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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
128/237

亜人のお供をするにあたって・19

 翌朝。

 俺は村の外れにある湖へと足を伸ばした。


 妖精の聖域(フェアルチェアリ)を含む、ここ南の大陸の広大な森には幾つかの河川が広がっていて、それらの河川はこの湖へと通じている。

 湖で合流した水源は一つの大きな川となり、川の終着点である海へと通じる。

 そんな循環する水の中継地として存在する湖も含め、河川は亜人達の生活用水となっている。



 湖へと辿り着いた俺は亜人達と挨拶を交わす。

 宴の成果もあってか昨日までのガチガチな対応よりは幾分緩和している様に思う。

 楽し気に声を掛けてくる亜人達の様子からそう感じる。


 この湖ですれ違う亜人の殆どはリザードマンやフロッグと呼ばれるカエル型の亜人であった。

 リザードマンはトカゲ、フロッグはカエルを彷彿させる容姿をしているのだが、フロッグは光子の洞窟で見たギトよりもカエルらしい姿をしていた。

 ギトはカエル顔の子供と言った感じだったが、フロッグはカエルを二足歩行にしたらこんな感じなんだろう、と言った姿だ。


 そう言えば、と、昨日宴の時に挨拶へとやって来た歳老いたリザードマンが湖や川は自分達が管理しているのだ、と話していたのを思い出す。

 湖周辺で目につく種族に、偏りがあるのはそのせいだろうか。



 湖の畔を水辺に沿って少し進むと、陸地から湖の中央へと向かって架かる橋が見え始めた。

 橋は幾つも分岐しており、分岐したその先には小さな家が建っている。これらがリザードマンやフロッグ達の住まいとなっているらしい。


 基本的に俺は飛んで移動するので橋は使わずにショートカットも出来るのだが、横着はせず、見学がてらに橋を渡る。

 そうしてメインとなる橋の一番奥、周りの家々より一回り以上大きな家の前に到着した。ここが湖の管理をする亜人達の長、あの老いたリザードマンの自宅である。名前は確かリザルトだったかな?


 その家に扉は無く、植物の蔓で編まれた簾が垂れ下がっているだけだったので、ノックではなく外から直接声を掛ける事にした。


「リーザーくーん、あーそーぼー」


 声を掛けてしばらく待つと、簾を掻き分け戸惑い気味のアクアが顔を出した。

『リザルドさんが困惑していますよ。普通に声を掛けてください』

 言ってアクアが俺を中へと促す。

 リザルトじゃなくてリザルドだったか、ニアピンだな。


 促されるまま中に入るとリザルドや数人のリザードマンの姿があった。それらに加えて今はアクアも居る。

 アクアの護衛達の姿は見えないが、まぁ近くの家にでも居るだろう。


 アクア率いる人魚達もエディンの一員ではあるのだが、如何せん居住区が村とは離れた海である為、村に訪れた際はこうして毎回リザルド宅の世話になるのだそうだ。

 

『おはようございます陛下。良くお越しくださいました』

 リザルドが挨拶して来たので挨拶を返す。


「悪いな、朝っぱらから」


『いえいえ、ろくなおもてなしも出来ませぬが、どうぞお寛ぎくださいませ』

 切り分けられた果物の皿を差し出しながらリザルドが来訪を歓迎してくれた。

 それからリザルドは俺に軽く家族紹介をし、皆で他愛ない雑談をして過ごす。

 三十分程の雑談で分かったのは、リザルドの孫のリザブル君三歳が可愛いという事と、リザルドが孫を溺愛しているという事であった。



 皿の果物が無くなった所で、本題であったアクアのお誘いについて触れる。

 今後の勇者一行の予定を決めるに辺り、何かと知識の豊富な彼女にも参加して欲しい、との趣旨を説明する。


『私は構わないのですが……良いのですか?』

 少し不安気な顔を覗かせたアクアが尋ねる。


「昨日のアレも含めて参加して欲しいんだ」

 昨日のアレとは当然、アキマサの醜態に関する一件である。


『そういう事でしたら』アクアが了承し、次いで『若輩者の私がお役に立てると良いのですが』と述べる。


「おいおい、若輩者って。アクアちゃん今年で幾つになったの?」


 聞いた途端に一瞬ピシリと固まったアクアが笑顔でフフフと笑う。

『先代様、余りお口が軽いと私の手も軽くなってしまいましてよ』

 アクアが微笑みを崩さず、そう言いながら軽く手首を数度捻る。


「……そろそろアキマサも起きた頃だろう。うん、戻ろう。そうしよう」

 アクアの言葉を軽く流して、戻ろうと提案しておく。

 アキマサの二の舞はゴメンである。





 リザルド達に別れを告げて、次にアクアと共に訪れたのはモン爺宅。

 湖に向かう前に、うちのメンバーをここに集めておく様にと猫娘カカオちゃんにお願いしておいた。

 家の中へ入る。


 直ぐに気付いたモン爺が挨拶をしてきたので、挨拶を返しながら部屋を見渡す。

 部屋の中には予定通り全員集まっている。


 ただ空気がすこぶる悪い。



 険しい表情を湛え、アキマサと視線を合わせない様にそっぽを向くアン。

 その反対側。アンと炉を挟む様に座っているのは、オドオドとした顔で時折アンに視線を向けるアキマサ。


 そして、そんな二人を見守る様に、入り口の直ぐ横でキリノが突っ立っていた。


 中に入り、部屋を見渡す俺とキリノの目が合った。


 目が合うとすぐにキリノが『説明』と俺に向かって単語を口にした。


「お、おう」

 戸惑いながらもキリノに返事を返し、空いた座布団に腰を据える。

 アクアが俺に習い直ぐ隣に座ったところで、憮然とした態度のアンが口を開いた。


『どうしてその人がここにいるんですか!?』

 アンの睨みを効かせた低い声に、アクアが僅かに身を縮こませる。


「まぁ、待て。あれは誤解だ」

 

