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【Rhapsodie en rouge】 9


「……何、してるの?」

ハッとして振り向くと、彼女がひどく冷たい目でこちらを見ていた。

 その手には一体どこから持ってきたのか、小ぶりの短剣が握られている。

 その刃からは、紅色の雫がしたたっていた。


「……お前、だったのか」


 いつの間にか、俺の手にはまるで闇を切り取ったかのように黒い剣がある。

 俺はそれを確かめるように握り直し、すっと構えた。


 刹那。


 ヒュンッ―― ガキンッ!


 俺らは一瞬にして間合いを詰めて、剣を打ち合わせた。

 短剣かつ小柄な彼女は、俺の一撃を流しながらすぐに距離を取る。俺はそれを追って剣をふるった。


 こいつを、殺す。

 当然の報いだ。

 こいつが〝彼女〟を、殺したのだから。


 素早く動き回る彼女に突きを見舞おうとするが、彼女はすっと上体を逸らして避ける。不安定な体勢に隙を見出して身をひるがえし、蹴りを放ったが彼女はすでに俺の間合いを遠く離れていた。

 俺が再び剣を構えなおす前に、彼女が懐へと駆け込んでくる。

 それを間一髪でさけて、その背中を一閃した。


「っ……!」


 バッ――と白が舞い散り、彼女の翼をわずかにかすめたことを知る。

 だが致命傷とはならず、彼女は再びひらりと間合いを離した。


「…………」

「…………」


 互いの距離は、ほんの数メートル。

 とびかかろうと思えば、一瞬だ。

 殺伐としたにらみ合いの中で一瞬だけ、彼女の瞳が揺れる。


 その一瞬の隙を俺は逃すことなく、再び彼女にとびかかった。


 一度、二度、三度と、剣戟の音が響き渡る。

 息をつく間もなく俺は剣をふるうが、彼女もまたそれを見事なまでに流して打ち返した。

 だが、彼女はまだ少女で、その得物は小さな短剣。

 このペースを打ち返し続けるのも、そのうち無理がくるはず。


 ――――そこが、勝機だ。

 この緊張感に負けたほうが、敗北する。


 ――――待っててくれ。

 俺が〝お前〟の仇を討つから。


 キンッ……と、再び俺の一撃をはじいて一歩後ろへ下がった彼女の体が不自然に揺らぐ。

 おそらく、足元の段差か何かに足を取られたのだろう。

 なにせよ、そのせいで彼女は次の一撃への反応が遅れた。


「……もらった」


 ズシャッ――――と。

 俺は確かにこの腕に、肉を貫く感触を得る。


 ポタポタ……と、鮮血が零れ落ちて地面を濡らす。

 それはもちろん、彼女の真っ白い服も赤く染め上げた。


 赤く、

 朱く

 赫く


 ――――紅く。

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