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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅴ章【エディン~アイゼン王国篇】
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亜人のお供をするにあたって・3

『こうして、勇者様の奇跡によって自由を手にした私達の先祖は、妖精王マロン様の御提案により、居をここ妖精の聖域(フェアルチェアリ)に移す事になったのです。

 また、勇者ロゼ様と英雄クゥ様、そして妖精王様のご尽力で、バルド王国を皮切りに、カーラン・スー、アイゼン王国、マドゥルー領と、次々と魔族を亜人として、一つの同等な種族として認める動きとなり、それが亜人達の立場を地の底から救い上げる結果をもたらしたのです。

 その後で御座いますが』

「なぁ、モン爺」

 モン爺の長~~~い語りをここでようやく遮る。

 と言うか、途中、話に飽きて寝て、起きたらまだ喋ってた。

 モン爺おそるべし。


『何で御座いましょう陛下?』

「もう十分だ」

 うんざり気味にそう告げる。


『続き、気になります』

 俺の言葉にアキマサがそう口を開く。

 見るとアンもうんうんと小さく頷いている。


「……ならお前ら代わりに聞いといて。俺はもういい」

 そう告げて、アンの太股ベッドから身を起こし、「散歩してくる」とモン爺の自宅を後にした。



 モン爺宅を出ると俺は一つ溜め息をつく。

 確かモン爺の昔語りが始まったのは昼前だった筈だが、外はすっかり暗くなっていた。


 中途半端な時間に昼寝したせいで、全く眠くない。

 ってな訳で改めて亜人の村エディンを散策する事にしたのだ。


 モン爺の話の続きは特に聞きたくは無かった。俺が知りたかったのは何故、妖精の俺を見ただけで泣く程に感情を変化させるのか、という部分だけ。

 先の勇者一行の旅自体には然程に興味は無い。


 ――――大半は知っているから。



 400年前。

 マロンが妖精の聖域(フェアルチェアリ)を離れた同時に、彼女に仕掛けて置いた術の一つが発動した。


 それは万が一の保険の為に仕掛けて置いた術。

 自分の魂を2つに分け、その一つをマロンの中にひっそりと忍ばせて置いた。

 彼女が妖精の聖域(フェアルチェアリ)が出なければ、そのまま彼女の奥深くで目覚め事は無かった。真面目な彼女があそこを離れるとは考え難かったし、長い時間を掛けて、離れ難い様に刷り込みも行った。


 にも関わらず、彼女は妖精の聖域(フェアルチェアリ)にあっさりと見切りをつけ、旅に出た。


 そこからは俺もマロンの目を通して、深層から彼女達の旅を見守った。

 表層に出たのはトラキア帝国での一度のみだが、彼女の旅の大半の出来事は見ている。

 見ていないのは結末のみ。


 旅の最後までは彼女達と共に行く事は出来なかった。


 だが、旅の結末は知っている。バルド王国の書物にも記されているその結末は、俺だけじゃなく大半の人々が知っているだろう。

 勇者一行は幾多の苦難を乗り越え、魔王を打ち破った。


 彼女の命と引き換えに。


 彼女は死に、妖精も消えた。

 

