ショッピングは中止です
こんにちは。十二話。
「あやのんここで何してるの?!」
手錠に目が移る。手錠の鎖には女物の服がぶら下がっていた。試着室の床にも様々な洋服が散らばっている。半裸の女お友達と名も知らないケダモノが一匹。非常事態。
「ショッピング……だよ?」
上ずった声を出す楓、その発言に横の男も首を縦に振り、必死に肯定している。
「早く戻って、今は誰も来てないから」
「ありがとう、優芽」
感謝を一言伝えるとカーテンをすぐに閉めて着替える。
「おい、お前は外!」
「うげっ」
試着室の中に居座ろうとする悠椰は後ろ襟を掴まれた。後ろ襟を掴んだ少女は手を思い切り引っ張り悠椰の試着室での滞在を妨害した。それだけは終らず、男を試着室と試着室の間の壁に体を押し付けて動きを封じた。手錠で試着室の楓と手が繋がっている為なのか試着室から距離を取ろうとしない。
胸腹部を壁に体を押し付けられた男は抵抗しようと試みる。だか相手が小柄な女の子であると知ると拾われた子の猫のように大人しくなった。
悠椰の背中に腕を押し込み体の自由を奪う。
「痛い…んですけど」
「なのな、俺はお前みたいな雄ブタが嫌いなんだ、成り行きは知らないけど、あやのんにちょっかいを出すなら、容赦しない」
可愛い笑顔だ。しかしなんだろう、怒った顔の楓の方が十割増しで可愛く感じる。不吉な笑顔だ。
「……あやのん?誰だよその人」
楓の友人は『あやのん』とかわけ分からん名前出すけど、誰だ。
「あやのんはあやのんだよ、分からないの?やっぱり男はゴミだね。本当」
その判断は少々手厳しい気がするんだが、その上結局のところ『あやのん』が誰なのか教えてくれないし。にしてもこの小柄な少女は一体何者なんだ。酒匂の妹さん?
「今、小柄な女だって思ったろ」
「いや、そんなことないっす」
すっっっるど!心でも読んだの? にしても的確過ぎやしませんか?!
「分かるんだよお前のその間抜けだ顔を見ればな」
小柄な少女が話終わると楓が着替えて出て来た。
「終わったよ……って、なにやってんの優芽?」
「え、なにってスキンシップだ、よ?」
素早く悠椰から手を離すと誤魔化すように小柄な少女は苦笑いをした。相槌を求めて悠椰に目配せ。俗に言うアイコンタクトを取りに来た。
なんだ今の楓に対しての態度の豹変のは。それと刺すほどの鋭いウィンクは頷けってか?怖いんで帰っていいですか。
「はは、まあそんな感じだ。それより、そろそろ手錠止めません?恥ずかしいです」
小声且つ早口で手錠の解除を要求する。
「そうね、不便よね、私は楽しかったけど」
そう言って鞄の中から鍵を出して手錠を解いた。
「ふあ~やっと解放された~。ただいまフリーダム!」
半分涙目で喜びを表す悠椰は自由の素晴らしさを染み地味と感じていた。
「それじゃ私は服を買うけど」
両手いっぱいの洋服を持ち上げて見せる。
「悪いな、試着もあまりに出来てないだろ?」
申し訳無いと非礼を口にする悠椰。ショッピング(デート)を頼まれた身でありながら殆どショッピング(デート)を出来ていない。新手のプレイしかしていない。
「大丈夫だって。服は買う予定だったし、試着はサイズが気になってただけだから、それに」
「それに?」
「偶然だけど、ゆめがいるなら心配ないって」
「その心は」
「私の体サイズを一番良く知ってるから」
「え、なんで?」
自分自身の身体情報を自分より把握ている理由と方法が悠椰には浮かばない。もしかしてお互いに目覚めてらしゃるとか。あっち系的な。
「それは本人に聞いて」
「なんで?」
小柄な少女に質問を振る。
「聞くな馬鹿、変態、クズ」
「って罵られたけど」
「そう、残念ね」
軽く悠椰をあしらう楓。
「それで、ショッピングはどうなるのでしょうか?」
「終わりに決まってるよね? あやのん、てかもう服を買いに行こう」
「ちょっと、優芽、押さないでって」
小柄な少女は背中から楓を押して前に進める。体を押され戸惑る楓。
「良いの良いの、早いとこここを出ようよ」
少しでも悠椰と距離をとろうと小柄な少女は必死に楓を悠椰から引き離す。
「帰って良いんですね?」
置いてけぼりにされた悠椰は聞いていないと知りながら質問を投げかけ、早々に店を出て行った。
読んでくれてありがとうございます。