ショッピングも悪くはないはず
やっとこさ10話。一年経過する前にここまで来れてよかったです。超祝い。
「ぶは~食った~いや、美味かった!」
「美味しかった! もうお腹いっぱい」
苦しい、と幸せそうな表情で声を上げる男女。
「それでじゃ会計を済ませるけど······」
静まりかえる一言と同時に右手を差し出す悠椰。握りしめた拳を楓の顔まで高く上げる。
「なによ、これ」
何がしたいのか分からないと、首を傾げる楓。
「ジャンケンと言えば分かるか?」
無理に格好いい言い方で目的を伝える。
「一本勝負よ」
悠揶の言葉を理解すると、ルールを素早く提示。悠揶は納得したのか、首を縦に振る。
「最初はぐう······」
最初の掛け声。
「じゃんけん――――」
溜めの二言目。そして。
「――ポン!」
二人の声が同調する。
交互の視線がお互いの拳を映した。生命線(お金)を賭けた戦いは勝敗を決した。
「やった~! と言うことで、ご馳走です!」
勝利に喜ぶ楓。たかがじゃんけん、されどじゃんけん。勝負に負けた悠揶に伝票を微笑みながら渡す。勝ったことが余程嬉しかったのだろう。
敗者は悲嘆に成りながらも楓から伝票を素直に受け取り、伝票に目を通す。
「会計は千九百円…二千円か······なら仕方ない」
金銭的に抑える目的としてこの店を選んだのだか、予想より金額が安く安心した。ただ、一般的な店と比べると安くなる話であり、学生としては約二千円という貴重なお金を使用するのは精神的に苦しいのである。もっとも悠揶が家で作った方が安いのだか。
悠揶は財布を懐から取り出し、所持金額を確かめる。
「あれ三万入ってる?」
いつもは財布にお金を入れない主義の悠揶である。
「あれ、なんで?」
基本的に買い物がある時にしかお金を入れない。お金がないのでという理由で楓に肩代わりして貰おうと企んだのだが、何故かお金が、それも三万円という高額が入っていた。
「なんだこれ······?」
財布を漁ると付箋が出て来た。
『女の子に恥をかかせちゃ~駄目だよ!! にーのヘソクリ入れといたよ♪ふろむ、可愛い妹♡』
あんのののの貧乳娘ががあああ!! なにが『ふろむ 可愛い妹♡』だ!! その通りだバカヤロウ。
妹のメッセージとお節介によって悠揶の心中は荒れていた。悪態をついていた。楓に肩代わり作戦は失敗に終わり、正直に払うことに決めた。
「あのさ······この後暇?」
楓はモジモジと余所余所しいを仕草をしながら悠揶に話し掛ける。
「暇だけど······どうした?変だぞ?持病か?」
悠揶は楓らしくない行動に呆気に取られる。いつものように活き活きとサバサバした雰囲気ではない。ふと、自分が『アマさん』から授かった〈神の言霊〉を使用したのかと自分の言動を思い返してみたが、これと言って思い付かない。
「最後まで黙って聞いて。それでさ、もし暇なら買い物に付き添って欲しいな、と」
「どうして?」
「······」
無言。目を逸らす楓。
「言いたくない?」
楓が初めてだんまりを決めるので少々焦る。
「······ま、迷子になるから······」
楓は渋々答えた。な、なるほど”方向音痴だからついて来て欲しい”なんて正直に頼めるはずないな。
「······聞いて悪かった、お詫びにお供しますよ、地獄でも三途の川でも」
悠椰はお願いされると断ることの出来ない系男子だった。
「本当!?」
「ああ、その代わりさっさと終わらせるぞ」
「うん、樵!デートを始めましょう!」
唐突にデートが始まった。このフレーズ、パクリじゃね?
会計を済ませるとショッピングモール巡り。一軒目は洋服店(女物)。彼女について行ったが店内からの鋭い視線。まあ男が女物の店に一人で入ったらきっとそうなる。しかーし!今は二人なのだ。
「あれ······あいつどこ行った?」
酒匂の後を付いてこの店に入店したのに彼女がいない。入店したのに。
「ま、まさか…」
万が一にと店を出ると入店したはずの酒匂さんがマネキンが並んでいるショーウインドーを眺めていた。マジでここまで方向感覚がないとは...いや、これは方向音痴以前の問題がする。
「酒匂?」
「樵なによ、今集中してるとこなんだけど」
悠椰はゆっくりと楓の傍に寄る。
「おい、酒匂!!」
「は、はい!!」
ショーウインドーを見ていた楓は悠椰の大声に驚き、反射的に悠椰の顔を見て返事を返した。
「ほら手を出せ、繋ぐぞ」
「て、てを繋ぐの!? ちょっと待って、その、心の準備が」
強引に手を握ろうとする悠椰にテンパる楓。奥手の童貞だと高を括っていたのが間違いだった。
「いいだろ別に、こうすれば迷子にならずに済むしな」
「······え、ああ、そういうこと」
残念ながら恋愛感情など微塵もない心温まる親切心だった。
楓は戸惑いの表情から一気に冷めた。
「納得したなら早くてを出してくれ」
「嫌だ、なんでアンタと手を繋いで仲良くショッピングしなきゃいけないのよ」
悠椰の要求を拒絶。楓は両手を後ろに持っていくことで悠椰の強引なコネクトハンドを阻止した。
「なら、直ぐに逸れて、酒匂が迷子になるだけだぞ」
悠椰は楓の方向音痴を超越した才能を生身で実感している。言葉に説得力があるのは気のせいではない。
「どうしてもって言いうなら、これ使って。手を繋ぐとか、人が大勢いるここでは嫌。恥ずかしいでしょうが」
と言ってバックから銀色に光る手錠を取り出す。
「‥‥‥すいません、よくわかりません」
秘書機能アプリケーションソフトウェア――さながらシリのような無機質な声で返答、そして困惑。
「これを付ければ逸れることもないでしょ、それに手を繋ぐ必要もなくなるし」
いや、でもこれ付けた方が恥ずかしいだろ······と悠椰の心の声。
「まあ、酒匂がいいなら、それでいいか······」
何故手錠を持っていたのか、大事なことを聞きぞびれたが、面倒は後回しにして手錠を嵌める。非常に不愉快。試しに動かすと金属音が聞こえ、手首に重量感。そして謎の罪悪感。早くショッピング(デート)が終わらないかと願うこの頃である。
最後までお読みいただきありがとうございます。
勿論まだまだ続きます、『俺の願いで青春がグズグズです』を宜しくお願いします。