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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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亜人のお供をするにあたって・15

 あの頃と変わらず、雄大に佇む七夜の樹の下で、俺とナノは互いに再会を喜んだ。

 俺がマロンに妖精王の地位を譲り渡し、妖精の聖域(フェアルチェアリ)を出てから実に800年近くの時が経っていた。

 そんな長い期間を経ての再会は奇跡と言っても言い過ぎではない気がする。


 正直言うと、こうして再会を喜び合うつもりはなかった。

 ナノとは俺を忘れたまま接するつもりだったのだが、ナノが自力で術を解いてしまった以上は、成すがまま流れに身を任せておく。仮に、もう一度ナノから俺に関する事を消してしまった所で、どうせ直ぐに破られてしまうだろう。

 それならば素直に再会を喜ぶまでだ。


 二人で再会を喜び合った後、そこからは昔話に華を咲かせた。

 俺がナノと再会するのは800年ぶりの事であるが、対してナノは石化していた時間を差し引いて400年ぶりの俺との再会になる。

 言葉にしまえば、半分の期間の差。

 しかしそれでも400年は400年。積もる話など山程あるわけで、話し込む内に陽は傾き、辺りは薄暗くなっていた。





『ここに居られましたか陛下』

 数時間に渡りナノと思い出話をしていると、薄暗い七夜の足下を照らす様に松明を持った一人の亜人が俺達二人に声を掛けてきた。

「俺に何か用事?」

『まもなく陛下の来訪を歓迎して、大広場にて宴が始まります』

「……マジ?」

『はい。主役が居なくては始まりませんから、手の空いている者達で探しておりました』

『宴なの!』

「宴だな!」

『え? あ、はい、宴です』

 二人で昔話で盛り上がっていたせいか、無駄にテンション高めの俺とナノが宴だ宴だとはしゃぐ。

 宴か。

 この森でそんな事をするのは何百年ぶりだろう。

 それでなくても宴好きの俺は、否が応でもテンションが上がる。それが懐かしのホームグラウンドならば尚更だ。


 はしゃぎ、羽虫の如く辺りを飛び回る二人にやや困惑した様子の亜人のお姉さん。

 そんなお姉さんに伴われ、俺達は大広場へと向かった。






『やぁやぁ、待たせたね」

 ハッハッハッとテンション高めで大広場に現れた俺に『来ましたね』と、アキマサが声を掛けてくる。

『遅いですよ。どこ行ってたんですか?』とアン。


「いや~なに、妖精同士、色々積もる話もあるのだよ」

 言って、隣のナノと肩を組む。


『そうなの! 色々あるなの!』

 肩を組み笑い合う俺とナノの様子に、ちょっと意外そうな顔したアキマサとアンの二人が顔を見合わせる。

『随分仲良くなったんですね。何かあったんですか?』

 数時間ですっかり打ち解けた様子の俺とナノに向けて、アキマサが尋ねてくる。


「ふっふっふっ、秘密だ」

『秘密なの!』

 言ってまた笑う。



『お待ちしておりました陛下』

 ナノと笑い合っていると、モン爺が後ろから声を掛けてきた。


「おう、モン爺。急な来訪にも関わらずこんな盛大に歓迎の宴を開いて貰って。何か悪いな」

『とんでも御座いません。この様な辺境まで陛下が来てくださっただけで、我ら亜人一同、感激にうち震えております!』

「そ、そう」

 俺やナノとは違った意味でテンション高めのモン爺に若干ひく。

 他人の高いテンションを見ると、何故かこちらは急に冷めるのだから不思議である。


『それでは陛下、早速ですが皆に一言お願い致します。それを宴の開始と致しましょう』

 そう言ってモン爺が手の平を上に向け、俺に何かを差し出してくる。

 見ればそれは、大きめの果実の種をくり貫いて作られたグラスであった。

 昨日は急な来訪であった為に妖精サイズのグラスが無かったのだが、おそらく急遽作成したのだろう。サイズがサイズゆえ、不恰好ではあるが、この心遣いだけで満足である。

 モン爺に礼を言い、グラスを一つ手に取る。


『ナノ様もどうぞ』

 モン爺が残ったもう一つをナノに差し出す。


『ありがとうなの』

 ナノがグラスを受け取った事を確認した後、俺はモン爺に促され、大広場に設けられた特等席へと向かう。

 まるで何処かの城の玉座をそのまま持って来た様な特等席は、周りを見渡せる様に高めに設置されており、シャイな俺に大広場の亜人達の視線を集中させるというモン爺の巧妙な罠であった。