 400年の平和の代償として、果たしてそれは大きいのか小さいのか、彼女の近くに居る俺には良く分からない。



 分からないと言えば、不可解な事もある。

 何故、妖精も一緒に消えたのか、という事。


 俺の現在の肉体は妖精モドキなので消えなかったのだろう。

 とは、メフィストの推測であった。


 メフィストの人工生命体(ホムンクルス)研究の過程で造り出されたなんちゃって妖精体ゆえ聖霊力を僅かに持っている様だが、扱えないので無いのと同じである。


 そのクセ、俺の意思や意図をガン無視して、聖霊力が力を顕著させるのだから厄介だ。

 バルド王国の地下で、アキマサの肩を叩いただけで【勇者の加護】と認定された時はちょっと泣きそうになった。

 あれは完全にイレギュラーだが、結果的には良かったのかも知れない。

 と、思う事にした。


 砕けた聖霊力の確保は物理的には可能だったが、それを再構築するとなると手段が無かった。

 だが、アキマサが取り込む事で、緩やかにではあるがアキマサの中で再構築が為されている様子である。

 怪我の功名と言うか、転んでもただでは起きない辺り、流石俺。

 誰も褒めてくれないので、自画自賛しておく。


 他にも幾つか気になる事があるけど、―――さて、どうすべきか。



 しばし悩む。


 そして出した結論はアキマサに丸投げしよう、という事。


 丸投げするとは言うが、選択肢は提示するつもりだ。それをどうするのかをアキマサに決断して貰うだけである。

 彼は何だかんだ言っても勇者である。

 ちょいちょいピンチにも陥るが、それを軽く乗り越えるだけの運が彼にはある。

 聖霊力が不完全ゆえ、歴代の勇者の中ではぶっちぎりで最弱。

 だが、運も実力の内か、彼は仲間に恵まれ、環境に恵まれ、時代にも恵まれている。

 アイツはかなり大物になりそうな、そんな気がする。

 調子に乗るから絶対に口には出してやらないが。


 とにかく、人魚族が聖霊力の欠片をここに届けるまで後二日ある。それまでに今後の予定がつけば良いのだ。


 よし、アキマサに丸投げすると決めたら心が軽くなった気がする。

 気分晴れやかになった俺が、七夜の樹の根っ子でも見に行くかと身体ごと後ろを振り向くと、眼前にデカイ顔があった。


「――――いや、近いよキリノさん」

 デカイ顔の正体はキリノであった。


 俺に指摘されても顔を離そうとしないキリノ。引いたら負け的な意地か何かですか?

 俺も負けじと至近距離で睨むが、基本的には美女のカテゴリーに属するキリノの顔にあっさり敗北し、自分から距離を取る。


 くそっ、キリノのくせに。

 チュウでもしてやろうかチキショー。


 心の中で悪態だか何だか良く分からない愚痴をつく。

 そんな俺の愚痴など知った事かと、尚も俺を凝視し続けるキリノ。


 あ、この野郎。さては心を読もうとしてやがるな。

 たが甘い甘い。バルド王国辺りからその対策は完了済なのだ。

 戦闘に関しては昔から役立たずだが、長生きで得た智識は何物にも勝る武器であり楯なのだよキリノ君。

 カーラン・スーや港町カイセンでもちょいちょい探りを入れる様にキリノが魔力を向けて来ていたが、結局、俺の鉄壁の守りを破れてはいない。

 東方三国に至っては魔力での読心を諦め、ほぼ直球で尋ねてきていた位だ。


 そんなキリノの魔力による読心術。

 便利かも知れないが、相手の考えを知るというのはそれなりのリスク、というよりメンタル的なダメージの危険がある。

 口や態度では見抜けない相手のダークな部分が見えてしまうのだ。

 魔力による読心術と言うが、これを魔具も通さず独力で行うのは中々に難しい。

 とは、とある魔女の言葉である。

 魔女曰く。

 これは自分の魔力と相手の持つ魔力を同調させる精密な魔力操作が必要であるらしく、それがかなり難しいのだと言う。


 だが、そんな難度の高い術もキリノが使うと簡単そうに見えるから不思議なもんである。

 キリノはこと魔法に関して、なまじ天才なだけにこの読心術に頼り過ぎる傾向がある。多分、昔からなんだろう。伝えたい事があればある程、キリノの口は固くなる。動かなくなる。俺はそれに最近気付いた。

 たがら何時まで経ってもコミュ症なんだよこのペチャパイは。


 

 と、ここまで思考した所でキリノがニコリと微笑んだ。

 釣られてヘラッと笑う。


『コミュ症のペチャパイで悪いか』

 言いながら、俺の脳天に杖を叩きつける。

 俺がベチャリと地面に激突する。


 こ、この野郎、長命の叡智を自画自賛した途端、守りを看破しやがった。

 熱く抱き締めあった大地から上半身を起こし、驚きと憎たらしさ、少しの感嘆、それらを含んだ複雑な表情でキリノに顔を向けると、


『フッ』とキリノが鼻で笑う。


 いちいち腹の立つ奴だ。

 だが、そんなキリノも心の奥底まで踏む込んで見ようとはしない。あくまで彼女が見るのは表層部分まで。

 それが彼女の遠慮なのか、元々そこまでしか読み取れない魔法なのかは分からない。

 が、天才様の事だ。多分、前者だろう。


 出自は知らないが、どんな親を持てばこんなサラブレッドが生まれるのか見当もつかない。

 枷を付け、力を抑えてあの魔力量。多分だが、フレアよりも上だろう。

 本当に二十歳そこそこの人間かと疑いたくなるが、彼女が悪人では無い事は知っている。

 それで良いと思う。出自や種族など些細な事だ。


 って言うか、何しに来たんだアイツ? 俺に用があったんじゃないのか?


 俺を鼻で笑って去って行くキリノの背を見ながら、そんな事を思うのだった。



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