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【妖精譚】勇者のお供をするにあたって   作者: 佐々木弁当
Ⅳ章【勇者ロゼ・後編】
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勇者のお供をするにあたって・39

『結局何しに来たんだアイツら?』

 大悪魔が消えていった夜空を眺めながらロゼがそう口にする。

 先程までのピリピリとした空気はどこへやら。剣も既に鞘へと納めてしまっている。


「さぁ……ビブロスという大悪魔の成果を見に来た、としか分からなかったわね」


『……大悪魔ってのは暇なのか?』


「ど、どうかしら」

 私がそう答えると、腰に手を当てたままのロゼが、訳が分からないと云った風に小さく溜め息をついた。次いで、


『……なぁ、マーちゃん』

 と、深刻そうな表情で私の名を呼ぶ。


 それで、―――何を言われるのか薄々勘づいた私は黙って続きを待った。


 しかし、しばらく待ってもロゼが続きを口にする事はなく、『……やっぱ何でもない』とだけ言って話を打ち切ってしまったのである。


 ただそれだけの事。

 ただそれだけの事で私は何だか居たたまれない気持ちになってしまい、黙り込んでしまう。

 

 広場に僅かな沈黙の時間が流れる。


 ややあってから、『一旦、王宮に帰りませんか? 今の出来事を国王に報告する必要もありますし』

 セトスがそう言って王宮への移動を提案する。


『そうですね。アイツらの話に出て来たビブロスってのも気になりますから』

 そうロゼが返し、それで私達のカーラン食べ歩きツアーはお開きという事になった。





 王宮までの帰路、クゥがアレが美味しかった、コレが面白かったと楽しそうに話しをしていた。

 ロゼも楽しそうにクゥの話し相手をしている。

 そんな二人には申し訳ないと思いつつ、けれど楽しく話しに混ざる気にもなれず、道中、私はずっと上の空であった。


 先程の、途中で打ち切られたロゼの話を思い出す。

 ロゼは怒っているのだろうか……。大悪魔の存在を隠して居た事を。

 別にロゼは何らかの感情を私に見せた訳ではない。私が大悪魔の存在をロゼに黙っていた事に対して、少なからず罪悪感を持っているからこそ、そう感じるだけであろう。

 先程名前を呼ばれた時に、それが顔に出てしまったのだろうか。だからか、ロゼはその事について私を追及したりはしなかった。


 故意に黙っていたのは事実だ。


 彼に余計な荷物を背負わせたくなかった。全ての大悪魔と戦うとロゼなら言い出しただろうから。

 彼はハッキリと口に出した事はないが、魔王と、それに連なる魔の者を全て打ち倒すのが勇者たる自分の使命だと思っている節がある。それが命を賭してでも成し遂げねばならない自分の役目だと。


 しかし、私は違う。

 私はそんな事は望んでいない。

 魔王を打ち倒す、と云う共通の目的意識は持っているが、避けられる戦いは避けるつもりでいる。

 勇者たるロゼの仲間として、全く同じ方向を向かず、僅かに横に逸れたがる私は勇者の仲間として失格であるかも知れない。

 けれど、私はぶれた方向を修正するつもりは毛頭ない。口にも出さない。言えばロゼはきっと、私を説得するか、或いは自らで舵取りをするだろう。


 だから言わない。


 傲慢と思われるかも知れないが、この旅の、この勇者一行の舵は私が取る。

 乗り越えるべき障害が立ち塞がっても、それが回避出来るものならば私は迷わず舵を切る。


 昔、先代が言った。

 生死を賭けた戦いを乗り越えてこそ強くなるのだ、と。

 先代の言わんとしている事は理解出来る。実戦で得られる経験、知識。これらは確かに生きる為の糧となるのだろう。戦わねば得られない何かがきっと有るのだろう。


 だからなに?

 それがなに?


