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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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亜人のお供をするにあたって・6

「うっし! そろそろ出発するか」

 たっぷり星を眺めた所で、口を開く。

 三人にこれを見せたかったのは事実だが、目的は星空の観賞では無い。

 ここに来たのはフェアル石採掘の障害となる魔獣の退治である。星はあくまでついでだ。


 そうして俺達はその場を後にし、再び洞窟の奥を目指して歩を進めた。



『綺麗でしたね』

『はい! すっごく!』

 歩を進めながらアキマサが口を開き、満面の笑みを浮かべたアンがそれに答える。

「だろ? ここでしか見れない特別だぞ」

『へ~。クリさん良く知ってましたね』

「まぁ、伊達に妖精やってないからな」

『クリさんが妖精って半分冗談かと思ってました』

「……アキマサ君、君は俺を何だと思ってた訳?」

 俺とアキマサがそんな事を話ている前方で、キリノの横を歩くアンが『特別か~』と嬉しそうに呟いた。

 アンは先程の光景が余程お気に召したのかテンションが高くなっており、今にもスキップしそうな程だ。


 まぁ喜んでくれたなら何よりである。



『アンさん、凄くテンション上がりましたね』

 アンに届かぬ様、コソッとアキマサが俺に耳打ちしてくる。

「そうだな。まぁいくら強くてもアンも女の子だしな。綺麗な物と可愛い物に目がないのかもな」

『う~ん、それとは少し違う様な気もしますが……』

 アキマサがそう言って僅かに苦笑する。

 ん? 綺麗な物見てテンションが上がったんだろ? 違うのか?

 テンションが上昇したアンに目をやり、そんな疑問を抱きながら尚も進み続ける。



 アキマサの聖霊力と、それに反応して光を放つフェアル石のお蔭で視界の良くなった洞窟内を進んでいると、不意にキリノが立ち止まった。

 分かります、いつものパターンですね?


 俺がそう思った矢先、案の定キリノが『来た』と小さく告げた。

 いつの間にか光子の洞窟に住み着き始めた魔獣の登場であるらしい。

 さてさて、どんな輩が居るのやら。

 まぁ大魔獣クラスの実力でも無い限り、この面子ならば瞬殺だろう。

 憐れにも勇者一行に瞬殺されてしまう魔獣の御尊顔を拝んでやろうと、目を凝らして洞窟の奥を見詰める俺の全身が凍り付く。

 全身の毛が逆立ち、血の気が引いて顔面蒼白となり、思考も吹き飛ぶ。


 魔獣の姿を認識した途端、恐慌に陥った俺に血走らせた眼を向ける魔獣。

「ヒィッ」

 魔獣と目が合った瞬間、喉の奥から無意識に悲鳴が上がる。


『クリさん?』

 そんな俺の様子にアキマサが訝しげな顔を見せる。

 アキマサにしてみれば、その魔獣は何て事のない雑魚にしか見えないだろう。実際、その魔獣はそこまで強い訳ではない。

 体長1メートル程で、蝙蝠の様な翼を持ち、ツルっとして黒光りした体躯と赤い一つ眼のその魔獣の名は通称モグモグ。


 またの名を妖精喰い(フェアリーイーター)


 その好物は当然――――


『ブォォオー!』

 言うが早いか、モグモグが俺目掛けて一足飛びで襲い掛かってきた。

「ぎゃあああああ!」

 洞窟の外まで響きそうな程の叫び声を上げる俺。

 そんな俺に飛び掛かってきたモグモグを、眼前で斬り捨てたのは俺の直ぐ隣に居たアキマサ、いや、アキマサ様であった。


『早っ!』

 モグモグを斬り裂いたアキマサがそう溢す。

「アキマサ様! お助け下さい死んでしまいます!」

 言ってアキマサの首にしがみつく。

『え?』

 突然、様付けで呼ばれ、しがみつかれたアキマサが疑問の表情を浮かべてみせる。

「来るぞ! いっぱい来るぞ! 一匹見掛けたら二十、いや百は居ると思え!」

『そんなゴギブリみたく……何なんですかコイツ?』

「こいつはモグモグだ! 妖精喰いだ! 喰われる戴かれちゃう! 全力で俺を守れ! いえ、守って下さい!」

『妖精喰い? こいつ妖精食べるんですか?』

「食べる食べる超食べる超好物! さっきの目を見ただろ!? 血走った捕食者の目を! 今の俺は400年前に妖精が滅びて以来の御馳走だ! もう絶対喰われる! ああもう! 来るんじゃなかった!」

『は、はぁ……』

 早口で捲し立てる俺に、アキマサが困惑の声を洩らす。


『そんなに怖いんですか?』

 怯え、アキマサの首に力いっぱい、―――と言っても妖精の腕力などたかが知れている―――しがみつく俺にアンが声を掛けてくる。

「怖い無理苦手生理的に受け付け無い! 虫とかお化けとか、お前らにも苦手なもんのひとつやふたつあるだろ!? 俺はまさにあれがそれ!」


 もうあのツルっとしたフォルムが無理!

