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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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亜人のお供をするにあたって・18

 俺からアクアへとタラスクの譲渡が終わったところで、大広場に戻るかと二人に提案した。

 アクアが了承し、キリノは『私は良い』と断りを入れてきた。


「……そぅか。じゃあ先に戻ってるからな」

 言うとキリノが頷いた。

 それから踵を返しかけたところで、「あ~、そうそう。聖霊力は無事手に入ったぞ。ここに滞在する理由も無くなったし、明日の朝にでも次の予定を立てよう」

 キリノは少しだけこちらに顔を向け、一拍置いてから『分かった』とだけ返事をした。 

 キリノにその報告だけ済ませ、俺はアクアを伴い大広場へと戻った。




『宜しかったのですか?』

 大広場へと向かう道中、アクアが少し心配そうに尋ねてきた。

 おそらくキリノの事を言っているのであろうが、俺が先代の妖精王だと知った位では、多少思うところこそ有れど、何がどう変わるとは思えなかった。


「いいさ、別に」

 心配ないよ、と笑顔でアクアに返しておいた。





 大広場に戻ると、依然、宴は継続中であった。

 ただし、宴の主旨が歓迎会から祝賀会へと様変わりしている。

 勇者の聖霊力が戻った事に対するお祝い、である筈なのだが、肝心のアキマサが道端で大の字で爆睡しているのが何とも残念な光景である。


 まぁ、ここは暖かいしデカイ焚き火もあるからそうそう風邪も引かないだろ。

 そう思ったのでアキマサは放置する事に決めた。


『あらあら、大変』

 俺が放置を決め込んだ矢先、俺の隣に居たアクアが心配そうにアキマサへと駆け寄った。先程と言い、何かと心配性の女性である。


『勇者様、こんなところで寝ては風邪を引いてしまわれますよ』

 言いながらアクアがアキマサの体を優しく揺する。

 何度目かの揺さぶりで目を覚ましたアキマサが、モソモソと上半身だけを起こし、アクアを見た。


 起きたとは言え、酒も入り、寝ボケ眼のアキマサ君。

 しばらくボケーとアクアを眺めた後、何を思ったのか突然アクアに抱き着いた。


『きゃ!』

 アキマサの突然の抱擁にアクアが悲鳴をあげる。


『ゆ、勇者様! あ、あの』

『好きです』

『はぇ?』

『大好きです』

『――――ッ!』

 アクアを熱く抱擁したままのアキマサの告白に、アクアが声にならない声を上げ、驚きの顔を見せた。


 アイツ……アクアとアンを勘違いしてるみたいだな。


 アキマサに抱き締められ、どうしたら良いのか分からず顔を真っ赤にして慌てふためくアクア。

 見かねた俺が、酔った馬鹿に蹴りでも入れてやるかと動き出そうとした時、背後からパサリッと何か軽い物が落ちた音が聴こえた。


 ああ、そんな感じね、うん。


 恐る恐る振り向くと、案の定アンが突っ立っていた。

 無表情でアキマサとアクアを見つめたままピクリとも動かないアンの足元には、おそらくアキマサに掛けてやろうと取りに行ったであろう薄手の毛布が落ちている。

 その無表情が怖い。


「ま……まぁ、ほら、酔ってるからさ」


 一度生唾を飲み込んでから、硬直し虚ろ気なアンにフォローを入れるが、俺の言葉はアンの耳には届いていないらしく、無表情だったアンの目にみるみる涙が堪っていく。


 泣いている女性程苦手なものもない。

 どうすべきかと俺が思いあぐねていると、アンは幾つか涙を溢した後、意を決した様に未だ体を密着させる二人に近づいていった。

 気のせいでなければアンからは殺意の波動が揺らめいている。多分、気のせいだ。気のせいであって欲しい。


 二人へ近づくとアンは強引に二人を引き剥がす。

 そして、無言のままアキマサの頬目掛け、強烈な平手をお見舞いしたのである。

