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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
130/237

亜人のお供をするにあたって・21

紅蒼の命剣(クリムゾンマナン)は魔剣でした。おしまい」


『横から茶々を入れないで下さいよ』

 勝手に話を完結させた俺に、アンが唇を尖らせ抗議してきた。


「いやいや待て待て。そうは言うが、それを聞いてしまったら俺達も話さなきゃいけない空気が出来上がってしまうではないか。俺は話すとは言ってないぞ」

『良いじゃないですか話せば』

「話したくないから止めたんだ。それに聞くまでもなくキリノは知ってるし、実は俺も薄々気付いてる。というよりさっきのアンの言葉で十中八九どういう話をしようとしたのか見当がついた。だから、それを聞くメリットはない。多分、うちのメンバーで知らないのはアキマサだけだ」

 急に自分の事を言われたアキマサが少し困惑した顔を見せ、『すいません』と謝ってきた。


「別に謝る事じゃないが……。お前の事だ、聞いたら多分アンをパーティーから外しかねない。アンもその辺り理解してるのか?」

 ややキツい口調でアンに尋ねる。

 言われたアンは『それは……』と口ごもった。

 今、アンが話そうとした事は、アキマサにとって簡単に納得出来る事ではないと俺は踏んでいる。


「キリノの事にしたってそうだ。簡単に話せるなら、少なくともアンには話してる筈だ。それを無理に聞き出す様な空気を作るんじゃない」

 自分でキリノを巻き込んでおいて、自分で擁護するのだから世話ないなと思う。


『何故ですか? それはお互いに心から信頼していないからですか? 私は皆を信頼していますし、どんな秘密を打ち明けられようと受け入れる自信があります』

 眉をきつく上げたアンが反論する。

 彼女にとって信用や信頼とは、何でも打ち明けられる事が出来、また、それを受け入れる間柄。そういう事を指すのであろう。

 それが間違っているとは言わない。

 ただ、受け入れる、というのは口にするのは簡単だが、心や感情なんてものはそう簡単に割り切れるものじゃない。


「信頼してるしてないの話じゃないだろ。うちのメンバーは全員が全員を信頼してる。ここまで命懸けで旅して来たんだ。そんな事は口に出さずとも分かりきった事だ」

『それなら「だが」

 反論しようするアンの言葉を遮り、続ける。


「その信頼と、隠し事を話せる云々は別の話だ。これは既に周知されているので言うが、確かに俺は妖精王だった。800年以上も前の話だが事実だ。

 その上で、――――例えばだが、俺が過去に何万もの人間を殺した大量殺戮者だったと告白したら、お前はどうする? 今後俺とどう付き合う?」


『それ……それは……』アンが言い淀んだのでもう少し押してみる。


「お前はそんな俺を受け入れられるか? 俺は戦闘には参加しないが、俺に背中を預けられるか? 安心して俺に背中を見せられるか?」


『受け入れます! 預けられます! 過去がどうであれ大切なのは今だと思います。私の知ってるクリさんは信頼に足る方です』

 アンが力強くそう返す。

 たが、そうは言うがアンは単にムキになっているだけだろうと思う。

 人の心はそんなに簡単じゃない。

 そもそもそれは俺に言ってるのか?

 そう口にする事で自分に言い聞かせてるだけじゃないか?

 ――――まぁ、どうであれ、それを口に出したのだからキチンと受け止めて貰おうじゃないか。



「ふ~ん、言い切ったな? そこまで言うなら俺から話してやる」

 唐突な俺の言葉にアンの肩が僅かに震えた。構わず続ける。


「さっき例えばと言ったがあれは嘘だ。俺はずっと昔に人間も亜人も平等に皆殺しにした過去がある。ああ、それこそまさに平等にだ。男も女も子供も年寄りも病人も怪我人も全部等しく、同じく、区別なく」

