表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
146/237

聖剣のお供をするにあたって・13

「来るぞプチ!」

 俺が叫ぶ中、プチの立つ地面を割って飛び出して来たのは、巨大なミミズ型の魔獣であった。

 光子の洞窟に居たアレである。


 ミミズが飛び出すより早く、空へと跳ねたプチが着地ついでにミミズの頭を踏む潰す。

 五体目となるミミズ魔獣の死体を眺めながら思考する。

 このミミズ。姿形は同じだが、光子の洞窟に居たヤツ程の硬度は見られない。それを鑑みるに、洞窟内に居たヤツは特殊な固体だったのだろう。

 長年に渡りフェアル石を食べ続けた結果のあの硬さであると推測される。

 そうでなければ、アレ一体でこちらの苦戦は必至であっただろう。



 ドラゴンゾンビを駆逐し、四足型の魔獣どもを蹴散らすまでは至って順調であった。

 数の不利を、策と技術でカバーし、大きな被害も出さずに魔獣の進撃を食い止めていた。

 第一のドラゴンゾンビを降し、第二の波が治まりかけつつあった所に、地中から不意をついてのミミズ軍団の来襲であった。

 おそらく、ミミズだけだったならば大地が伝える振動で気付けたかも知れない。だが、迫る魔獣の群れによる進撃の余波が、ここに来て別の形でこちらの油断を誘う結果となってしまった。


 地中からの攻撃を受け、前線で防御陣を展開していた大盾隊による壁の一部が決壊。そこから四足型の進撃を許してしまい、アンが態勢を立て直すべく四苦八苦している間に、魔獣の本態とのぶつかり合いとなってしまう。

 

 そんな陣形のままならない中、もはや乱戦となってしまった塊の中で、アキマサが一騎当千の活躍を見せた。

 聖剣絶対王者(ザ・ワン)を持たず、兵達と然して変わらぬ剣を持ったアキマサではあったのだが、エディンで得た聖霊力の効果がここぞとばかりに遺憾無く発揮されていた。


 聖剣を折られたトラウマか、初撃こそ慎重にミミズと対峙していたアキマサだが、洞窟にいた固体程の硬度が無いと分かるや、地中から襲い来るミミズを一撃の元、次々と討ち取っていった。

 しまいには面倒臭くなったのか、地面に剣を突き刺し、大地ごとミミズを吹き飛ばすという荒業さえやってのけた程だ。


 そんな勇者の活躍を一通り観戦し終え、プチと共に重い腰をあげた。

 プチは暴れたくて仕方無いとばかりに、ずっと尻尾を大きく振っていたが、俺の腰が重たかっただけの話。

 理由は簡単。

 魔獣の中にモグモグが数匹紛れているのを見つけたからである。

 なので、モグモグが居なくなるまで、身を潜め、息を殺し、機会を伺っていた。

 プチがいればモグモグ程度訳はないだろうが、強弱の話じゃないのだ。生理的に近付きたくないのだ。


 だがしかーし、元からそれ程の数が居らず、もはやそのモグモグも全滅してしまった。

 アンが優先的に狩っていたところを見るに、俺が参戦しない理由を何となく察していたのだろう。

 そこからは俺、というかプチも加わっての乱戦である。


 俺の相棒プチを侮る事なかれ。

 聖霊力を得て一際強くなった今のアキマサ相手では、流石に厳しいが、それでも俺の相棒は強いのだ。

 しかも、相棒。初めて会った頃よりも、オンフィスバエナの頃よりも、強くなっていた。

 少し前にその事をキリノに尋ねたところ、他の魔獣の禍を取り込んだのではないか、という返事が返ってきた。

 つまりは、魔獣を倒す度にプチは倒した魔獣の禍をその身に吸収し、力を増したという事であるらしい。

 東方三国で、プチに突然角が生えたのはそういう事かと納得する。

 ただまぁ、そんなプチよりも更にパワーアップしているアキマサの増強っぷりに呆れた。

 何の練習も、特訓も、修行もせずにパワーアップとかズルイ。


 だがしかーし。

 見ろ相棒。お前の糧となる魔獣が選り取りみどりだ。

 アイゼンを守って、相棒もパワーアップ。まさに一石二鳥だ。


 そんな事を考えて、ノリノリで参戦したのだが……。相棒よ、何も戦闘中に魔獣を喰わなくて良いんじゃないか?

 禍を取り込むって、そういう感じですか?

