睡眠は大事です (序章)
私自身もどんな作品になるのか楽しみです。
平穏、それが俺の好きな日常であり、俺の日々だったのに。
平日の昼間っから公園のベンチでぶつぶつ独り言を呟く彼の名は樵 悠椰十六歳、高校一年生である。
背丈は平均よりやや高め、悪くない顔立ちだが鋭い目付きそしてツンツンと尖った髪型が険悪な雰囲気を醸し出し人を寄せ付けない。そのせいか友達は少ない。
彼は高校生だと言うのに制服は着ず、FREEの文字が入った白の大きいTシャツ着て、黒の短パンを履いていた。
彼曰く高校の授業は出席しなくても分かるので気の乗らない日は登校しない。しかし、彼が今日学校を休んだ理由はそのせいではないのだが、これと言ってすることも特に無い、その結果公園でふらふらしてのである。
「来ない来ないと思ったらあいつ学校行っているのかよ、たくっ、暇だ~~」
「あいつ」とは同じ高校で同学年の女子、酒匂 楓のことである。
樵は酒匂に現在進行形で起こっている『問題』について話し合おうとしていた。だか多忙な楓との時間は取れなかった。
ところが今日は時間が空いていると楓から連絡が来た。それを知った悠椰は何を思ったのか、今日樵は登校をせずに待ち合わせ場所に居たのだ。それほどの『問題』。
中々来ないので携帯で楓にメッセージを送ると「授業をさぼる訳にいかない!放課後に!」と返って来た。そして、今に至るという訳だ。
「取り敢えず、学校が終わるまで家で寝るか」
樵は待っていても埒が空かないとベンチから立ち上がり、猫背のままノソノソと家に帰った。
「ただいま、って言っても誰もいないか」
家に着き、帰宅の際の挨拶をするが、返事が来ない。それもそのはず、樵以外は出勤や学校へ登校して家に居ない時間帯なのだ。樵はいつものように靴を脱ぎ階段を上る。
二階には三つの部屋があり、一つは俺の部屋、二つは妹の部屋、最後が荷物置き場となっている。妹は中学生とあって最近は部屋に入れさせてくれない。兄としては妹の成長を喜ぶべきなのだろう、がだ兄としては妹が成長してしまうのは全然面白くない。なぜなら遊び相手をしてくれなくなるからだ。
妹の部屋を一瞥すると樵は一番左の味の無い自分の部屋に入るった。スマホを枕元放り投げてベットに倒れこんだ。
「ふぁ~~あ、ねむ······」
樵は目を閉じるとすぐに眠りについた。
学校の教室のカーテンに風が当たり波のように舞い、机には日光が当たり、反射した光が教室をほのかに照らす。
午前の授業の終わりのチャイムが鳴ると、ある者は弁当を持ち他クラスに向かったり、ある者は友達とお喋りをしたり、ある者はスマホをいじったりしていた。
「あやの~ん、一緒に昼食とろうよ!」
ショートヘアーの明るい女の子がお弁当を持って、机の上にうつ伏せになっている女の子に声を掛けた。2つのへやピンが目立つ小柄な少女は『あやのん』が愛称の女の子の側までテクテクと小さい歩幅で近づく。その見た目は宛ら小動物だ。
『あやのん』と呼ばれた黒髪の少女は教室の窓側の席で弱い風と日光を浴びながら俯いていた。
『あやのん』と呼んだ女の子、青木 優芽とは打って変わって、女の子は黒髪を首元を隠す程に伸ばし後ろで結い上げていた。そのポニーテールは白の制服に垂れ下がり、背中に寝っ転がって活気がない。
呼ばれたことに気付いた女の子は徐に顔を上げた。その顔は整った形をしているのだが、その顔に似合わないクマが目の下に出来ており、惚けた顔をしていた。
彼女は悠揶が待ち合わせをしていた人物。酒匂楓。彼女はYシャツを第二ボタンまで開け、谷間が見えそうな大胆な着方。スカートも規定ぎりぎりの色気ある服装は人の目を否が応でも寄せ付ける。
「いつも一緒にお弁当を食べているからわざわざ言わなくても」
「······」
「優芽?」
不調な楓に心配される優芽。先程の元気な彼女はどこに行ったのか。
「細身の上に大きいとか、あやのんすごいよね······」
優芽は楓の体、主に胸を強く凝視していた。思わず見た目の感想を微かな声で漏らていた。
「優芽? 聞こえてる?」
「······む、そこは『うん、一緒に食べよう!』で良いの!ってさ、それより顔色悪くない? 大丈夫?」
咄嗟に優芽は反応し、いつものノリでコメントする。楓は、聞こえてるなら反応してよ、と言って続ける。
「うん、大丈夫でも凄く体が怠い。昨日しっかりと寝た筈なのに、夏風邪かな?」
「なら、暫くは寝てたら?声掛けてくれたら保健室に連れてくから」
「······」
「聞いてる?」