 俺が席に着くと同時に、ガヤガヤと騒がしかった空気が静かになる。


 そんな期待に満ちた眼を俺に向けられても大した事は喋れんよ。


 大広場に集まった亜人達を、一度高見から見渡す。数百、――――いや、数千はいるだろうか。

 大広場を囲む様に幾つも設置された篝火。御世辞にも絢爛豪華とはいかないが、草花や色鮮やかな布などを用い、丹精込めて手作りされたであろう装飾の数々。何処からともなく漂い、鼻腔をくすぐる様々な料理。多種多様な亜人の面々。

 これらの情報から、これが村を挙げての大きな宴である事が見て取れる。


 この状況下にて、アドリブで喋るのか。アキマサだったならば緊張で白目を向いてぶっ倒れている所である。

 アキマサ程ではないにしろ、シャイな俺は緊張で浮き足だった気持ちを落ち着かせる為、深呼吸する。


 大広場に集まった誰もが、俺に視線を向け、俺の言葉を待っている。

 周囲を見渡しつつ、何を話そうかと思慮するが、彼らが期待する様な気の利いた台詞など浮かんでは来なかった。

 嘘八百はスラスラと出てくるくせに、肝心な時に役に立たない脳ミソである。

 仕方ないので昔話でもするかな。いつか星空の下でマロンにした様に。



 もう一度、大きく深呼吸する。それから一つ咳払いをし、皆が注目する中、言葉を紡いでいく。


「今から四百年前。世界には魔族と呼ばれる人々がいた。

彼らは、その人間とは異なる容姿ゆえ、長きに渡り人間から迫害され、変わる事の無い冬の時代を生きていた。

 何を恨めば良いのか、何と戦えば終わるのか、何も分からず何の答えも見い出せず、唯々人に脅え、獣から身を隠し、消えない嵐が過ぎ去るのを待つ日々であった。

 ――――そんな彼らの元に訪れた光。

 光は言った『友が笑顔でいられる世界が欲しい』と。

 光は言った『あなたと共に生きていきたい』と。

 光は言った『二つが手を取り合う世界が見たい』と。

 あれから四百年。

 光は既に消えてしまった。見たいと望んだ世界を見る事もなく消えてしまった。

 光は知らない、世界を知らない。光は知らない、今を知らない。

 ―――――ならば問おう! 暗闇を生きた諸君らに問おう!

 世界は希望に溢れているか!?

 世界は安寧に満ちているか!?

 諸君らの幸福は本物か!?

 本物ならば示して見せよ!

 さぁ、手を打ち鳴らせ! いざ、足を踏み鳴らせ!

 歌い、踊り、夜空の光に至福の宴を届けよう!」


 俺のありがた~い話が始まると、亜人達は一様にして開幕は静かに、序盤で目に涙を浮かべ、中盤では目を輝かせ、終盤には内に熱を滾らせ、終幕を迎えると手脚を叩いて、熱と共に絶叫した。


 うんうん、やはり宴はテンション高くいかないとな。

 テンションぶちあげでいこうぜ。


 夜の妖精の聖域(フェアルチェアリ)を中心に、亜人達の咆哮とドンドンと大地を踏み鳴らす音楽が流れる。

 まるで今から戦争でも始まるのかと思う程に高揚した空気の中、俺が亜人達の叫びに負けじと声を張り上げる。


「野郎共! 宴だぁ―――!」

 手に持つグラスを頭上に掲げ始まりの合図とした。


 俺の合図で、亜人達の熱は更に加速。夜空の星々に届けてとばかりに一際大きな咆哮が周囲に轟く。


 流石、数千人の雄叫び。ズシリと腹に響く。

 今から始まるのは楽しい楽しい宴の筈だが、今や周囲はどこか狂喜染みている。まるで危険な新興宗教の様だ。

 だがそれが良い。


 こうして、無駄に絶頂まで跳ね上がったテンションの中、エディンの宴が始まったのである。



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