表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
131/237

亜人のお供をするにあたって・22

 正直言えば、ズルい、と思った。理不尽だと。


 話を有耶無耶にするどころか、始めから無かった事にした事がだ。

 こうして真実から目を背け続けて何になると言うのだろう。

 今はこうして強引に事を終わらせたが、じゃあ次は?

 また同じ様な状況になったら、また同じ様に無かった事にするのか?

 

 それが正しいとは到底思わないし、思えない。

 やれ精神論だ、根性論だを語るつもりはないが、人は壁を乗り越えて強くなるのではないか? そこに絆が生まれるんじゃないか?

 そう自分に問い掛ける。



 知った事か。

 俺は我が儘だからな、やりたい様にやる。

 そこに正義も正統性も必要ない。全部俺の我が儘だ。



『聖剣ってそもそも誰が作ったんですか?』

 俺が、言い訳がましく理由をつける自身の腐った性根を前にして自己嫌悪に陥っていると、アキマサが絶対王者(ザ・ワン)について尋ねてきた。


『誰……なんでしょうね?』と、アン。一拍置いて『おとぎ話では竜王の牙から作られたと語られていますが、作った人物には触れられていません』


『おとぎ話?』


『あ~、こっちのおとぎ話なんてアキマサさんは知らないですよね。こちらには勇者の物語という、いくつものおとぎ話があるんです。その1つが、勇者と竜王のお話で、それは聖剣にまつわる物語なんです』


『ナノも知ってるなの!』


『わたくしも。小さい頃に良くお母様が話して下さいました』

 ナノとアクアが愉快そうに話す。


 まぁ、この世界の者なら大抵が知っているだろう。文献とかそういう小難しい事ではなく、世界共通の寝物語として勇者の物語は語り継がれて来た。


『有名なお話なんですね。それで、どう云った話なんでしょう?』


『短く言ってしまえば、勇者と竜王の戦いのお話です。勇者が魔王を退治する為の旅の途中で、とある村に立ち寄った所から物語は始まります』


 そう話したアンが、子供にでも読み聞かせる様にゆっくりと物語を語り始めた。





 遠い昔の勇者のおはなし。


 勇者は旅の途中で、小さな村にたどり着きました。

 勇者が村の中に入ると、村人たちが泣いています。

「おや、どうかしたのですか?」 勇者がわけを尋ねました。

「聞いて下さい旅の人。実はこの村に一匹の竜がやって来て、こう言いました『この村に花嫁を探しに来た。若くて綺麗な娘を差し出せ。さもなくばこの村を全て焼いてしまうぞ』と。ああ、それを聞いた私の一人娘が村の為にと、竜に連れて行かれてしまったのです」