 黒光りした色ツヤが無理!

 しかもそれがめっちゃ素早く動き回るのも無理!

 オマケに空を飛び、何処までも執拗に追い掛けてくるストーカー気質も無理!

 ドスの効いた低い声が無理!

 妖精を丸飲み出来る程の臭そうな口が無理!

 ギョロギョロとした赤い目玉が無理!

 殺意では無く、捕食対象として見てくる視線が無理!

 とにかく、あれの全てが無理!


『ふ~ん、クリさんをここまで怯えさせるとは、モグモグは中々の相手ですね』

 何処か嬉しそうな表情のアンがそう話す。


 この野郎、他人事だと思って呑気な。


『来た。十五』

 キリノが洞窟の奥に視線を向けたまま、そう淡々と告げる。


 十五匹も来るのかアレが。

 想像しただけで吐きそうだ。気絶しそうだ。洩らしそうだ。


『ちょっと多いですね。動きが早いので少々厄介かも知れません。キリノ、魔法で』

「駄目だ! 魔法は駄目だ! アイツは魔法で殖えるんだ! 何故か知らないが、とにかく魔力を伴う攻撃は駄目だ! やるなら岩石浮かして当てるとか、そういう物理系統の魔法を使え!」

 アンの言葉を遮る様に叫ぶ。

 モグモグは魔法が効かない訳じゃない。致死に至る魔法が当たれば消滅する。

 が、消滅と同時に行使された魔法の魔力を取り込み、魔力量に応じて増殖する摩訶不思議な魔獣なのである。


『分かった』

 俺の魔法厳禁の指示に頷くキリノ。

 ある意味モグモグは魔法を主体とする者の天敵の様な存在であるのだが、魔法のレパートリーも豊富な天才キリノにはそんな事は何のハンデにもならな―――


魔力球(バースト)

「アホかぁ―――!」

 何でここで直接魔力をぶち当てる魔法なんだよ!?

 いや、アレは魔法ですらない。だって魔力の塊ぶつけるだけだもん!

 俺の話聞いてた? ねぇ聞いてた?


 キリノから放たれた巨大な魔力の波動が狭い洞窟の通路に犇めくモグモグを一掃する。

 だが案の定、モグモグは消滅と同時に周囲の魔力を取り込み瞬時に増殖を開始。

 顔面蒼白になる俺の視界の中、軽く百はくだらないだろう数のモグモグが誕生した。


『しまった。失敗失敗』

 棒読み丸出しのキリノがそう呟き、


 俺を見ながらニヤリと微笑んだ。


「クソあまがぁ……」

 俺の弱味を嬉々として突いてきやがる。

 何て性格の悪い奴なんだ。


『まぁ普段の行いがねぇ……』

 アンが憐れむ様な視線を俺に向け、そんな言葉を投げ掛けてくる。

 お前は何を言ってるんだ?

 品行方正、非の打ち所の無い俺の行いの何が不満なのか、全く理解出来ませんな。


『ちょ、ちょっとキリノさん? 大丈夫なんですか?』

 キリノの魔力で大量に数を増やしたモグモグを見たアキマサが不安そうに問う。

 おい、そんな不安そうにするな。今のお前は俺の守護神になって貰わないと困るんだぞ。


 アキマサの問い掛けにキリノが上半身をこちらに向けて捻り、その状態のまま片手で小さく握り拳を作る。


『頑張って』

 キリノが全く心の籠らない応援を返してきた。


 殴りたい。

 今すぐアイツを殴ってやりたい。

「おい、アキマサ。今からアイツを、これからアイツを殴りに行こうか」

『それは……。ヤーヤーヤーと返せば良いんですか?』

 何を言ってるんだコイツは?


 訳の分からない事を口走るアキマサに俺が困惑していると、唸り声を上げたモグモグの集団が、一斉にこちらに赤い目玉を向け、直後、口を開けて俺に襲い掛かって来たのである。


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