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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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亜人のお供をするにあたって・5

 シグルスと真夜中の会合を開いたのが数時間前。

 ついつい熱が入り彼と朝方まで話し込んでしまい、気付いた時には辺りは明るくなり始めていた。


 シグルス曰く。

 ドワーフ族総出で像の製作に取り掛かっても、完成までは2週間を要するのだという。

 それが早いのか遅いのか、像造りの知識の無い俺には見当もつかないが、シグルスが大張りきりであるからきっと素晴らしい像が完成する事であろう。

 造形も然ることながら、今回は材料となる鉱石にも拘ってみた。


「時にシグルス君、フェアル石という白色の鉱石を知っているかね?」

『フェアル石、で御座いますか? いえ、聞いた事がありません』

「だろうな。俺が付けた名前だからな」

 そう言ってニヤリと笑う。


「フェアル石はここから少し南にある洞窟内部でのみ採掘可能な特殊な鉱石だ」

『ここから南の洞窟と言いますと、光子の洞窟で御座いますか?』

「今はそう言うのか? 名前は分からんがあの辺りには洞窟はあそこしか無いからな。多分、その光子の洞窟で間違いないだろう。その深部にあるのがフェアル石だ。

 あれは特殊な鉱石でな。硬度はミスリルに匹敵する程に頑丈だ」

『ミスリルに……それは中々の物で御座いますな』

「ああ、だが当然それだけじゃない。普段は白いだけのフェアル石だが、聖霊力を受けると光を放つ性質がある。何故かは知らんがな。今回はそれを使って像を作って貰いたい」

『成る程。それは中々面白そうな鉱石ですな。ミスリル程の強度であれば材料としても申し分ありますまい。しかし、あそこは神聖な場所とされ立ち入りを禁じられております。加えて、現在はいつの間にか魔獣が住み着いてしまっていて、深部に辿り着く事も容易ではありません』


「立ち入りについては俺が許可しよう。誰も文句は言わないだろう。魔獣は丁度、暇そうなのが三人ばかり確保出来るから、こちらで何とかしよう」

『陛下がそう仰有るのであれば、私に異論は御座いませんが、危険ではありませんか?』

「何、心配は無用だ。ただどの位のフェアル石の量やサイズが必要なのかは俺には分からんからな。魔獣を討伐したら報告するから採掘はそっちに任せるよ」 

『畏まりました。何時でも向かえる様に準備をして置きましょう』

「うむ、頼むぞ。 ―――――やっぱ、ドワーフと言えばフェアル石だよな」

 訳知り顔で告げる俺にシグルスが怪訝な顔を覗かせる。

 気にするなと小さく笑った後、俺は早速、洞窟へと向かう為、暇人三人がいるであろうモン爺宅を目指す為に立ち上がる。


 踵を返し、その場を後にする俺を、シグルスが頭を下げて見送る。


「あ、そうだ。忘れてた」

 シグルスへと振り返り、たった今思い出したもう一つの仕事を依頼する。


「俺の王冠も作ってくれないか? 威厳のある奴」

 言ってシグルスに、最後の妖精皇帝(フェアリーエンペラー)就任の際に気まぐれで欲しいと考えた王冠の作製もついでに頼んでおく。

 

『わ、私が陛下の王冠を!? 宜しいのですか!?』

「勿論だとも」

 本当は自分で作ろうかと思っていたが、折角、プロの職人がいるのだ。利用しない手はない。


『お任せ下さい! 御期待に添えます様、このシグルス、全身全霊をもって陛下の王冠を作って御覧に入れます!』

 肩を震わせ感無量とばかりにシグルスが一礼し、力強くそう答える。

 


