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俺の願いで青春がグズグズです  作者: 怠け太郎
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帰宅しました

十三話。


 酒匂とのショッピングがお開きとなった。正確には突如乱入した小柄な少女によって終わらせられたのだが俺にとっては同じ事。酒匂には悪いが早く帰れるのは正直ありがたい。予想より早くお開きになったのでその時間を有用活用した。両手を塞ぐレジ袋が2つ。様々な食材を買い込んだ。重たい荷物で腕が疲れた。長い道もここまで、気が付けば日が沈む前に家に着いていた。


 玄関前に到着。家の様子を見ると一階リビングの明かりが点いている。両手が塞がった今、家に居るだろう妹に扉を開けてもらうのが一番助かる――そうしてもらおう。


 インターホンを押すと目の前のインターホンの音と同時に家の中から網戸をすり抜けてインターホン前の悠椰に音が聞こえる。


 反応がない。風呂にでも入っている、それとも音楽でも聴いているのか。少々面倒だが自分でドアを開けることにした。


 悠椰は右手にぶら下がった荷物を地面にゆっくり置いた。空いた右手でプッシュプル錠のドアノブを引いた。開けると妹のピンクの線が入ったスニーカーと黒白の運動靴が玄関の石畳み奇麗に靴をそろえて置いてあった。


「いるじゃん···」


 思わず声が漏れた。それはそうと、勝手に締まるドアを体を体で支えて一旦外に置いたレジ袋を回収した。


「やっぱ風呂か······? よし入ろう!」


 柑橘系の匂い、湿った空気を体で感じ妹が入浴剤入りのお風呂に入浴中であると予想する。風呂に乱入しようと意気込む悠椰。靴を脱ぎ捨てて、食材を冷蔵庫に入れるためにキッチンに急行する。しかし。


「あれ···いた」


 キッチンに行こうリビングを経由しようと横切ろうとした時に妹を見つけた。リビングの白いソファに寝ころんでいた。今日は学校の部活もなくゆっくり休んでいた。と聞かされなくても身内には理解されそうなほど深い睡眠を取っている。


「腹を出しながら寝るなよ」


 無防備も良い所だ、とニヤニヤする兄である悠椰。敢えて起こさずに妹の横を素通りして、冷蔵庫に食材を手早く丁寧にぶち込むと、イタズラモード。


手を流しで素早く洗い、ソファで涎を垂れして寝ている妹の足元に腰を下ろし這い寄る。妹の足首を掴み取り俺右手のこちょこちょが足裏に炸裂する。


「――ふあああ!? え、え、え?」


 擽りに堪えかねて飛び上がる紅葉。周りをきょろきょろと困惑状態で慌てる。


「落ち着けって、ただいま、おはようか?」


 兄弟喧嘩は圧倒的に紅葉が強い、ここで不審者と勘違いされた場合は俺が入院する羽目になる。俺は直ぐに両手を挙げて無害を示した。


「あ、兄だ、この場合お帰りが正しいね」


 イタズラをした犯人が兄であると解ると指を立てて自慢げに語る。この吞み込みの速さは兄弟ならではのなせる業である。


「これから夕飯作るから、今の内に風呂でも入っとけ」


 悠椰は立ち上がり紅葉に提案する。


「あ、そうだあ、お湯沸かしたまま寝ちゃった、てへぺろ♪」


 ミスを誤魔化す為の必殺技だが、身内には寧ろ逆効果な大技を悠椰にかます。


「風呂に入れ」


 見事に流された。


「ラジャー! ふーろだ」


 立ち上がり風呂に向かう、リビングの開けっぱなしのドアを抜けて風呂に愉快に走り出す。


「それじゃ俺も始めますか」


 袖をまくり上げて気合を入れる。キッチンに戻り冷蔵庫を漁る。食材を粗方取り出して準備完了。早々に料理を始めた。


「にいーーー!」


妹の声が聞こえる。ペタペタと音を立てながら近づいて来る。


「電話だよ?」


廊下から堂々と濡れた妹が全裸で現れた。一糸纏わぬ姿と淡く焼けた肌が露わになった妹は手に受話機を持っていた。

 

「おーありがとな······おい、服を着ろ痴女」 


おかしい事に妹が全裸だった。


「えー、良いじゃん、兄弟なんだし」


 妹を変態扱いしながらもしっかりと受話器を受け取る。


「誰から?」


「あれ、あの人」


「ああ、親父か」


「お父さんをあれ扱いする兄はどうしようもない兄だね」


「お前が言うな発端の痴女さん。風邪を引かない内に巣にお戻りなさい」


「きゃー兄が嫌らしい目で見てくるー」


「なんだよ急に······うげ」


 通信したままだじゃねえか、何してくれてんのマイ・シスター?


 電話の向こうの相手に情報がただ漏れである事を知って嫌な汗。


「もしもし?」


「······よう俺だ」


電話の向こうから渋い声が聴こえる。中々に年季の入った声だ。


「どちらさまですか? 名乗って欲しいのですが」


「親に対してあれだ、あの人だ、言いたい放題言いやがってその言い分か?」


「ははは」


「元気か?」


「おう、頗る元気だ」


「お前に聞いてねえよ、紅葉ちゃんだよ、お前が不調な訳あるか」


「ああ、紅葉か、元気溌剌だ」


「そうか、じゃあな」


「ちょ、用件は!?」


「ああん? ああ、そうだった忘れてた」


おいおいおい、娘溺愛し過ぎだろ。目的忘れんなよ。


「海外に出張するんで、一年ぐらい帰らないから宜しくな、ああ、安心しろな、紅葉の分の金は送るから」


 割と重要な話じゃないか。


「バカンスの抜け駆け、紅葉に伝えるぞ」


「たく、しょうがねえな、お前の分の仕送りを送るからよ、だから紅葉ちゃんには黙ってくれませんかね······」


「それはそれと。ところで親父、酒匂って名字の近所の人知ってるか?」


「うん? ああ、懐かしいな、お前と良く遊んでいたじゃねか、近くの神社で四人で······あれだろ楓ちゃんだろ?」


「······遊んでた? ······四人?」


 小声で頭に引っかかる言葉を口にする。


「お前より賢くて、礼儀正しくて···目つきの悪い捻くれた少年と比べると、ほんと」


「誰の息子のことか、問い正して良いですか?」


「却下、体調管理しっかりしとけよ、料理も含めてお前にしか出来ねえからな」


「ああ、了解した、それで土産なんだけどー」


 ブツッ。


切られた。


 あの野郎。


 通信を一方的に切られら悠椰は受話器を睨み付ける。何にもならない行為は溜息を零して止めた。廊下の置き場に受話器を戻す。


「あ、やべ、忘れてた!」


 悠椰は煮込んでいたことを思い出し、キッチンに急いで戻った。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

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