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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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亜人のお供をするにあたって・16

『ここまでする必要あったんですか!?』

 そこかしこから大音量で流れてくる勝手気儘な歌と音楽を背景に、煩そうに僅かに顔をしかめたアキマサが話し掛けて来る。

「ない!」

 キッパリと断りを入れておく。

 宴など始まってしまえばドキドキワクワク、勝手に気分が上がるもんである。


『でも、とっても素敵な演説でしたよ!? 宴の開会宣言っぽくはなかったですが!』

 アキマサの背後からアンが顔を覗かせて俺の挨拶を誉めてきた。


「まぁな!」

 誉められ、調子に乗ってアキマサでもからかおうかとした時、『アン、調子に乗る。誉めちゃ駄目』とキリノ。

「乗らないですけど!?」

 この野郎、タイミングを逃すタイミングで口を挟みやがる。

 まぁ良い、今は気分が良いからな、これ位にしといてやる。次は覚悟するんだな!


 そんなこんなで宴は進む。


 用意されたご馳走に舌鼓を打ち、騒々しくも楽しい会食は続く。

 広いテーブルに並べられた料理は、どれもシンプルながら絶品で、次々と皆の手が伸びる。


『おいしー! アキマサさん、これ凄い美味しいですよ!』

『ではひとつ頂きます!』『待つなの! それはナノが目を付けていたなの!』「おい、ナノ。いっぱいあるんだからそんなに慌てて口に頬張るなよ」『はあくたへひゃいと、無くなうなほ! んぐぅ!』「ほらみろ。この水で流し込め」『……ングング――――ブハッ!』『きゃ!』『後輩! これ酒なの!』「きったねぇな! せめてアキマサの方を向いて吐き出せよ!」『えぇー……酒を渡さないという選択肢は?』「ねぇな」『うぇー、お酒不味いなの~』「ガキだな~ナノは」『酒なんか呑めても全然羨ましくないなの!』『ささっ、どうぞアキマサさん!』「こらぁアン! こっそりアキマサに酒を勧めるな! で、お前は人の皿から盗んでんじゃねーよ!」『早く食べない後輩が悪いなの!』


 とにかく騒がしい食卓には笑いが絶えなかった。

 一人黙々と食べ続けるキリノも、その眼前に着々と皿を積み重ねている。お前の胃袋はどうなってるんだ?

 まぁ、幸せそうなので放っておこう。



 食事が一段落すると、俺の元に代わる代わる亜人達が挨拶へとやってきた。

 昨日はロクに挨拶も出来なかったのでこの期に、ってとこだろう。

 聞けば、挨拶へとやってきた亜人達はそれぞれ一族を束ねる長であるとの事。

 亜人の村エディンは、モン爺を筆頭にして、その下に数名の一族の長達が連なり、集団としての体制を維持しているらしい。


 一族によってそれぞれ役割が決められており、タイガーを長とする村の警備に従事する者達、シグルスを長とする村の生活用具、建築などに携わる者達、ハピネスと名乗った有翼種(ハーピー)が束ねる農耕者達など、各自が様々な役割をこなす事で生活が成り立っている様である。


 それらをまとめ束ねるのがモンジィである。さしずめ大長老と言ったところか。ただの昔話好きな爺さんでは無かった訳だ。当たり前か。


 長達は長たる者らしく、皆、俺に丁寧な挨拶を行っていったのだが、無礼講な宴の席ゆえか、はたまた気品の欠片もない食卓を見たせいか、数時間前までの仰々しい態度ではなく、何処か親しみ易い印象を受けた。

 やっぱり畏れ敬われるよりも俺にはこっちの方が良い。

 


 一通り挨拶を終えた頃には、アキマサ達他のメンバーは席を離れ、各々、好きに宴を楽しんでいた。

 ナノは大広場に設置された大きな組み木の焚き火の前で、亜人達と楽しそうに踊り、はしゃいでいる。


 あの調子なら大丈夫そうだな。そんな事を思う。


 ナノを旅に連れていくつもりは毛頭なかった。

 戦力的に役に立たないという理由もあるが、それは俺も同じだ。役立たずは一人で良い。

 それよりも、やはり正真正銘の妖精族最後の生き残りとして、ナノには居なくなってしまった妖精達の分も含めこの先の未来を歩んで欲しい。わざわざ危険な旅に行く必要など無い。




