【Rhapsodie en rouge】 3
『これは、私の罪なんだ』
そう言った彼女は。
とてもとても、愛おし気に焼け折れた翼を見ていた。
『私があの人を想った、証なんだよ』
そう言った彼女は。
とてもとても、哀しそうに笑っていた気がした。
それ以上翼について触れることはせず、彼女はまた強引に俺の手を取って。
「行こ?」
と、歩き出した。
それ以上俺も追及することはできず、俺は彼女の後に続いて歩く。
真白の翼と、白いワンピース。ほっそりと伸びた手足もまた、雪のような白。翼の間、背中の上でふわふわと揺れている金髪は、松明の明かりに照らされてきらきらと光をはじいていた。
後ろに立ってみて思うのは、その体躯が思ったより小さかったということ。
転んだ時に見上げたせいもあるだろうが、何より見事な翼がその体を大きく見せていたようだ。
実際の身長はおそらく、俺の胸ほどだろう。
「っ……!」
体を貫くような、痛み。
翻る、白。
白、
白、
白。
飛び込んできた、金色。
そして再び。
波のように引いていった頭痛とともに、「彼」の記憶は波のはざまに消えていく。
「どうか、した?」
ふと我に返ると、彼女が不安そうに俺を見上げていた。
「いや……なんでもない」
そう返すと彼女はふと表情を緩め、
「まったく……驚かせないでよね」
と、わざとらしく肩を落とす。
その様子に、俺は申し訳なくなって言葉を続けた。
「ごめん。なんか……頭が、痛くなった気がして」
すると、
「え……」
「え?」
不意に、彼女の表情が固まる。
何か、変なことを言っただろうか。
いや、さっきから言動がおかしいのは自分でもわかっているが。
そんな、表情が消えてしまうほどだろうか。
しかしそれはほんの一瞬で、彼女はすぐに吹き出すように笑った。
「痛くなった気がするって何? 気のせいだよ」
「……そう、だよな。気のせいだよな」
笑って、いるのに。
彼女はまるで、笑い飛ばそうと無理をしているような。
そうであれと、願っているような。
俺には、そんな気がした。




