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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
120/237

亜人のお供をするにあたって・11

 ギトが去った後、石化から戻った妖精の元へと近付き、状態を確認する。

 傍に寄った俺の耳にスースーと妖精の小さな寝息が届いた。


『本物ですか?』

 俺が妖精の状態を確認していると、横のアンが前屈みになり、興味深そうに声を掛けてきた。

「ああ、そうみたいだ」

 アンに返す。


『クリさん、そっくりですね』

 アンの隣からアキマサが妖精を見た感想を述べてくる。

「そうか? 俺の方がイケメンだろ?」

『……全体的な容姿の話です』

 呆れ顔のアキマサが告げる。


 いやまぁ、それはともかく……この野郎、爆睡とは良い度胸だ。


「おい! 起きろ!」

 ゲシゲシと脚で蹴飛ばし妖精を起こす。

『クリさん、もう少し優しく……』

 優しく起こせと話すアンに顔を向けるついでに、トドメとばかりに一発蹴りをお見舞いする。


『ん~?』

「おっ、起きたか?」

 俺は妖精から発せられた声に再びそちらに顔を向け直し、ゆっくりと目を開く妖精に声を掛ける。


『ん~、――――誰なの~?』

「クリだ」

『ん~、はじめましてなの~? ナノはナノなの~』

 まだ少し眠そうに目を擦る妖精がナノだと自己紹介してくる。次いで、

『わ~、人がいっぱいなの~』

 夢から完全に覚醒したのか、辺りをキョロキョロ見渡したナノがそう口にする。

 いっぱいって言う程居ないだろ。現在周りに居る人間はアキマサとアンとキリノの三人だけである。

 ただ人間を見慣れていない故に、ナノにとっては三人でもいっぱいなんだろう。


『はじめまして、ナノ。私はアンと言います。こっちがアキマサさん。あそこの彼女がキリノです』

 ニコニコと笑顔のアンが落ち着いた優しげな口調でナノに話し掛ける。

 アンに紹介されたアキマサが小さく手を挙げナノに挨拶する。

 キリノは無表情のまま、少し離れて突っ立っていた。



『はじめましてなの、よろしくなの~』

 三人を順番に見渡し、ペコリと頭を下げたナノが返す。次いで、『ところでここは何処なの?』と顎に人差指を当て、小首を傾げる。


「ここは光子の洞窟――――いや、キラキラ穴の中だ」

 ナノの質問に俺が答える。


『キラキラ穴?』

 ナノとアンが同時に疑問の声をあげる。

 キラキラ穴は、この洞窟が光子の洞窟と呼ばれる前の呼び方である。光子と名付けたのは亜人達であるから、コイツが知ってる訳は無いかと思い、言い直した形だ。


 キラキラ穴の中だと告げられたナノが、目を瞑り両手を組んで『う~ん』と唸る。

ややあって、『思い出したなの!』と弾ける様に声を上げた。


「そりゃ良かった。で、ナノはここで何してたんだ?」

『あのね、ナノはみんなとここに悪悪(わるわる)ミミズを退治しに来たの』

 悪悪ミミズ、というのは多分、先程までここに居座っていたミミズ型の魔獣の事だろう。

 あれを妖精だけで?

 幾らなんでも無謀じゃないか?

 いや、無謀だったからこそ、ナノは石にされミミズに取り込まれてしまっていた訳か。生きているのが奇跡である。


 そもそも何で生きてる?

 妖精はマロンと共に滅びたんじゃなかったのか?