「うん、宜しくね。期待しているよシグルス君」

 そうシグルスを激励し、俺はその場を後にした。







「と言うわけでやって参りました、光子の洞窟」

 はい、どーん、と洞窟を大袈裟に両手で示しながら言ってみた。

『眠い』

 アキマサが気だるそうにそう口にする。



 シグルスと別れた俺がその足でモン爺宅に向かうと、あろうことかアキマサとアンはまだモン爺の話を聞いていた。

 丁度終わりを迎えた頃合であった様で、両者で感想を言い合っていた所に俺がやって来た訳だ。


 ハッキリ言って呆れた。

 俺がここから逃げ出して数時間は経っている筈だが、こいつらどんだけ暇なんだよ

 しかも話の途中で長い昼寝を挟んだ俺とは違い、二人はずっと起きてモン爺の話に聞き入っていたのだ。

 その二人の忍耐力と、一人で延々と語るモン爺の体力に脱帽である。まぁ、食事休憩はあったけど。


 流石のキリノもそんな暇人達に付き合いきれなかったのか、俺とほぼ同時に途中離脱し、俺が迎えに行った時には空家で就寝中の御様子であった。


 話を聞き終わり、さぁ寝ようかと動き出した二人に「お仕事です」と無慈悲な俺の言葉を届けておいた。良かったね。


 そうして、寝ていたキリノも交え、シグルスとの一件を簡単に説明し、準備を急かした。

 別に急いでいる訳では無いが、俺の説明を聞きながらアキマサが半分寝てやがったので、アキマサが完全に寝落ちする前に颯々と出発して鉱石の確保に向かいたい。


『仮眠してからでは駄目ですか?』

「駄目だ。言っただろ、特殊な鉱石だと。アレの採集は時間との戦いだ」

 アンが起きたまま寝言をほざいたので、もっともらしく言って却下しておく。重複するが別に急いでいる訳ではない。


 単に寝惚けた状態の方が面白そうだからだ。


 魔獣相手に危険かも知れないが、こっちには体調万全のキリノ先生がいらっしゃるので、俺はその辺りの心配は全くしていない。

 睡眠不足で俺の話を右から左に聞き流すアキマサなど、むしろちょっと痛い目にでもあえば良いのだ。そうすりゃ少しは目も覚めるだろうよ。良かったね。




 

 そんなやり取りを経て、光子の洞窟内へと足を踏み入れる。

 洞窟なので当然ながら中は真っ暗である。

 アキマサとアンが松明を掲げているが、それでも視界が悪い。

 にも関わらず、松明を持ってもいないキリノが先頭に立ってつかつかと無遠慮に洞窟内を突き進んでいく。

 多分、目視ではなく魔力により周囲の空間を感知しているのだろう。

 キリノの事だ、既に洞窟の構造を全網羅していてもおかしくない。その証拠に、洞窟内は多少入り組んだ迷路の様な構造になっているが、それすらも意に介さず、キリノは迷いなくどんどんと奥へと進んでいく。

 彼女にとってすれば、暗闇や迷路だけでは何の障害にもなり得ないという事か。頼もしい限りである。

 


 そんなキリノに連れられ、洞窟内を奥へと進んでいく。

 そうして奥へと進むにつれて、洞窟の壁が点々と輝いて見え始めた。

『何でしょう? 壁が光っている様に見えますが……』

 周囲を見渡しながらアンが口を開く。

「さっきは説明省いたけど、この洞窟でのみ採掘可能なフェアル石は聖霊力に反応して光る性質があるんだよ」

 アンの問いにそう答える。

 アキマサの持つ聖霊力と、俺が僅かに持つ全くコントロール出来ずに常に垂れ流しになっている聖霊力に反応しているのだろう。

『世の中には面白い石があるもんですね』

 アンと同じ様に周囲を見渡しながら、アキマサが感想を述べる。

「ここらにあるのは小粒だから流石に石像造るのは無理だろうけどな。でも小粒なら小粒で楽しいものも見れるぞ」

『楽しいものですか?』

「うん。もう少ししたらな」

 それだけ返して先に進む。


 そこから数分歩いた先、民家がすっぽり収まってしまいそうな位の拓けた空間へと辿り着いた。

「到着~。んじゃあ、ちょっと松明消してくれる?」

 俺に言われて、素直にアキマサとアンが松明の火を消す。

 火が消え、暗闇が支配する中、「アキマサ、ここでちょっと聖霊力を出してみ」と声を掛ける。

 言われて、アキマサが聖霊力を僅かに解放した。


 途端、聖霊力に反応したフェアル石が、床、壁、天井、と空間に点在しているその全てがアキマサを中心に波紋の様に拡がり光りを放ち始めた。

『おー』

『わぁ……凄く綺麗です』


 洞窟内に拡がった満天の星空を目にした二人が感嘆の声を洩らす。

 幾万の小さな光りに囲まれた幻想的な風景。

 それは聖霊力を持つ者のみが作り出す事の出来る特別な風景である。


「ワクワクするだろ? ここに来たのはこれをお前らにも見せたかったってのもあるんだよ」

 フェアル石の星空を眺めながら俺が言葉を発する。

 それから星の輝きで明るくなった洞窟内で、感動する様に星空を眺めるアキマサとアンの様子を見、俺は満足気に頷く。

 キリノは表情が変わらないので良く分からないが、多分喜んでくれているだろう。と思う。


 妖精の聖域(フェアルチェアリ)に棲んでいた頃は、雨の日等、雲で星が隠れてしまった時に、ここでマロンや妖精達とちょっとしたパーティーを開いたもんである。


 それは妖精達だけの空間で開かれる、妖精達だけの秘密のパーティー。

 


 今となっては遠い昔の事である。



 昔を懐かしむ様に星空を見詰めていた俺に、アンが何かを言いたそうにしていた。

 しかし結局何も言わずに彼女は俺から視線を外すと、また星空の観賞へと戻っていった。 

 

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