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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
145/237

賢者のお供をするにあたってなの

『始まった様です』

 城の二階。開け放たれた窓から外を眺めていたアクアが言ったなの。

 遠くから聞こえてくる大砲の音で戦いが始まった事を察したなの。


「ナノは何をしたらいーなの?」


『特に何も……。強いて言えば、祈ってください。無事に乗り切れる様に』

 アクアにそー言われても、心がふわふわして落ち着かない。

 こんなにおーきな戦はナノは始めてなので、きっと緊張しているんだと思うなの。


 先代と別れる前、先代に『フレアを全力で守れ』と言われたので、ナノはフレアおばあちゃんを全力で守る意気込みなのだけれども、正直、何からどー守ればいーのか見当もつかないなの。


 分からない事を考えても分からないので、れいせーなナノはきっと緊張しているフレアおばあちゃんを落ち着けてあげよーと、フレアおばあちゃんの肩に座ってトントンしてあげた。


『ありがとう、ナノ』

 フレアおばあちゃんがにっこりと笑ってお礼を言って来たので、ナノもにっこりと返しておいたなの。

 こーいう時は、れいせーになるのが大事だと博識なナノは知っているなの。


 でもって、れいせーなナノは前線に行った先代達の様子がひじょーに気になって仕方無い。

 アキマサやアンやキリノが一緒なので、強いあの人達がいれば先代の心配はいらないなの。

 ただ、どーゆー状況なのか気になって気になって仕方無い。

 ナノは至ってれいせーだなのだけれども、ナノの知的好奇心はざわざわと落ち着いてくれないみたい。


 ナノの知的好奇心がざわざわしていると、クスッと小さく笑ったフレアおばあちゃんが、右手をゆっくり左右に動かしたなの。

 別にナノは面白い事はなんにもしてないなのだけれども、笑っているなら楽しい事なので深く考えなくてダイジョーブなの。


 笑ったフレアおばあちゃんに釣られてヘラヘラしていると、水晶玉が音も無く、すぅ~と部屋のテーブルまで一人でやって来たなの。

 生きている水晶玉を見るのは初めてなのだけれども、動じない強い心を持つナノはれいせーにその様子を見ていられたなの。


『少し見てみましょうか』

 そー言って、フレアおばあちゃんが水晶玉に近付いたので、「噛まない?」と聞いてみたなの。

 フレアおばあちゃんは少しキョトンとしていたなのだけれども、如何なる事態にも万全を期す事を心がけるナノとしては、生きている水晶玉の危険性を瞬時に見極め、フレアおばあちゃんが怪我をしない様に機転を利かせたなの。

 ああ、成る程。フレアおばあちゃんがキョトンとしているのは、不用意に近付いた自分の失敗と、ナノの瞬時の機転に驚いたからかな。心配しなくてもナノがいれば、その辺りは全然、全くダイジョーブなの。


 ナノは素早くフレアおばあちゃんの肩から飛び降りると、警戒心を保ちつつ水晶玉に近付いてみた。


 ――――ふぅ。どうやら危険は無い様なの。


 そう思った矢先、水晶玉がナノに向かってゴロリと傾いてナノを押し潰そうと画策して来たなの。

 しかし、ざ~んね~ん。れいせーなナノはそれすらもお見通し、想定内。

 傾く水晶玉に渾身のナノキックをお見舞いして差し上げたなの。

 強烈なナノキックを受けた水晶玉は、ピタリと動きを止め沈黙。

 生きる水晶玉がナノに完全に屈服した瞬間なの。


「わっはっはっはっ!」

 腰に手をあて、勝利の高笑い。

 そのまま後ろを振り返ると、口元に手をあてたフレアおばあちゃんが横を向いて俯いていたなの。


 しまったなの。ナノの技術は素人には目の毒であったなの。ナノが見せてしまった恐怖からか、フレアおばあちゃんの肩が小刻みに震えている。

 ナノの配慮が足りなかったなの。


「フレアおばあちゃん、ダイジョーブなのよ? もう心配無いなのよ?」

 安心させる為、そー声を掛ける。

 フレアおばあちゃんは、少しだけ間を空けてから『ええ、ありがとう。強いのねナノは』と言って誉めてくれた。


「当然なの!」

 ここでも強気の高笑い。


 そうして、ナノが高笑いをしていると、水晶玉がぼんやりと輝き出した。

 ハッ!

 まさか自爆!?

