ショッピングが続くのです
十一話です。
手錠をしながらのデートはまた乙なもんですね。……いや、おかしいだろ。
彼女の迷子する才能を懸念して手を繋ぐことを要求したら恥ずかしくて代わりに手錠をしてくた。さて、この状況をどうしよう。
「これどうすんだよ」
「どうもしないわよ、このまま店に入るに決まっているでしょ」
「あのな、どこに手錠しながらするショッピングあるんだよ!」
「仕方ないでしょ、しちゃったことは! いいから行くの!」
半ば強引に店に入ることになったはいいが、視線が先程の何十倍に強くなっている。ぱっと見変態だよな、手錠してんだもん俺たち。
悠椰が恥ずかしそうにしてる間に楓はT-シャツ、ワンピースにスカート、色々な種類の衣服を見て回っていた。もちろん悠椰付きであるが。
「もう満足しただろ」
「なに言ってるのよ、服見に来たら試着するに決まってるでしょが」
「あーゆーおけー?」
「もちろん」
「状況分かってる? 二人とも片腕ずつ使えない上に、俺が付いてくるんだよ? いいの? 見られても」
俺は鼻血を流したくないんだよ。
「いいよ」
楓は幾らか目星を付けると試着コナーに向かった。しかし悠椰も勿論ついて来る。それは手錠があるため離れたくとも離れない必須の条件。仕方ないので店員の隙を見て二人で一つの試着室に入った。九十センチ四方しかない密閉空間に二人。体を動かそうとすると彼女の体に四肢が接触するので下手に動けない。
「おい、本当にここで着替えるのか?!」
「そうよ、冗談とでも思ってたの? それと言っておくけど、こっち見たらマジで殴るから」
海渡は警戒心バリバリの彼女に衝撃を受けた。なぜなら下着も何枚か持ってきているからだ。
「あの、この持ってきた下着は…」
「着替えるに決まってるでしょ、折角ここまで来たんだから」
多少の恥じらいでもあれば、こちらもドギマギしてたかも知れないが、服を着たい必死さが余って狂気になっている。俺としても引き気味である。
もしかしたら、ここに来たくとも独りで服を買いに行くと迷子になるから今まで来れなかった。とかそう言うことか?ありえそうなんだけど(泣)。
勝手に想像し目尻に雫を浮かべる悠揶。残念なことにその通り姉が海外に留学したニ年前から今時のファションを楽しむ事が出来なかったのだ。若い者が流行のリズムに乗れない悲しさと寂しさはこの上ないのである。
悠揶はなるべく彼女のことを意識しないように気を逸らすように努力した。しかし彼女は彼の理性との闘いに水を差す。
「樵? ちょっとブラのホックを取ってくれない? 両手使えなくて、でも、目は閉じてね。絶対に」
まさかの依頼が受注された。
え、なに、ホックって何だっけ。ブラがホックでホックがブラだっけ。そもそもブラがブラックホールでブラのホック。ホックホックホックホックホックホッ――――――――――――――――。
悠椰が壊れた。
「ちょっと、聞いてる? 樵!?」
「‥‥」
「樵ってば!!」
「······へ?」
「私も手伝うから、ブラ取ってって」
振り返ろうと体を動かすと手錠が邪魔で上手く身動きが取れない。悠椰は左手、楓は右手に手錠をしてる為、動かせるとしたら今の背中合わせの体勢か正面を向き合った体勢しかない。
「あん、ああっ!」
「······」
「あっ、あん」
「ちょっと! 変な声出さないで貰えますか!!」
「······あ、あんたが変なとこ触るからでしょが…あっ!」
「お、俺が悪いのが······!?」
理不尽な扱いを受ける悠椰はコメントに言葉を詰まらせる。背中合わせのブラ外しは難しく中々外れない。痺れを切らし悠椰は名案をおもいついた。
「なあ、いっそのこと正面から向き合わなか?」
「それは駄目! 絶対駄目。つべこべ言わずに早く手伝っ―――」
「あの、すいません、喋ってもいいんですけど、音量下げて着替えてくれませんか、ここ試着室なので」
