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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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聖剣のお供をするにあたって

 見上げた空は遥か遠くまで広がり、雲は高く薄く流れ散る。

 ここ、南の大陸、妖精の聖域(フェアルチェアリ)を囲む森を抜けた先の平原は起伏が少ない。その為、北の山脈からの吹き下ろしの風は、その歩みを遮られる事なく広い平原を好き勝手に強く吹き抜ける。

 しかし、それが気候の暑い大陸の中で、ひんやりと心地よかったりもする。




 折れた聖剣の話し合いの場で思い出したのは、世界から姿を消した竜王ザ・ワンの生きた証。

 かの竜王は世界に二つの証を残した。


 ひとつ目は、その牙より作られた同じ名を持つ聖剣絶対王者(ザ・ワン)


 二つ目は、亜人の英雄クゥ・ド・エテに竜王より与えられた孫の証。竜王の御守りである。


 魔王の呪いに対抗出来る唯一無二の絶対の白であるそれらは、魔王討伐に於いて無くてはならない物となっている。

 まして、竜王亡き今、その二つだけが現存する絶対の白である。その貴重さは推して知るべし。


 にも関わらず、その内のひとつは実質ほぼ失われた状態にまで陥ってしまった。それがどこの誰のせいとは言わないが。




 そんな苦境の中、僅かな希望を胸に俺達が向かっている先は、南の大陸の東に位置するアイゼンという名の王国。


 ここはかつてマロンの友人が統治していた国である。と言っても、かの人物が国王であったのは400年近く前の事。


 そんなアイゼン王国に向かうのは、当然理由がある。


 400年前にアイゼン王国を統治していた時の王ミラ・アイゼンベルグには世継ぎが居なかった。

 彼は妻を持たず、生涯独身を貫き、独り身のままその人生を終えたのだそうだ。


 マロンの中に居た為、彼の想いは知っている。

 勿論その事が、彼が生涯独り身である理由だとするのは、俺の考え過ぎかも知れない。彼の本心は彼自身にしか分からないのだから。


 だが、それでも俺は生涯独り身で過ごした彼の気持ちを考えられずにはいられなかった。


 俺や妖精達が感じる家族愛でも、ロゼフリートやクゥの持つ友情でもない。

 1人の男が1人の女を生涯想い続けた事に、少しの嬉しさと、何とも言い表せない虚無感を感じるのである。



 そんな、子のいない彼が次の国王へと指名したのはシャグナー・ロゼフリート。400年前に当時の魔王討伐を果たし、亜人の地位向上に大きく貢献した二代目の勇者である。


 そして、向かうアイゼン王国には、勇者ロゼフリートの子孫が、代を重ね、今も国を統治し続けているのだという。


 いや、正確には勇者だけじゃない。

 その子孫達は、勇者の他に亜人の血も受け継いでいる。


 それは、今は無き戦士の一族。亜人エテ族の血脈。


 アイゼン王国現国王の名はライム・ド・ロゼフリート。

 勇者と英雄、二つの血を継ぐ者である。


 


 俺がクゥちゃんの御守りの話をした時に、『そういう事ならばあそこしかありません』と、アクアが助言した国こそアイゼン王国であった。


 マロンもあの二人をくっつけたがっていたし、ロゼフリートとクゥちゃんの子孫がいる事には然程驚かなかったのだが、まさか国を統治しているとは思ってもみなかった。


 基本的に偉そうな奴が嫌い、かつ偉い奴を苦手とする俺はそれを聞いた時、アイゼン王国に行く事に対して、少しの抵抗を覚えた。

 

 しかし、所在がハッキリしている分、御守りを探す手間が省けたと言えるだろう。残っていればの話だが。





 そんなこんなで若干渋りながらもアイゼン王国へと出発した訳だが、森を抜けるまで半日、そこから王国到着まで三日掛かるとアクアに告げられた時に、俺は全てのヤル気を失った。