 慌てて殴りつけると、水晶玉の光がゆっくりと落ち着いていった。

 危ない危ない。油断も隙も無い奴だ。

 慌てて殴った手が痛いなの~。


 ジンジン痛む手を慰めていると、水晶玉の中に映像が浮かび上がってきた。

 ちょっとびっくりしてしまったなのだけれども、れいせーなナノは、あくまでもれいせーに対応してみせる。

 浮かび上がった映像を注視していると、見知った顔が映り込んできた。

 それは、先代であり、アキマサであり、アンであり、キリノであった。

 音は聞こえて来ないのなのだけれども、それでも見慣れた人達の顔を見て少しホッとした気がした。


 それにしても、コイツめ。遠視とは中々やる奴なの。

 映し出される先代達を見つめながら、水晶玉を誉めておいた。


『これと言って目立った被害が出ている様子もないし、このまま何事も無ければ良いんだけど』

 ナノと同じく、水晶玉に目を向けていたマトが誰にゆーでもなくそー口にした。


『にしても、凄いなアンさんは。土壇場で決まった総指揮役であったのに、他国の兵をああも使い回して』


『ふん! 我が国の兵が優秀なだけよ。頭が変わったからと言って力を発揮出来ない様な無能は、我が国にはいらないわ』


『リョーシカさぁ、素直に人を誉めるって事知らない訳?』


『うるさいわねぇ。あんたこそ何よアレ。夕食の間ずぅーとデレデレしちゃって、馬鹿じゃないの?』

 何故かそこから兄妹喧嘩が始まってしまったなのだけれども、フレアおばあちゃんもアクアも、止め様とはしないで、その様子を愉快そうに眺めているだけだったなの。変なの。


 横でうるさくされると、水晶玉に集中出来ないので、静かにするように文句を言おーとした。

 水晶玉から目を外し、二人に振り返ったと同時。


 アクアの頭に乗っていたカメちゃんが、カメちゃんのくせに、カメちゃんらしからぬ跳躍を見せ、あっけに取られるナノの目の前で体を大人の人間大におーきくした。カメちゃんが。


 そうして、カメちゃんがおーきくなって、狭くなった部屋の中に、ガキガキと甲高い音が響き渡ったなの。


 いつの間にか喧嘩をやめたマトとリョーシカが、互いに武器を構えてフレアおばあちゃんの前に立ち並んでいる。

 そんな二人の視線はカメちゃんの背後、ナノの位置からは見えない何かに注視されていた。


『私の結界を壊す事なく侵入してきますか』

 フレアおばあちゃんがマトとリョーシカと同じところに顔を向けて、そう言ったなの。何者かに向けて。


『うふふ、得意なのよ。忍び込むの』

 一見すると、カメちゃんが発した様に見えなくもないが、実際は背後の何者かが発した声だと思うなの。


 声の主を確認しようと、飛びあげかけた体を背後から握り締められる。

 降り向くと、不安そうな顔をしたアクアがナノをしっかりと抱き寄せていた。

 アクアの胸元へと抱き寄せられた事で視点が高くなり、そこでようやく、侵入者の姿を拝む事が出来た。


 紫色の長い髪を垂れ流し、尖った耳には幾つものピアスを付けて、全体的に布地の少ない衣服からは白い胸元と太股が大胆に露出している女の人だったなの。

 白い肌に栄える紫色の不健康そうな唇はきっと病気だからなの。

 そんな薄着だからきっと風邪なの。


『それにしても……。んふ、とぉっても硬いカメさんね。私の爪で傷すら付かないなんて』

 不健康な女の人が、長い爪をした右手をヒラヒラと泳がせながら、何だか妙に幸せそうにそう言って微笑んだ。

 攻撃が失敗して幸せそうにするなんて、変な人なの。

 不健康で変な人とか、早く帰って家で安静にするべきなの。

 そして、爪を切るなの。


『品の無い女ね。アクアお姉様を見習って欲しいわね。――――ってマト、あんた何ちょっと赤くなってんのよ!? 馬鹿じゃないの!?』


『今はどうでも良いだろ!』


『んふふ、ウブな王子様ね』


『ちょっと! あんたもマトに色目使ってんじゃないわよ! 大体あんた誰よ!?』

 リョーシカが荒い口調で、風邪ひき女にそう尋ねる。

 風邪ひき女は、微笑むと猫なで声でリョーシカの問い掛けに答えを返してきた。


『お姉さんのお名前はスピカ。序列7番の大悪魔スピカよ。宜しくね、お姫様』



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