 


『悪悪ミミズはね、ここのキラキラ石を食べる悪いヤツなの! ナノ達はマーちゃんに妖精の聖域(フェアルチェアリ)を任されたの! だから守らなきゃいけないなの!』

 俺の疑問を余所に、鼻息荒く声高にナノが言う。


『その悪悪ミミズは先程私達が退治しましたよ』

 ナノの言葉をニコニコと笑顔で聞いていたアンが告げる。


『本当なの!? 凄いなの! ありがとうなの! 悪悪ミミズは凄く強くって困っていたなの! でも、退治されたならもう安心。マーちゃんがいつ帰って来ても大丈夫なの!』

 嬉しそうにアンの周りをくるくると飛び回りながらナノが言う。


『マーちゃんって言うのは? お友達かな?』

 アンにそう問われたナノが飛び回るのを止め、ゆっくりアンの正面へと位置取る。それをアンが拡げた両の掌で受け止める。


『マーちゃんはマーちゃんなの。マーちゃんはナノ達の王様なの』

『王様? ――――もしかしてマロン・ウッドニート様ですか?』

 ナノを掌に乗せたままのアンがナノに尋ねる。

 アンの言葉にナノがさも誇らしげに両手を腰に当て、胸を張る。

『そうなの! 最古にして知恵と守護の種族、妖精の中の妖精! それがナノ達の王様マーちゃんなの!』

 今にも鼻が伸びてきそうな程の自慢げな様子でナノが宣言する。


「マロンは死んだぞ」

 その鼻を無慈悲に叩き折る。


『クリさん!』

 俺の無慈悲な一撃を聞き、慌てる様な怒る様などちらとも取れる微妙な表情のアンが俺に向けて言葉を投げ付けてくる。


『ん?』

 俺とアンを交互に見て、ナノが首を傾げる。

 俺の言葉の意味が直ぐに理解出来なかったのかも知れない。


 洞窟内にしばしの静寂が流れる。



『マーちゃん、死んだなの?』

 静寂の中、不安そうな顔をアンに向けたナノが口を開いた。


 しばらく待ったがアンは何と言うべきか迷っているらしく、何とも形容しがたい笑い顔をナノに向けたまま沈黙していた。


 見兼ねて俺が答える。

「そうだ。お前らのマーちゃんは死んだ。お前が石になってる間にな」



『嘘なの』

 僅かな沈黙の後、憮然とした表情のナノが口を開く。


「本当だ」

『後輩は黙ってるなの!』

 後輩て……。

 この後輩と言う呼び方は、七夜の花から生まれた順番を元に妖精達が呼び始めた呼称である。

 先に生まれた方が先輩。後から生まれた方が後輩である。

 ナノは俺の顔を知らなかったので、俺の事を、自分の知らぬ間に後から生まれた後輩、だと思っている様であった。


 正確にはメフィストの人工生命体(ホムンクルス)研究から生まれた肉体だが、今はそれはどうでも良い。


『マーちゃんが死ぬ訳ないなの。だって王様なの。特別なの。勇者だって一緒なの。だから死ぬ訳ないなの』

 ムスッとした表情を俺に向けて、そう口にしたナノが続けて『みんなに聞いてくるなの』と言い残し飛び去っていってしまった。

 おそらく洞窟の外に向かったのだろう。


 しばらくナノの飛び去って方を眺めていると、眉を僅かに吊り上げたアンが俺に顔を向け、声を上げる。

『もう! クリさんってば! あんな言い方しなくても!』

「どうせ直ぐにバレるんだから、変に隠す必要ないだろ?」

『そうかも知れませんが、もう少し言い方を考えて下さい!』


 ぷりぷりと怒るアンに小さく溜め息をつき、「分かったよ」と生返事を返す。

 横でその様子を見ていたアキマサが、絶対分かってない、と言いたげな目を向けてくるが気にしない。


「とにかく、村に戻ろう。色々課題も沢山あるし」

 三人に向け、そう提案する。

 ナノにも聞きたい事はあるし、魔獣討伐の報告をシグルスにしなきゃいけない、そして何より折れた聖剣の今後である。


 ちょっと暇潰しに石像を新しくしようと思っただけなのに、どうしてこうなったのか。


 思っていた以上に忙しくなってしまった現状に辟易し、小さく溜め息を付く。



 こうして、幾つもの新たな課題を生み出しながらも、光子の洞窟における魔獣退治は幕を閉じたのであった。


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