「······すう···すう」
「······まぁ、朝から委員会の仕事を色々と頑張ってたみたいだし、昼休みはそっとしますか」
青木は小声を言うと、弁当を持って自分の机に戻った。
昼休みが終わると酒匂は青木にやっぱり保健室に連れて行ってと話すと、しょうがないな~と、優しく笑って保健室まで付き添ってくれた。
保健室に着くとドアには「主張に出でいるので居ません。鍵は開けておくので使うときは職員室にいる先生に知らせておいてください。保健師より」と書いた紙がセロハンで貼ってあった。
「あやのんはベットで休んでていいよ、先生には私から伝えておくから」
「ありがとね、優芽」
そう言うと酒匂はドアを開けた。辺りは保健師不在の為、窓は閉められていた。しかしカーテンを暖かい日光が通り抜ける。保健室は思いの外穏やかな環境だった。
中に入ると保健室独特の消毒液の匂いが立ち込めていた。使用していない保健室に一人。普段なら物色するところだが、酷い倦怠感に好奇心を折られる。
ドアを閉めようとするとそこに青木の姿はなく既に職員室に行ったようだ。
酒匂はドアを最後まで閉めると電気のスイッチ押した後、覚束無い足取りでベットに近づき倒れこんだ。身体の力が途端に抜けて柔らかいベッドに包み込まれる。疲労と脱力感により自然と眠気に誘われる。
「ふあ〜落ち着く······」
酒匂は委員会の仕事を思い出すが、睡魔のほうが上回ったのか倒れこんだまま眠った。
樵家の二階、悠椰の部屋。
「うぅ? 今何時だ?」
悠椰は目を覚ますとおもむろに右手を動かし、頭上に転がっていた目覚まし時計を手に取る。
時計を見ると1時だった。寝た時間が大体午前中だったので、約二時間ぐっすり眠ってたことになる。
この時間だと楓がまだ下校していないので三度寝を試みたのだが、その時お腹から空腹を知らせる音が鳴った。
悠椰は何を食べようか考えながら起き上がろうとすると左手に柔らかい感触が広がる。
寝ぼけて感覚が狂っているのかと思い、再度その柔らかいものを触ってみるが同じ感覚が感じられる。
樵家には動物の類は居らず、何かと悪戯好きの妹もまだ帰ってくるには早いと消去法で考えていると自然に答えが出た。
「また······か······」
悠椰は気怠そうな顔をするとボソリつぶやいた。
その声に反応したかのように布団の中で何かがモゾモゾと動いた。
悠椰は掛布団を動く何かから取るとそこには制服を着た黒髪の少女が心地良さそうによだれを垂らして眠っている。白の制服姿の女は細身の体に肩まで伸びた長髪が絡み合って淫らな情景を演出している。御蔭で不意を突かれた悠椰の動悸が唐突に加速する。
「うぅん······うん······」
「おい、起きろって、よだれを垂らすな!」
悠椰は黒髪の少女を起こそうと呼びかける。
「分かった優芽······5分待って······ブラ着けるから」
「寝ぼけてないで起きろって!!······えっ、着けてないの!?」
悠椰は寝ぼけている黒髪の少女を必死に起こそうとしてると、何気なく彼女の性癖を盗み聞きする羽目になった。
悠椰は動揺していると黒髪の少女が目を覚ました。
「ええっ!? なんであんたがベットにいるのよ!!」
頬を赤い朱色に染めている黒髪の少女は、ベットに座り胸を両腕で押さえてこちらを睨み、殺気立っている。
「いやいやいいや不可抗力だって、確かに何度も触ったことには謝るが胸を揉まれたからという名目で人を殴るなんてことはしませんよね······」
『そんな非人道的な事しないよね』というニュアンスを含めた言葉を送り暴力の行使を抑制させる。
「第一もう何度も揉まれてるからいいじゃ······いや、嘘です。すいません、ごめんなさい! ごめんなさい!! ――――痛てえええ!!」
悠椰は楓の暴力を阻止すべく、抗議及びめっちゃ謝るを発動したのだが、楓にはその効果は無くコブシで顔面を殴られた。
悠椰は殴られた勢いで起き上がっていた体がまたベットに叩き付けられた。
「このスケベ! 変態バカ!」
楓は悠椰にそう言うと悠椰の部屋から出てしまった。
「痛ててて、元はといえばあの”自称神”が発端だっていうのに、畜生っ、かみいいいいいいいい!!」
悠椰はベッドでを叫んだ。
悠椰はある日突然平穏を”自称神”によって奪わられた。しかしその代わりに”自称神”から「過去の願い」を叶えてくれる事になったのだが。
さてさて、彼の平穏でのんびりした日常は戻るのか、彼には知る由もない。
最後まで読んでいただき感謝申し上げます。