カーテンの外から女の声。カーテンの下の隙間からピンクのヒールの爪先が僅かに見える。
「あ、ご――――」
悠椰がごめんなさいとカーテン越しに謝ろう声を出した直後、楓に口を押さえられ声が出せない。
「すいません、その友達と電話をしてまして」
楓が謝るとヒールのコツコツした音が消えて隣の試着に入った。イライラ感情を爆発させてカーテンを開くような人でなくて良かった。と二人は一安心。
「お客さんなのかな。ああ、ごめん」
悠椰が苦しそうな顔をしてパニックになっている、楓が勢い余って口から鼻までを手で覆ったので呼吸が出来ないで苦しんでいる。悠椰の異変に手を放すと深い深呼吸。
「ふああ死ぬかと思った······隣の人だったか。思わず謝ろうとしちまった」
「あんたね、女物の店の試着室から男の声が聞こえたらどう考えても警察沙汰よ」
「確かに騒ぎになってたかもな·····ありがとな。助かった」
「ど、どういたしまして。なんか調子狂う」
突然の事故に二人は今がどういう現状なのかをすっかり忘れていた。
溜息交じりに腕を組む楓、その時楓は気が付いた。下着以外身に着けない現実さらに胸元に下着の感触がないことに。そして悠椰と手錠を介して繋がっているので腕を動かすと悠椰が引っ張られることに。
「い、いやあああああああああああ!!」
目で素早く確認するとブラが取れている、羞恥によって体を縮ませて胸元を隠そうとするが屈むとさらに手錠を介して悠椰に力が掛かり引っ張られる。悠椰は堪え切れずバランスを崩し楓に突進した。
「うううおおおおおお!」
猛スピードで楓に引き寄せられる悠椰は激突だけは避けるために試着室の壁に手錠をしてない右手を使って体を支える。
「あっぶねえ………ふう、まぶなっあああああ」
しかし、体を支え切れず手を滑らた。そのまま体を崩し楓を押し倒した。
「………」
「………」
目と鼻の先の距離にお互いの赤い唇が接近。密着したおでことおでこから体温が伝わる。自分の体温が高いのか楓が火照っているのか混濁するさなか、突発的なこの両腕の床ドンに気圧されて楓は目を瞑った。悠椰は戸惑い口を開こうにも甘い香りと圧倒的な女性の淫靡な姿に悩殺。理性の赴くままに唇を―――――。
「いい加減にしてください!これで二回目ですよ!!」
豪快にカーテンが開かれた。現れたのはピンクヒールの女だった。
女は男が女の子を押し倒してよからぬ事を始めようとしている一部始終を見て固まったみたいな表情をしている。そして苦い虫を噛んだ引き攣った顔に変わった。
「あなた、一体なにを···」
女は立ち止まったまま動かない。
「ええ、ええっと······」
これは非常にまじい。非常にまじい。
勘違いされた男は土砂降りの雨のように大量の汗を流し、慌てていた。何を喋ってもケダモノの戯言と処理される今、解決の手段は一つ
「すいませんでしたあああああ」
謝ることだった。
「その彼女は、友人なんで、全然ノーマルなんで、お願いだから誰も呼ばないで」
奇麗な土下座で平謝り。悠椰の懇願だった。
楓は大声を聞きつけて集まった人はこの女の人だけだった。多分試着室ルームにこの女の人以外はいない。しかし店員でも呼ばれた日には終わりだ。爆死する。
「ふふふ、きこり君?」
目を開けて自分が放置されてると感じ乙女の純情が純度百パーセントの怒りになった。
「なんでしょう」
「押し倒して、何も出来ないチキンくん?」
「いや、それよりも誤解といて」
「何よ誤解って······あ、ゆめ」
胸元を上着で隠し話に混ざる。そしてカーテンを開いた女の名前を喋った。
「えっ?」
「ぅえ??」
「えええええ」
それぞれが三者三様に驚き蓋めく。そんな事態になってしまった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。