 先代は良く、(おとこ)とは! と口にしていた。無性の妖精相手に漢論を熱く語るのも可笑しな話ではあったが……。

 とにかく、先代の話を聞く限り、漢とは戦う事に意義を見出だしたがるものだと私は感じた。

 しかし私はそんな事に意義を見出だしたいとは思わない。


 結局、言ってしまえば魔の者と戦うと云うのは殺し合いなのである。

 別に魔獣や大悪魔を殺す事に罪悪感を覚える訳でも、反対する訳でもない。これは生き残りを賭けた戦いなのだから、そこに疑問を投げ掛ける気などない。

 しかし、殺すと云うのは、勝てる前提の話である。

 逆を言えば負けたら殺されるのだ。

 であるのに何故、わざわざ戦う機会を増やす様な真似をしなければならないのか。

 回避出来るものを回避して何が悪いと言うのだろう。

 私には理解出来ない。


 これは私が女だからそう感じるのか、それとも単に弱腰なだけだろうか……。


 どちらにせよ、森に長く居たので平和ボケと笑われたりするんだろう。


 けれど、それでも。

 笑われても、怒られても、恨まれても、私は最後まで私のやり方で舵を取り続ける。


 私の前を楽しそうに会話しながら歩くロゼとクゥ、二人の背中に視線を向ける。


 二人と旅を始めてから、最近良く思う事がある。


 私はこの二人にだけは幸せになって欲しい。

 二人と過ごす内にその想いは日に日に強くなっていった。

 そうして強くなるその想いの中、世界の平和か二人の幸せか、そんな二択を問われると私は迷わず後者を取ってしまいそうな自分がいる事に気が付いた。

 そんな極端な選択肢を迫られる局面などある筈はないのだが、それを選んでしまいそうな私は間違いなく妖精王失格だろう。

 


 自分が女だと分かった位からそう思い始めたのだけど、―――母性かしら?

 う~ん……せめて姉弟妹(きょうだい)愛にしておこう。

 お母さんと呼ばれて喜ぶなど、フレアとお揃いみたいで何かちょっと―――引く。



 横を歩くフレアが大きくくしゃみをした。






 

 

 王宮についた私達は、そのままアナメトス王の元に向かい、事の顛末を説明した。

 説明を聞き終えるとアナメトス王は、警備の強化やオアシス周辺の調査、ビブロスという名の大悪魔の捜索などをセトスに命じる。

 命を受けたセトスが、一礼し去ろうとするところを引き留める。次いで、アナメトス王に向き直り、

「万が一、大悪魔がこの国に潜んでいてはセトス王子だけでは危のう御座います。微力ではありますが、私も共に向かいます。宜しいでしょうか?」、申し出る。


『ふむ、助かる。そなたが居ればセトスも心強かろう』


『それなら、俺も』

 ロゼが自分も、と志願するのを片手で制す。


「王宮の守りも必要でしょう。二人は王宮に居て頂戴」


『……わかった。捜索は任せるよ』

 渋々と言った様子のロゼが王宮に残る事を承諾する。


 そうして、内心ホッとしたのを表情に出さない様に苦慮しつつ、私はセトスと数名の兵士と共に大悪魔捜索の為、再びカーランの街へと向かったのである。






 王宮を出て、禍の気配を探りながら街を歩く。

 広場にて騒ぎがあったものの、催事は依然として続けられていた。下手に中断しても不安を煽る事になる、との事であるらしい。

 賑わうカーランの街を歩き続ける。


『多少の考え方の違いなど、どこのパーティーにもあるものですよ』

 しばらくして、私の横を歩いていたセトスがそう声を掛けてきた。


 広場での私とロゼのやり取りを横で見ていたセトスが何かを感じ取ったのだろう。

 そんな微妙な空気を今日会ったばかりなセトスが悟った事に少し驚き、それと同時に申し訳なく思い謝罪する。


「すいません。ダシに使う様な真似をしてしまって」

 あの時、私がセトスと共に大悪魔捜索を進言したのは、ロゼと居るのが少し気不味かったからである。

 勿論、セトスが大悪魔と遭遇してしまったら、と危惧したのも嘘ではないが、結果としてセトスをダシに私はあの場から逃げ出したのである。


『気にしないでください。あなたが捜索に加わってくれて心強いのは事実です』

 街の喧騒の中、そう言って微笑むセトスの顔は今日見た中で一番優しく見えた。


 

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