 パチーンと乾いた音が大広場に木霊す。


 そうして、アキマサを平手でノックアウトしたアンは、親の敵でも見る様にアクアを一度睨み付け、早足で宛がわれた家へと入っていってしまった。

 ガンと鈍い音が家から聴こえたのはその直後の事であった。


「人様の家壊すなよ」

 聞こえる筈もないアンに向けてそう呟いた後、未だ地面にへたりこんだままのアクアの傍に赴く。


「大丈夫か?」


『は、はい! ……あまりに突然の事で取り乱してしまいました。すいません、お恥ずかしいところをお見せしてしまって』


「アクアが謝る事じゃないだろ。全部コイツが悪い」

 言って、真っ赤な手形を頬に刻んでノビているアキマサに一発蹴りを入れておく。


「アンもアンだ。だから飲ますなと言ったのに」


『勇者様は』


「ん?」


『勇者様は酔ってらっしゃったのですよね?』


「ああ、悪いな。酒入ると酷いんだよコイツ」


『そう……ですか』

 アクアが少しだけ呆けた様な顔をして、アキマサに目を向けた。釣られて俺もアキマサを見る。

 悪酔いも酷いのだが、何が酷いって寝て起きて酒が抜けたら全く覚えていない所が酷い。

 自分の醜態を覚えてない、それ即ち、酒癖の悪さを自分では自覚出来ない訳で。

 それについては面倒な上に鬱陶しいので放置していたが、流石に人様に迷惑かけた以上放置する訳にもいかなくなってしまった。そろそろちゃんと自覚して貰うか。

 アンもこれに懲りたらアキマサに無闇やたらと酒は勧めまい。

 まぁ、何にしても明日だな。どうせ今日はもう起きないだろ。


「誰か、悪いけどコイツを適当な部屋に運んでくれないか?」

 周りで騒ぎを見ていた亜人の野次馬達にアキマサの移動をお願いする。

 直ぐに数人の亜人が駆け寄って来て、数人がかりでアキマサを運び始めた。


 運ばれるアキマサを眺めつつ、小さく溜め息をつく。


 アキマサのせいで宴って気分じゃなくなってしまった。

 何か変に疲れたと言うか、冷や汗をかいたと言うか……。

 さっきのアンは怖かったなぁ~。俺は、アンには今までも何度か怒られたが、さっきのが一番怖かった。

 あの怒りの矛先が俺じゃなくてホント良かった。


 アキマサは平手による制裁を受けた訳だが、問題はアクアか。

 去り際のあの一睨みは間違いなくアクアを敵と認識した上での威嚇だろう。恋敵としての。

 アクアからしてみれば、今日会ったばかりのアキマサに突然抱き着かれ、告られた上、またまた今日会ったばかりのアンに敵対視される結果となった。

 アクアは何も悪くないのに……。

 不憫な人魚の姫である。


 まぁ、その誤解を解くのも明日だな。

 今、アンの元へ向かうのは怖い。

 今までの旅で、アンの怒りの炎がこちらに飛び火するだけの油を俺は色々と振り撒いている。過ぎた過去をほじくり返せれては堪ったものではない。

 やはりこんな時は、寝て、一晩冷ましておきたい今日この頃。


「アクア」


『はい、何でしょうか?』


「俺はもう寝る。今はアンも冷静に話が出来ないかも知れないし、アンの誤解解くのは明日にしよう。ちゃんと俺から説明して誤解だと分かって貰うから、今日はアンと接触するのは止めとけ」

 本人的には誤解は颯々と解いてしまいたいのだろうが、冷静でないアンと接触して、変に拗れてもそれはそれで面倒ゆえ、今夜は自重して貰いたい。



『はぁ………先代様がそう仰有るのであれば、私に異論は御座いません』

 異論は無いと言いつつも、アクアが少しだけ不服そうな顔を見せる。


「うん、良い子だ。じゃあ俺は先に寝るぞ? 宴はまだまだ継続中だし、アクアは気分転換に宴に混ざると良い。美味いもん食えば元気も出るだろ!」


『はい、そうさせて頂きます』

 素直に頷くアクアを残し、俺は宴の続く賑やかな大広場を後にした。



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