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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅰ章【お供になるまで】
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仮面のお供をするにあたって

 本来ならば人と建物の織り成す情景をまぶたの裏に克明に焼き付けて、それらを包むその地域特有の空気を肌で感じ、住まう人々との未知でそれでいて心踊る様な触れ合いを体験したいところだが、21にも及ぶ壮大な拒否理由をあえて一行、いや一言、「面倒そうだ」と凝縮させた言葉に乗せて吐き出した。


『そんな事言わずにお願いします!』

 不安を顔の全面に塗り固め、俺の拒否発言を受けたアキマサが、両の手の平を合せながら懇願してくる。


「そうは言うがな、俺達があそこに行くと色々大変なんだよ」

 一言にまとめた言葉では彼の不安を上回る程の説得力を得られなかった様なので、結局は一つ一つ紐解いて、納得するまで説明しなければいけないのだろう。

 それがもう既に面倒くさい。


 この通り! と俺を拝むアキマサの背後。まだ少し距離はあるものの、草木の茂る平原の中にあって場違いなまでの高い塀が左右に広がっている。

 見るからに、蟻んこ一匹の侵入すらも拒むであろうその堅固な石壁の向こうには大きな建物や城なんかが並んでいるに違いない。

 違いないが見た事はない。


 盗賊退治をしたのが3日前。

 あの後、死んだ盗賊達の事は村人達に丸投げして、お礼という大義名分を笠にきた盗賊紛いの物資要求を企てた。

 その結果得られた物は、当初の予定通り、奇抜で珍妙な大変目立つ格好をしたアキマサの為の服と、僅かばかりのお金であった。

 貰う物もらったらもはや村になど用は無い。

 ガチャガチャと煩くなる前にさっさと村を出発して、ようやく辿り着いた場所こそ、目的地バルド王国である。

 目的地到着。

 まだ王国内に入った訳ではないので正確にはその目と鼻の先にいる訳だが、俺は最初から入国などするつもりはなかった。


 理由は色々。24個程ある。

 家の鍵閉めたか心配になったとか、森が恋しくなったとか、畑仕事しなきゃいけないとか――――。まぁそんな感じで29個程あるので、俺の迷子案内はここまで。

 アキマサが異世界人だろうが子供ではないのだ。まさか見えている壁を目指すだけの簡単な道を迷ったりはすまい。


「という訳で、俺は帰るぞ? じゃあな。楽しかったよ」

 そう言ってさっさと踵を返す俺を、正確にはプチをアキマサが必死に押し止める。


『待って下さいよ! 本当に!』

 溜め息をついた後、アキマサへと顔を向ける。


「あのなぁ、子供じゃないんだから」

『分かってますけど、一人じゃ不安なんですよ!』

「不安なのは解らなくもないが、俺達は、―――――と言うかプチは王国には入れんのだ。大人しかろう可愛かろうが魔獣は魔獣。いくら頼まれても無理なもんは無理なんだ」

『大丈夫です! 俺の魔獣使い設定は健在です!』

「いや、小さな村ならともかく王国では無理だって」

『そんなの! 試してみないと分からないじゃないですか!?』

 体躯の大きなプチにズルズルと引き摺られ、されど掴んだ手を離す事なくアキマサが食い下がる。


「試して、駄目、だけで済んだら良いが、下手をすると殺しに来るやもしれんだろ? 用事もないバルド王国に入る為だけにそんな危ない橋は渡れんよ」

『そこを! そこをなんとか!』

「なんともならんな」

『お願いします!』

「やだ」

『お願いします!』

「やだ」


 そこからしばらく不毛な押し問答が始まる。

 お願いしますを連呼しながらプチの脚にすがり付くアキマサではあるが、如何せん体格さがある為かプチは涼しい顔でズンズンと帰路への道を突き進んでいく。

 そうやって、アキマサの足が描く二本の線が30メートル程になったところでプチの歩みを止めさせた。


「このまままた森に帰るつもりか?」

『それだとここまで来た意味が無くなってしまいますが、俺を一人残してクリさん達が帰るというなら、それもやむ無し、と思う訳ですよ』

 一度帰って出直しましょう。つまりはそう言ってる訳か? 冗談ではない。さしあたってやる事もない森でののんびりライフではあるが、だからといってまた出直すなど面倒くさくて仕方無い。


