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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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聖剣のお供をするにあたって・2

 『どうぞお通りください』


 高い塀に囲まれたアイゼン王国。その大門。

 大門を守る警備の一人がそう告げ、通行の許可をくれた。



 エディンを出発してから三日と半日。

 丁度、日が落ち、平原を暗闇が包み込んだ頃、アイゼン王国へと到着した勇者一行。

 そのまま、左右に篝火の設置された大門へと進む。


 大門前には数人の警備の兵がいたのだが、警備はこちらに顔を向けつつも特に警戒する様子も見せず、俺達を待っている風であった。

 その警備達の様子に、むしろこちらが若干戸惑いながらも、更に近付いていくと、警備の一人が声を掛けてきた。


『勇者様ご一行ですね?』


『え……あ、はい。そうです』

 彼らには何故か勇者バレしている様で、突然勇者かと尋ねられたアキマサが面食らいつつも肯定する。


『どうぞお通りください』

 それだけ確認すると、警備はあっさりと入国の許可を出した。



 アイゼンまでの道中、入国審査とか厳しいのかな~、などと考えていた俺は、あまりにも簡単に許可を寄越した警備に僅かながら困惑しつつも大門を潜り抜ける。


 あっさりし過ぎて不気味だ。罠なんて事は無いよな?

 前にも何処かでこんな事があった気がする。デジャ・ビュ?

 ちなみにその時は……いや、やめとこう。怖い顔したキリノが何だかこっちを睨んでいる気がするので……。



 大門を抜け、アイゼンの街へと入る。

 まず目に飛び込んできたのは、大門を抜けてすぐの広場。

 そして、その中央で水を湛える美しい噴水が入国者達を歓迎する様に設置されている。

 メインとなる真っ直ぐに奥へと伸びるタイル張りの通りは広く、道の随所に明りが灯っている。


 ここから見る限り、周囲の建物は上に高く、石造りや煉瓦造りが殆どで、それらが規則正しく建ち並んでいた。

 

 綺麗な国だなぁ、というのが俺の第一印象。エディンとはえらい違いである。

 

 

『随分、簡単に通してくれましたね……』

 アンも似たような感想を抱いたのか、街を歩きながら僅かに眉をしかめつつそう話す。


『そうですね。エディンから連絡でも来ていたんでしょうか?』と、アキマサ。


『どうでしょう? わたくし達はアイゼン行きが決まってすぐに出発致しましたから、それは無い様に思いますが……』

 アクアが顎に手を添えながら、アキマサの疑問に返す。


「おいおい、まさか罠ってオチじゃないだろうな? 街中で一網打尽なんて御免だぞ。大体なぁ、お前ら……」

 そこまで言って怖い顔したキリノと目があった。もう言わないでおこうと心に決める。


『流石にそれは無いと思いたいですが……。とにかく、城に出向くにしても今日はもう遅いですし、一晩どこかの宿に泊まって、城に行くのは明日ですね』

 そう話すアンの表情が少し楽しそうに見えた。

 罠かも知れない、などと心配する俺とは真逆と言っていいアンの様子に俺は小さな疑問符を点灯させるが、まぁ、確かに初対面の、まして国王相手にこんな時間に会いに行くのもどうかと思う。アンの提案を了承しておく。

