空中を漂っていた俺は捌く間もなく、相手の拳を額でモロに受ける羽目になった。

 衝撃で、浮いた体のまま大きく後方へ仰け反る。

 地面と平行になった俺にザ・ワンがかかとを上げ、振り下ろす。


 腹部とかかとの間に何とか両腕を滑り込ませ、直撃だけは回避するが、踏ん張りの効かない空中ゆえ、そのまま背中を地面へと強打させてしまう。

 激突で息が一瞬止まる。

 そんな俺に、もう一度かかとを振り上げるザ・ワン。

 それを避けるべく、受身の様に右手の平を思いっきり地面に叩きつけ、反動で身をよじり、転がる様にザ・ワンから距離を取る。

 俺の消えた空間に、ザ・ワンのかかとが走り抜け、地響きと共にそれが大地を穿った。


 殴られた額から出血しているのか、何かが額を這う感触があった。

 構わず、ザ・ワンを睨みつける。


 この野郎、パワーアップなんてズルいぞ。


 さっさと終わらせなかった先程の自分を叱り飛ばしたくなる。

 ザ・ワンは、勝てないと見るや咆哮と共に、禍を引き寄せて自らの強化を優先させたのだ。

 プチと同じ方式である。

 戦場にいくらでもエサは転がってる。

 それらを全て寄せ集めて、吸収したのだ。

 どれだけ力が増したか知らないが、聖霊力と禍で五分、速さで俺が上だった筈の戦局がひっくり返ってしまった。


 ザ・ワンを睨みつけたまま、変化してしまった盤上に、溜め息をつく。

「おかしいなぁ、俺がかっこよく終わらせる予定だったのに」

 予定通りに行かない現状に辟易し、独り、そう愚痴った。



 

 

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