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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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亜人のお供をするにあたって・14

「妖精見なかった?」

 ナノを追って外に出た俺は一度辺りを見渡し、ナノの姿が近くには無いと判断すると、とりあえず目についた亜人の集団にそう尋ねる。


『陛下! え、えと妖精というとナノ様でしょうか?』


「そそ」

 ナノ様っという呼び方に違和感を覚えつつも、肯定する。

 

『先程、私共に挨拶して直ぐに何処かへ行かれました』


『しばらくお世話になるから皆に挨拶して回るのだと』


『向こうに、いえ、あちらに行きました、あ、いえ、向かいました』

 亜人達が矢継ぎ早にそう答える。かなり緊張している様子で。

 亜人のこの態度に慣れて来たとはいえ、やはり反応がぎこちなくて、正直面白くないと感じ始めた。

 偉くなり過ぎるのも考えものだと思い改める。


「ありがとう、助かるよ。アイツ、何か失礼な事とか言わなかった?」


『いえ、失礼など滅相も御座いません。とても気軽に接して下さり、皆で感激しておりました所です』


『おい!』

 鹿の亜人の言葉に、隣に居たトカゲの亜人が慌てた様子で脇を肘で小突いた。


『え? ――――あ、いえ、その、陛下が気軽では無い方という意味では無くて』

 大失態を演じたと慌てて弁明する鹿の亜人。


 何だかなぁ。


「ああ、うん、大丈夫大丈夫。分かってるよ」


『本当に申し訳ありません!』

 深く頭を下げて謝罪の言葉を口にする鹿の亜人。


「偉そうオーラ出し過ぎた俺にも責任はあるんだ。これからはもう少し気軽に接する様にするからさ、だから皆もあんまり肩肘張らずに気軽に俺に接してよ」


『は、はい!』

 俺の言葉に亜人達が揃って背筋を伸ばし、答える。


 何だかなぁ。

 その様子に若干苦笑しつつ、軽く手を振ってその場を離れた。


 その後も、亜人を見かけては声を掛け、ナノの行方を追い続ける。

 俺が声を掛ける度に、亜人達はどれも心臓が飛び出して来そうな程に驚きの表情を見せ、中には緊張のせいか白目を剥いてぶっ倒れる者もいた。

 何だかなぁ。


 エディンに入る手段として、皇帝という肩書きは非常に役に立ったのだが、その代償は俺にとって結構大きかった。

 モン爺宅で、後輩は友達が居ない、とナノに言われた事が現実のものとなってしまっているのだ。

 今の亜人達は友達とは程遠く、まるで神様でも見る様に俺を恐れ敬っている。詰まる所、距離があり過ぎるのだ。

 確かに俺は偉そう(・・)にするのは好きだが、本当に偉くなりたい訳ではないのだ。

 もっとこう、フレンドリーな関係を所望する。だが、一度掘り拡げた溝は簡単には埋まる訳もなく、ただ遠く、溝の端と端で言葉を交わす関係。

 全くもって面白くない。


 引っ越しの挨拶に失敗した新住民の気分を味わいながら、ナノを追い続ける事数十分。

 下半身が蛇の姿をしたラーミアのお姉ちゃんにナノの行方を尋ねていると、件のナノが大慌てで此方へと向かって来るのが目についた。

 ナノの姿を視界に捉えた俺が声を掛けるより早く、ナノが叫ぶ。

『大変なの――――!』


「何だ? 何が大変なんだ?」


『大変なの!』


「だから何が?」


『とにかく一緒に来るなの!』


 言って、俺の腕を掴んだナノがグイグイと強引に引っ張り始める。

「痛っ! 分かった分かった! 行くから! 行くからとりあえず引っ張るな!」

 俺の言葉を無視して、尚もナノが腕を掴んだまま俺を誘う。

 俺は残った手でラーミアのお姉ちゃんに手を振って、笑顔のままその場から遠ざかっていく。


 その様子を、一人残されたラーミアのお姉ちゃんがポカンと眺めて見送った。





『アレ! アレなの!』

 動くのも面倒なのでされるがまま、ナノに空中を引き摺られ、辿り着いた七夜の樹の根元。

 そこにあった二体の石像を指差しながらナノが興奮した様子で口を開く。


 ああ、成る程ね。

 石像に目をやり、そこでナノの大変の意味を理解する。


「勘違いだ。アレは石像だ。本物の石だ」

 マロンに良く似た石像と、それに向き合う形のロゼフリートの石像に目を向けながら説明する。

 おそらくナノはあの石像を見て、自分と同じ石化によるものだとでも思ったのだろう。

 そりゃあ本当に本人達が石になってれば大変だろうよ。


『違うなの?』

 肩を項垂れ、目に見えてガッカリするナノ。

 ナノにしてみれば石化しているとはいえ、マロンの姿を見付けてさぞ驚いた事だろう。それ以上に嬉しかったかも知れない。

 その期待を裏切る形になってしまったのは、申し訳なく思うが、石は石だ。こればかりはどうしようもない。