 心配したところで周囲の警戒以外に対策など打てる訳でもないし。



『ではでは、早速食べに行きましょう! アイゼン焼き!』

 目を輝かせたアンが続けてそう言い放つ。


 それか。







 しばらく夜のメイン通りを歩き、アンが品定めする様に適当な店を探す。

 大きな国だけあって通りは人通りも多く、道行く人々がみな、こちらに興味津々といった視線をぶつけてくる。

 美女三人に妖精二匹、オマケとばかりに禍禍しい黒犬と頭の上の亀。目立たない訳がないので仕方無いと言えば仕方無いのだが、何とも居心地が悪い。


 人々の注目を集める中、『ここにしましょう!』と嬉しそうに一軒の店を手で示した。

 店の立て看板には大きな文字で【アイゼン焼き】と書かれており、おそらく決め手はこれだろうとアタリをつける。


 そんなに食べたいのか……。



 アキマサが左右両面に付けられた扉を押し開くと、上部に取り付けられた鈴が小気味良く響く。

 アキマサに続いて、俺達もぞろぞろと入店。

 ペット入店可とあったのでプチとタラスクも一緒に入った。何にも言わないでもそういう店を選ぶ辺りがアンらしい。仲間外れいくない。


 店の中は夕飯時という事もあって客で賑わっていたのだが、広い店であった為か待つ事もなく、直ぐにテーブルへと案内された。

 そして、テーブルに案内される僅かな時間にでさえ注目を集める一行。

 どうしたって目立つのはちょっと考えものである。



 席に着くと、全員分の水を店員が運んできた。

 店員は俺とナノを見るなり、一瞬だけギョッとした顔を見せたが、すぐにニコニコと営業スマイルに戻った。プロだな。


 ついでに、コップの数を見る限り、俺とナノも一人分としてカウントされているらしい。

 ただまぁ、相変わらず妖精サイズとは程遠い大きさである。

 周囲の客の視線が集まっているので、コップに頭から突っ込んで水を飲むのは自重する。

 だが、そんな俺とは違い、俺の横ではナノが頭を突っ込んで何故か顔を洗っていた。


 馬鹿なのかこの子は。

 そもそもナノに限らず、妖精の聖域(フェアルチェアリ)を出ない妖精に、マナー云々は有って無い様なものではあるのだが、だからと言ってこのままと言う訳にもいかないだろう。これからのナノの事を考えれば、そういった物も必要になってくるかも知れない。

 マナーなどはモン爺にでも頼んでおいおい学んでいかせようと誓う。

 今後、ナノがエディンに住むにしても、自分は目立つ、という自覚は必要だ。



 一方、

 おしぼりどころかコップの水で顔を洗うという荒業を披露したナノの真向かいの席では、アキマサの隣に座ったアンがメニューを指差しながらアキマサにあれこれと説明している。


 というのもアキマサは文字が読めないのだ。

 これは別にアキマサが特別アホという意味では勿論なく、単に異世界の文字が読み書き出来ないという話である。

 以前、アンがその事に触れ、『空いた時間に教えましょうか?』と、アキマサに尋ねていたが、肝心のアキマサはというと『困るのはこちらにいる間だけですから』と断ってしまっていた。


 こちらにいる間だけ。つまりアキマサはこちらの世界に留まるつもりは今のところ無いと言ってる様なモノである。

 アキマサにだって元の世界に家族や友人がいる。ゆえにその事について文句など在りはしないのだが、彼にはデリカシーというモノがまるで足りていない。

 その事を告げられた時の寂しそうな顔をしたアンを見て、俺はそんな感想を抱いた。


 あの返答がアキマサの照れ隠しだとはうっすらと気付いているが、そうだとしてもやはり配慮が足りない男である。


 もっともアキマサも、それを俺に言われたくはないだろうが、俺のは大体わざとだし? こう……ムードメーカー的な?

 うん、そういう事にしておこう。



 そんな事を考えながら、アキマサとアンをぼんやり眺めていると、『クリ様はどうしますかと?』と、アクアが声を掛けてきた。


「アクアと同じで良いよ」と返すと、『うっ、先に言われてしまいました』と、ばつの悪そうな顔でアクアが言った。


 どうやらアクアは俺と同じ物を頼むつもりであったらしい。

 多分、海中住まいのアクアはこういった店は不慣れなのであろう。


 安心しろ、俺もだ。


「じゃあ……肉料理にしようかな。折角だし一番高い奴で」

 値段も見ずに俺がパパッと決める。

 メニューなど見ても良く分からんのだ。


 当然だが、値段の有無や、美味しさに関わらず体の小さな俺は殆ど残すので料理の大半はプチの腹に収まってしまう。そう思うと贅沢な犬である。

 あまり良い肉食わせ過ぎて、舌が肥え過ぎなきゃいいけど……。


 そうして俺が相棒の贅沢さに若干の不安を抱いていると、『私もそれで!』と、何処かホッとした様なアクアが俺に乗っかる形で料理を決めてしまう。



 姫といっても色々だなぁ。田舎者臭いアクアを見てそんな事を思った。


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