 俺の告白にその場に居た全員が絶句する。


「その時の俺の肩書きは魔王だ。魔王モンブランと云う名で世界を絶望に叩き落とした。それが俺だ」

 彫像の様に感情のこもらない笑みを刻んだまま俺がそう吐き捨てる。


 アンだけでなく、その場に居た全員が俺の言葉に何らかの感情を抱いたのは間違いないだろうが、みな一様に顔を強張らせるだけで内心何を考えているのか全く表に出てきていない。



『それは事実ですか?』

 俺の発言を頭の中で咀嚼し、吟味し、一番最初に口を開いたのは意外にもアキマサであった。

 いや、アキマサだったからこそかも知れない。

 彼は元々異世界の住民。この世界の歴史も背景も、彼には少し遠い世界の存在だと感じられるのだろう。そう思えばショックも他の者よりは軽くて済んだ筈である。


「事実かと聞かれたら答えるしかあるまい。――――嘘です。ごめんなさい」

 フッと鼻で笑ってニヒルに微笑んで言っておく。謝罪したいのかカッコつけたいのか自分でも良く分からない。


『……悪い冗談は止めて下さいよ』

 アキマサが眉を細め、困った様に小さく笑う。

 本当なのか嘘なのか、嘘と言ったのが嘘なのか、普段の俺の言動もあって判断つきかねているのだろう。

 次いで、順に各々の顔を見渡す。

 ナノは意味が分からないと言った風に小首を傾げ、アクアやモン爺は顔が青ざめて茫然としている。

 キリノは相変わらず無表情で、それが逆に恐い。

 アンは唇を咬む様に固く口を閉じ、今にも泣き出しそうな表情で俺を見つめていた。



 ああ、そうだな。アキマサの言う通り悪い冗談だ。実に滑稽だ。バカさ加減に、本気で泣きたくなってきた。


「どういう答えであれ気持ちの良いものじゃないだろ?」

 自分が嘘をついた事を悪びれもせず、半ば開き直りで問い掛ける。


 しかし、俺の問い掛けに誰も口を開こうとはしなかった。

 ちゃんと俺の声が届いてるのか、言葉は通じているのかと心配になる。


 頭が真っ白なら真っ白で構わないけどね。


 みなが石像の様に固まる中、俺は炉に貯まった灰を両の手で無造作に握る。火は入っていない。


 なぁアン、お前は間違っちゃいない。


 そうやって誰しも心を開いて、誰しも受け入れる。――――ああ、それはきっと凄く優しい世界なんだろう。少なくとも俺はそう思うよ。

 きっとアンなら、傷ついても苦しくても泣いてしまっても、最後には受け止めてくれるんだろうさ。

 だからなぁ、その考え方を変える必要なんかないよ。

 そのまま優しいアンで居てくれ。

 俺は長生きしたせいか考えが凝り固まってひねくれてしまってどうにもならないんだ。


 あと、――――悪いな、ムキになってるのは俺もみたいだ。



 灰を握りしめゆっくりと宙へ浮き上がる俺に気付いたアキマサが、口を動かすより早く、俺は両手の灰を辺りに撒き散らした。


 続けて、両手を打ち合わせる。灰の舞い飛ぶ部屋に乾いた音が響いた。




『うわ! ちょっとクリさん! 何するんですか?』

 灰を顔面にモロに被ったアキマサが抗議の声を上げた。


「うるせぇ。酒飲んで醜態さらした罰だ」


『クリさん、人様のお家ですよ?』

 呆れたと云った表情のアンが宙に撒き散らされた灰を手で払う様にして文句を言ってきた。


『いえいえ、然程の量ではありませんから』とモン爺。


『ナノは関係ないなの』

 灰を鬱陶しそうに眺めながらナノが言い『あれ? ナノちゃんいつの間に来たんですか?』とアンが尋ねた。


『……さぁなの?』

 自分でも良く分からないのだろう。ナノが小首を傾げて頭にクエスチョンマークを点灯し、続けて、

『ところでみんなで集まって何の話をしていたなの?』



「折れた聖剣をどうするかつぅー話だよ。それ以外に(・・・・・)何があるんだよ」


 俺は小さく笑ってそう答えた。



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