「……分かったよ。とりあえず門までな。確実に追い返されるだろうけど、そこまで行ったら後は自分でどうにかしろ」

 大きな溜め息の後、プチの脚にへばりつくアキマサに向けて告げた。


『ありがとうございますー!』

 満面の笑みで返してくるアキマサの表情に、もう一度大きな溜め息で返した。








『おい! そこで止まれ!』

 王国の門の形がハッキリと見え始めた頃、以前として門までは距離がある位置にてそう告げられた。

 告げてきたのは門番の様で、槍や剣などを持った何人かの兵士が遠巻きからこちらを見据えている。

 言われた通りそこで止まる。

 案の定な展開に辟易しつつもしばらく待っていると、三人の兵士が門から離れ、こちらへと歩み寄ってきた。


『お前、魔獣なんかを連れて一体ここに何しに来た!?』

 怒鳴る様な口調で兵士がアキマサへと言葉をぶつける。


『あ、えっ……と、ちょっと道に迷ってしまいまして』から始まり、アキマサが王国へ入りたい旨を伝える。

 俺は喋らないから。と事前にアキマサには伝えてあるので兵士の相手はアキマサ一人でこなす。

 ただでさえ恐れられる魔獣。ましてそれが人語を介すなど大騒ぎの元にしかならないし、俺も人前に姿を見せるつもりはない。


『お前、名前は?』

 アキマサの話が終わると兵士が尋ねてくる。


『アキマサです。人呼んで魔獣使いのアキマサ』

 若干照れの入った声色でアキマサが名を告げる。

 人呼んでも何も誰もそんな名など知らないし、呼んでない。知ってる訳がない。


『知らん』

 バッサリと言い捨てて兵士がアキマサを睨みつける。

 そんな兵士の様子に縮こまる、人呼んで魔獣使いの小心者。

 うん。だろうね。知らない事を知ってた。


『魔獣使いだか何だか知らんが、ここは大国バルド王国。冒険者ならばいざ知らず、魔獣を従えるなどという怪しい奴を簡単に……』

 怒気を孕んだ兵士の言葉ではあったが、彼は不自然な様子で言葉を終わらせてしまう。

 簡単に――――何?


『通れ』

 は?


『今回は特別だ』

 そう言って、兵士は親指でクイッと背後の門を示し、入国の許可を寄越したのである。

 どうやら、簡単に通します、と言いたかった様だ。


 そんなアホな。

 一体どうして許可が出たのかと困惑する俺。

 そんな俺の横では、ドヤッと満面の笑みでこちらに目配せするアキマサ。人呼んでドヤ顔のアキマサ。

 プチは興味がなさそうに大きな欠伸をしていた。


 良く分からないまま、兵士の後に続く様にして門へと向かう。

 俺はずっとプチの体毛に隠れたままであるが、ジロジロとこちらを品定めする様な幾つもの兵士の目に理由の判らない居心地の悪さを覚えた。

 アキマサのアホ面がなんとも腹立たしい。


『お前、バルド王国に来るのは初めてか?』

 門への短い道中、一人の兵士が尋ねてくる。


『はい、初めてです』

『そうか。まぁ、くれぐれも騒ぎを起こすんじゃないぞ』

『はい!』

 当初の不安はどこへやら。アキマサがニコニコと元気よく返す。

 何故に入国の許可が出たのか、元々から王国はさほど厳しくないのか。その辺りは俺も来た事が無いので判らないが、どう考えても俺とプチは要らなかったと思う。それだけは分かった。

 なので、俺達は入国せずにこのまま帰ってしまいたかったのだが、如何せん周りを兵士が取り囲んでいる為に姿を隠したままでそれをアキマサに伝える手段が無かった。

 そうして、伝える術に悩みダラダラと進む内に、入国は目前へと迫ってしまった。


『金はあるのか?』

『少しですが……』

『なら、宿を紹介してやるからそこに泊まるといい。ここからの地図も描いてやろう。少し待ってろ』

 口調は淡々と、まるで本でも読むようにそう言った兵士が、門の横に建っていた詰所へと入っていった。一旦足を止めて待つ。

 そうして、さほどの時間を掛けず、すぐに戻って来た兵士がアキマサに何かを手渡した。おそらく地図だろう。

 アキマサが礼を述べ、再びぞろぞろと歩き出す。


 こうして、突然許しの出た融和な入国審査と、棒読みでぎこちない兵士の優しい気遣いを受けて、俺達は大国バルド王国への入国を果たしたのである。


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