 だがまぁ、友達として一言慰めの言葉でも掛けてやろうか。


『先代?』

 俺の顔を怪訝そうに見て、ナノが唐突に呟いた。


『そうなの! 先代なの! 今まで全然分からなかったなの! 忘れていたなの!』

 嬉しそうにはしゃぐナノの様子に少々困惑する。


 コイツ……今、自力で破ったのか? 俺の術を。


 洞窟で石化から戻り、すやすやと眠るナノを足蹴にしながらこっそり施した隠蔽を、こんな短期間で、しかも自力で破ったのか。

 ハッキリ言って想定外であった。

 マロンでさえも数百年と騙し続け、自力では綻ぶ糸口さえ見付けられなかったというのに。

 ――――それだけ想いが強かったという事か。


 この隠蔽術は、魂の誘い手と称された古き妖精族の得意技である。

 魂写しも魂分ちも、この隠蔽術と根は同じ、魂に干渉して行うものだ。心と言い換えてもいい。

 どんな達人とて魂を直接鍛える事は出来ない。だからこそ簡単には防げない妖精族の切り札。

 ――――むしろ、それしか出来ないだけだが。


 相手の肉体を傷付ける類いのものでは無いので、戦闘には向かないが、こと内面に関しては呪術さえも足元に及ばない。


 そんな魂の誘い手の御技を打ち破る方法はひとつ。

 想いの強さである。

 想いの強さ。それは漠然としていて形に出来ず、明確な説明も難しい。筋肉でも知恵でも、まして魔力でもない。根性論のカタマリである。

 しかし、その根性論こそが唯一の対抗策と言って差し支えない。


 術を破れなかったから想いが弱い、というモノでも無いが、常に冷静に振る舞おうとする者よりは、子供の様に感情の起伏が激しい者の方が術を破り易い。長年の経験からそういう認識を俺は持っている。


 ただ、心、感情、精神、そう言った物にああだこうだと理由を付けるのも野暮ったいと感じる。

 ナノはそれだけ想いが強かった。説明はそれだけで良いと思う。



『せんだーい!』

 俺が術を破ったナノに感心していると、感極まったナノが両手を拡げて飛び掛かってきた。


「うざい」


『ぎゃふ!』

 そんなナノの顔を足の裏で受け止める。

『うぅ、せんだ~い』


 顔を足蹴にされてもなお、ゾンビの様にふらふらと俺に近付いてくるナノ。

 俺に会えて嬉しいのか、拒絶されて悲しいのか、はたまた顔が痛いのか、ナノの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。


「とにかくまず落ち着け。そして座れ」

 俺がそう言葉を掛けると、ナノが涙を拭い、鼻水をズズッと吸った後、チョコンと座った。石像マロンの頭の上に。


 座れとは言ったが何故そこをチョイスした?

 まぁいいか。


 ナノがマロンの頭の上に座ったのを確認して、俺は真向かい、石像ロゼフリートの頭の上、ロゼフリートの前髪でも垂らすかの様に足を投げ出して座る。

 そして、声を絞り、さも重要な案件であるかの様に真剣な表情、雰囲気を醸し出す。


「ナノ、良く聞け。これは極秘事項である」

 言うやナノは『極秘……』と呟き、ゴクリと生唾を飲んだ。


 チョロイ。


「まず、お前が俺の事を忘れていたのは、俺の隠蔽術によるものだ。正体がバレる訳にはいかなかったからな」


『な、成る程。ナノが先代……いえ、長官殿の事を忘れていたのは、秘密の漏洩を防ぐ為の長官殿の計であったのでありますね。流石長官殿』


「ふむ。咄嗟だったので録に説明も出来なかった。許せ」


『勿論であります。自分は長官殿を信じております』


「ありがとう。ここからが本題だ。現在、我ら秘密組織【セブンナイト】が行っているのは、勇者及びその一派の戦力調査、加えて魔王陣営の戦力調査である。

それに伴い、現在私は身分を隠し勇者側へと潜入、双方の動向を監視しつつ戦力分析を行っている」


『潜入捜査でありますか』


「その通りだ」


『危険な任務であります。長官殿が私に隠蔽術を施さねばならなかったのも無理からぬ話であります』


「理解が早くて助かるよエージェントストーン」

『スト―――ぶふぅ!』


「ん? 大丈夫かエージェントストーン。 石化から治って浅いのだ、無理するなよエージェントストーン」

 畳み掛ける様にエージェントストーンを連呼すると、ナノ、もといエージェントストーンは俯き、肩を小刻みに震わせながら耐えていた。

 しばらくして、落ち着いたナノが口を開く。


『長官殿、自分にも何か出来る事はあるでありますか?』


「ふむ。それについては追って知らせる。今はセブンナイトのメンバーだと悟られぬ様に現状の把握に努めよ」


『了解であります!』

 正座したままナノがビシッと敬礼して見せる。


 やや沈黙があった後、『それはそうと』ナノが視線を俺に向けて言葉を続ける。


『おかえりなさいなの、先代』

 ナノが楽しそうに笑う。



「ただいま、ナノ」

 


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