 俺はてっきり、アキマサの聖霊力みたいに空気中からスゥと吸収するもんだと思ってた。

 まさか直喰いとはたまげたなぁ。


 ほら、見ろ。アイゼン兵や傭兵達がドン引きしているじゃないか。


 そんな俺の嘆きをよそに、プチはガツガツと食事に勤しむのであった。



 プチのお食事中。戦場のど真ん中ではあるが、俺だけでは魔獣に勝てる筈もないし、退屈なので、ぼんやりと辺りの様子を観察する事にした

 相変わらず、問答無用で魔獣を蹴散らすアキマサの反対側。


 魔獣の集団を割って走る一台の馬車が見える。

 馬車は2人乗り程度の小さなタイプで、所々がボロボロに朽ちている。

 馬車どころか、それを引く馬も、馬を操る御者も三者三様にボロボロであった。というか骸骨だ。

 当然、生きた人間などではなく、キリノが何処からともなく召喚した悪魔であるらしい。


 召喚した当初。

 唐突に戦場へと降り立った骸骨馬車に、味方は驚愕した。

 そりゃあまぁ、骸骨が目の前に現れたら誰でもびっくりするよね。死神が迎えに来たって。


 そして、驚愕ついでに、一番近くにいたモミアゲ男が骸骨馬車に斬りかかったのである。

 傭兵だと言っていたので、モミアゲ男がここに居た事は別に驚きもしなかったが、……何というか、不幸な男だなぁと同情を覚えた。


 敵と勘違いし、骸骨馬車に斬りかかったモミアゲだったが、その剣は骸骨御者に素手、というか骨であっさり受け止められる。その様子を驚愕と諦めの境地で茫然と眺めていたモミアゲに向け、空いた腕で、チッチッチッと軽くあしらう骸骨御者。

 強者の余裕が見て取れる。


 そうやってモミアゲを小馬鹿にした後、骸骨御者は馬車を反転させて、そのまま魔獣への突撃を敢行。いつの間にか手に持った大鎌で魔獣の駆除を開始した。


 茫然と骸骨馬車を見ていたモミアゲだったが、骸骨馬車が味方と分かると、突然雄叫びを上げて、骸骨馬車に続けとばかりに周りを鼓舞し始めた。

 見ているだけでウザい程にやる気を出したモミアゲの様子に、当の召喚者キリノが、不快そうに眉をひそめた。



 一通り辺りを観戦して、足下に目を落とすとプチはまだ喰っていた。

 むしろ餌が増えていた。

 何故増えるんだと、訝しげにしていると、死んだ魔獣を引き摺った数名の兵が、魔獣の死体をプチの前に横たえた。

 成る程。お前らの仕業か。

 新しくやって来た餌に嬉々として齧り付くプチ。

 そうしている間にも次々と魔獣の亡骸がプチの元へと運ばれてくる。

 お前らはプチをどうしたいんだ?

 勝手に餌付けすんな!

 お前も嬉しそうに喰ってんじゃねぇ!


 沸々と沸き上がる怒りに任せ、ペチリとプチの頭を叩いた。


 そんな悲しそうにするんじゃない。時と場所を考えろ。

 とにかく、プチを叱りつけ、一旦食事を止めさせる。

 あ~あ、ほら見ろ。変な物馬鹿喰いするから犬歯が凄い事になってるじゃないか。こんなに尖って伸びちゃって、なにこれ凄い強そう。――――強そう!


 強そうなプチに俄然テンションの上がる俺。

 見れば、餌付けしていた兵達も何故か大喜びしている。結局何がしたかったんだお前らは……。

 しかしまぁ、パワーアップに協力してくれた事には感謝しよう。

 問題はどれだけ強くなったかである。


「さぁ、新生プチよ! 手に入れたその力、奴らにたっぷりと見せつけてやろうではないか!」

 プチの背に立ち、虚空に向けてビシッと指を差して叫んだ。


 俺の掛け声を受けたプチが、大きな咆哮を空に放ち、風の如き速さで戦場を駆け抜けた。


 俺を置き去りにして。



 アレだな。テーブルクロスの早引きみたいな感じだな。


 気付いた時には土台となる相棒が居なくなっていて、その突然の出来事に飛ぶ事も忘れ、大地に顔面から落下した。


 ぶつけた顔の痛みに身悶えしていると、カラカラと車輪の音を鳴らした骸骨馬車が俺の側までやって来た。

 何事かと、俺がそちらに目を向けると、おもむろに夜空を見上げた骸骨御者がビシッと虚空を指差した。


 そうして、俺が呆気に取られる中、指を差し終えた骸骨馬車は何事も無かったかの様に、再び戦場へと戻っていった。



 え? わざわざソレをやりに来たのか?



 うぜぇぇぇぇ―――!



 城壁の上で、キリノがほくそ笑んだ気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続きが気になった方は是非ブックマークを。ブクマでクオリティと更新速度が上がります(たぶん) script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