 今は出発初日の昼過ぎ。森を抜けたばかりである。

 ヤル気を失った俺は出発早々にプチの背中へと乗り、ダラダラと空を眺めて過ごしていた。



『森の外に出るのは初めてなの! 何だかドキドキするなの!』

 平原に時折吹く強い風に乗り、クルクルと宙を舞いながらナノが言う。


「お前なんでついて来たんだよ?」


『良いでしょ別に、なの!』

 何が楽しいのか愉快そうに宙を縦横無尽に飛び回るナノが、ケチケチするななの! と空に向けて叫ぶ。


『楽しそうですねナノ様。かく言うわたくしも森から東に行くのは久しぶりなのでちょっとワクワクしてますけど』

 空を舞うナノに目を向けながら、アクアが微笑む。


「悪いな、付き合わせて」


『いいえ。出発前にも言いましたが、アイゼンに行くにしても知る者が居た方が話もスムーズでしょうから』

 そう話すアクアの頭の上で、小さな亀が自慢気にプシューと鼻を鳴らした。


 何で君はタラスクを頭の上に飾り付けているの?

 まぁ、平原は日陰なくて暑いからな。帽子と思えば……。いや、やっぱ無いわ。これは無い。

 

 俺がアクアの頭に陣取るタラスクに目を奪われていると、横のアキマサがアクアに話し掛ける。

『勇者と英雄の子孫が居るんですよね? 楽しみだな~。どんな方なんですか、そのライム国王と云うのは?』

 アキマサが興味津々と云った様子でアクアに尋ねる。


『立派なお方ですよ。大変優しく物腰も柔らかい、それでいて威厳も持ち合わせております。歳は確か40前後だったかと。わたくしもライム国王と会うのは4年ぶりですが、変わらずお元気にしておられるでしょう。

 そうそう。ライム国王には双子の御子息、御息女が1人づつおられます。4年も経っておりますし、さぞ大きくなられた事でしょうねぇ』

 目を細め、懐かしそうに遠くを見るアクア。


『国王御一家にお会いするのも楽しみだけど、やはりアイゼンと言えばアレだよね? キリノ』とアン。


『噂に名高いアイゼン焼き』キリノが返す。

 

『うんうん。一度は食べてみたいと思っていたけど、まさかこんな所でチャンスに恵まれるとは』

 待ちきれないと云った風のアンが言う。

 アイゼン焼きというのは多分、アイゼンの名物料理だろう。無限の胃袋を持つキリノが食い付きそうなネタである。



「何でも良いけど、三日は遠いよなぁ。なぁ相棒?」

 アイゼンについてあれやこれやと楽しそうに語り会うアキマサ達を余所に、俺はプチに向け、そう愚痴を溢した。





 アイゼンまでの道中、俺はいたって平和であった。俺は。


 初日は特に変わった事も起こらず終わる退屈な一日であった。


 2日目は、三度ほど魔獣の襲来を受けたが、俺は特にやる事もないのでプチの背中で見学。

 アキマサが大型の猫の魔獣をやぁ! と素手で倒し、アンが豚の魔獣をとぅ! と切り伏せ、キリノがベヒーモスと呼ばれる家程もあるゴツい魔獣を無言で粉々にした。


 ナノは、人の親指程の石ころを空中から投下して、戦ってるつもりを演出し、投下したその全ての石をアキマサの頭に当てた。



 緑の草が生い茂る平原を更地にする事など屁とも思わないキリノも大概であったが、中でも酷かったのはアクアであろう。


 三度目の遭遇時、こちらを目指し疾走する魔獣を目にしたアクアが『わたくしも』とパーティーの先頭に進み出た。

 それから、おもむろに頭の上のタラスクを掴むと、『タラスク様、お願いします!』と叫び、石切のフォームでタラスクを魔獣目掛けて投げつけたのだ。


 甲羅を逆さに、数度地面をバウンドしたタラスクがその身体を巨大化させる。

 巨大化したタラスクは投げ出された勢いそのままに、地面をガリガリ削りながら、行く手にいた魔獣全てを粉砕。尚もしばらく地面を抉った後、ズズーンと地響きを轟かせて止まった。


 アクアがタラスクを小さくし、回収した後には、緑など最初から存在していなかったかの様な、削れた茶色の大地が直線を描き広がっていた。

 その後、アクアはタラスクを両手に乗せ、笑顔で『流石タラスク様です』と手の平の小さな亀を誉めた。


 普通、様まで付けて敬うモノを投げたりはしない。

 アクアは、このパーティーでは比較的常識人だと思っていたが、俺の気のせいだった様だ。


 


 アイゼン王国に着いたのはその翌日。森を抜けて三日目の夕刻の事であった。


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