 そんなナノの後方、少し離れたところでは、アキマサとアンが仲良く並んで座って談笑していた。

 手を繋いでいるのはアキマサが酔っているからだろう。

 シラフのアキマサに人前で女性と手を繋ぐ真似など出来はしない。

 エディン滞在中の設定では、アンは俺の妻という事になっているのであの二人の姿を見て勘繰る者がいるかも知れない。が、楽しそうな二人に水を差す気にもなれず、放置する事に決めたのだ。

 何か言われたらその時はその時考えよう。

 大体、アンとキリノが俺の妻云々というのは、タイガーがてんで的外れな勘違いをしたのがいけないのだ。タイガーが悪い。全部アイツに擦り付けてやる。




 そしてキリノ。

 食の権化と化し、たらふく飯を食った後、彼女は空に魔方陣を描いてから何処かに行ってしまった。

 キリノの描いた魔方陣からは今も定期的に火の玉が打ち上がり、暗い夜空に大きな花を咲かせている。

 きっと彼女なりのご馳走のお礼なのだろう。




 しばらく美しく幻想的な夜空の花をぼんやり眺めていると、モン爺が声を掛けてきた。

『陛下、人魚族がたった今到着致しました』

「ん? 予定より随分早いな」

 予定では明日の夕刻という話であったが……。


『船で勇者を見掛たと報告を受けた時から準備を整えておりましたゆえ』

 モン爺の背後、長く金色の髪を持った女性が此方に向かって言葉を寄越した。

 僅かに先の尖った耳以外は、人間と変わらない容姿の女性。尾ヒレなどは見当たらず、ちゃんと二本の脚で立っている。

 しかし、その女性こそが人魚族のアクアであった。


「……はじめまして」

 笑顔を作り、アクアに挨拶する。


『……はじめまして、クリ様。人魚族の長アクアと申します。お見知り置きを』

 少し間を空けて、此方も笑顔のアクアが挨拶を返してきた。


「不馴れな陸路を辿り良く来てくれた。早速だが、欠片は持って来てくれたか?」

『こちらに』

 頷き、アクアが背後の連れの者達に合図する。道中の護衛、兼荷物持ちだろう。

 護衛の一人が、抱えていた箱を持ったままアクアの隣に並ぶ。次いで、俺に中を見せる様にして蓋を開ける。

 開けた箱には、人の頭程はある割れた聖霊力の一部が大事そうに納められていた。今まで見た欠片で最も大きい。


「ラビィ、悪いけどアキマサ呼んで来てくれる?」

 モン爺の傍にいた可愛い子ちゃんにアキマサを呼びつける様に頼む。

 しばらくすると、少し酒臭いアキマサがラビィに連れられやってきた。相変わらずアンと手を繋いだままな所を見ると、まだ酒が抜けてないのだろう。

 別に酔っ払っていようが聖霊力は獲得出来るのだが、皆が何事かと注目する中、酔ったまま聖霊力を獲得するのは何とも間抜けで格好がつかないなぁとほくそ笑む。この辺りは流石アキマサと言うべきか、つくづく俺の期待を裏切らない男だ。


 皆の視線を一手に集めたアキマサが、酒の匂いを振り撒きながら箱の聖霊力に触れる。

 途端に、いつかバルド王国で見たのと同じ様に、聖霊力は無数の光の粒子となりアキマサの周囲を覆う。

 そうして、光の粒子となった聖霊力は渦を巻きながらアキマサの中へと吸い込まれていった。

 吸い込んだのは聖霊力か、はたまたアルコールの臭気か。


 まぁ何はともあれ、これでまたひとつ聖霊力が勇者の中へと戻ったのである。

「よし! 3つ目だ!」

『おめでとうございます、アキマサさん!』

 アンが手を叩いてアキマサを祝福する。

 そんなアンに釣られる様に、モン爺が手を叩いて喜び、アクアや護衛の者達、最後には多くの亜人達から拍手と祝福の言葉がアキマサに届けられたのである。



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