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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅳ章【勇者ロゼ・後編】
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勇者のお供をするにあたって・44

 口火を切ったのは私の魔法により身体強化の施されたセトス。

 セトスは跳ね上がった瞬発力をもってビブロスの懐へと潜り込み、僅かに身体屈めた後、そこから屈伸の様に身体を伸ばし、その勢いを乗せたままビブロスの首筋目掛けて剣を振るう。

 ビブロスが手に持つ戦斧でそれを受け止め、力任せに弾く。

 剣を手離しこそしなかったがそれでセトスが体勢を崩し、その隙を突いてビブロスがセトスに巨大な戦斧を振り下ろそうと腕を上げる。


 しかし、戦斧が振り下ろされるよりも前に私の放った氷魔矢(ブリアロ)がビブロスの腕に突き刺さった。

 魔矢の衝撃で僅かに上体を後ろに崩したビブロスに、体勢の復帰の為に踏む込んだ右足を軸にしたセトスの横凪ぎに放った剣がビブロスの横腹を切り裂く。

 だが、ビブロスの守備力が高いのか、セトスは思った程の手応えを感じなかった様で、追撃を止め、一旦、ビブロスから距離をとる様に下がった。


 そんなセトスの様子に、魔矢を引き抜き、握り砕いたビブロスが忌ま忌ましそうに睨みを効かせた。


 今の僅かなやり取りでビブロスだけならば私達で対処可能だと実感する。

 私の氷魔矢(ブリアロ)砂漠の女神(イシス)のお陰で速度、威力が上昇していた。

 ただ、それでもビブロスの高い防御力を前にしてセトスの剣や氷魔矢(ブリアロ)では決定打に欠ける様だ。

 致命の一手を放つには魔力を練り固める必要がある。


 ビブロスもそれを理解しているらしく、私が魔力を練り始めたと同時に私へと向け、駆け出し、体重の乗った一撃を繰り出してくる。

 魔力の集中を中断し、それを避ける。

 空を切り、地面へとぶつかったビブロスの戦斧が大きな音を立て床を抉る。


 ビブロスから距離を取りながら抉れたトラキア城の床に視線を向ける。

 まさに剛力と云った破壊力。重量武器の為、動きこそ緩慢であるが、あれを食らえば一溜りも無いだろう。


 ビブロスが後方へと下がる私を追ってくる。

 どうやら私に魔力を練り込む暇を与える気は無い様だ。


 私へと意識を飛ばすビブロスの背後からセトスが攻撃を仕掛ける。

 しかしビブロスは慌てる事なく、視線を私に向けたまま自身の周りに拳大程の魔力の塊を数個出現させ、セトスを迎撃する様に放つ。

 不意の攻撃にセトスがビブロスへの攻撃を中断し、回避行動へ移る。

 ついでとばかりにビブロスが私にもそれを放ってくる。

 だが、属性の乗らない魔力片ならば対処はしやすい。

 後方から右方へと進行方向を変えながら、風魔法を行使し、飛来する魔力片に空気の塊をぶつけ霧散させる。


 その後もビブロスは途切れる事なく私へと追撃し続けてくる。

 これでは魔力を練り込む暇もない。仕方がないので別の手を考える。


 そうして何度かビブロスの戦斧を避け、距離を取るという行動を続けていると、痺れを切らした様にビブロスが先程と同じ魔力の塊を出現させる。


 先程よりも一回り大きく、数も多い。三十はあるだろうか。

 その半数をセトスへと向け放ち、セトスを牽制する。

 同時に、残りを私へと目掛けて放つ。


 飛来する魔力片を前に、一度大きく息を吐き、足を止め、衝撃に備える。

 先程の様に魔力片を打ち消しはしない。直撃覚悟で別の魔法を行使する。


 そうして、私が魔法を行使すると同時、ビブロスの放った魔力片が私へと連続して直撃する。

 殴られた様な衝撃が全身を襲うが、死ぬ程ではない。予想通り属性も乗らない瞬発的に放った魔法では致命的な威力は無いらしい。


 まぁ、それでもかなり痛いのだが。


 と、少し余裕ぶっていたら最後の魔力片を頬で受け、思わず体勢を崩す。

 その隙を逃さず、ビブロスが戦斧を振り上げながら私へと猛進してくる。


 これは不味い。

 無理矢理に体勢を立て直そうと足を踏み込むが、途端に眩暈を覚える。

 回避は厳しい。

 あの破壊力だ。無駄だと理解しつつも、眩暈で僅かに混濁した意識の中、咄嗟に砂漠の女神(イシス)を頭上へと掲げ、防御の体勢を取る。

 当たれば砂漠の女神(イシス)ごと真っ二つだろうけど。


 当たればね。



 鈍い衝撃音を打ち鳴らし、戦斧は私に当たるより先にビブロスと共に吹き飛んでいった。


 私の傍ら、ふぅ、と大きく息を吐いたのは拳を振り抜いたままの体勢でいるクゥであった。

「ありがとうクゥ」

 眩暈を抑える様に額に手を当てたまま、それでも出来る限りの優しい声色を意識してクゥに礼を言う。

 先程、直撃覚悟で放ったのは意識を失ったままのクゥの意識を揺り起こす治癒系の魔法。

 失敗すれば、あれでクゥが起きなければ私は死んでいたかも知れないけど。


『無茶し過ぎだよー!』

 クゥが怒った様に声を上げる。


『全くです。生きた心地がしませんでした』

 いつの間にか傍まで駆け寄って来たセトスがクゥの言葉に同意する。

 声を荒げて私に抗議する二人の言葉をまるっと無視して、私はクゥに抱き着く。伝わってくるクゥの温もりで痛みが吹き飛んでしまえる程、嬉しさが込み上げて来る。


「無事で良かった」

 抱き着きながらそう耳元で囁く私に、顔を僅かに赤くしたクゥがあぅと呻いた。

 次いで、小さく『助けに来てくれてありがとう』と呟き、抱き着く私を軽く抱き着き返した。


 そんなクゥの可愛らしい様子に、辛抱たまらんと調子に乗った私が更にきつく腕に力を込め、グリグリとクゥの頭に頬を擦り寄せ、小刻みに鼻を鳴らす。

 ああ、懐かしいクゥの匂いがする。数時間しか離れていないけど。


 地下道をさ迷っていた為、下水の匂いを放ちながら、豚の様に鼻を鳴らし、クゥの匂いにトリップする妖精王とかいう変態。

 その変態を見るセトスの顔が若干引き攣っているが気にしない。

 

『ちょ、マーちゃんってば』

 そうぼやきながらクゥが腕で私を引き剥がす。


 うぐぅ、何という腕力。

 あっさり引き剥がされてしまった。

 力が、力が足りない。


 

『と、とにかく、助けに来てくれてありがとう。ここからは私も戦うから』

 クゥが私とセトスに礼を述べた後、ビブロスへと身体を向けて拳を構えた。



 こうして、トラキア戦に闘神が参戦したのである。

 

 

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