 そう言って村人はまた泣きました。

「それは大変だぞ! 私がすぐに助けてあげましょう!」

 話を聞いた勇者は急いで竜の棲む山へと向かいました。


 ところが、それを聞いた竜は怒って、子分達に勇者を追い返す様に命令します。

「勇者め! 竜王様の命令でお前をここから先には進ませないぞ!」

 竜の子分達は、勇者の邪魔をします。

「私は負けないぞ!」

 勇者はエイッ! と子分達を力いっぱい投げ飛ばし、あっという間にやっつけてしまいました。


 そうして険しい山を越え、勇者は竜の棲む山のてっぺんにたどり着きます。

 たどり着いた山のてっぺんにはとても大きな竜が一匹、勇者を待ち受けていました。

「人々を苦しめる悪い竜め! 私が退治してくれる!」

「ハハハ! 勇者よ! この竜王に勝てるかな!?」

 竜王は翼を広げて空を飛び、口から火を噴き出して勇者を苦しめます。

 竜王はどんどん火を噴き、辺りは火の海です。


 その時です。

「きゃああ! 熱い! 誰か助けて!」

 勇者が声をした方を見ると、さらわれた村の娘が火に閉じ込められて熱い熱いと泣いていました。

「いけない! 今、助けてあげるよ!」

 勇者は勇気を振り絞り火の中に飛び込みました。


 そうして間一髪のところで、勇者は娘を助ける事が出来ました。

 しかし、火はまだ消えたわけでは在りません。


「空を飛んでいるからアイツを捕まえられない。どうしたら良いんだろう」

 勇者は困ってしまいました。これでは竜王を退治する事が出来ないからです。


「そうだ、良い事を思い出したぞ! 妖精に貰った空飛ぶ魔法の粉があったんだ!」

 勇者はすぐに魔法の粉を体に振りかけました。


 そうすると、勇者の体がふわふわと浮き上がったのです。


「ようし! これなら竜王を退治する事が出来るぞ!」

 勇者は火を飛び越えると、竜王目掛けて一直線に飛びます。

 それから勇者は竜王の背中に捕まり、その翼をぐるぐると縛ってしまいました。

 翼をぐるぐる巻きにされてしまった竜王はそのまま地面に落ちてしまいます。


「う~ん、参った。降参だ。勇者の勇気と知恵には叶わない」

「もう悪さをするんじゃないぞ」

 勇者は竜王に優しくそう言います。竜王はもう悪い事はしないと勇者と約束しました。


「おや? これは何だろう?」

 勇者が地面に落ちている大きな牙を見つけました。

 それは、地面に落ちた時に折れてしまった竜王の牙でした。

 勇者が牙を手に取ると、牙が光り始めました。

 牙はみるみる内に、一本の白い剣になりました。

「やや、これは一体どういう事だろう?」

 不思議な剣に勇者が首を傾げます。


「それは魔王を倒す為の聖剣です」

 娘が言いました。

 勇者が驚きます。

「なんだって。それは凄い剣を手に入れたぞ!」


 こうして聖剣を手に入れた勇者は、また次の冒険に出掛けたのでした。




『と、まぁこんな感じのお話です』

 語り終えたアンが優しく微笑んだ。


『手に汗握る戦いだったなの』と、ナノ。


 どこがだよ。

 とりあえず心の中で突っ込んでおく。


『このお話に出てくる魔法の粉とは、この話の前の勇者の冒険に出てくる妖精から貰ったものです。困っている妖精を勇者が助けて、そのお礼に貰うんです。それから、このお話に出てくる娘はこの話以降、勇者と一緒に旅する事になるんですが、最後に魔王を倒して二人が結ばれるところで勇者の冒険は終わります』

 


『素敵なお話ですよね。小さい頃は、強くて優しくて勇気のある勇者に憧れたりしました』

 アクアが頬に手を当て、ほぅと小さく吐息を漏らした。


『あ、アクアさんもですか。私もその口です。私のピンチに勇者が駆け付けて来ないかな~なんて想像して楽しんでました』

 アンとアクアがそう言い、勇者のここが素敵、あのお話が好きだのと、幼少の憧れ勇者様についてを楽しそうに乙女トークし始めた。

 どっちも乙女って歳じゃないけど、口に出したら恐いので黙っておく。


 それから、乙女二人から目を外し、横のアキマサに「ニヤニヤしてるとこ悪いがお前じゃないぞアキマサ」と言ってやる。


『……分かってますよ言わなくたって』

 俺が優し~く指摘してやると、途端にちょっと不機嫌になるアキマサ。


『でも、不思議なモノですよね。物語の勇者がこうして目の前に居るというのは』

 僅かに目を細めたアクアがアキマサに目を向けながら呟く様にして言葉を紡いだ。




「二次元の勇者が三次元に飛び出して嬉しいのは分かるが、肝心の聖剣を作ったのは誰かと云う話はなんにも進んでないぞ」


『これってどうにかくっつかないんですかね? こうピタッと』

 アキマサが柄と刃をそれぞれ両手に持ち、折れた箇所を合わせる素振りを見せながらそんな事を聞いてくる。


「さぁな。俺にそういう知識は―――」


『どうかしました?』


「いや、――――モン爺。悪いけどシグルスをここに連れて来てくれないか? シグルスの意見が聞きたい」


『そうですな。物作りならば彼に聞くのが一番ですかな。すぐに呼んで参ります』

 モン爺はそれだけ言うと、足早に部屋を後にした。



『誰です?』


「エディンの職人を束ねる親方さんだ。この村の物は大抵、彼らが作ってるんだそうだ」


『なるほど。本職の方なら直す方法も知ってるかもしれませんね』


「と言っても聖剣だからなぁ。いくら本職ったって、そう簡単に手を出せるシロモノとは思えないが、……だがまだヒント位は見付かるかもと思ってな」

 小さく頭を掻きつつそう話した後、アキマサの持つ聖剣に目をやる。


「いっそ鼻糞でも付けてみるか? くっつくかもよ」


『汚い』

『汚いです』

『汚いですよ』

『汚いなの』

『死ね』



「……冗談だろ。そんな声揃えて言わなくたって……」


 いや、というか死ねって酷くない? 


 キリノの酷い暴言を背中で受けつつ、シグルスの到着を待つのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続きが気になった方は是非ブックマークを。ブクマでクオリティと更新速度が上がります(たぶん) script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