『誤解って何ですかー? 酔ってたから? 関係ありませんねー。金髪美人なら誰でも良いんですよ。ね、アキマサさん?』

 アンに突然話を振られたアキマサがキョドる。

 そんなアキマサの困惑を見て図星を突いたと勘違いしたのか、アンがフンと鼻を鳴らし『ばっかみたい』と吐き捨て、再びそっぽを向いてしまった。

 馬鹿と言ったのは、アキマサへ向けたのか、それとも自分自身に向けたのか判断が難しいところである。

 ただ、アキマサ的に少なくとも金髪だからとか、そんな理由では無いだろうに……。


「取り敢えず話を聞いてからにしてくれ。……まず、昨夜の件についてだが、――――アキマサ君、君は昨日彼女に何をしたか覚えているか?」

 視線でアクアを示しながらアキマサに問い掛ける。


『……いえ、全然』


「だろうな。結論を先に言うと、ハッキリ言ってお前は酒癖が悪い。今後は禁酒だ」


『あの……俺は昨日、彼女に何をしたのでしょうか?』 

 おずおずと言った様子でアキマサが昨晩の出来事を尋ねてくる。


「簡単に言うと、抱き着いた」

 俺の言葉が耳に届くと同時にアキマサが固まった。

 尚も続ける。


「抱き着いて、耳元で大好きだと言ったんだ」

 更に追い討ちを掛けると、アキマサが死にそうな顔を見せた後、アクアに向けてジャンピング土下座を披露した。


 本当にあるんだぁ。ジャンピング土下座。


『すいません! ごめんなさい!』床に額を擦り付けながらアキマサが何度も謝罪する。


『いえ、いいんですよ』

 平謝りのアキマサに向け、アクアが優しい口調で謝罪を受け入れる。


『本当にすいませんでした! 俺、全然覚えてないんですけど、多分酔ってて間違えたんだと思います』


「何を?」

 ここが好機かと考え、アキマサに問う。


『その、彼女の髪が綺麗な金髪だったから』

 アキマサの言葉に『ほら、やっぱり』とアンが横から茶々を入れてくる。

 黙ってろとアンを手で制止、「金髪だったから?」と言葉の続きを促す。


『綺麗な金髪だったから、その……アンさんと間違えたんだと思います』

 テンパっているせいか、自分の口にした言葉がどういった意味を持つのかまるで分かっていない様子のアキマサ君。


 ここまで言ってしまっては俗にいうプチ告白であろう。


 「だ、そうだ」アキマサから目を離し、そっぽを向いたままのアンに顔を向ける。

 アンは、自分では変わらず憮然とした態度を貫いている風に見せようと頑張っている様だが、顔が少しニヤけている。


 大根め。


『……別に』

 何が、別に、なのか分からんがあの様子だと幾分か機嫌は直っただろう。


 面倒臭い奴らだ、と小さく溜め息をついてから、「とにかく、最初に言った通り、アキマサは今日以降、酒を飲む事は禁止だ。アンも飲ませるんじゃない。分かったな?」二人に少しキツメに言い聞かせる。


「あとだ。気を遣ってるのか何なのか知らないが、好きなら好きだと言ってしまえ」

 アキマサに強い口調でそう言うと、少し照れた様な顔をしたアキマサが『いや、それは……』と何とも歯切れの悪い呟きを溢した。


「アキマサ。少し自覚が無い様なので言っておくがな」

 いつになく真面目な顔で話す俺の態度に、苦笑いで場をやり過ごそうとしていたアキマサの顔が引き締まる。

 アンも同じだった様で、そっぽを向くのを止め、真剣な表情でこちらへと顔を向けた。


 二人が真面目に話を聞く態勢に入ったのを認めて、続きを語り始める。

「明日もチャンスがあると思うな。俺達の目的は何だ? 明日も生きている保証があるか? 普段チャラけて不真面目な俺が言うのも何だが、この旅は遊びじゃない。そんな事は言われなくとも分かっているだろうが、相手が、俺達の誰もが、明日も元気に隣に居ると思うな。

 口で言われてもそう簡単に実感として受け入れられるもんじゃないかも知れないが、ただ後悔しない様にはしておけ」

 その場の全員を見渡しながら、そう諭す。


 自慢じゃないが俺はこの数千年、後悔しっぱなしだ。

 

 自傷気味な自分に言い聞かせる様にして、最後に「良いな?」と小さく言って俺は話を締め括った。


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